たけうちさんとの海浜清掃指輪事件から帰宅後。俺はスマホでタプタプと小説を執筆していた。パソコン持ってないし、そういうのに疎いので、昔からスマホのメモアプリに打ち込むのが俺の執筆スタイルだ。

 さて、今回の山場は……。


やまくんはいつも優しくてカッコイイです。世間体なんてどうでもいい。だから自信を持ってください」

あん……」

 そう言う安奈の顔は、ほんのり赤くなっていた。

 なんの取り柄もないと自分を蔑んでいた俺は、彼女のその言葉に救われて──。


………………へへ」

 やってしまった。自分の小説に思いっきりリアルを投影するというイタ行為。しかも超脚色してるし。そもそも言われたの、俺じゃないし。いやでも、お陰でなんだかすごくいい話に仕上がってる気がするぞ、最新話。

 今日を振り返りながら執筆にいそしんでいると、ふと、教室に戻ってからのあのラブコメっぽいイベントを思い出す。

『いや、もう……お前ら早く結婚しろよッッッ!!!!!!

 かながわさん、どうして俺たちを見てそう思ったんだろ。俺とあのたけうちさんがだなんてありえないのに。俺の書く小説じゃあるまいし。

 ひとまず最新話は書き終えた。俺は達成感のままにスマホを枕元に放り投げ、俺の部屋の前で扉をカリカリしてたから部屋に入れてやったまま放置してたメグを、ようやく抱き上げ膝の上でで回した。

 すると部屋の扉が突然開く。

「お兄ちゃーん? あ、メグここにいたんだ」

「あのさぁ、ノックぐらいしてよ……」

 は「あ、ごめんごめん」と適当に謝りながら、ずけずけと部屋に入ってきてデスクチェアにまたがり、背もたれを抱いた。

「お兄ちゃん、来週の土曜日ってバイトあったりしないよね?」

「え? あー、休みだけど、なんかあるの?」

「よかったぁ。今ねぇ、胡桃くるみちゃんちが毎年行ってる日帰りキャンプに、今年なか家も行く話になってるの」

 胡桃ちゃん。その名前を聞いて俺は身震いした。

 胡桃とは、隣に住む俺と同いどしの幼なじみのこと。家族ぐるみの付き合いで、小さい頃からの仲なのだが……。

「子供がこの歳になってもまだご近所一家と総出で出掛けるとか言ってんの……」

「いいじゃん。絶対楽しいって。空いてるなら空けといてよ?」

「まあ別に無理に断るほどでもないし、いいけどさ………」

「久しぶりだよね。どっちの家族もせいぞろいでどこか出掛けるの」

 俺がそれにく返事が出来ないでいると、恵麻は俺の顔をのぞんでくる。

「どうかした? お兄ちゃん」

「いや……あいつのこと思い出したら寒気が……」

 もう高校生だ。昔とは違うのだ。俺も、──あいつも……うぅ……。



 次の日、二限目終わりの休み時間。喉が渇いたので自動販売機に向かうと、そこであせったような男子の声がした。

「なぁ、この前のことまだ怒ってんのかよ。悪かったって」

 思わず俺はあと少しで自動販売機というところで、柱の陰に身を潜めてしまった。

 うまの中心で女子生徒に男子生徒が平謝りしている。サイドテールに青いシュシュが特徴的。モデルじみた細いスタイルで、にらみに迫力のある切れ長のそうぼうをした美人の女の子を相手に、男はいたくたじろいでいた。

「怒ってんのって、この前体育祭の打ち上げの時、ともだちに言ってやましたさんと二人にしてもらったことだろ? 仲良くなりたかっただけじゃん。下心とかじゃないんだよ。ごめんって、山下さん」

「ねえ、マジでウザい。いつまでついてくんの?」

 山下さんたらいうその女子がようやく男の方を振り返ったと思えば、冷たくため息混じりに男を突き放す。しかし男はひるまない。

「……許してもらえるまで、だよ」

 男のうかがうようなその一言に、山下さんは「は?」と眉をひそめた。

 そして山下さんは、すぅ、と一度大きく酸素を吸い込む。

「許すって何を? 私、怒るも何も、最初からあんたなんかと関わり合うつもりも関わり合ったつもりもなかったんですけど。あんたが友達と口裏合わせて私に何しようとしてたのか知らないけど、私は元からあんたみたいなキモい男と口利かないようにしてるだけ。あんたみたいなの相手に怒るとかそんなめんどうなことわざわざしないっつの。大体なんでさっきから、私からの好感度が下がっちゃったー、取り戻さないとー、みたいな言い草なわけ? 元からあんたに対する好感度なんて無いけど? 下がる以前に、上がってないけど? もうさ、なんての? 好きとか嫌いとかそれ以前の次元なの。関心がないの。あんたコンビニでレジ担当してもらった店員さんにいちいち情湧く? ないでしょ? それと同じなの。いやそれ以下なの。はぁ。うん。でもそっか、そうね。せっかくしつこくねばっこくここまで私に言い寄って人生の邪魔してくれたんだもんね。わかった、私、今日からあんたのこと嫌ってあげる。てなわけで、こうして今やっと関わり合ったところで折り入って私からあんたにお願いがあるんだけど、もう二度と私と関わらないでもらっていい?

 ──ピッ、ガタン。

 山下さんは言い切ると、あっという間に自販機でミルクティーを買って去っていった。当該者である男は、その舌刀による剣技にさばかれ散乱したじんの肉片のごとく、その場に立ち尽くしている。す、すげえ。じようぜつすぎて途中落語かと思ったぞ。てか、場の空気が氷点下だ……飲み物どころじゃない……。

 出直すかと自教室の方に引き返すと、すれ違う野次馬たちから細々と声が。

「あれ、男嫌いの山下さんだよな。四組で有名な子。ザ・感じ悪いギャルだな」

「一年でもトップクラスに可愛かわいいのにもったいね。三年の先輩の告白も蹴ったんだと」

 男嫌いのやましたさん……。

 俺は山下さんを評する男子たちに苦笑いしながら、一つため息をついた。

なかくんっ!」

「た、たけうちさん? どうしたの?」

 教室に戻ると、ちょうど竹内さんが俺の元へとことこ駆け寄ってきて、話しかけられた。あぁ、今日も可愛かわいい……。

「今日ね、クラスの何人かでカラオケ行かないかって話になってるんだけど、男子も誘ってて、良かったらその……田中くんもどうかなって」

 なにッ!? あの竹内さんがこの俺をリア充軍団との放課後にご招待してくれているだと!? つ、ついに俺もそちら側に!?

 ……いやいや、待てよ。

 浮かれた瞬間、思い出す。

『あんたなんかと関わり合うつもりも関わり合ったつもりもなかったんですけど』

 背筋がゾッとするのをこらえ、俺は笑顔で答えた。

「ご、ごめん。今日用事あるんだ」

「あっ……そ、そうなんだ……。それじゃあ仕方ないね」

「うん、それじゃ」

 竹内さんの横を通り過ぎて自席に向かう途中、ひそひそ声が聞こえてくる。

「おい、田中のやつ、竹内さんの誘い断ってなかったか……?」

「羨ましい……。てかもったいねぇ……。」

 俺だってそう思うよ。でもでも、山下さんのあの超絶罵倒を見た後だぞ。あの男子と同じ道を辿たどれってのか? 俺はただのモブ。勘違いはしない。ここはちゃんと分をわきまえるところだ。大体、カラオケなんて行ってアニソン歌うわけにもいかないし。

 竹内さんは自分の席で心しかしょんぼりしていて、かながわさんに慰められていた。せっかくの優しさを無下に扱ってしまって申し訳ない……。



「はい、いいよ」

「わふっ!」

 ビュ───ンッ!

 午後五時。下校してメグの散歩後、帰宅して足を拭いてやって膝から解放すると、勢い良く家の中を駆け出すメグ。意味不明だが、メグの散歩後のルーティンだ。

 よーし。今日のやることお~わり。

 今日父は仕事の飲み会で帰りが遅く、母は夜勤。ともだちとご飯を食べに行くとかで家にいない。つまり俺はこの夜、一人で好き放題というわけだ。まあ、晩御飯がカップ麺になるのは育ち盛りの男子高校生としては痛いが、そんなのはこの際いい。せっかくだし、普段大画面で見れないちょっとエッチなハーレムラブコメの白光解放バージョンをテレビの大画面で見ちゃお!

 そう意気込みながら、部屋に戻ると、


「おかえり~」


「ただいま~。……ただいま!?

 誰もいないはずの家で、出迎えの声が。

 サイドテールに青いシュシュ、モデルじみた細いスタイル、にらみに迫力のある切れ長のそうぼうのあの美少女が──なぜか俺のベッドの上に……。

「な、なんで……」

 なんで俺のベッドの上に、男嫌いのやましたさんが……?

「よっ、キモオタ」

「え、うん、え……」

 さらりとド直球に俺をディスってきたやましたさんは、制服のままベッドの上にうつ伏せで寝転がり、本棚からくすねたのか、ラノベ、『可愛かわいければ変態でも好きになってくれますか?』を読んでいたようで。

「……はい、これ」

 動揺していると山下さんがその文庫本を手渡してきて、俺はおずおず受け取る。

「え、あぁ……はい……」

、相変わらずこういうのが好きなんだ」

「い、いや……えっと……」

 堂々としろよ俺……こういうとこだろ、陰キャオタク……。

 うつむいていた視線をふと彼女に戻すと、彼女は目を少し細くし、唇をむっと引き結ぶ。

 その整った顔とは数秒見合うことさえ耐え難く、視線をらす。すると今度はその先に、無防備に投げ出された生脚。短く折られたスカートは乱れ、普段目にするはずのない太もものその向こう側の膨らみ始めが裾から見えかけている。

 そんなことを考えていると、山下さんは上体を起こし、ほおを赤らめてにらんできた。

「……変態」

「い、いいじゃんか別に本くらい! 胡桃には関係ないじゃん!」

「幼なじみが変態だと困るのは私なのよ」

 そう。彼女がまさにの言っていた俺の幼なじみの正体。山下胡桃くるみだ。


 男嫌いの山下さんは、俺の幼なじみなのだ。


「わふっ! わふっ!」

 するとメグが来客に気づいたようで、部屋に侵入して胡桃の前で飛び跳ねる。

「メグちゃ~ん♡ 今日もふわふわ~♡」

 胡桃は朗らかに頬を緩ませ、メグを抱える。

「へへへ~、可愛い~♡」

 その顔は本当に、今朝のあの男子への罵倒がうそみたいだ。

 俺はついむずがゆくなった頭をかいて、本題を引き戻す。

「……どうやって家の中入ったの」

「恵麻ちゃんから鍵借りた。はいこれ、鍵も返す」

「恵麻の仕業なのか……」

 鍵も受け取り、『変好き』の一巻は本棚に戻し、幼なじみのこの悪い意味での遠慮のなさに嘆息する。胡桃はメグを下ろし、ベッドから立ち上がって、本棚にずらりと並んだライトノベルの背表紙を値踏みするように見る。

「あんた、部屋にこもってエロ本ばっか読んでるから彼女出来ないんじゃないの。いい加減こんなのに時間割いてないで現実見ればいいのに」

「余計なお世話だよ……そもそもラノベはエロ本じゃないし、大体、ラノベやめたくらいで彼女出来たら苦労しないって……」

 ラノベって、なんで昔からこうエロ本だと思われがちなんだろう。

 俺はやるせなさを感じながら、「おもしろいのになぁ」と、『義妹生活』という作品の表紙を見つめる。するとそれを見て胡桃くるみが頭を抱えた。

「あぁ、もうリアルの女の子じゃ満足できなくなったんだ……末期ね」

「そ、そうじゃなくて!」

「はぁ……せっかくあんたにもラノベのテンプレみたいに幼なじみいるのに………」

「ははは、現実と物語の幼なじみは違ゴフッ──」

 並んで本棚の前に立っていた胡桃から横腹に右ストレートを一発もらう。

「な、なんで……」

「あんたに一番言われたくないセリフだったからよ……」

 俺はその場にうずくまる。一発KOのゴングが脳内に鳴り響く。幼なじみはともかく、すぐに手が出るような女の子にかれたりはしないかな。うん。

 そして床の上でメグにほおめられながらたずねる。

「てか、結局胡桃は何しに来たの……」

「あ、そうだった」

 胡桃はベッドに座り、サイドテールを手で弄びながら足先をモジモジさせる。

「……今日、ご飯ないんでしょ」

「あぁうん。え、なんで知ってんの……?」

ちゃんから聞いた。……仕方ないからうちでご飯作ったげようかなぁって。食べる?」

 立ち上がる俺。

「あぁそういう……いいの? じゃあ遠慮なくごちそうになる方向で……」

「あ、あそう? しょ、しょうがないわねぇ~。ま、別にいいけどさ~」

「えぇ? 別に無理にとは言わないけゴフゥ──なぜッ──」

「来なさいよッ!」

 唐突に立ち上がった胡桃はまたもや俺に腹パン。やたら切迫した顔でそう言う胡桃の目の前で、俺は再びその場にひざまずいた。

「もうわけわかんねえ……」

 なにはともあれ晩御飯問題、期せずして解決。それに関しては感謝。

 俺が生まれてすぐの頃、両親が今のマンションに引っ越したタイミングと同時期に胡桃をごもった状態で隣に引っ越してきたのがやました家だった。両家は似た境遇に意気投合。それからほどなく胡桃くるみが生まれ、俺たちは同いどしの幼なじみとなったわけだ。

 たけうちさんを学内アイドル系正統派天使ヒロインとするならば、胡桃はラブコメで言うところの、男を寄せ付けない氷の女王系ヒロイン、もしくはツンデレ美少女幼なじみ系ヒロイン……とたとえれば聞こえはいいが、正直ああいうフィクションの幼なじみほど俺達の仲が良いわけではない。

 小さい頃はよく遊んでいたが、小学校に上がり、陰キャの俺と対照的にともだちの多かった胡桃とはなんとなく徐々に疎遠に。中学を経て、高校入学を機に、学校ではめっきり話さなくなった。それ以来、ぶっちゃけ割と微妙な距離感だ。

 まあ、今もこうしてご近所付き合い程度ならあるんだけど。

 二人、部屋を出て、メグのご飯だけ用意してから胡桃の家にお邪魔することに。

「そういえば、キャンプ来るんだって?」

 隣に移動すべく玄関へと先を歩く胡桃が振り返った。

「あー、うん。がやけにくぎ刺してくるから……」

「……へへへ」

 靴を履き替えながら謎に口の端が緩くなる胡桃。

「え、なに……?」

「あ……い、いや? あんたみたいな引きこもりが外に出るい機会だなと思って」

「うるさいなぁ……だから余計なお世話なんだって」

 玄関を開けて、わずか五歩。

「お邪魔しま~す」

 山下家に入ってすぐ、胡桃は何だか機嫌良さそうに、鼻歌を歌いながら俺を家に招き入れてくれた。学校の男相手にはあんなだが、四六時中カリカリしているわけではなく、普段は基本温厚なのだ。まあ、既に何発かもらってはいるんだけど。

 胡桃の家の両親もまたうちと同じく共働きで、家には居ないようだった。

 すると、リビングの方からドタドタ騒がしい足音が聞こえてくる。

「……あ! 莉太くんだぁ! えーなんでなんで!」

「お~、そら。久しぶり。なんか胡桃がご飯作ってくれるって、うぉ……」

 胡桃の妹、三姉妹の次女、空が、俺に抱きついて歓迎してくれた。空は胡桃とは対照的に昔から俺に懐いてくれている。

「なんか、大きくなったね……」

「百五十センチ!」

「もう!? すごいね~」

「へへへ~♡」

 あ、胡桃くるみと同じ笑い方だ。

「コラ、そら? が迷惑するからやめなさいよね」

「えー、ヤダ。へへへ~、莉太く~ん♡」

「ッ……ホントに生意気なんだから……」

「まあまあ……別に俺は……」

「あんたも小学生に鼻の下伸ばしてんじゃないわよ」

 ギクッ……。

 胡桃はそそくさと奥のリビングへ歩いていく。俺も空をって付いていく。

 胡桃の家の間取りは俺の家をまんま反転させたような作りになっていて、右にある部屋が左に、左にあるトイレが右に、右にあるキッチンが左に、と、なんかいつも不思議な気持ちになる。

「あ、小豆あずきちゃん。久しぶり」

「莉太くん……!」

 小学一年生の三女、小豆ちゃん。こちらはまだミニマムサイズ。テレビの前にちょこんと座り、大人しくゲームで遊んでいた。

「莉太くん、遊びに来たの?」

「そだよ、胡桃が誘ってくれたの」

 胡桃は台所に入って、ライムグリーンのエプロンをつけた。似合うなぁ。

「小豆、莉太に会いたがってたもんね~」

「く、胡桃お姉ちゃんだって……!」

「は? ないから」

「ご、ごめんなさい……」

「小豆ちゃんに強く当たるなよ……可哀かわいそうに」

 小豆ちゃんの頭をでると、小豆ちゃんはうれしそうに相好を崩した。可愛かわいい……。

「二人とも、せっかくだしご飯できるまで莉太に遊んでもらいな~」

「わーい! え、じゃあス〇ブラやろス〇ブラ!」

 空がはしゃいでその場で飛び跳ねる。見た目は成長してても中身が伴ってないな。

「おお、言っとくけど俺──強いよ?」



 早々にボコられた俺。女子小学生二人にソファの上で挟まれ、ぼうぜんとテレビ画面を眺めていた。へ、へぇ、やるじゃん。(汗)

 見た感じ三女の小豆ちゃんが優勢だった。的確にコンボをつなぎ、着実にダメージを与え続ける徹底ぶり。小一にしてこのゲームの腕前……末恐ろしい。

 しばらくして、そのまま小豆あずきちゃんが勝利。

「小豆! メテオばっかりズルいって! あとDLCキャラもせこい!」

「で、でも……」

「あーあ、小豆とやってもつまんない! くん、私と二人だけでゲームしよ!」

「い、いやそれはさすがに……」

「ふぇ、ふぇぇ……ふぇえええ」

「あ、小豆ちゃん!?

 小豆ちゃんはとうとう泣き出し、俺の上にまたがって抱きついてきた。

「だからそういうのもズルいって! すぐ泣いて許してもらおうとするし!」

 そらの気持ちもなんとなくわかる。胡桃くるみが小さい時も、何かと俺が譲ることが多くて、少し我を出すとすぐ泣かれて母親にチクられていたのを思い出した。

 とは言えこの状況はよくないので、俺はス〇ブラを消してホーム画面に戻る。

「お、俺スマブラ飽きたなぁ。あ、YouTube見よ、YouTube……俺最近き〇ぐれクックにハマってて……あ、小学生は見ないかな。あはは」

 コアラみたいに俺にくっつく小豆ちゃんの頭をでる。

「小豆ちゃん、仲間はずれにしたりしないからね」

………………へへへ♪」

 あ、こっちも胡桃と同じ笑い方だ。

「だったら私も莉太くんの膝の上で見る! 小豆どいて!」

「嫌ぁ……あっちゃんも莉太くんと一緒がいぃ……」

 ど、どうしよう、キリがない……。それにどうしても小学生を相手にしていると良心が痛んで強く言えない。

 そんな時、背後から頼もしい声が。

「コラ! 空も小豆も! けんしないよ! 莉太は一人しかいないんだから!」

「「は、はーい……」」

 胡桃に叱られると、途端に大人しくなる二人。

「莉太もあんま甘やかさないで。もっとキツく言ってやんないと聞かないんだから」

「え、ご、ごめん」

「アレクサ、YouTubeつけて」

 料理をしながら片手間に台所からアレクサに指示を出す胡桃。あのギャル家庭的すぎない? 姉っていうかもはや二児の母じゃんね。

 胡桃は昔から学校ではそのハッキリした物言いでみんなを引っ張るリーダー的な存在だった。今でこそ男嫌いの胡桃も、当時は男女問わず仲良しだった。

 実は幼なじみの俺ですら、胡桃くるみがなぜ男嫌いなんて言われるようになったのかわからないのだ。俺に当たりがキツいのは昔からだし、気づいたら男に対してあんな感じで、イマイチなんでなのかぴんとこないんだよな。理由をいても『キモいから』とか『ウザいから』とかしか言ってくれないし。なんで変わっちゃったんだろう。

 しばらくして料理ができ上がり、俺は三姉妹に混ぜてもらって食卓に着く。

「いつぶりだろ、胡桃の料理。久しぶりな感じする」

「そんな前じゃないでしょ。たまにそっちで作ったげてんじゃん」

 白飯に肉じゃが、豆腐の吸物、それから小松菜のお浸し。バランスまで考え尽くされているであろう献立だった。

「はい、じゃあ手を合わせて」

 習慣らしく、正面に座る胡桃が言うと、妹ズが手を合わせる。俺も一緒に合掌すると、胡桃は姉をしてる姿を見られたのが恥ずかしかったのか赤面した。

「い、いただきます……」

「「いただきま~す!」」

 俺もいただきますをして、パクっと一口肉じゃがのじゃがいもから口をつけた。うまっ……。なんだこれ、俺のお母さんが作る肉じゃがより母の味するんだけど。もしかして、ホントはこいつが俺の母ちゃんなのか……?

「……おいしい?」

 少し心配そうに俺の顔をのぞむ胡桃。

「うん、しい! やっぱ胡桃の料理はいいなぁ……」

 お母さんの料理と違って、やっつけ感がないというか。

「へへ、へへへ……♪」

 もう一口食べてしやくしながら胡桃を見ると、褒められたのがうれしかったのか、胡桃はうつむいてニヤニヤしていた。それを見ていた俺の横に座るそらが肩をすくめた。

「いつもはこんな豪華じゃないけどね」

「アレクサ、あいつボコボコにして」

「アレクサになんてこと頼むんだよ……」

 上二人と違い大人しい小豆あずきちゃんを箸休めに見ると、小豆ちゃんは胡桃の隣にちまっと座り、黙々とご飯を食べながらも俺に気づき、にぱぁっと笑顔をくれた。うちの子にしたい。

 すると空が、箸で肉じゃがをつまんで俺に突き付けてくる。

「はい、くん、あーん!」

「え、いや自分で食べ……ていうか自分のあるし……」

「ちょっと空! 行儀悪いわよ!」

「えーいいじゃん。せっかくくんいるのに。はい、あーん!」

 もごっと、半ば強引に肉じゃがが口の中に。そらはドヤ顔で胡桃くるみを見た。

「お姉ちゃんは莉太くんに食べさせてあげないの?」

「は、はぁ!?

 空は不敵な笑みを浮かべ、胡桃の動揺を誘う。

「く、胡桃……あんま無理しないで……」

「そ、そうよ! そんなことするくらいなら死んだ方がマシだし!

 そんなに!?

 学校では男嫌いのやましたさん。しかし俺の前では、なんだかんだ俺や妹たちの世話を焼いてくれるも、やっぱり一言多い、そんなどこか憎めない幼なじみだ。まあ、学校では見せない顔を知ってるって関係性も悪くないよな。

 小説のネタにするか……。