プリブースにて、立ち尽くす俺と胡桃くるみ。それを交互に見やるたけうちさんは、一体何が起こっているのか分からないというように目をパチパチしばたたかせた。俺だってわからない。ナニコレ。

「胡桃、知り合い?」

「あ、うん……」

 胡桃は一緒にいた友人の疑問に反射的にうなずく。クソ、あと一歩で竹内さんが〈C〉の正体かどうかわかったのに、なんてタイミングで胡桃と出会でくわしてしまったんだ……。

「ぐ、偶然だね」

 竹内さんへの確認を即座に取りやめ、俺は胡桃とコンタクトを取る。

「え、……その子、誰なの……?」

「え? 誰って、竹内さんは──」

 ともだち? 大切な人? クラスメイト? 色々候補が浮かんで、俺は思いとどまる。

 ん、待てよ。これ答えようによっては色々誤解が生まれるんじゃないか? 友達だと断言してしまうと、もし竹内さんが〈C〉だった場合、それは俺が告白をフったも同然の振る舞いになる。かと言って親しげにしても、それはそれで胡桃が〈C〉だった場合、胡桃の期待を裏切る行為になるわけで。

「言えないような関係なの……?」

「あぇ? え、いや違うけど……」

なかくん、この子は……?」

「え、あーえっと」

 ただの幼なじみだよ、と言いかけて、やはりやめる。

 ダメだぁッ! こっちはこっちでもし胡桃が俺のこと好きだったら、ただの幼なじみなんてワード禁句中の禁句だろッ!

「やだ、浮気?」

「修羅場じゃ~ん」

 チラチラと、プリブースに出たり入ったりする女性たちの目が刺さる。別にやましくないのにぃ……。

 と、俺が絶望していると、エレベーターが開いた。

「あ、三刀流と竹内いた」

「帰るよ~」

 もっけの幸い。リア充軍団Zが現れた。てかもうなんのちゆうちよもなく三刀流って言ってるし。

「あ、あぁ……あっ」

 そこで俺は思う。たけうちさんと二人の関係を伝えようとするからやましく感じるだけで、別にクラスメイトと遊んでいただけの事実は何一つ不純じゃないよな。

 よし、ここはこうだ。

「いや、今日クラスメイトのみんなと遊んでてさ。今帰るとこだったんだよ」

「え、あんた……は?」

 胡桃くるみになんとか説明していると、かながわさんと、さっき俺にマイクを持たそうとしてきたギャルが俺たちの元にやってくる。

「ちょっと~、二人して抜け出してなにしてたのー?」

 ギャルに竹内さんが慌てて説明する。

「ぷ、プリ撮ってただけ!」

「えー? ホントに~? 怪しい~」

「ホントだもん……!」

なかくん的にはどうなのよ?」

 金川さんがニヤニヤして聞いてくる。

「え、いやホントにそうだよ……」

「へ~?」

 そんなやり取りをしていると、既に歩き出していた集団から俺達の方に声がかかる。

「おい! 竹内! 三刀流! 置いてくぞ!」

「あ、ごめん胡桃。俺達行かなきゃ! また!」

「う、うん……?」

 そして、クラスメイト達の輪にまぎみ、俺は事なきを得た。

「た、田中くん、やましたさんはいいの?」

「知ってるの……? 胡桃のこと」

「うん、割と有名だから……」

「ああ、実は幼なじみなんだよね……。ばったり会って驚いてただけだよ」

「……そうなんだ」

 事なきを得た俺は頭の中で今日を総括する。

 みんながいるここでは確認は出来ないし、今日のところは色々見送りになりそうだけど、やっぱり竹内さんで決まりなんじゃないか? 告白文の送り主……。

 ゴールしたつもりになっていた。

 でもここからだったのだ。話がさらにややこしくなっていったのは。


◇ 山下胡桃 ◇


「ねー胡桃くるみ~、クシ貸してくんなーい?」

「なんでいっつも自分で持って来ないのよ……まあいいけど」

「あは~♪ ありがとっ」

 さんみやのラウワン、プリブースにいた胡桃は、鏡の前で級友と、プリを撮る前にだしなみを整えていた。

「てかさっきのあの男子と知り合いなんだね~。胡桃、男子嫌いなのに意外~」

「え、ああ……」

「胡桃、汗大丈夫? やっぱ男子苦手なの?」

「い、いや大丈夫! 平気平気!」

「そ? ならいいけど」

 胡桃はともだちの前で平然と振る舞う。だけど頭の中はそれどころではなかった。

「(……さっきのあれ、マジでなんだったの!?)」

 胡桃は、ついさっきと遭遇した時のことを思い出す。



「莉太……?」

「……胡桃?」

「胡桃、知り合い?」

「あ、うん……」

 胡桃は目の前の光景に眉をひそめる。

「(え、そこの女誰?)」

 胡桃はあれこれ可能性を考察する。

「(なんか二人ともすごく神妙な顔で向き合ってたわよね……まるでどっちかが告白でもするみたいに……え、まさか本当に?)」

 いやそんなはずはないと、胡桃は考え直す。

「(いや、莉太に限ってそんなはずないか。だってオタクだし陰キャだしボッチだし。莉太自身もそんなの自覚してること。センター街にアニ〇イトとかあるし、きっとその帰りにプリ寄って友達と会ったのよ。うん。……いや、莉太が一人でプリ寄るわけなくない……?)」

 とにかく、莉太に限ってそういう女子が今更現れるわけがない。そもそも莉太は小学校の時に恋愛のことでトラウマを抱えているのだ。そんな急にいい感じの女の子が現れるはずがないと、胡桃は確信を持って莉太にたずねる。

「え、……その子、誰なの……?」

「え? 誰って、たけうちさんは──」

 莉太は途中で口を止め、急にピタッと止まると、「ん……?」となにか思考する。

「言えないような関係なの……?」

「あぇ? え、いや違うけど……」

なかくん、この子は……?」

「え? あーえっと」

 隣にいた女子にたずねられた莉太は、それに対してもく返せずにいた。

「(昔からの幼なじみだって言えばいいのに、なんで黙っちゃうの……!? もしかして、他に仲い女子がいることを知られたくないような関係の女子ってこと……?)」

 正直油断していた。昔から莉太は周りにめず、誰かと仲良くするような人間じゃなかった。だからこそ自分の恋にライバルが現れる想定なんてしなかった。

 だけど、その想定外がまさに今目の前で起こっている。二人の空気感的にたまたま遭遇しただけとかではない、明らかにある程度の関係値がある様子だ。

「(莉太のこと、ボッチとか陰キャって勝手に決めつけてたけど……)」

「やだ、浮気?」

「修羅場じゃ~ん」

 やっぱり他の人にもそう見えるんだ……。

 と、胡桃くるみが絶望していると、エレベーターが開いた。

「あ、三刀流と竹内いた」

「帰るよ~」

 そこにリア充軍団Zが現れた。胡桃は突然現れたうちの学校の制服を着たイケイケ高校生の大群にぜんとする。というか、

「(三刀流ってなに!?)」

 そして、か三刀流という謎のあだ名で呼ばれる莉太は、そのイケイケ高校生集団を見るなり、助けに来た仲間にホッとするようなあんの表情をする。

「いや、今日クラスメイトのみんなと遊んでてさ。今帰るとこだったんだよ」

「え、あんた……は?」

 莉太が胡桃になんとか説明していると、そこに女子二人がやって来て混ざる。

「ちょっと~、二人して抜け出してなにしてたのー?」

 慌てて説明する、莉太の隣の謎の美少女。

「ぷ、プリ撮ってただけ!」

「えー? ホントに~? 怪しい~」

「ホントだもん……!」

なかくん的にはどうなのよ~?」

「え、いやホントにそうだよ……」

「へ~?」

 そして胡桃くるみの中で、が計三人の女子に囲まれているこの光景と、さっきの謎のあだ名が結びつく。

「(………………三刀流ってこういう!?)」

 胡桃が目の前の出来事にぼうぜんとしていると、既に歩き出していた集団から莉太たちの方に声がかかる。

「おい! たけうち! 三刀流! 置いてくぞ!」

「あ、ごめん胡桃。俺達行かなきゃ! また!」

「う、うん……?」

 胡桃に事態を理解する暇さえ与えず、結局莉太はその女子を連れて駅へ。

「……胡桃? 私達も行こ?」

「うん……」

 胡桃は心の中で発狂する。

「(あいつあんなにリア充だったっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?)」



「胡桃、今日笑顔変だよ」

「そ、そう? ごめんちょっと考え事してて……」

「ふーん、あんま無理しないでよ~」

 プリ機の中でろうばいした顔をパシャパシャ写真に収められながら、しかし、胡桃は考える。必死に頭を回して、どうにかあれが自分の勘違いである可能性を探す。

 少なくとも自分の前での莉太は今もオドオドした陰キャのままだ。こっちが話しかけない限り口を開かないような無口なのも知る限りじゃ変わっていない。そんな莉太が高校に入ったからといって、途端にあんなリア充になるはずがない。ましてや彼女なんて……。

 確か友人と思わしき男は〈三刀流〉という、莉太の名前からは全く連想出来ないような訳のわからないあだ名で莉太のことを呼んでいた。それに、どう考えても莉太が女子を三刀流するとは思えない。

 ……莉太、バカにされてる?

 そうなると色々合点が行く。実は過去にもそういうことがあったし、性格のい莉太はリア充に付け込まれてパシリか金ヅルにされているのかもしれない。だとすると莉太の隣にいたあの女子はなんだ。

「(もしかして、女子に疎いのことを利用して……?)」

 とんでもないビッチなのでは? それで女子に免疫のない莉太はだまされて……。

『ふふ、なかくん、食べちゃうぞ♡』

『ちょ、ちょっと待って! うわぁッ──

 なんてことになってしまったら……。

「(わ、私が守らなきゃ……)」

「く、胡桃くるみ……笑顔どころか顔青ざめてるよ……」


◇ 田中莉太 ◇


『外、出てこれる?』

 家に帰ってしばらくして、胡桃から一言、LINEでそんなメッセージが届く。なんだろう。たけうちさんが〈C〉だと確定付けても、やっぱちょっと意識しちゃうな……。

 なんの気なくうちの玄関扉を開けた。瞬間、ガシッ! と俺の手首がつかまれる。

「ひっ!?

 掴まれたと思えば、勢いよく家からり出され、外に出た俺はそのまま玄関の扉に、バン! と打ち付けられ、胡桃に壁ドンされる。胡桃は俺のことを、ものっっっそいけんまくにらみつける。

「く、くるm」

「あの女、誰」

 こわい、恐いよ。

「た、竹内さんのこと……? あの子は委員会が同じのクラスメイトで……」

「そう。じゃあ委員会が同じなだけのただのクラスメイトと、プリコーナーで何してたの? それにそうならそうだってなんであの時あの場所で説明できなかったの?」

 圧がすごいな圧が。

「あぁ、だから言ったじゃん……みんなと遊んで帰るところだったって。あの場で竹内さんのこと紹介できなかったのは、その……ともだちだっていうのはなんだかがましい気がして、他に思いつかなくて……」

「でも二人きりだったもんっ!」

 胡桃のほおがムクゥっと膨れる。

「あー、あれはカラオケにいたんだけど、なんか空気に耐えられなくて二人で抜け出したというか」

「やっぱりリア充になってる……?」

「ん……なに?」

「い、いやなんでも……続けてよ」

「あ、そう? でまあ、ゲーセンに二人で行って、クレーンゲームであの子にいっぱいお菓子ってあげて」

「やっぱりパシられてる!?

「さっきからなに!?

「こ、ここ、こっちの話……」

「そっちでどうなってんのさ!?

 胡桃くるみは俺の一言一言にいちいち狼狽うろたえ、説明を終えると唇に手を添えて「どういうつもりなんだろ……どの道うかうかしてられないか……」と何かを考えだす。

「いい加減私も変わらないと……」

「胡桃……? なんなんだよ……?」

「う、ううん、なんでもない。あんたは何も考えないでいいわ。その代わり私がなんとかする……もう今までのようにはさせないから……」

「え、あ、うん……わからんけど頑張って……?」

 胡桃は何か一人で結論づけ、「じゃ、おやすみ……」と家に引っ込んだ。

 なんで怒ってたんだろう。たけうちさんが告白文の相手なら、胡桃が俺の女子との交友関係を気にする道理がないよな。

 ……まさか。

 いや、ないか。竹内さんとあそこまで迫ったんだぞ、今更なんだって言うんだ。



 二日後。日曜日の午前中、俺はバイト先にいた。

 ロッカーにってあった財布とスマホをそれぞれポッケに入れ、いざ退勤。

「え~、先輩帰っちゃうんですか……?」

 事務所にて、椅子に座り机にへばっていた休憩中のまいはらさんは、支度する俺の方を見てつまらなそうに言った。

「うん。今日は欠員埋めに来ただけだから」

「寂しいです~……」

 舞原さんはムスりと膨れて、俺のことを潤んだ瞳で見つめてきた。相変わらずあざとい。これをもし本当に俺のことを好きでやっているなら、相当可愛かわいいぞ。

 ……いや、でも竹内さんが〈C〉だと決定づけるまであと一歩のところにいるんだ。きっとただ適当なことを言ってからかってきてるだけだろう。

「また次の出勤でシフトかぶってるし、その時いっぱい仕事教えてあげるから。今日は他の先輩の言うこと聞いて、残りも頑張って」

「はい! 先輩に貸しを作るためにも、残りのお仕事は先輩なしで頑張ります♡」

 うーん、この小憎たらしい感じは俺のことが好きだからなのかな?(怒)

「……了解。じゃあ」

 俺が靴を仕事用から普段の靴に履き替えて、店を出ようとすると。

「あれ、先輩。おとし──」

「ん?」

 振り返ると、まいはらさんは手を後ろにして微笑ほほえんでいた。

「お年おいくつでしたっけ?」

「なに急に……だから同い年だって」

「あ、えっと……誕生日は過ぎました?」

「ああ、うん。俺四月生まれだから」

「そうですか! それだけです!」

「ああ、そう? じゃ、頑張って」

「はい!」

 俺は事務所を後にした。なんで急に誕生日なんか聞いてきたんだろう。この前の胡桃くるみと言い、舞原さんと言い、一体なんなんだ。……いや、気にする必要ないか。あとはたけうちさんに確認するだけだし。



 次の日、週が明けた月曜日。登校の途中でコンビニに寄った。

 普段昼休みは母の作る弁当を食べるのだが、今日はか母がなにがしかの勘違いをしたとかで弁当を作り忘れたそうで、弁当の代わりにパン一個を買った。

 そして、いつもより少し遅れて教室へ到着。

 教室に入ると相変わらず俺への視線。そして一瞬で散る俺への視線。

「あ、なかおはよう~」

「あ、うんおはよう……」

「金曜、面白かったぞ~」

「うん、俺も楽しかったよ……」

 だがいつもと違い、今日は金曜日に遊んだ男子グループから声をかけられた。

 しかし夢じゃなかったのか、あのとてもボッチの俺の経験だとは思えないリア充イベントは。とは言えまだちょっと話すのは怖いな……。

 自席に座った俺は、ふと竹内さんのことが気になって女子グループの方を見る。するとたけうちさんも俺の方を見ていて、視線が重なった。

 竹内さんは女子のグループの中で俺と目を合わせると、少しだけ口の端を上げて、腰のあたりでふりふりと手を振ってきた。

 ボッチ根性が染み付いているせいで、一瞬本当に自分への挨拶かどうか疑ってしまった俺は、自分の指を自分に差して『俺?』と首をかしげる。竹内さんはしそうにぷくっ、と微笑ほほえみ、うんうんと、二回うなずいた。

 手を振り返して思う。

 尊いッッッ!

 俺は手で顔を覆って天を仰ぐ。ああ、幸せすぎるよ。あんな子が俺のことを好きかもしれないだなんて。

 ……ただ。

 俺はラウワン事件について話したあめちゃんとの昨日のトーク履歴を見る。

『竹内さんを〈C〉だと決めつけるには時期尚早だよ』

『なんで?』

『竹内さんといい感じでも、他の二人がそうじゃないという確信がまだないだろ? 三人全員と触れ合ってから判断するべきだ。ということで、キミにまた一つ、〈C〉をあぶす方法を教えてしんぜよう』

『……それは気になる!』

『ズバリ、一人の子と重点的に仲良くする、だ』

『ん、なんかさっきの「みんなと触れ合う」って話とは矛盾してる気がするけど』

『一人の女の子と仲良くしてる素振りを見せれば、もしその仲良くしてる子以外がキミのことを好きだった場合、嫉妬して必ずなにかしら態度に出るはずだ』

 例えば単純に落ち込んで元気がなくなるとか、逆に恋に冷められるとか、あるいは恋敵に勝つために大胆なアピールに出るとか、なんにせよ、これまた態度が示してくれるのだそうだ。確かに理にかなってる……飴ちゃん、恋愛マスターだ。

 嫉妬心。それをあおるわけだ。

 飴ちゃんいわく、その作戦の際に仲良くする女の子は誰でもいいらしい。飴ちゃんの言う通りなら、まさにこの前の出来事で胡桃くるみが反応を起こしそうだけど。

『あの女、誰』

 ……となると、あれってやっぱり、もしかして。

 いや、あれだけで決めるには早いか。そうだな、一週間くらい様子を見るか。

 なんて思っていると。

 突として、聞きみのある、そして学校で聞くはずのない声が聞こえた。

「……胡桃くるみ!?

 いきなりキタァァァァァァァァァァッ!

 突如、隣のクラスから三組に現れた胡桃。男嫌いのやましたさんの登場に教室の空気が張り詰め、そのどうもくは徐々に俺と胡桃の間を行き交うようになる。

 一体なんのつもりだ……?

「あの山下さんが男に話しかけた……しかもあのなかだと……?」

「田中のやつ……たけうちさんに続いて山下さんまで……」

 そういえば胡桃と学校でこんな風に話したことって、全くなかったっけ……。幼なじみであることも隠してるつもりはなかったものの、意識的に俺からは学校では関わらないようにしてたし……。

「く、胡桃、どうしたの?」

「今日ね、コミュ英あるのに教科書忘れちゃって。悪いけど貸してくんない?」

「え、ああ、別にいいけど……」

「「「山下さんが男と普通に会話した……!」」」

 どよめきの渦中で俺は机の中をまさぐる。お互い大した理由があるわけじゃないとは言え、今までわざわざ学校で話すことなんてなかったのに、急にその暗黙の了解を破ってしまうなんて……それに、なんかどことなくいつもよりおうような気がするぞ。

「はいこれ、教科書だけでいいの?」

 教科書を渡すと、


「うん。ありがとっ!」


 胡桃はキラっと笑って見せた。

「「「山下さんが男の前で笑ったぁぁぁあ……!」」」

 胡桃が俺になんの躊躇ためらいもなく笑顔を振りまいたッ!?

 男嫌いの山下さんとしてしか胡桃を知らないギャラリーにとって、その胡桃の笑顔は衝撃だったろうが、かくいう幼なじみたる俺にとってもその微笑は衝撃だった。

「そうだ莉太、今日お弁当ないんでしょ?」

「え、なんで知ってるの?」

ちゃんから聞いたの。だから今朝お弁当作った具材がたくさん余ったから、一個余分にお弁当持ってきたんだけど、いる?」

「え、そりゃパン一個で済ませるつもりだったから助かるけど……」

「もう、だらしないんだから。そんなんじゃ身体からだ壊すっての……。じゃ、昼休みまた来るから、一緒にお昼食べようよ」

「でも、クラスのともだちと食べなくていいの?」

「う、うん! えっと、友達今日学食の子がいて、みんな食堂行くんだって。だからめんどうだし、私はと食べようかなって」

「そ、それならいいんだけど……」

「じゃ、また後でね」

「う、うん……」

「「「なか、すげぇ……」」」

 視線に背を丸めつつ、俺はふとあめちゃんからのヒントを思い出す。

『一人の女の子と仲良くしてる素振りを見せれば、もしその仲良くしている子以外がキミのことを好きだった場合、嫉妬して必ずなにかしら態度に出るはずだ』

 マジでこの前のラウワンでの出来事に嫉妬した胡桃くるみが、たけうちさんや他のクラスメイトへのけんせいをしに来た……?

 ……ちょっと待て、だったら竹内さんのラウワンでのあれはなんだったんだ? よくよく考えてみれば、三人の中でも男嫌いの胡桃が一番〈C〉としてありえないだろ。これこそ世話焼きの胡桃の優しさって線もまだある。

 それに、嫉妬なら逆もまたしかりだろう。竹内さんが〈C〉で、今の胡桃とのやり取りを見て何かリアクションする可能性もある。

 そうして竹内さんの方を見ると、竹内さんは少し不安気な顔をして俺の方を見ていた。俺が苦笑いすると、竹内さんからも同じように苦笑いが返ってきた。

 ……そうだ。依然、俺の中で〈C〉として疑わしいのは竹内さんに変わりない。それに、胡桃が絡み始めた今のこの状況は竹内さんが〈C〉だと確定づけるのに利用出来る。竹内さんが〈C〉なら、俺が胡桃と一緒にいることをよく思わないはず。

 このまま竹内さんのことも胡桃のことも、まとめて様子を見てみよう。



「おっす田中ぁ!」

 昼休み、俺に会いに三組を訪れたのは胡桃ではなく、ファミリアの同僚である八組のやまくんだった。ラノベだったらすっかり忘れてるレベルのキャラだ。

「こ、小山くん……なに?」

 普段は廊下ですれ違う時に「お~」とお互い挨拶する程度の仲である小山くん。こうして学校でちゃんと話すのは初めてだ。

「いやぁ、お前、あのやましたさんと知り合いらしいじゃん?」

「なんで知ってるの……」

「なんでって、すげーうわさになってんぞ? 男嫌いのやましたさんが男としやべってたって」

「そんなに一大ニュースなのか……」

「だから、お前と仲良しって知ってもらえればワンチャンあんじゃねえかと」

 なんて現金な……。

「うーん、どうだろう。胡桃くるみの男嫌いは筋金入りだからなぁ」

「は? いやいや、そこをどうにかするのがなかの役目じゃん?」

「あ、いや、絶対違うよ」

 都合のやまくんに若干ピキッていると、小山くんは「んなかてぇこと言わずに頼むよぉ~」と後ろからひっついてきた。いや、ヒロインにやられたいヤツ。

 調子の良い小山くんに手を焼いていると、

~」

「キタッ!」

「ぐぇ……」

 聞こえた声に釣られて俺の首を絞める小山くん。そして噂をすれば、教室後方の扉から胡桃が三組に訪れる。なんというバッドタイミングだ。というか、お昼食べる場所、教室以外のどこかに指定すればよかった。

「莉太~、ご飯食べよっ!」

「う、うん」

 なんて変わりようだ……。幼なじみの俺ですら考えられない……。

「へぇ、本当に田中と知り合いだったんだ! 山下さん!」

 胡桃は小山くんをいちべつすると、すぐに俺に視線を戻し、弁当二つを掲げて言う。

「今日ね、ちょっと張りきって唐揚げ揚げてみたんだ! 昨日から一晩漬け込んで~」

「そ、そうなん──」

「へえ、俺も食べたいなぁ。ねえねえ、俺も山下さんの作った弁当食べたいなぁなんて~。そうだ、俺も一緒に食べてい?」

「……莉太、誰? こいつ」

 さすがに無視出来なかったらしい。しかし胡桃は顔をらせつつも小山くんを視界には入れず、あくまで俺にいてきた。

「お、同じバイトの小山くん……」

「そっ! 小山たつ! 達夫くんでも達夫でもたっちゃんでもなんでも呼んで!」

「わかった、じゃあゴミカスで」

「……ご、ゴミカス?」

 その場がてついて、胡桃が息を吸い込む。は、始まるんだ。

「そう、ゴミカス。邪魔。マジ邪魔。なにさっきから私と莉太の会話に割り込んできてんの? あんた空気読めないの? あんたに作ったお弁当とかないんですけど。てか、ともだち? 聞いたことないんだけど。一回でも莉太と遊んだりしたの? 普段から莉太としやべってんの? 絶対そんなことないでしょ。幼なじみだからわかるの。今まで私に言い寄って来た男全員キモかったけど、あんたが一番ね。幼なじみのこと利用して近づいて来るとか最悪。あんた、金魚のフンじゃん。それともフンにたかるハエ? どっちにしたってあんたみたいなやつ、私じゃなくたって全女子が嫌うっての。早く人間から転生してゴキブリにでもなって殺虫剤で殺されろ」

「「「うわぁっ……」」」

 言っちゃったよ胡桃くるみ……あくまで俺に対して変わっただけなのか……。ていうか、やまくんがハエだった場合、俺がフンってことになるなぁ……。しかも転生して殺虫剤で殺されるって、小山くん二回も死んでんじゃん……。

 ぜんとする教室。しかしそんな中、小山くんだけはケロッとしていた。

「んじゃあ、ゴキブリの後は、なかに生まれ変わってやましたさんと幼なじみしちゃおっかなぁ~ん」

 効いてないッ! 人としてのプライドもクソもないッ! しぶとさって意味じゃもう既にゴキブリ並だ……!

 そして、「まあ、大当たりだよね」と小山くんはのっぺり続ける。

「山下さんの言う通りだよ。別に俺、田中自体にめちゃくちゃ興味あるってわけじゃないし。ただ、妹がめちゃくちゃ可愛かわいかったり、バイト先に最近入ってきた美人の子がやたら田中のこと気に入るもんだから、絡んでて損はないと思ったんだ~」

「え……? ちょ、なにそのバイト先の女って……」

「あれ、幼なじみならなんでも知ってるんじゃないの? 田中優しいし仕事熱心だから、バイト先の女性陣には結構ちやほやされてんだぜ?」

「こ、小山くん……!」

「その上に山下さんとも仲良しときたら、おもしれぇやつだなって誰だって思うっしょ。ていうか、不自然さで言ったら断然そちらさんの方が変だと思いますけど?」

「何が言いたいのよ……」

「いやいや、俺に『田中と喋ったことあんのか』とか言う割に、山下さんが田中と学校で喋ったり仲良くしたりしてるところ、俺見たことないし、ていうか誰も見たことないから今こうして話題になってるわけじゃんね。なんかあんの? 今まで話さなかった理由とか、今日話そうと思った理由とか」

「そ、それは……」

「「「山下さんが圧倒されてるッ……!」」」

 すごい、胡桃のあの超絶罵倒を論破し始めたぞこいつ……。

「まあどの道俺は邪魔みたいだし、今日のところはここらで退散するわ。明らかに勝算ない相手と戦ったってつまんないし。悪かったな、なかも」

「え、いや……別に……」

「それに、その理由は田中がくべきだしな」

 そしてやまくんは俺の席を離れて、ふらふら帰っていく。胡桃くるみは横でわなわなと顔を赤くして震えている。

 その去り際に一瞬、小山くんは俺の方を振り返り、親指を立ててウィンクした。

 ……小山ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?

 なに!? そっち系のキャラだったのッ!? アホそうに見えてめっちゃ周り見てる系キャラなのッ!? 明らかにネタのませキャラだったじゃん!? 完璧にストーリー進めてきやがったよ! すっげえ物語の核心突いてくんじゃん!

「あーえっと……ほら胡桃、小山くんって見たまんま結構適当な子だからさ、あんまり気にしないで……」

「えぇ……?

 胡桃は真っ青な顔で俺の呼び掛けに応じ、ゴホン! と一回大きくせきばらいし、

「う、ううん、大丈夫♪ さ、食べよ♪」

 さっさと机を準備する。いや情緒不安定すぎる。なにも大丈夫じゃないだろ。

 甘くなったかと思ったら怒ったり、怒ったと思ったら優しくなったり……。

 てか、やたらたけうちさんとの関係気にしたり、その翌週いきなり学校で親しげに弁当なんて作ってきてくれたり、かと思えば小山くんのあおりに青ざめたり……。

 ──うわぁ、怪しすぎるんですけどぉ。

 いや、でも俺には竹内さんが……。

 竹内さんの様子を気にすると、竹内さんはポカンと天井を見上げていた。あれ、嫉妬してこっち見たりしてない……? 〈C〉ならこっちを見ているはずなのに。

 ……え、てことはやっぱ、竹内さんじゃなくて胡桃が……?


◇ 竹内ゆず ◇


「ほわぁ……」

「ちょっと、ゆずりんってば」

 昼。と胡桃のやりとりが三組の教室で繰り広げられた直後、柚璃はあまりのショックに魂だけでも身体からだから逃げようとしたところを、に止められた。

「……はっ!」

 我に返り、箸でつまんでいたミートボールが弁当に落下する。

「しっかりしてよゆずりん」

「ごめん、とんでもない強大な敵が現れてしまったものでつい……」

「せっかくラウワンでい感じだったのにね。同情するわ。うわさじゃ幼なじみらしいよ。しかも家隣だって。やましたさんと仲良いともだちに聞いた」

 ついさっきの出来事なのに、のコネクションはすさまじく有能。友人とのLINEで一瞬にして情報を仕入れてしまうのだ。

なかくんもそう言ってたなぁ。仲良し歴ボロ負け……」

「その上学校でも一二を争う美人で、ファニーなギャルっぽい見た目に反してクールで勉強の成績もトップクラス、オマケに料理も出来て家庭的で、幼なじみの前では特別な顔まで使って……反則だね」

 千代は、教室の端でと楽しそうに談笑しながら弁当をつつく胡桃くるみを横目で見ながら言う。取りそろえてある要素の質も数も、自分じゃまるで歯が立ちそうにないなと、ゆずは思ってしまった。

「ほわぁ」

「ゆずりん! そうやってすぐ意識逃がさないで!」

「……はっ!」

 山下胡桃という女子の存在は、学校の誰もが知っている。ボッチであるせいで学校のゴシップや評判が耳に入ってこない莉太は、単に『男嫌い』というキャラクターが起因して知られていると思い込んでいるが、実は胡桃は、学年でもトップクラスと言われているほどの美人であり、男子からも人気なのだ。

「(この前は仲良くなれたと思ってたんだけどなぁ……)」

 昼食が終わり、柚璃は食後のじゃがりこを片手に、一人でオレンジジュースを買いに自販機に向かった。

 先程千代と会話していた時に、ふと言われたことを思い出す。

『それに、さっきの会話聞いた感じだと、田中くんなんかバイト先では全然ボッチじゃなさそうどころか、ちょっと女の影あるみたいだし、ゆずりんこれぼーっとしてたら先越されるかもよ』

 チャリン。動揺し、自販機の前で誤って百円を地面に落としてしまう。柚璃は不安におびえながらコインを拾い、紙パックのオレンジジュースを買う。

「(ただ委員会が同じってだけじゃ、勝ち目ないよね……)」

 自販機の隣にしつらえられたベンチに座り、柚璃がストローをくわえたその時。

「……あの、たけうちさん、だよね?」

 ふと名前を呼ばれ、柚璃は斜め下に向いていた顔を上げる。

「(山下さんッ!?)」

 さっきまで自分のおもい人と昼を共にしていたあのやました胡桃くるみがそこにいた。

「は、はい……そうでしゅ……ですけど……」

「……ちょっとだけ、話いい?」

 まるで職務質問を試みる警察のような胡桃の問いかけに、ゆずはテンパる。

「あ、あにょ! いやあの! この前のラウワンではごめんなさい! 幼なじみだとは知らず! ゆずは、えっと……二人の仲を引き裂くつもりはなくて! ただのクラスメイトなのですが! でもあの! 学校では仲良くさせてもらってますというか! 決してまだそういうんじゃなくて! いやまだとか言っちゃったぁ! あぁもう……ゆじゅはどうしたら……ととと、とりあえじゅオレンジジューちゅとじゃがりこあげましゅ!」

「お、落ち着いて! たけうちさん! ほら深呼吸! 吸って~、吐いて~」

「ひゅー、はぁ……」

 胡桃は狂乱する柚璃の背中をさすり、深呼吸を促す。柚璃は従って呼吸を整えた。

「怒ってないでしゅか……」

「怒ってるっていうか、色々きたいことがあって……あの、この前プリコーナーでとなにしてたのかが気になってて、どういう流れで莉太とあの場にいたの?」

「あれはえっと、クラスのみんなで遊んでて、抜け出しませんかとゆずがお誘いしてですね……」

「ぐふぅ……」

「山下さん……?」

「……続けて」

「う、うん……それでゲームセンターで二人で遊んだあと、ゆずがプリ撮ろって誘ったの」

「そ、それは莉太が空気にめずに、竹内さんが気を利かせてあげたとか──」

「え、ううん! ゆずがなかくんと遊びたかったから誘ったの! 田中くんとプリ撮りたかったのもゆずだし!」

「……」

「山下さん? 山下さんってば!」

「はっ! ごめん、急に意識が薄れて……」

「あ、それわかる!」

 胡桃は頭を抱えながら、「私も竹内さんのことがよくわかったわ……」と言った。なぜかひどへきえきした様子だったが、柚璃は察せずにその発言だけをそのままの意味でって顔を明るくした。

「(山下さん、結構ゆずには友好的? ゆずが田中くんのこと好きなのバレてないのかな。そりゃそうか、言ってないし。ならここは、好きだってことは内緒にして仲良くしとくべきかも。そしたら田中くん情報も入ってくるし……わ、ゆず天才!)」

 ゆずは少し、胡桃くるみに踏み込んでみることにした。

「あの、やましたさんはなかくんの幼なじみなんだよね?」

「え? ああうん、そうだけど」

「山下さんの前での田中くんって、どんななの? ゆず、クラスメイトとしての田中くんしか知らないから」

「……へへへ。えー」

 胡桃は照れ笑いをした。

「昔からすごい優しい子なの。赤ちゃんの時から私におもちゃとかお菓子を分けてくれて、笑う子だった。今も変わらないな。私はこんなだから結構にはキツい態度とっちゃうんだけど、莉太はいつも私に優しくしてくれるんだ。……ま、こんなこと莉太には言えないけど」

「……へぇ、すごく想像出来るかも」

 ──いっぱい知ってるの、いいなぁ。

「でも同時に鈍感でもあって、ちょっとぼんやりしてるせいで、あんまり人の空気とか読むのが得意じゃなくて、そのせいで──」

 胡桃は一瞬言いかけて、口をつぐんだ。

「いや、なんでもない。ねえ、莉太ってクラスでイジメられたりしてない……?」

「え!? そんなそんな! この前も、みんなにめっちゃ気に入られてたよ!」

「そう……? 心配だったから良かった……」

 そうか、彼女は心配だったのか。と、柚璃はほっと息をつく。とりあえず恨まれているわけではなさそうだ。

「それじゃあ、学校での莉太はどんな感じなの?」

 柚璃はそう聞かれると、自分をがましく思いつつもほおを染め、語りだす。


◇ 山下胡桃 ◇


「それじゃあ、学校での莉太はどんな感じなの?」

 胡桃にたずねられると、柚璃はあからさまに頬を染めて語りだす。

「うーん、基本大人しい感じだけど、話してみたら笑って受け答えしてくれるかなぁ。あ、困ってる人がいるとね、誰が言うでもなくさりげなく助けてあげたりするんだよ! でもちょっと不器用だからか、陰で助けたり、助けても空回りしたり、助けたのが目立ったりしないから、あんまり感謝されないのが見ててもどかしいかも」

「……そっか」

 柚璃が胡桃に対して心を開き始めているのに対して、胡桃は、

「(え~もぉ~! この子絶対のこと好きじゃぁぁぁん!)」

 顔がって仕方がなかった。

 胡桃くるみが想定していた、『莉太、たぶらかされている説』は早々に外れ、変わりに『正統派ライバル説』という別の問題に阻まれた。明らかな悪者ならまだ戦いやすかったのに、悪気がない分、妙に相対しづらさがある。

「(どうしよう! 莉太みたいな陰キャ、絶対私以外の女子が興味持つわけないって思ってたのに!)」

 ゆずは胡桃が気づいてないとでも思っているのか、「あはは……」と自分の本音を恥ずかしそうにしていた。

「(なにこの子、めっちゃ可愛かわいいし、普通にいい子……。こんな子に本気出されたら自分で言うのもあれだけどツンデレの私が勝てるわけない……! イマドキツンデレなんて、いくらラノベ好きの莉太でもナシよりのナシよね……)」

 胡桃は必死に考える。芽を摘む必要があるのは間違いない。ただそうなると、級友の他にさっきのキモ男が話題にしていた莉太のバイト先もマークせねばならない。単純に三者でどもえの勝負になると、学校、仕事という刺激的なシチュエーションと比べ、幼なじみという莉太にとってはほぼ溶け込んでしまった背景のような自分の立場は大きなハンデになる。

 そして胡桃くるみは思い至る。

「(ここは自分がのことを好きだということを隠して仲良くしておくべき? そうすれば学校での莉太の情報も入ってくるし、下手に抜け駆けさせたりしないよう見張っておけるし。……やだ私、天才?)」

 胡桃は表情筋がこわばったほおをなんとかゆるめ、笑顔を作る。

「ねえ、ゆずちゃんって呼んでもいい?」

「え、うん! もちろん! じゃあゆずも──」

「うん! 遠慮なく名前で呼んで!」

「わーい! 胡桃ちゃんね! じゃあはいこれ、お近付きの印!」

「え、ああ、ありがとう……」

 胡桃は若干されながら、柚璃に突き出されたじゃがりこのめんたいバター味を一本手に取り、食べた。なんだかつかめない人だ。

 そして胡桃はたくらむ。彼女を味方につけた今ならバイト先の女子とやらを押え込むことが出来るのではないだろうか。二対一なら明らかにこちらが優勢。

 思いついたら即行動。心を入れ替えた胡桃は柚璃に問いかける。

「それで柚璃ちゃん、早速なんだけどさ、私と莉太の教室での会話、聞いてた? ほらあの、莉太のバイトの同僚がいた時の」

「あ、えっと……うん、聞こえてたよ……?」

「……莉太のバイト先の女の子っての、気にならない?」

………………なるかも」

「(よっしやぁッ!)」

 そしてたけうち柚璃は、どうしようもなくチョロい女の子なのであった。