◇ まいはらかえで ◇


 時は少し遡り、日曜日。

 すけとしての出勤を終えてが退勤しようとしていた時のこと。

「先輩に貸しを作るためにも、残りのお仕事は先輩なしで頑張ります♡」

「……了解。じゃあ」

 莉太が靴を仕事用から普段の靴に履き替えて出ようとする時、楓は莉太がさっきまで使っていたロッカーの下に、何かがちていることに気づいた。

「あれ、先輩。落とし──」

 楓はその小さな紙切れを拾い上げて確認し、言葉を途中で詰まらせた。

 落ちていたのは──写真。莉太と、『ウサちゃん♪』と顔に落書きされた誰かのツーショットプリだったのだ。

「(だ、誰これッッッ!?)」

「ん?」

 莉太が自分の声に振り返り、楓はとつにその手のプリを隠す。

「……お年おいくつでしたっけ?」

「なに急に……だから同い年だって」

「あ、えっと……誕生日は過ぎました?」

「ああ、うん。俺四月生まれだから」

「そうですか! それだけです!」

「ああ、そう? じゃ、頑張って」

「はい!」

 莉太が事務所を後にして、一人事務所に残った楓は考える。

「(どうしよう、返さなきゃいけないのに隠しちゃった……。にしても誰だろこれ……先輩の彼女とか……? いや、バイトに入ったばっかりの時に聞いたらいないって言ってたしなぁ……)」

 だが、そのウサちゃんのデコレーションは下の方まで隠しきれておらず、スカートがチラついていた。間違いなく女子ではある。そして制服を見るに莉太と同じ高校だと言うことが分かる。

 姉や妹の可能性はまずないだろう。莉太が妹との二人兄妹であることと、妹が中三であることは楓も把握している。がたまにバイト先をのぞきに来るからだ。

「(ともだち……は、いないって言ってたもんね……)」

 それに写真に写るの表情は、まるで彼女とのツーショットにまだ慣れていないウブな彼氏そのものだ。どこかそわそわして落ち着きがなく、ピースもぎこちない。単なる友人ならもっと慣れたように写ったり、少しめんどうそうに写ったりするはず。

「(きな臭い……。でも、どうやって探ろう)」


◇ なか莉太 ◇


 数日経過したが、胡桃くるみはやはりやけに俺にだけ甘くなった。ますますそれ系のラブコメヒロインだ。悪い気はしない。……いや、言ってる場合じゃない。

 それにしても、たけうちさんが俺と胡桃が一緒にいるところに全く興味無さそうに天井を見つめていたのも気掛かりだ。ここ三日間くらい、胡桃と仲良くしているところを竹内さんに目撃されることが多々あったのだが、あめちゃんの言う、一人の女子と仲良くして相手を動揺させる作戦はくいっていない。

 んー、おかしいなぁ。竹内さんだと思ったんだけどなぁ、告白文の送り主……。

 いや、まだ可能性はあるはずだ。それに明らかに好意らしい態度が見て取れたのは事実であり、それがくつがえったわけではない。

「先輩って、ホントに彼女いないんですよね?」

「えっ!? なに急に!」

 バイトの出勤中いつものようにフライを揚げていると、唐突にそんなことをいてきたのはまいはらさんだ。

「そ、そんなのいるわけないじゃん!」

「ですよね」

「ですよねも失礼だけどね!?

 舞原さんは首をかしげて考え事にふけっている。そういえば告白文をもらってから一週間以上ったけど、舞原さんが〈C〉かどうか確認したことってなかったな。

 俺は飴ちゃんに言われた〈C〉を見つけ出す方法を今一度思い出す。

 一つは単純に、自分のことが好きそうかどうか態度で見極める方法。

 ──好意。

 これに関しては現状はっきりしない。舞原さんのスキンシップやからかいは好意故とも捉えられるし、単にからかっているだけの可能性もある。

 二つ目、他の女の子と仲良くして、その反応を見る。

 ──嫉妬心。

 これはそもそも舞原さんがうおずみこうこうにいない点がネックになり、試しようがない。

 そして新たにもう一つ、俺は助言を貰った。

『対象の女の子を一つの場所に集めてしまえばいい。そうすれば〈C〉は、必ず他の女の子と反発するはずだからね』

 二つ目の方法と少し似てはいるが、要は目の前で嫉妬させてしまおうという話だ。そうすれば女の子同士の接触の際、三人の中で一人だけあからさまに他二人の女の子を気に食わなさそうにするだろうというカラクリ。

 ──つまり、三つ目は独占欲。

 ……とは言ったものの、三人の境遇はバラバラ。全員を集めるなんて、出来たら苦労しない。

「先輩、何か考え事ですか?」

「あ、いやなんでもない……ていうかそっちこそ──」

 待て、一個戻れ俺。『先輩彼女いますか?』だと? 前にも確か聞かれたことがあったしあんまり深く考えなかったけど、これもう狙ってる男へのお決まりのセリフじゃないか? どんなれんある態度よりもわかりやすい一番シンプルなアプローチじゃないか?

「? 先輩?」

「い、いや……その……」

 唐突なフラグに俺がたじろいでいると、まいはらさんは途中で面白くなったのか「ん~?」と顔をぐいぐい近づけてくる。あ~もう、落ち着け俺、今これだけたけうちさんや胡桃くるみのことで悩んでいるのに、この程度で舞原さんに揺らぐわけには……。

「ち、近いよ」

「え~、先輩顔赤~い」

「べ、別に赤くなんか……なっ!?

 俺が恥ずかしくなって舞原さんから顔をらすと、カウンターの方で俺と舞原さんの様子に口を開けて仰天している、とある二人の女子高生の姿が目に入った。

 てか、


「竹内さんと胡桃!?


 知り合い。しかも今一番この俺のやわっぷりを見られたくない知り合い。

「え、誰?」

 舞原さんもカウンターの方を見て、「あぁ、あの二人? 先輩のお知り合いか何かですか?」といてくる。

「いや、知り合いっていうか……えっと、なんて言えばいいんだろう……」

 ──なぁんであの二人一緒にいんだよぉぉぉぉぉッ!

 なんで!? 俺のことを好きな女の子なら、他の女の子に嫉妬するだろうって計算だったよね!? 反発どころか放課後一緒にハンバーガー食べちゃうような仲になっちゃったの!? 〈C〉は俺と仲良くする他の女の子を気に入らないはずなのに、じゃあ二人は〈C〉じゃないってこと……? てかあの二人が違うなら、消去法でいけばもう答えが……?

 するとまいはらさんは突然、だきっと俺の腕を取った。見ると舞原さんは、若干額に青筋を立てていた。

「ま、舞原さん……?」

「先輩、仕事中ですよ? たかが知り合いの女に構ってる場合じゃありません。さ、あたしと二人だけで仕事しましょ。あたし先輩に仕事教わりたいです♡」

 嫉妬&独占欲からの好意的な態度!?

 一言でコンプしてきたこの子! 決まりなのか!? 舞原さんで決まりなのか!?

 そして舞原さんは、たけうちさんと胡桃くるみの方をにらんだ。

「あの二人のどっちかなのかな……」

 意味深な発言までぇ!? よくわかんないけどなんかもう色々怪しいよ! ここに来てヒロインレースブッチギリの一位だよ!

「さ、先輩、仕事です」

「う、うん……そうだね……」

「先輩?」

「わ、わかってるって……仕事だよね? えちょ……」

 舞原さんは背伸びをして、俺の耳に口を近づけた。

「今日も、二人だけで帰りましょうね」

 ぼそっと吐息が耳に触れる。

 確信犯すぎるでしょおッ!


◇ やました胡桃 ◇


「(確信犯すぎるでしょおッ!)」

 ゆずとの予定があったこの日、胡桃はの偵察のためファミリアに来て無事絶望していた。

 胡桃は注文したフライドポテトを相当なこうごうりよくでしがみながら考察する。

「(なんなの莉太? あいつモテんの? マジ?)」

 少し仲良し程度ならまだ、莉太を好きになったりしてない可能性もあったろうし、仮に好きになられていても、自分が本気を出せば歴の長い自分の方に勝機があっただろう。ただあそこまで大胆なアプローチをしている相手となると話が変わる。

「(莉太がどう捉えているかは知らないけど、女子は好きじゃない男相手にあんなにべたべたスキンシップしたりしないし、確実に黒よね……。しかもあれだけ積極的な相手ってなると、普段に素っ気なくしてる上に男嫌いで定評のある私に勝ち目なんてないじゃん……! いよいよこうしちゃいられなくなっちゃったわ……!)」

「ほぺ~」

「……で、ゆずちゃんの魂はいつになったら本体に帰ってくるのかな」

 向かいに座っているのは、すっかりもぬけの殻となった柚璃。

「柚璃ちゃん、柚璃ちゃんってば」

「……はっ!」

「大丈夫……?」

「え!? なにが!? ぜ、全然平気っ! いいなぁ~なんて思ってないしっ! 劣等感とかないしっ! 見習うつもりなんてこれっぽっちもないもんっ!」

「(思いの丈全部わかっちゃったッ!)」

 胡桃くるみは苦々しく口の端を上げて「元気そうでなにより……」と、ひとまず気づいてないフリで乗っかっておくことにした。

「それにしても、随分パワフルな子だったわね……」

「パワフル? うーん、そんなゴリラみたいな子だったかなぁ。ゆずは可愛かわいいとか思っちゃった!」

「そうじゃなくて……」

 こいつどんだけ天然なんだよ。と、心の中で若干あきれつつ、言葉の意を伝える。

「ほら、あの子明らかに莉太に気がある感じだったでしょ? だけどその気持ちを隠さずにむしろ全面的に出して猛アタックしてたというか……」

「あぁ、それはゆずも思った……うぅ……」

「(まあ、全面的に態度に出てるのはこの子も同じなんだけど……)」

 柚璃はどちらかと言えば、意図してではなくただ分かりやすいだけだ。しかしあのせいな女子は違う。紛れもない故意。俗に言うあざとい系女子だ。

「(純粋な柚璃ちゃんはともかく、あんなの放っておいたら……)」


『先輩……♡ ちゆうぼう、暑くないですか……?♡

『え!? ちょ、ちょっと待って! なんでシャツのボタン外してるんだよ!』

『先輩……あたしこれ脱いじゃいますよぉ♡』

『ダメだ……もう俺我慢出来ない……!』

『えへ♡ 先輩のソーセージ、あたしのバンズで挟んじゃいますね♡』


「挟むなッッッ!

!?

「あ、ごめん……」

 自分の大声におびえるゆずを眺めながら、しかし胡桃くるみしんかんする。

「(自分の下ネタのセンスは置いといて、でもあの女かなりやり手そうだったし……冗談抜きでバックヤードでおっぱじめかねない気がする……)」

「く、胡桃ちゃん、目が血走ってるよ……」

「ご、ごめん。ふう……」

 胡桃は息を大きく吐いて、いらちで立ち込めた胸の熱気を逃がす。一方柚璃は明らかに様子のおかしい胡桃を気遣うつもりで提案する。

「胡桃ちゃん、バイト中のなかくんも見れたし、そろそろ帰る? それともせっかくだし二人でどこか──」

「ダメ、粘るわよ。バイト終わったら関係聞き出すの」

「で、でも迷惑じゃ……あむっ!? ……おいしい! ありがとぉ!」

 胡桃はそう決めて、異論を唱えかけた柚璃の口にポテトを突き刺して黙らせた。


◇ 田中 ◇


 というわけで俺は、考える暇さえもらえず、まいはらさんに今日は食品のストックについて教えることになった。

「……じゃあ、チキンとシュリンプのストックをちょうど取りに行こうと思ってたところなんだけど、代わりに冷凍庫に取りに行ってくれる?」

 とりあえず一人になりたいから……。頭の中整理したいし……。

「しゅりんぷ? どこかの大統領とかですか?」

「あ、ううん、エビのこと。大統領は冷凍庫にないと思うよ」

「あ、先輩、韻踏んでます! 大統領♪ 冷凍庫♪ ないと思う♪ チェケ♪」

「あれ、話が進まないな」

 俺は嘆息して、ちゆうぼうのストックにあるチキンとシュリンプを見せる。

「これだよ。ダンボールにでっかくチキンとかシュリンプって英語で書いてあるから。一箱ずつ持ってきて。台車使っていいから」

「先輩、あたし英語読めないです!」

「あ、うん……じゃあこの空っぽの袋持ってって。ほら、chickenって書いてある。こっちはshrimpだね。冷凍庫の場所はわかる?」

「はい! 先輩がいつも出入りしてるの見てるのでわかります!」

「良かった。じゃあよろしく」

 まいはらさんって、あざとい感じ出してるけどやっぱアホだよな。

 しかしまあ一応舞原さんにストック補充をお願いしたおかげで、自分の仕事が少し早く済んだ。

 ……で、問題はかれこれ五分つのに帰ってこない舞原さんの方だ。

 なにしてるんだあの子。ちゆうぼうと冷凍庫の距離なんて徒歩三十秒なんだけどな。

 俺はため息混じりにバックヤードにある冷凍庫に様子を見に行った。そして冷凍庫を開けると、舞原さんはあっさりそこにいて、中で凍えて立ち尽くしていた。

「あ、舞原さ──」

 そして舞原さんは俺を見た途端──俺の胸に飛び込んだ。

「ま、舞原さん!?

 舞原さんの体は冷えていた。ガタガタと歯を鳴らし、震えている。五分も冷凍庫に居ればそうなるのも無理ない。

「怖がっだ……うぅ……」

「ど、どうしたの」

「入っだら……扉どうやっで開げるのがわがらなぐなっで……ずびび……」

「あ、あぁ……」

 別に普通に押せば開くのだが、確かにかなり重い扉なので、力のない女子だと鍵が閉まっていると錯覚してしまってもおかしくない。

「これ、重たいだけで普通に開くよ。営業中に鍵かけることないから」

「先輩……あたしこのまま死ぬのかと思いましたぁ……」

「ご、ごめんね無理させて」

「そう思うなら抱き締め返してください……」

「えっ……」

「寒いんです……先輩のせいで……」

 からかいか、アプローチか、いや、舞原さんの震えようは割とガチだった。新人の舞原さんにストック補充を頼んだ俺の過失でもあるし、仕方ない……。

「わ、わかったよ……」

 ……ギュッ。

 誰もいないバックヤードで、熱を共有する。

 俺が抱きしめ返すと、舞原さんは俺の背中に回した手で、服をつかんだ。うっ、落ち着け俺……そう、これはその、暖をとっているだけ……。考えるな……感じろ! いや感じんなよ。

「ごめん、寒かったよね……」

「あたしもごめんなさい。先輩の期待に応えられなくて」

「な、なんで! 俺は結果より頑張りを見てるから! 今日も新しいことにチャレンジしたまいはらさんは、俺の期待に応えてるよ! ……その、だから謝らないで」

「………先輩、温かいです」

「そ、そう?」

「はい、もうずっとこうしていたいくらい、幸せです」

 ──ホントに暖取ってるだけ、なのか?

 いつまでこうしているべきだろうかと、少し手を緩めてみると、あらがうような力が舞原さんの手から背中に伝った。

「先輩、こういうこと、他の女の子にしたことあります?」

「ま、舞原さん……? いや、ないけど……」

「──そっか、良かったです」

 俺の胸の中からむくりと顔を上げた舞原さんの上目遣いが、俺の目を捕まえて離さない。そのほおの赤色は、寒さにさらされていたからか、

「……先輩、あたし──」

 ──それとも、


「……な、なにしてんの? 二人とも。仕事中ですけど」


「「……あっ」」

 ……と、そこにさき先輩が現れてしまった。

「み、美咲さん! こ、これは違くて!」

「この状況に違うとかあるの……?」

「いやホントカクカクシカジカで! ちょ、舞原さんもういいでしょ! 離れて!」

 俺が手を離すと、舞原さんは逆に離すまいと俺にくっついてきた。

「美咲さん、見たまんまです……♡」

「余計なこと言わないでッ! 話ややこしくなるからッ!」

 結局、俺が死ぬ気で誤解を解くことになった。



「どうしました? 先輩」

「いや、なんでも……」

 なんとか勤務を終え、事務所内。更衣室から出てきた舞原さんは、パーカー姿になって髪を手で払いながらいてきた。

 もう絶対この子だよなぁ。考えてみたら普段から一人だけ明らかに男に対しての女性の態度というか……。この前は絶対たけうちさんだと思ってたのに、今じゃまいはらさんだとしか思えなくなってる。

 なんか俺のやってることとか気持ちの変化って、すごい優柔不断みたいで嫌だなぁ。俺が見てるのは最初から告白してくれた女の子一人なのに。

「そうですか? じゃ、帰りましょっか!」

「う、うん」

 俺がぼんやり立ち上がって、いつものようにフロアへの出口の方に歩き出すと、「あ、待ってください」と舞原さんがそれを止める。

「ん、忘れ物?」

「いえ、ではなく。先輩、今日は裏口から出ましょう」

「え、なんで」

 俺がたずねると、舞原さんはあざとい上目遣いでねだる。

「今日だけ……裏口で……♡」

 な、なんかすごいエロく聞こえるの俺だけ?

「い、いいけど……」

 俺は謎に生唾を飲みながらうなずいた。

 普段は店内を見て帰るという決まりがあるため、フロアを通って客と同じ出入口から店を出るのだが、今日は裏口の扉に手をかけた。

 う、裏口でなにが起きてしまうんだ。まさか、そのまさかだったりして……。

 とか、そんなことより考えるべきことがあって。

 ………舞原さんが〈C〉かどうか、確認するならこの帰り道しかないよな。

 俺は意を決し、外へ出た。

「……えっ」

 意気込んで外に出て、一歩目で俺は硬直した。


「……よっ」

「こ、こんばんは!」


「な、なんで胡桃くるみと竹内さんがここに……!?

 またしても現れた謎の組み合わせの二人。突然のことに動揺していると、胡桃は至って真剣な表情で答えた。

「いや? せっかく来たからに会ってから帰ろうと思って。ね? ゆずちゃん」

「ふ、ふむ!」

 マジでこの二人、どうして仲良くなったんだ……?

 胡桃くるみの横でわなわな震えてうなずたけうちさん。まいはらさんはそんな二人を見て、「せっかく裏口から出たのに……」とつまらなそうに言う。

「なんか言った?」

「ううん、なにも♡ 先輩、この子たちはー?」

「え、あぁ……あぅ……」

 舞原さんは俺の腕を抱きながらいてきた。もう紹介に気を遣わなくていいよな? 舞原さんが告白文の送り主で決まったようなもんだし。

「えっと、こっちが俺んちの隣に住んでる昔からの幼なじみのやました胡桃。で、こっちが同じクラスの竹内ゆずさん」

「うっ……」

「竹内さん?」

「ひや、にゃんでも……」

 竹内さんが唐突にうめいたが、大丈夫だろうか。

「あれ、あんたどっかで………」

 胡桃は一瞬眉をひそめて舞原さんをじっと見た。舞原さんが首をかしげると胡桃は「いや、いい」と一言区切り、そして俺に訊く。

、その子は? ていうかまず先輩ってなに? バイトって高校生からしかできないわよね? 中学生ってわけじゃないんでしょ?」

「あぁ……こっちはバイトの後輩の舞原かえでさん。同い年だし、俺も別にタメ口でいいって言ってるんだけどね」

「あ、そう。で、いつまで莉太にくっついてんのよあんた」

 胡桃が俺の腕にしがみつく舞原さんのことを指摘すると、舞原さんが俺に代わって返答する。

「え、あぁ、気にしないで。これ日常茶飯事だから♪」

「日常茶飯事!?

 竹内さんが一歩後退する。あ、待って、語弊がある。

「り、莉太? この子がうそ言ってるなら嘘だってハッキリ言えばいいのよ?」

 いつになく懐の広い胡桃。でも普段のことを思い返せば、確かに日常茶飯事ではあるよなぁ……。それに舞原さんだって俺のこと好きかもしれないわけで、ここで俺が突っぱねて傷つけたくないし……。ああ、またこのジレンマか……。

「本当に日常茶飯事!?

 竹内さんがさらに一歩下がる。ちょ待って、引かないで、ていうか行かないで。

「……莉太?」

「い、いやこの子が一方的に、なんというか……」

「一方的? さっき抱きしめてくれたじゃないですかぁ」

!?

「いやもうそれもなんか色々あってですねぇ!」

 俺がどう答えたものか窮していると、胡桃くるみが端的に結論を求めた。

「で、でも! とにかく付き合ってるわけじゃないのよね?」

 ──胡桃が気になるのって、そこなんだ。

 ……あれ、じゃあ胡桃、もしかして嫉妬してる……のか?

「う、うん。俺、彼女とかいないよ」

 とにかくまいはらさんに限らず俺が誰かと交際している事実はない。この点は全員に示すためにもハッキリと明言した。

 しかし、舞原さんは暴走してついにはとんでもないことを口走る。

「そうそう、付き合ってはないんだけどね~。なのに仲良すぎて~、バイトのみんなったらいっつもあたしたちのことカップル扱いで~。この前なんて、バイトリーダーに『お前ら早く結婚しろよ』とか言われちゃってさ~


「「えっ……?」」


 い、言った! この子、言っちゃった!

 たけうちさんと胡桃が固まった。そりゃそうだ。自分も同じセリフを言われたことがあるからだ。

「……わ、私もそれくらいあるんだけど」

「ゆ、ゆずも!」

「え、ゆずちゃんもなの?」

「う、うん……」

「えぇ~? 三人が同じセリフを? うっそだぁ」

「いや、本当だよ舞原さん」

「えっ……」


「「「………………」」」


 ……なんっつー修羅場だ。

 いいかどうかはわからないが、とりあえず足並みをそろえるために舞原さんにも事実を伝える。

 まいはらさんのセリフによって、俺と『お前ら早く結婚しろよ』と言われた女子が三人いるということが、三人にとって共通認識となった。

 つまり今、この中にいる〈C〉も、自分以外にも『お前ら早く結婚しろよ』と言われた人間がいるのだと気づいたことになる。そうなると、〈C〉は俺が自分の告白を自分のものだと気づいていないことにも気づいたわけで。

 ……動き出すんじゃないのか? 〈C〉が。

「こ、これでわかった? あんただけ特別じゃないってことよ」

 胡桃くるみが最初に口火を切った。俺は三人の反応を確かめるため、いつも以上に耳をそば立てて会話に聞き入る。

「へぇ~、そっか、ちょっとびっくりだなぁ……みんな同じセリフを言われてるなんて……。みんなそれだけなかくんと仲良しってことかぁ」

「……もう、先輩の女たらし」

「それは同感ね。で、いつまであんたはそうして彼女ヅラしてるわけ?」

「あはは、やだなぁ。だから、これは日常茶飯事なんだって」

「だから、それが通常運転なのが変だから言ってんのよ……」

「ていうか、そろそろ帰る? 田中くんも舞原さんも疲れてるだろうし……」

「まあそうね。ほら、帰るわよ」

「ダメー! 先輩はいつもあたしのこと家まで送ってくれるのー!」

「はぁ!? 一人で帰りなさいよ。そんだけ男にベタベタできるなら変質者の一人や二人平気でしょ」

「無理~、夜道怖い~。先輩、早く帰りましょ?」

「……莉太?」

「先輩?」

「田中くん?」

「え、あぁ、ごめん……」

 ………………いやわっかんねぇぇぇッ!!!!!!

 なんでみんなこんなに平然と受け入れられるの!? 今ので誰も動揺しないの!? 今ラブコメで言うところのすっげー物語進んだところよ!? ここ引きで一巻終わってもいいところだよ!?

 しかし素知らぬ顔で俺の顔をうかがう三人。一人めっちゃしらこいやつおる……。

 ど、どうしよう。とにかくこのまま三人一緒に監視できた方がいいし……。

「……とりあえず、胡桃とたけうちさんも一緒に舞原さん送ってく?」

「……まあそれなら」

「そうだね!」

「えぇ~、二人だけで良かったのに」

「あら、夜道が怖いなら人が多いに越したことはないでしょ?」

「ぶ~……」

 そうして、四人は夜道を歩き出す。

 結局その日も、真相を突き止めるには至れなかった。



 まいはらさんを送って、たけうちさんとも解散して、俺と胡桃くるみは二人で自転車に乗って同じマンションへ帰っていた。

 都会だと考えられないだろうが、夜の田舎の閑静な住宅街ともなれば車通りどころか人っ子一人いない。俺と胡桃はゆったり並走しながら自転車をいでいた。

 やっぱりここ数日の胡桃の変わりようは相当だ。胡桃は俺があのファミリアで働いていることを知っていたし、間違いなく俺のことをのぞきに来たに違いない。ただ一人で見に来たのなら〈C〉としての可能性も考えるところだが、竹内さんと二人となるとなんとも言えない。単に仲良くなって二人でファミリアに来ただけの可能性だってある。

 てか、色々落ち着いたし、くなら今がチャンスだよな……。何から訊くべきか……。

「なんか言いたいことでもあるんじゃないの。あんた、さっきからずっと梅干しみたいな顔してるわよ」

「げっ……」

「げってなによ、げって……」

 胡桃は俺の様子を察してか、目を細めながら一瞬俺を横目に見て言った。

「わからないわけないでしょ。いつからあんたと一緒にいると思ってんのよ」

「……じゃあまあ、聞くけど」

 俺は自転車のハンドルに腕を置いて、背中を丸めながら訊いた。

「なんで急に学校で話しかけて来たの……?」

「嫌だった?」

「嫌じゃないけど……むしろ困るのはそっちだと思って不思議だったんだよ」

「不思議じゃないわよ」

 胡桃はあくまで進行方向を向いたまま、真剣な顔でハッキリと言った。

「幼なじみなんだもん。どこで話そうが不思議じゃない。むしろ今までがおかしかったのよ」

 胡桃に言われて、自分が学校で胡桃と話さなくなった時期のことをぼんやり思い出した。

 多分、話さなくなったのは二人してなんとなくではない、俺から離れてしまったせいだ。

 俺と仲良くしていると、胡桃くるみの印象を悪くしかねなかったのだ。

 特にあの頃は。

 罪悪感から、視線を自転車先端の籠に落とした。

「……しやべりたいもん。と……」

 しかし胡桃はそんなこと露知らず、口をとがらせながらおもゆそうにそう言った。

 ──それって、幼なじみとして? それとも俺のことが好きだから……?

 わからないけど、照れくさかった。そしてうれしかった。

 今までの全部、俺の気にしすぎだったのかもな。

 俺の左を走る胡桃からは目をらして、でも正直な返事をした。

「い、いいよ……」

「……なんで上から目線なのよ」

「は、話してください?」

「……へへへ。まあ、いいけど?」

 胡桃からも了承が返ってきて思わず胡桃の方を見ると、胡桃も俺の方を向いて、いつもの素っ気ない態度とは違う、優しい微笑ほほえみを俺に向けた。

 俺はその微笑みに、つい見とれてしまって……。

「ちょ、莉太! 前!」

「えっ? ガッ──!

 電柱にぶつかった。かなりゆっくりだったので大事には至らなかったが、それでも相当の衝撃だった。おでこをぶつけて、身体からだは自転車から投げ出される。

「だ、大丈夫!?

 胡桃はすぐに自転車をそこにめて、俺の方に駆け寄ってくれた。俺は頭を押えながらなんとかそこにあぐらをかいて座る。恥ずかし……鈍臭……。

「いってぇ……だ、大丈夫大丈夫……あはは……ごめん……」

「もう……」

 胡桃はあきれながら俺に手を差し伸べてくれる。


「ホント、世話の焼ける幼なじみね」


 胡桃はしそうに笑って、俺の手を握ってくれた。

 やっぱり胡桃といると、よく自分を情けなく思ってしまう……けど。

 ──胡桃ならきっと、結婚してもそんな俺のことを受け入れて助けてくれそうだな。

 ……って、なんで俺はもう結婚した先のことを考えてるんだ。まだ告白してくれたのが誰ともわかってないのに。

 あの感想が投稿されてから、いまだ進展なし。

 でも三人の女の子とは、また更にちょっとずつ仲良くなれている気がする。

 今までずっと陰キャオタクでボッチの俺なんかって気持ちが先行して、きっと三人のことをちゃんと真っすぐ見れてなかったんだな、俺。


◇ まいはらかえで ◇


 との時間を二人の女子に邪魔されて不機嫌な楓は、家に帰って部屋に入るなりベッドに飛び込んだ。

「まさか、あたしだけじゃなかったなんてなぁ」

 楓は女子二人の顔と、その二人を見る莉太の目を思い出し、唇をめる。

『これでわかった? あんただけ特別じゃないってことよ』

 楓の頭の中には胡桃くるみのその言葉がこびりついていた。

 自分は特別じゃない。そんなこと、自分が一番よくわかっている。わかっていたつもりだった。だけどいざそう現実を突きつけられると、心が落ち込んだ。

「(このウサちゃん、絶対あの二人のどっちかだ……)」

 楓はポケットに入れていた莉太のプリクラを手にする。なんとなく返す気が起きず、プリクラを返しそびれて少しつ。今更これについて莉太に聞けそうもない。

 でも確かめないと、気が済まない。

 思い至った楓は、部屋のクローゼットを開ける。

「あんまり気は進まないけど……先輩のためならしょうがない……!」

 楓がクローゼットから手にしたのは──莉太の通う、うおずみこうこうの制服だった。


◇ なか莉太 ◇


 週が明けた月曜日の学校、一限が終わった休み時間。俺は席に座って色々と考えていた。つか、最近俺ずっと考えてんな。

 ついに、『お前ら早く結婚しろよ』というセリフが三人全員のものとなった。しかし土日を挟んだが、新たに〈C〉から感想が届いたり、〈C〉自ら名乗り出たりなど、特に〈C〉は動きを見せなかった。この感じだと、彼女は恐らくこれをいいことに姿をくらますつもりかもしれない。だが、俺は諦めない。絶対あの告白をなかったことになんてさせないぜ。……キャ。(照)

 そうして色々考えていると、──目の前が真っ暗になった。

「誰だ!? あの黒髪せいのド王道美女は……!」

「あんな子うちの学校にいたか?」

 なに? 美少女だと?


「だぁれだ♡」


 ああ、なんだ……聞けばおみの声ではないか。

「なんだ、まいはらさんか……もういい加減それやめ……ままま舞原さん!?

 塞がれていたきやしやな手ががれ、パッと視界が明るくなり振り返ると、そこにはバイトの後輩、舞原かえでがいた。だがここはうおずみこうこうのはずだ。

「おはよ、先輩♪」

「な、なんで……!?

 そして、クラスメイトが俺たちについてうわさする。

なかやべえ! いきなり現れた見知らぬ美少女さえ攻略済みかよ!」

「あいつヤリチン説あるぞ。それかいっそラブコメ主人公まである」

「一体なにがどうなったら田中みたいな陰キャがモテんだよ……」

「もはや世間は陰キャがトレンドなんじゃねえのか?」

 やばい、陰キャがってしまう。

 いや、それより心配するべきは注目が俺と舞原さんに集まってしまっているこの現状だ。そういえばたけうちさんはどうしてる……?

 竹内さんの方を見やると、竹内さんは薄く微笑ほほえんでいた。ただその目はもはや、こっちを見ているようで見ていないというか、端的に言うと死んでいた。あ、ダメだもう終わりだ。昨日のことといい、完全に引かれて告白の返事どころじゃない。

「ま、舞原さん、魚住高校だったの……?」

「はい♪ 不登校だったんですけど、先輩に会いたくなって来ちゃいました♡」

「来ちゃったっていうか、本来毎日来ないと……ていうか、え、会いたくなった……? 俺に……?」

「そうです! 先輩に! 会いたくなったんです!」

 マジ……? そんなことただのバイトの先輩相手に普通言わないよな……。

 しかし考察する余裕もなく、舞原さんは三組の教室前方の時計を見て肩を落とす。

「……あ、そろそろ時間ですか。先輩のクラス聞きそびれて、自分のいる八組から順番に探してたせいで時間切れになっちゃいました。せっかく会えたのに残念です」

「え、あぁ……えっと……」

「じゃあまたすぐ会いに来ますね! 次の休み時間にでも!」

「あ、いや、やっぱあんま頻繁に来られても──」

「あ、ちなみにあたしは八組ですよ先輩♡ 会いに来てくれてもいいんですからね♡ では、また後で!」

「あ~……」

 場を荒らすだけ荒らし、まいはらさんは三組を去っていった。静まり返っていた教室がザワザワと話を始める。大方そのけんそうはまさに今ここで起こった俺と舞原さんのやり取りのことで。

〈C〉の正体を突き止めるためなら、舞原さんが同じ学校だったことはポジティブなことだが、その、なんか色々問題も生んでいるような……。

 それに胡桃くるみがクラスにやって来たあれとの天丼感というか、デジャブ感というか……。もちろん二人のうちどっちかが〈C〉なわけで、二人のうちどっちかは俺のことを好きで会いに来た可能性があるわけだけど、あっても片方なわけで、むしろどっちも違う可能性すらあるのに、なのになんでこう、『お前ら早く結婚しろよ』の時もそうだけど、似たようなことがポンポン起こるんだろう。

 ……いや、無駄なことは気にしなくていいか。とにかく俺が見つけ出すのは〈C〉で、それ以外のことはできるだけ深く考えないようにしよう。いずれにしても、これは今度こそ舞原さんが〈C〉なのか確かめるチャンス……。



「せんぱぁい~」

 ヤツは二限目終了後の休み時間、早速俺に会いに三組へやってきた。

まいはらさん……」

「先輩聞いてください。さっきHRの出席確認の時、あたしが返事しただけで一瞬時止まったんですよ~」

 今まさにうちのクラスの時も止めてるよ!

「あの、舞原さん。わかったから、ちょっと周りの視線がすごいし、どこか人に見られないところに行こっか……」

「え、人に見られないようなところでなにするんですか……♡」

「なんでそういちいちやましい曲解するかなッ!」

 とにかく舞原さんを連れてこのクラスから逃げることにした。とは言え、本当にひとのない場所に逃げるとかえって誤解されかねないので、程々に人の少ない、西校舎と北校舎の間を結ぶ連絡路に舞原さんを連れてきた。あまり人が利用しない校舎同士を結ぶ道であるため、人通りも少なく、四階は天井がなく外に露出しているため、舞原さんに後で『密室に連れてかれたんです♡』みたいな変な言い方もされないはず。

「それで、舞原さん。なんか用でもあった?」

「え? いえ、別に?」

「じゃあ、ホントに雑談しに来た的な?」

「来ちゃダメでした?」

「いや別にいいけど……毎時間来ることないじゃん。せっかく久々の学校なのに、クラスメイトとかと話さなくていいの?」

 俺が聞くと、舞原さんはピカピカと笑って答えた。

「はい! あたし、学校にともだち一人もいないんで!」

 やっちゃったぁ。とんでもなくかつでデリカシーのない質問だったぞ今の俺。超しつけ。ていうかそんなに笑顔で言うことかな。いっそすがすがしいなおい。

 俺は口を覆って謝る。

「ご、ごめん……今のはちょっと、良くなかったよね」

「いえ、全然。友達いないのはあたしのせいなんで」

 舞原さんは、さらっと告げて振り返ると、風に目をすがめながら下に見える中庭を見下ろした。そこには談笑する生徒数人の姿が見える。

「……もしかしてこの休み時間も、だから俺に会いに来たの?」

「いや、先輩しかいないから先輩に会いに来たわけじゃないですよ。そりゃ、話せる人は先輩しかいませんけど」

 まいはらさんは手すりの縁にほおづえをついた。

「あたしは先輩と話したいから、会いに来たんです」

「舞原さん……」

 俺はその素直な言葉を信じて、慎重にそこから舞原さんの気持ちを辿たどっていく。

「今日学校に来たのも……俺に会いに……だっけ?」

 舞原さんは、ふっ、と笑った。

「先輩、自意識過剰です」

「え、えぇ……」

「あはは、まあそれもありますよ、それも。でもそんな『コンビニに行きたいから行く』みたいな軽いノリで来たわけじゃないです」

 舞原さんは続ける。

「そろそろ学校に来ないといい加減留年か退学って時だったんです。でも学校に行くの、すごく怖くて、不安で、その気になれなかったんですよね」

「そうなんだ……」

「はい、でも」

 舞原さんは俺の方を向いて、小首をかしげて俺をのぞんだ。

「──先輩に会えると思ったら、頑張れちゃった」

 舞原さんはあざとい。だけど、心にもないことを言っているようには思えなくて、俺はいつも、その言葉をぐ受け止めてしまう。

 舞原さんのあかく染まった頬は、〈C〉だと仮定するのにあまりに十分だった。

 舞原さんの顔を見れなくて、目をらし、手すりの縁に顔を埋めていると、舞原さんは俺の横に擦り寄ってきた。とん、と舞原さんのぬくもりが俺の身体からだの側部に触れる。

「あたしと一緒にいるの、嫌ですか?」

「い、嫌じゃないよ。ただそうやって直球で言われるとその、照れくさくて……」

「ふっ、そうですか、可愛かわいいですね」

 ……そうやってからかってくるから、本気かどうかわからなくなるんじゃん。

「じゃあ、ずっと一緒に居たいです」

「え?」

 しかし舞原さんのその声音は、まるで本気のようだった。俺がうかがうつもりで舞原さんの方を見ると、舞原さんは突然パチンと手をたたく。

「ってことで先輩、今度の休み、あたしと二人だけでどこかデートに出かけませんか? 二人だけで、です♡」

「「「なっ……!?」」」

 俺が声を漏らすと、なぜだか似たような声がどこからともなく聞こえてくる。

「……やっぱり居た。まんまと釣れたみたいですね」

「「うひゅ……」」

 まいはらさんが振り向いて言うと、渡り廊下の入口のドアから変な声が聞こえ、そこからもぞもぞとたけうちさんと胡桃くるみが出てきた。

「え、二人ともいたの!?

「べ、べべ、別に、が鼻の下伸ばしてないか見にきただけよ。そしたらなんかシリアスな話になって入りづらい空気に……」

「……あはは」

 胡桃がまごまごと申し訳なさそうな顔で事情を説明して、竹内さんも釣られて苦々しく笑った。

ゆずちゃんは私に付いてきてくれただけ」

「そう、なんだ……」

 やっぱり竹内さんは、俺が女子といることに対しては自発的な行動が無いな。

「そ、それより! えっと、舞原かえでだっけ? ともだちいないんなら莉太じゃなくて私たちとも仲良くしなさいよ。同じ女子なんだから」

 胡桃は腕を組んでそう言った。胡桃のこういうところ、やっぱ好きだな、俺。めんどういというか、普段ツンとしててもこういう時はかばってくれるんだよね。

「えー……仲良く~……?

「露骨に嫌そうにすんな!」

 肩を落とす舞原さん。ツッコむ胡桃。依然、愛想笑いの竹内さん。……待てよ。

 三人全員、クラスは違えど学校にそろった。しかもこうして面識を持たせられた。このチャンス、逃してはならないのではないか?

「く、胡桃の言う通りだよ。別に俺と仲良くするのもいいけど、せっかく仲良くできる人が他にもいるんだし、なにも突き放す必要は無いんじゃないかな」

「この人の仲良くしようはそういう意味ではないと思いますけど。まあ、先輩が言うならしょうがないです。友達になってあげますよ、お二人さん」

「それがボッチのセリフ……?」

 胡桃は半分あきれつつ、しかし腰に手を当てて言う。

「でもそうね、せっかく友達になるんだもん。まずは二人とか言わずに、私達も混ぜなさいよ。その遊びってのに」