◇ たけうちゆず ◇


 昼休み。

「ほわぁ……」

「ゆずりんってば」

 自席でぼーっと天井を見つめていた柚璃を、が気にかける。

「……はっ! ご、ごめん……ちょっと考え事してて……」

「まあ、付き合いたいと思ってる相手に一人が好きとか言われちゃあね……」

 柚璃は自分の机に突っ伏して、千代はその背中をさすってあげる。ちなみにはトイレか購買か、教室にいない。

「挙句の果てには、話しかけたのに逃げられたんだって?」

 昨日の朝、ばこでのことだった。自身を見た瞬間のあの動揺っぷり、あれは確実にただ事ではなかった。

「ひょっとしてゆず、なかくんに嫌われちゃったのかな……?」

「いや、んなことないと思うけど。ま、クラスの端っこにいるような大人しい子だし、女の子に言い寄られるとびっくりしちゃうんじゃない?」

「あぁん! 田中くんに嫌われちゃったらゆず、もう生きてけないよぉ!」

「あの程度の男に嫌われるくらいで死なないで欲しいな……」

「うぇ、なに~?」

「いや別に……とりま、男子がラウワンに田中くん誘ってくれるって言ってたし、気長に待とうよ」

 遊びの誘いを断られ続けた柚璃は、己が女子だから話に乗ってもらえないのではと、莉太は男子メンバーにともだちがいないから行く気になれないのではと、考えた。

 その結果として、次の集まりが決まった一昨日おととい、そこに莉太を誘うよう男子に頼んだのだ。最初は『なんであんなやつを?』と反対されたが、『そんなん言うなら遊ばない』と柚璃が言うと、男子はやむ無しと折れた。三組の男子は普段こそ柚璃をからかったりしているものの、本当は大半柚璃のことが気になっていて、あわよくば……と、淡い期待を抱いている。もっとも、当の柚璃は天然故それを知らないが。

「でも……一人が好きって言ってるのに、来るかな……」

「さあ……そもそも普段誰とも関わる感じじゃないしね……。あ、たちだ」

「あ、竹内~、そういえばさぁ~」

 自動販売機から帰ってきた佐野が開口一番、柚璃に伝言をする。

なか、金曜ラウワン行くってよ~」

「「えぇぇぇぇッ……!?」」


◇ 田中 ◇


 ひようけんこう。日本でも五本の指に入るであろう港町である神戸は、海沿いを中心に栄えている。さんみやは市内でもその最たる街だ。外国人の居留地としての名残で、西洋風の建物が並ぶオシャレな街並みが特徴的。観光スポットとしても人気だ。

 その三ノ宮駅から徒歩数分のラウワンに、俺たちは男女五対五の計十人で来た。

 ボウリング、カラオケ、ビリヤード、ダーツ、ゲームセンター。あらゆる娯楽が集うアミューズメント複合施設にて、俺達は最初、ボウリングをやることになった。

 受付中、俺はさっき学校の最寄り駅から乗ってきた電車内のことを反省する。

 ……たけうちさんと全然話せなかった!

 ボッチの俺を気遣ってのことか、くんとかながわさんと竹内さんの三人が俺を囲んで話しかけてくれた。その間竹内さんはどういうわけか、いつものようにお菓子を食べてはいたものの、あまり口を開かなかったのだ。かくいう俺も自発的に発言する柄でもないので、結果的に竹内さんと俺が言葉を交わすことが一度もなく下車してしまった。最近ずっと遊びの誘い断ってたし、もしかしたら嫌われちゃったのかな……。

 とは言え悠長にはしていられない。俺の黒歴史流出を阻止するためにも、そして運命の人と結婚……までは考えてないけど、お付き合いするためにも、まずは竹内さんの気持ちを今日暴くんだ。

 しかしここに来て事態は暗礁に乗り上げる。陰キャの俺は、言い出せない。

 人生でボウリングをやったことがないなんて……!

 俺達はグッパで五対五の二チームになり、二レーンに分かれる。結果、俺は佐野くんと竹内さんと同グループに。あとは金川さん達残りメンバーのグループとなった。最初は各チームで個人戦。その後は分かれた二チームで対戦するらしいが、いかんせんルールがさっぱりだ。

「竹内~、俺と勝負しようぜ」

「え~、絶対勝てないもん……」

「いいじゃん。スコア三十点ハンデやるからさ。ほら、最初竹内投げろよ」

 まずい、いきなり佐野くんに竹内さんを取られちゃった。このままじゃダメだ。とにかくなんとか竹内さんと話す機会を……。

「ほっ!」

 気が付くと早速竹内さんがボールを投げていた。ピンは六つ倒れた。佐野くんはそれを見て、「はい、ざこ~」と、たけうちさんをあおった。

「こっからだし! あれ全部倒してスペア取るもん! ほっ! あっ!」

 竹内さんのボールはれ、残りの四つのピンのうち倒れたのは一本だけだった。

「あ~ん……ミスったぁ……」

「論外~。次俺の番だから。ストライク取るから見とけよ」

「へえ、出来るもんならやってみてよ」

「よっ!」ガランガランガラン!

「うわ、ホントにストライク取った」

「なっ? 言っただろ? もう一本ストライク取るから、見とけよ」

 くんすごいな。竹内さんとこんなに簡単に仲良さそうに話せるなんて。

 いや、ていうか実際仲いのか。だって俺は委員会の時に話す程度だけど、佐野くんは常に同じグループにいて、いつもこうやって話してて、遊んでて。

 あれ、俺と竹内さんの仲って、意外と大したことない……?

 二人は今も、俺にはわからない話をしていて。

 ──お前ら早く結婚しろよったって、やっぱ全然釣り合ってないよな。

「あ、次なか

「あ、う、うん……」

 他の子の番も終わり、いよいよ最後は俺の番。俺はよくわからずになんかカッコよかったので適当に見繕ってきた14と刻印された黒いボールを手に取った。ボウリングの球ってめちゃくちゃ重い。

「え、田中14で投げんの……?」

「え? うん。そのつもりだけど」

 佐野くんはなんだか引いている。竹内さんもなぜだか感心したように俺を見てる。ん、そういえば周りを見ても誰も14のボールで投げてる人が見当たらないな。なんかこのボール……すごいのかも。

「よ、よし……」

 ここでストライクを取って竹内さんやリア充たちにイイトコを見せるんだ! このボールもなんだか、俺にしか使えないチート武器みたいでカッコイイぜ!

「えいっ!」ゴン! ガコン!

 俺の投げたボールはけたたましい音を立ててレーンの床をたたき、一秒も持たずガーターに逸れた。

「いやヘタクソなんかーい」

 俺も思った。

 佐野くんがそう言って、どちらのグループの男女からも「ギャハハハハ!」と大笑いが起きる。ああ、運動音痴って情けない。

 恥ずかしくなって席に戻ろうとすると、たけうちさんが「待って待って!」と止める。

「まだもう一投あるよ!」

 まだもう一投あんの!?

「え、二回も投げるの……? でも俺のボール吸い込まれてどっかいったけど」

 俺があたふたしていると、竹内さんは席から立ち上がって、オレンジ色のボールを俺に渡してくれた。そのボールには8と印字されている。

「はいなかくん! これゆずのボール! これで投げてみて」

「あ、うん、ありがとう……あれ、さっきより軽い……?」

「田中くん、もしかしてボウリング初めて?」

「あはは……うん、実は俺、ともだちとこういうところに来るの初めてで」

 それに竹内さんはくしゅっと笑った。竹内さんも無知な俺がしくて笑っているのだろうけど、心しか他の子とは違って見えた。

「このボールの番号あるでしょ? これね、ボールの重さなんだ。大きい数字のボールほど、重たいんだよ」

「そうだったの!? なぁんだ、だから俺のボールめちゃくちゃ重たかったんだ」

「そうそう、自分の持てる許容範囲に見合ってないと、ボールに体が持ってかれちゃうから投げにくいのかも。ゆずのやつは8ポンドでさっきのより軽いから、初心者でも簡単かも! ほらほら! 投げてみて!」

「なるほど、じゃあ……。……えいっ!」

 そして俺のボールはまた右に流れ、ガーターへ。後ろの男子から嘲笑が聞こえてきて、俺は「あはは……」と愛想笑いを返した。だけど竹内さんだけは違った。

「ほら! さっきよりボール伸びたでしょ!」

「え? ああ、確かに」

 俺みたいなヘタクソを相手にして、竹内さんはい所を褒めてくれた。

 そして二巡目。竹内さんの番がやってくる。

「竹内~、次はヘマすんなよ~」

 くんの言葉が耳に入らなかったのか、竹内さんは「田中くん、見ててね!」と俺の方を振り返った。そして竹内さんは、ストライクを取った。竹内さん、すご。

「お、やるじゃん竹内。次取ったらまだ勝負わかんねえな?」

「田中くん、こんな感じ! 次、ゆずの分も田中くん投げてみて」

「は? ちょ、俺との勝負はどうすんだよ」

 佐野くんが不機嫌そうに言った。

「た、竹内さん、俺のことなんていいから! 佐野くんと勝負しなよ……」

「えー、いい。ゆず、なかくんにボウリング教える」

「え、じゃ、じゃあ…………

 俺はたけうちさんにボールを渡されて、くんににらまれながらもとにかく構えた。竹内さんは俺の肩に手を添え密着して、指でレーンを差した。ち、近い!

「田中くんあそこ見て。レーンの途中に三角のマークが並んでるでしょ? あれの真ん中を目掛けて投げるといいよ! 出来るだけまっすぐ飛ばせるよう意識して!」

「わ、わかった、やってみる……!」

 そして俺は投げる。ボールはやっぱり徐々に右にれていく。だけど、

 カランカラン! 三本だけピンを倒した。

「あ、当たった……! なんか今のすごいボウリングっぽかった!」

「やったやったぁ! 田中くんすごい!」

 竹内さんはその場で飛び跳ねて喜んでくれた。陰キャがたった三本ピンを倒しただけなのに、釣り合いの悪さなんて感じさせないくらい、対等に、一緒に喜んでくれた。

「はい、ハイタッチ!」

 竹内さんは俺に両手のひらを見せる。俺は控えめに、自分の手でそれに触れた。

「お、おおだよ! 三本しか倒れてないし!」

「ううん! 確実にくなってるよ! 田中くん、要領いいね!」

「ほ、ホントに? そうかな……?」

「ふふ! うん! ねえ田中くん、ゆずと一緒にもっと上手になろ!」

 そして竹内さんは、その後も俺に色んなことを教えてくれた。俺も竹内さんのお陰で、色んなことを知れた。少し助走をつけるといいとか、出来るだけ力は抜いて投げる方がいいとか、──人と遊ぶことが、こんなに楽しいってこととか。



「ボエ~!」

 佐野くんが音痴だった。それでも周りを気にせず米津〇師の『Lemon』を熱唱する鉄面皮っぷりはなかなか衝撃だった。夢ならばよかったのは佐野くんの歌だ。

 ボウリングを終えて、俺たちはカラオケに向かうことになった。

 テレビモニターを囲うようにコの字に配置されたソファで、俺はなぜか端っこに追いやられていた。しかも今の隣は仲良くないギャル。ギャル怖いんだよ俺。

「田中、歌う?」

「う、ううん。俺はいいよ。みんなで歌って」

 気を利かせてくれたギャルとのこの会話以降、俺は誰とも話していない。だって言えないよ。

 アニソンしか歌えないなんて!

 ここに来て更なる難関が俺を阻むとは。たけうちさんはくんとかながわさんに挟まれ、お菓子を貪りデンモク操作をしていた。

 少しすると竹内さんの番になった。竹内さんが今から歌う曲がモニターに映る。

『だいすき。/井上〇子』

 タイトルでわかる。露骨に恋愛ソングだ。金川さんや俺の横にいたギャルは「お~? 誰に向けての曲だ~?」と大盛りあがり、男子たちはなぜかそわそわしていて、竹内さんは「も、もう……からかわないでよぉ……」と、ほおを染め恥ずかしそうにチラッと俺の方をいちべつした。もしかして俺のこと……? いや、まだ竹内さんが〈C〉かどうかわかんないんだった。

「それにしてもゆずりん、ホント歌いね~」

 間奏の間に竹内さんはみんなに褒められて、照れる。

「え、あぁ。弾き語りとか趣味で……えへへ」

 そうなんだ。竹内さんのアコースティックリサイタル、チケット五万で買います。

 そして歌う順番が一巡したタイミングで、金川さんが声をかけてくる。

「あれ、なかくん歌わないの?」

「ああうん……俺は……」

「なんだよ歌えよ田中。遠慮すんなよ」

 佐野くんが不機嫌そうに言った。やっぱそうなるよね……。一曲も歌わないなんてかえって気を遣われる振る舞いだし。しかもなんか佐野くん、俺に当たりキツいし……。

 そしてデンモクが俺の方に回ってくる。

「割り込みで入れていいから」

 そこまでして俺に歌わせたいの!?

 困ったな、どうすんのこれ……。こんなところで堂々とアニソンなんて歌えないし、かと言ってってる曲は知らないし。そうだ、カラオケなら家族でよく行くし、お父さんがいつも歌ってるあれなら……。

 でも、俺は歌えないし……そうだ、一か八か佐野くんに歌わせよう。佐野くん歌うの好きそうだし、クラスの中心の佐野くんが歌った方がきっと盛り上がる……!

 俺は早速デンモクを手に取る。

「お、俺なんかより佐野くんが歌った方が盛り上がるよ! そうだ! 俺、実は佐野くんに歌ってほしい曲があってさぁ! ほら、佐野くん、歌上手いし!」

「は? そ、そうか? ……まあ別にいいけどよ」

 よっしゃ、いける……!

「んで、どれ?」

「えっと、これ!」

 俺は曲を送信する。

『睡〇花/湘南〇風』

 曲が画面に表示されると、男子たちのテンションが一気に上がった。

「お、いいじゃんなかぁ!」

「みんなで歌おうぜ!」

 なんだか女子も「いぇーい!」みたいな空気になってきて、くんは満更でもなくなったのか率先してマイクを握った。

 佐野くんの歌は正直なかなかひどかったけど、みんなで盛り上がるパーティーソングにおいて歌唱力はあまり関係ない。クラスのみんな、合いの手を入れたりして佐野くんを中心にはしゃいでいる。

 そんな時、

「ほら、田中も!」

 ギャルから意気揚々とマイクが回ってくる。ホントに変な気回さないで。歌えないんだって。

 なにかす方法は……。

 俺はとつに、テーブルに放置されていたタンバリンやマラカス、カスタネットなんかをフル装備して手を塞ぎ、「ヘイ! ヘイ! ヨウ! ヨウ!」となんか雰囲気で言いながら、さらに佐野くんの歌を盛り上げる。するとそれが思ったよりみんなにウケて、「なんだよそれ!」「田中おもれ~!」と拍手が起こる。

 顔から火が出そうだった。

 でも視界の端で、たけうちさんが目尻の涙を拭いながら笑っているのが見えて、少しうれしくなった。



 俺は頃合いを見て部屋を抜け出し、小便をしていた。用を足してトイレを出る。

 はあ、リア充の前で本気で歌えるレパートリーは他にあと数曲しかない。しかも全部あ〇しだし。竹内さんと席も離れてるし、居心地悪いなぁ。竹内さんが〈C〉なのかどうかまだ全然わかってないし、この状況でどうやって確かめれば──


「──田中のやつ、やばくね?」


!?

 不意に聞こえてきた声に、思わず陰に隠れてしまう。

 そこにいたのは、クラスの男子二人だった。どうやらドリンクバーに来たらしい。

「うん、やばい」

「だってあいつ……」

「うん……」

 あ、これってもしかして、陰口じゃ──


「盛り上げすぎだろ」


 ……へ?

「選曲神すぎる。やっぱ大人数のカラオケはバラード熱唱よりパーティーソングに限るな。クソ楽しかったわ」

「てか、なかのおかげでの機嫌戻ったよな。しかもあの感じ、女子みんな田中のこと気に入ってるし」

「あいつ途中、使える楽器全部使ってたよな」

「片手にマラカス持って、もう片方の腕にタンバリン通してその手先でカスタネット鳴らすとか面白すぎるだろ」

「三刀流はやべえって。大〇翔平でも二刀流だぞ」

「勉強になるわ。カラオケで歌以外で目立つ方法があるとは……あいつ立ち回り上手すぎだろ」

「てか、ボウリングも無双してなかった?」

「それ! テクニックでイキるんじゃなくて、出来ない側に回って出来るやつを立てつつ、しかも女子に教えを乞うという……」

たけうちがめちゃくちゃ生き生きしてたよな。あれで完全に竹内取られた感あるわ。立ち回り上手すぎだろ。あそこまで計算だったらやべーぞ」

「なにあいつ、合コンの神かなんかなの?」

「なあ、せっかくだし後でなんかコツとか聞きに行く?」

 やばい。何一つ意図したことじゃないのに、知らぬ間にあがめられてる……。

 男子が部屋に戻り、俺は嘆息し、彼らが去った後のドリンクバーに立った。

「も、戻りづらい……」

 いわれのない期待が重すぎる……。偶然と勘違いって怖いなぁ。

 俺はそこにあったホットのティーカップを一つ取って、サーバーからコーンポタージュを注ぐ。

 ていうか、合コンの神になってる場合じゃないな。たけうちさんが〈C〉の正体なのかどうか確かめないといけないのに、なかなか落ち着いて話すチャンスがない……。

 はぁ、このままなんかの偶然で竹内さんと二人きりになれたらいいのに。


「あ、なかくん! ここにいた!」


 竹内さんキタァァァァァァァッ!

 なんだ今日の俺……色々くいきすぎじゃないか……?

「た、竹内さん……? どうしたの?」

 ドリンクバーに現れた竹内さんは、なぜかカップを持っていなかった。飲み物を注ぎに来たわけじゃないのかな?

「どうしたのって、田中くんがなかなか帰ってこないから探しに来たんだよ」

 俺のせいだったー!!

「ご、ごめん! 大したことじゃないんだ! ただこういう遊びに慣れてなくて疲れちゃって、それで休憩してて……。今戻るよ! 行こっか!」

 面目ナッシング……。色々探りを入れて確認したいところだけど、せっかく遊んでる竹内さんの時間をここで取らせる訳にはいかないな……。

「あの……田中くん、ごめんね」

「え?」

 不意に切なげな声がして、見ると竹内さんが眉を八の字にしていた。そして申し訳なさそうに続ける。

「えとえと……今日田中くん、ゆずが今まで無理に遊び誘ってたの、気にして来てくれたのかなって思って………」

「ど、どういうこと?」

くんがね、田中くんのこと、『竹内が落ち込んでたって言ったらすぐ来た』って言ってて……それでもしかして田中くん、ゆずの誘いを断ってたのを気にして埋め合わせてくれたのかと……ごめん、ゆず、気遣わせちゃったな……」

 竹内さんは置いてあったホットのカップを手に取って、俺と同じコーンポタージュを注いだ。

 そうか、だから今日の竹内さん、最初の方どこか様子がおかしかったのか。

「ゆずね、田中くんともっと仲良くなりたかっただけなの……。でもごめん、ゆずしつこかったよね……。もしこういうの迷惑だったら言ってね……?」

 竹内さんは、協調性のない俺の勝手な行動さえ、自分の責任みたいに言った。優しい。天使だ。でも違う、そんなことまで優しく抱え込まないでくれ。

「ち、違うよたけうちさん!」

 俺が声を大きく張って否定すると、竹内さんは目を丸くして俺を見る。

「今まで断ってたのは、俺が竹内さんたちの輪に混ざったって、浮いて空気悪くするだけだって思ってたからで……でも正直ずっとみんなと遊んでみたかったんだ」

「そう、なの……?」

 そうだ。俺みたいな陰キャがと、俺みたいなボッチがと、そういう自責の念が邪魔して、素直になるのが怖かった。

 だけど竹内さんが手を差し伸べてくれたから、俺は今こうしてここに居られる。

 そんな竹内さんのことを、迷惑だなんて思うはずがない。

「うん! だから竹内さんがいつも誘ってくれるのはうれしかったし、今日来たのも、こんな風に優しくしてくれる竹内さんのことを俺がもっと知りたいと思ったからで! あっ」

………………へ?」

 竹内さんは、俺の一言に猛烈に赤面した。

 ──い、言わなくていいところまで言ってしまったぁぁぁッ!

 どうしよう! まだ竹内さんが〈C〉だと決まったわけじゃないのに、まるで俺が竹内さんに気があるみたいな言い方しちゃった!

「た、竹内さんごめん。今のはその、うそではないんだけど、変な意味じゃなくて……」

「……ゆずも、なかくんのこともっと知りたいなぁ」

「──えっ?」

 竹内さんは空いた左手の指先で、俺の制服のセーターの袖をぴこっと引っ張った。

「……今から、ゆずと二人で遊ぶ?」

 可愛かわいすぎた。



 色々すれ違いはあったものの、結果的に竹内さんに歩み寄ることが出来た。

 提案を二つ返事でオーケーしてしまい、俺は竹内さんとクレーンゲームのフロアまで降りた。大人数の中からいい感じになった女の子と抜け出すとか、やっぱ俺、本当は合コンの神なのではないだろうか。

 だが、合コン神の本領発揮はきっとここからだ……!

「じゃああっちにお菓子いっぱいあるけど、行く?」

「え、行く!」

 小学生を誘う誘拐犯みたいなセリフになってしまったが、竹内さんはその提案を一も二もなく受け入れた。竹内さん、俺ちょっと心配だよ。

 たけうちさんに苦笑いして、俺は少し真面目まじめに考える。

 竹内さんがああ言って今俺と遊んでくれているのは、まだボッチの俺を気遣った竹内さんの優しさという可能性がある。

 それに今日に限らず、過去に竹内さんが俺にしてくれたことは今のところ、好意とも受け取れるけど、『優しさ』で片付けてしまえることばかりだ。

 なら、してくれることではない、もっと核心的な言葉や行動が見れたら、竹内さんが〈C〉である可能性がもっと上がるはず。

 遊びに来れただけでも充分進展だけど、二人きりのこの状況は願ってもない最大のチャンスだ。今度こそ見極めてやる……!

「竹内さん、ポッキーあるよ! しかも詰め合わせ!」

「ホントだ! え~! 欲しい~!」

「と、ってあげようか?」

「ほ、ホントに!?

「うん、俺結構得意だし」

「すごい! やってみて!」

 なるほど、こうやって男は女の子に貢いでしまうんだなぁ。

 この世の摂理を悟りつつ、1プレイ目。狙い通りに景品の位置をアームでずらす。

「あ、惜しい!」

「いやいや、まだ獲れないよ。あと五、六百円くらいかな」

「そうなの?」

 最終的には、宣言通り六百円で景品を落とした。まあ、上出来かな。(ドヤ)

「す、すご! なかくん天才!」

「いやいや……こんなの練習すれば誰でも出来るようになるよ。はい、どうぞ」

「い、いいの……?」

「うん! ボウリング教えてくれたお礼ってことで」

「ありがとう……! こ、これ、大切にするね!」

「あ、いや、食べて! それ、ポッキーだから!」

「あ、あはは……そうだった……! 大切に食べるね!」

 竹内さんはポッキーの詰め合わせパックを抱えて、うれしそうに破顔した。あぁ、もっと貢ごう。

「もっとお菓子いっぱい獲ってあげようか……?」

 この時の竹内さんは、ダイヤモンドくらい目を輝かせていた。

 そして二十分ほどで、竹内さんの手元にはありったけのお菓子が詰まった袋が。

「ゆず、人生で初めて一度にこんなにたくさんのお菓子手に持ったよ」

「そうだね、ちょっとりすぎたかも」

「すごい才能だね、ゆずも欲しい……!」

「まあ、スーパーで買えば済むんだけどね……」

 一通りフロアを練り歩いたところで、今度はたけうちさんが提案する。

「ねえゆずさ、なかくんと行きたいところがあるんだけど、いい……?」

「うん? いいよ、どこ行くの?」

 竹内さんに連れられ俺は建物の一階に下りた。女子御用達のプリコーナーだ。

「お、俺、プリなんて初めてで……大丈夫?」

 周りにいるのは女子ばっかりで、なんだか落ち着かない。

「ゆずも男の子と二人で撮るの初めて……!」

 ……なんだって?

 竹内さんは機種を選んで、百円を何枚か入れる。

「あ、俺も百円出すよ……」

「いいよ、撮ろって言ったのゆずだし! お菓子いっぱい獲ってもらったしね♪」

 竹内さんはそう言いながら、れた様子で機械の外側に設置されたタッチパネルで、モード選択らしきものを次々進めていく。プリを一緒に撮りたい&男子と初めてのプリを俺と……これは優しさに入るのだろうか……。

 機械の中に入ると、周りのけんそうが聞こえなくなった。竹内さんと狭い空間の中で二人きりという事実が、胸の鼓動を速くする。

『まずは可愛かわいくピースしちゃお!』

 女声のアナウンスが流れる。ピ、ピースだ俺! 出遅れるな! スマートに!

 俺は慌ててピースを作り、画面を見ると、「田中くん、カメラあっち!」と、竹内さんに教えられる。はい、ゲームオーバー。

『3、2、1!』パシャッ。

 撮れた写真が画面に映し出される。

「あはっ、田中くん可愛い~!」

「か、可愛くないって! 竹内さんの方が可愛いよ!」

「え!?

「あ、ごめん、これも変な意味じゃなくて……!」

うれしい……!」

『次はもっと距離を縮めちゃおう!』

 悪戯いたずらにも、アナウンスはさらに俺たち二人をあおる指示をする。

「た、竹内さん!?

 そして竹内さんは、スル、と、俺の腕を取ってピースする。