3章 相互視点とフレンチトースト


 そして七月も末日になり、俺の通う東聖学院は終業式を迎えた。

 式とは言っても特段に何もなく、先生たちからお決まりの期末の締めくくりの言葉と夏休みの心構えを聞かされる程度のことで、その後は教室で今期の成績表が返却されて解散になる。

 そして俺の従姉でありうちの担任でもあるかたぎりすみが、成績表を配り終えてから追加でさらにプリントを回して教壇に立った。

 前席のけいからプリントを受け取ると、そこには大きく『進路調査』と書かれている。

「えーみんなも高校二年生の夏ってことで、結構ガチめの進路調査になります。夏休み明けに回収するから真面目に考えて出してねー」

 香澄が年齢にしてはやや幼めの間延びした声を教室内に向けると、教室内のクラスメイトたちがかばんの中へと早々に進路調査のプリントをしまいこむ。

 東聖学院の進路調査は一年生の時にも一次調査があるため、基本的に大概の生徒たちはそこで大まかに進路を決めているので今さら慌てることもない。

 かくいう俺も去年に一次調査は提出してあるわけだが、現役教師である従姉にアドバイスを求めたところ──


『特にすぐやりたい仕事とかあるわけじゃないなら、それを探すためにも大学行った方がいいと思うよ~。何だかんだ大卒の方が今でも就職も有利なこと多いし、なっちゃんの成績なら受験勉強しなくても推薦で色んなとこ狙えるしね。それに大学生活のモラトリアムは誰の目をうかがわずに大手を振るって遊びまくれる人生で最っ高に超有意義な時間だし、そこでカノジョの五人や十人作っとかないと後々で想像を絶する苦労をすることになるし、それでい会社に就職して私にお金持ちの男を紹介してくれれば万事良くない!? あたし天才か!? ねぇちょっとなっちゃん聞いてる!? 約束だよ!? これは絶対の約束だからね!!


 ──というアドバイス(愚痴と願望)で小一時間ほど泣き付かれ続ける羽目になった。

 特にやりたいこともまだ見つかってないのは事実なので、多少は香澄の意見を参考にしてとりあえず『進学希望』とだけ書いて提出した。

 そして今も教壇から『ちゃんと覚えてるよね?』と、にっこにこな笑顔のプレッシャーが送られてる気がするけども、ひとまず気付かないフリをして手元のプリントに視線を逸らす。

「じゃあそういうわけで、一学期終わり! 夏休みに調子乗ってカレシカノジョとか作らないようにね~!」

 個人的なえんこんしか感じない香澄の声をきっかけに、教室内が慌ただしくなって帰宅準備が整った生徒から席を立ち始める。

 一応、香澄は一人暮らしをするに当たっての俺の保護者みたいなものなので、旅行の件は『夏休みに友達と旅行に行って来る』とだけ伝えてはある。

 家を空けるための端的な連絡だったので、恐らく慶と行くとでも思っているんだろうと思うけど。

 先ほどの口上から分かる通り、まさかユイと旅行なんて知られたら信じられないほど面倒になるので、それ以上は説明しないことにしておいた。

 そして俺はそんなことよりも、いまだにほおづえを突いたまま進路調査のプリントに視線を落としたままでいる。

(……進路調査これ、ユイはなんて書くんだろうか)

 去年にイギリスの高校にいた時にも書いていたのかもしれないが、そんな話は今まで聞いたことがなかったし、そもそもその時と今ではユイを取り巻く環境がまったくと言っていいほど大きく変わっている。

 こっちでの生活の準備が十分に出来ないほど突然決まった留学だったとユイが言っていたし、その先のことまで考えてる余裕があったとは思えないけど……。

(……イギリスに帰る、とか)

 ユイは交換留学生の制度を使っている以上、あくまで本籍はイギリスだ。

 それならば卒業後はイギリスに帰るのが当たり前の流れ。

 普通に考えるならそれが当然の選択肢で、進路調査票を持っている指先に思わず力が入ってしまう。

…………

 無意識に左手首のブレスレットを右手で握り込む。

 まだユイから何を聞いたわけでもない、ただの俺の想像の話。

 なのに急にユイの存在が遠くなってしまうような気がして隣に視線を向けると、俺に気付いたユイがきょとんとしながら青い瞳をぱちくりとさせて首をかしげた。

(……あれ?)

 何かもう少し思い悩んでるんじゃないかと思ったんだけども……。

 全然いつも通りのわいらしい仕草に拍子抜けしていると、なつっこい笑顔を浮かべたクラスメイトがユイの前の席に座って両手でほおづえを突いた。

「ねえねえユイちん。お願いがあるんけど、ちょっとだけいーかなぁ?」

 独特に崩した言葉遣いで、クラスメイトのしんじようが困ったようにユイの机の上にだらーっと上半身をうつ伏せる。

「お願い……ですか?」

「うん、ユイちんにしか相談出来ないことなんよねぇ~」

 あいきようのある垂れ目をめいっぱいに困らせながら、陽菜がわざとらしいためいきを深々と吐き出す。

 陽菜はユイと仲のいクラスメイトで、少し前の調理実習の時に慶と四人で同じ班だった時から俺ともたまに話をするようになった。

 その時の料理のぎわを見てから、俺のことを「片桐せんせー」と呼んでいる。

 割と無遠慮に踏み込んで来るタイプだけども、独特の緩い空気感とあいきようで許されてしまう、そんなクラスメイトだ。

 陽菜の様子から席を外した方がいいかと察して『先に帰ってる』とスマホでユイにメッセージを送ると、ユイから『了解しましたぁッ!!』という超ハイテンションなブサネコのアニメーションスタンプが返って来る。

 クーデレラなユイの表情とテンション感がまるで合ってないのが逆にわいい。

 挨拶も済ませたのでかばんを持って席を立とうとすると、

「あ、片桐せんせーもちょっと待った」

 と、俺も陽菜に呼び止められる。

「あんさ、実は片桐せんせーも一緒にお願いしたいんよね~、取材」

 陽菜があいきようのあるなつっこい笑顔で左右の手のひらを合わせた。

「取材って……何のことだ?」

「まあまあ、今日はわたくしこちらの方から来た者でして~」

 彼女なりに改まってるっぽい態度で、陽菜がかばんの中から取り出した冊子をユイの机の上に置く。

「これは……『知恵の』、ですか?」

 冊子の表紙に書かれてるタイトルを読み上げたユイが首をかしげる。

 その樹は聖書の中でエデンの園にあったとされる二本ののうちのひとつで、その実を食べると数々の知恵を得られるとされるの名称。

 蛇にそそのかされたイヴが食べてしまったとされるリンゴの、と言えば世間一般にかりやすいかもしれない。

 陽菜に勧められるままにユイがパラパラとめくる冊子を隣からのぞき込むと、東聖学院のお知らせや活動などが記事として掲載されているようだった。

「ま、東聖学院うちのガッコーの広報誌ってーやつだね」

「うちに広報誌なんてあったのか」

「ま、フツーは知らないよね。うちも生徒会に入るまでこんなん知らなかったし~」

 へらへらと笑いながら陽菜が自分の顔の前で手を振る。

「じゃあ取材ってのはこれのことなのか」

「イェス。この冊子の中に生徒会が担当してるページがあるんさ。えーっとどの辺だっけな。あ、この辺か? あれ、違うな」

 陽菜があっちこっちページを行ったり来たりしながら、明らかにうろ覚えな感じでようやく目当てのページを俺たちに開いて見せる。

 そこには生徒会メンバーの写真が掲載されていて、その中には見慣れたなつっこい笑顔のクラスメイトがダブルピースを構えて写っていた。

「これって……新城か?」

「そそ。うち、これでもいちおー広報だからね。ブイ」

 横にしたVサインの隙間から、愛らしい垂れ目をのぞかせてウィンクする。

 今まで生徒会なんて関わったことはなかったけど、何となく真面目で堅そうってイメージがあったので、こんなノリの生徒会員もいるのかと少し驚いてしまう。

「まぁそんなカンジで、このページ埋めるネタが必要でさぁ」

「それで私たちに取材、ということでしょうか」

「お、ユイちん、さっすがー。話が早いねぇマイフレンド」

 ぴっと両手の人差し指をユイに向けて陽菜がうなずく。

「俺とユイに取材ってことは、教会の関係者に取材をしたいってことか」

「片桐せんせーも話が早いなぁ。さすがはマイティーチャー」

 さっきと同じように陽菜が両手の人差し指を俺に向けてにっこりほほむ。

「うちの学校って、けっこー寄付とか集めてんじゃん? で、この広報誌ってそーゆー人たちへのポーズでもあるらしくてさー」

「それで生徒会とか学生の記事も掲載した方が喜ばれる、ってことか」

「おお、片桐せんせー大正解。陽菜ポイント十五点あげちゃお~」

 陽菜にぽんぽんと肩をたたかれて謎のポイントをもらう。

 陽菜ポイントは良く分からないけども、とりあえずこれでようやく現状を理解して納得が出来た。

 東聖学院は信仰自体は生徒たちの自主性に任せているとは言え、一応歴史のあるミッションスクール。

 なので卒業生や教会関係者からの寄付が手厚く、それで経営や設備投資をまかなっている部分があると香澄からも聞いたことはあった。

 だから伝統を重んじるけいけんなクリスチャンたちには、こういうお堅い広報誌とか生徒たちの活動も効果的なんだろうなとは思う……けども。

「話は分かったけど、多分大きな問題がある」

「大きな問題?」

 俺の言葉に陽菜が首をかしげながら、不思議そうにぱちぱちと目をまたたかせる。

「別に俺、クリスチャンじゃないんだけど」

「えっ、そーなの??

「私も無宗派です」

「ユイちん、洗礼名まであるのにマジで? ひゃー」

 俺とユイを交互に見比べながら、陽菜があんぐりと口を開けて両手を上げる。

 冊子のタイトルから察するに、ミッションスクールとしての活動を見せるための広報誌なら『教会で働くクリスチャンの生徒二人にインタビュー』はい企画だと思う。

 しかし現実は俺もユイも無宗派。

 それに働いてる理由も、特待生と交換留学生という肩書上で、一応は校則で禁止されてるバイトが出来ないために仕方なく教会で働いている、というピントのずれた取材対象だ。

「うーん、そう来たかぁ~それは参ったなぁ~……

 陽菜が両腕を組んでうんうんと困ったようにうなる。

 ひとしきりうなった後、陽菜が顔を上げてにっこりとなつっこい笑顔でうなずいた。

「ま、細かいことはいーや。二人ともクリスチャンってことにしとこーか」

「そんなのでいいのか」

「別に二人がクリスチャンかどうかは記事じゃ分かんないし、教会で仕事してるのは事実だし。わざわざそこ触れなければだいじょーぶ、だいじょーぶ」

 陽菜があっはっはーと笑いながら自信満々に手をたたく。

 真面目なのか不真面目なのか分からないけども、陽菜本人がそれでいいと言うならまぁいいかと何も言わず肩をすくめる。

 わざわざクラスメイトの頼みを無下にすることもないし、これも教会の仕事の内と思えば。

「ユ……ヴィリアーズはそれでいいか?」

「新城さんがそれで良いでのしたら私は大丈夫です」

 念のためユイの意向を確認をすると、ユイも特に問題を感じてなさそうなので陽菜に了承のむねを伝える。

「ありがとー助かるよ。じゃあ生徒会室いこっか」

「え? これから?」

「実は原稿の提出が明日まででさぁ。善は急げってことでよろしく~」

 てへへ、と舌を出しながら陽菜がお茶目な笑顔を浮かべる。

 そして俺とユイはきゆうきよ『知恵の』のインタビューを受けるため、陽菜に生徒会室へと連れて行かれたのだった。


◇   ◇   ◇


「どーぞどーぞ。ようこそ我らが生徒会室へ~」

 俺たちの教室がある校舎とは別の校舎棟の最上階、その端の部屋へと陽菜に招き入れられた。

 教室の半分程度の大きさの部屋に来客用のソファとテーブル、部屋の奥にはいくつかの事務机、かべぎわには書類が詰まったスチールの棚がびっちりと並んでいる。

 事務机のひとつに座っていた女子生徒が俺たちを見ると、立ち上がって黙ったまま一礼をしてくれたが、どうやら他の生徒会メンバーはまだ来てないようだ。

「そこのソファに座ってて。校長室のお下がりだからめっちゃふかふかだよ~」

 ユイと一緒に陽菜に案内されたソファに座ると、さっきの女子生徒が立ち上がってお茶を出してくれる。

 制服を折り目正しく着こなして三つ編みに大きめのメガネをかけた、いかにも文学少女という出で立ちの女の子が俺たちの向かいのソファに座ってメモを構えた。

「あ、その子は一年生の書記ちゃんね。シャイで無口だから気にしないであげて~」

 にっこりと笑いながら彼女の紹介をすると、陽菜も自分の机からタブレットパソコンを持って俺たちの向かいのソファに座る。

「んと、広報誌に載せるのに写真撮ってもいい? どーせ見る人ほとんどいないからさ」

「俺は別に」

「私も大丈夫です」

「おっけー。生徒会の活動にご協力ありがとーございまーす♪」

 俺たちが了承すると書記がデジカメを取り出して陽菜にOKサインを出す。

 陽菜もタブレットの上で指先をすいすい動かして、改めて俺たちになつっこい笑顔を向けた。

「んじゃ、とりまインタビュー始めよっか。二人はうちの質問にテキトーに答えてくれればいいから。書記ちゃん、メモよろ~」

 陽菜の指示で書記もメモ用のノートを構える。

(記録されてるって思うと、何か緊張するな……)

 特に聞かれて困る話もないけども何かやりづらさを感じつつ姿勢を正すと、隣のユイも俺と同じように背筋を正して顔を上げた。

「じゃあひとつめの質問は学年と名前──はまぁ聞くまでもないね。この辺はうちらがテキトーに書いとくからざっくり飛ばして……あ、じゃあここから。教会の手伝いって、仕事内容はどんなことするのかな~?」

 指先ですいっとタブレットのページを飛ばして、陽菜がにこにことした笑顔を俺に向ける。

「イベント礼拝の手伝いと、後は教会の保守清掃が多いかな」

「ほうほう、なるほどなるほど。じゃあユイちんは何でこの仕事を選んだん?」

「校則に抵触しない範囲でお金を稼ぐならばこちらと紹介されたので」

「えっと、じゃあはい片桐せんせー。仕事のやりは?」

「決まったことするだけだから、やりって言われても特には」

「ユイちんは礼拝はどのくらいの頻度でいく?」

「行かないです。無宗派なので」

「あ、そだったね。うーん。二人とも、ちょっと待ってね~?」

 陽菜がにこにこしたままインタビューを止めて席を立つと、隣でデジカメを構えていた書記を部屋の奥へとちょいちょいと呼び寄せる。

 それから書記が陽菜の耳元に顔を寄せてごにょごにょと話をすると、陽菜が難しい顔をしながら腕を組んでふんふんとうなずいた。

 それを見たユイがかすかに心配そうな顔で俺に小声で話しかけてくる。

「……私たち、何かまずいこと言っちゃったかな?」

「いや普通に答えてただけだと思うけど……」

 聞かれたことに思ったままを答えていただけだし、普通の質問を面白おかしく答えて欲しいってことなら、俺とユイの時点で人選ミスだと言わざるを得ない。

 ユイも俺と二人の時のテンションなら冗談も口にしたりするし、緩い感じがとてもわいらしかったりするけども、今はお外なのでりんとしたクーデレラモード。

 今の俺に取っては逆にこっちのユイの方が新鮮に感じるなぁと思いつつ密談をしている陽菜たちを眺めていると、二人が俺たちの向かいのソファに戻ってくる。

「おまたせー。いやぁちょっとこっちの話でごめんね。じゃあインタビューの方を再開させてもらおうかな~」

 書記がカメラを構えてピピッとシャッターを切る。

「えっと、じゃあ片桐せんせーの好きな食べ物は?」

「好きな食べ物?」

「ほら、記事を読む人も片桐せんせーとユイちんの人となりが分かった方が面白いじゃん? だからちょっと質問の内容を変更させてもらおうかなって思って」

 陽菜になつっこい笑顔でそう言われて、まぁそんなもんかと思って回答を考え込む。

「好きな食べ物は……強いて言うなら、からあげかな」

 しいと思うものはいくらでもある。

 でも色んな作り方を勉強したり試したりしているのはからあげなので、俺のこだわりがあるっていう意味ならばそうなるかと思って答えた。

「へー、意外。せんせーは料理テクすごいから、何かもっとすごい舌みそうな名前の料理とか言うのかと思った」

 陽菜の中の俺は一体どんなイメージなんだろうか。

 別に料理が多少出来るからと言って変わったものが好きなわけでもないし、舌をみそうな名前の料理なんかそもそも日常的に作ることがない。

「あ、じゃあ逆にユイちんこそ、貴族的な食べ物が好きだったりする?」

「私も一番好きな食べ物はからあげです」

「え、まさかのからあげかぶりだ。てかイギリスにからあげあったん?」

「からあげ自体はありましたけど、日本で食べたものとはまったくの別物でした」

「へえー、じゃあ日本に来てから好きになったってことかぁ~」

「そ、そうですね……最近です……」

 ちらっと一瞬だけ俺の方を見て、ユイがかすかに頰を染めてから視線を戻す。

「……へぇ、なるほど~……」

 それを見逃さなかった陽菜が口元をいたずらめいたほほみでひそかにげた。

「いーじゃん、いーじゃん。こっちの方向性のが面白……い記事になるよ~」

 満足そうな陽菜が前のめりになるのに合わせて、隣の書記もこくこくとうなずきながら興奮気味にシャッターを切る。

「したら続きね。ユイちんの好きな色は?」

「えっと、青です」

「好きな動物は?」

「猫です。猫が最高です」

「ユイちん、ちょーブサイクなネコのスタンプめっちゃ好きなのウケるもんね~」

 陽菜はもはやタブレットを横に置いて、普段の教室内みたいなテンションで話し始めた。

 ユイもだいぶ緊張が抜けて来たようでさっきよりも声が明るくなっている。

(まぁユイ自身も楽しめてるならいいけど……)

 さっき陽菜が言い直して飲み込んだ言葉が気になりつつも、そう思って俺も隣からユイを見守る。

「じゃあさ、自分で思う自分自身の性格は?」

「自分の性格ですか……あまり考えたことないですけど……」

 かすかに眉根を寄せながら、握った右手を口元に当ててユイが考え込む。

 じっとテーブルに視線を落としたまま、フリーズしてしまったようにユイが動かなくなった。

 しびれを切らした陽菜が固まってしまっているユイに助け船を出そうと俺に顔を向ける。

「じゃあせっかくの仕事メイトだし、片桐せんせーから見たユイちんにしよっか」

「え……片桐さんから見た私、ですか?」

 固まっていたユイが顔を上げて、何だかきようしんしんな視線で隣の俺をのぞき込んで来る。

「それ、今回のインタビューの趣旨からだいぶ外れてないか?」

「アリアリ、もう大アリだよ。生徒同士が仲良いのは大人にとってほっこりポイントだからね。これはイイ感じの会報になって寄付の匂いがするよ~♪ うちが断言しちゃう」

 何だか妙に自信満々の陽菜を見てそんなもんなのかと納得させられてしまう。

 まぁユイも困ってることだし、ここは助け船を出すと思って俺も頰に手を当てながら天井に視線を向ける。

(ユイの性格って言われると……)

 最初はクーデレラと呼ばれるくらいあいがなくてとっつきづらいクールな女子だと思ってた。

 でもそこから一緒にいる時間が増えて、少しずつ距離感が近くなって、クーデレラなんて言葉が似合わないくらいわいらしい笑顔を見せてくれるようになって。

 どうしようもない自分の境遇も乗り越えて、自分の弱さとしっかり向き合う強さがあって。

 整い過ぎた顔立ちがパッと見はあいそうに見えるけど、実は感情表現も豊かなのも知ってるし、とても情深いことも知っている。

 目の前のことにいつも一生懸命なのもわいらしいし、少し抜けてるところもわいらしい。

 本当に素直でぐで、そんなところが俺にとってすごくまぶしくて……正直、愛おしいと思う。

(……ああ、俺はユイのそういうところが好きなのか)

 ユイのいところを数えた分だけ、改めてユイが好きなことを自覚してしまう。

「片桐せんせー、顔赤いけど暑いん? エアコン下げる?」

「あ、いや、大丈夫だ、悪い……」

 つい黙ったまま考えにふけってしまっていたのをこほんと喉を鳴らしてごまかす。

「ヴィリアーズはちゃんと自分を持ってる素直な人、かな」

 隣から見上げている期待の視線を少し照れ臭く思いながらも、素直に思ったままをはっきりと答える。

 横目で隣を見ると、ユイがうつむいて膝の上に乗せた両手をきゅっと握った。

 青い瞳を細めながら、頰を赤く染めてうれしそうに小さく唇をむのが見える。

「……そんな風に、思ってくれてるんだ」

 ふふ、と小さな笑い声を漏らしながら、俺にしか聞こえないくらいの小さな声でつぶやく。

 予想外のわいいリアクションに思わず俺も逆の天井へと顔をらす。

(外でそんな不意打ちは反則だろ……)

 クーデレラモードからの急なギャップに動揺して、心臓がばくばくと鼓動を加速させる。

「うーん、何ともこれは良きインタビューになりそーだね~書記ちゃん?」

 陽菜の満足げな耳打ちに応えるように、隣の書記もピッピピッピとシャッターボタンを連打してはカリカリとメモにペンを走らせていた。

「じゃあ次はユイちん。片桐せんせーはどんな人?」

「わ、私ですか……!? え、えーっと……そう、ですね……!」

 ユイが慌てながらあごに手を当てて「えっと、えっと」と必死に頭を働かせる。

 頰を染めたまま一生懸命にうなりながら真剣に考えること数分、困ったように眉を下げたままうかがうように顔を上げた。

「や、優しい人……ですかね……」

 悩みぬいた末のシンプルな一言を申し訳なさそうにしながら、隣の俺をちらりとうかがってもじもじさせてる指先に視線を落とす。

「その、すごく色々考えたんですけどくまとめられなくて……ごめんなさい……」

 恥ずかしそうに小さな声を何とか絞り出すと、赤くなった顔を隠すように肩を縮こまらせた。

 それを見た陽菜が実に満足そうに腕を組んで身を乗り出すと、にやーっとした顔で俺を見上げて来る。

「片桐せんせーって実はやさしー系なんだ? 教室だとあんましやべらないし、あいそうに見せかけてからのギャップってヤツ?」

「別にわざわざそう言ってもらえるほど特別優しいってわけじゃ──」

「いえ、片桐さんは優しい方です。とても」

 小さな両手をぐっと握りながらユイが俺の言葉を遮って断言した。

 妙に力強くかぶせられてひるみながらも、好きな人に人前でそんな風に褒められて、うれしいやら恥ずかしいやらでどんな顔をすればいいか分からなくなってしまう。

「まぁまぁうちらがどう思ってたとしても、ユイちんにとってはめっちゃ優しいってことでね。そういうのイイよねぇ書記ちゃん?」

 陽菜が腕を組んで隣の書記とにこにこしながらうなずき合う。

(……この二人はさっきから何をうなずき合ってるんだろうか)

 取材とは全然関係なさそうなことだけは分かるけども、何を考えているのかはいまいち良く分からない。

 身を乗り出した陽菜が続けてユイに質問を重ねる。

「じゃあ例えばどんなところがやさしーの? もうちょっと具体的な例を教えてくれたら、片桐せんせーがやさしーってかりやすくなるっしょ?」

「え、えっと、例えばそうですね……」

 ユイがもう一度考え込んでから、今度はすぐにぱっと明るくした顔を上げて答える。

「自分が考える優しさよりも、その人にとっての優しさで考えてくれるところとか」

「それはつまりユイちんがして欲しいことを、ユイちんの目線で考えてくれるってことだ?」

「そうですね。そういう所が本当に優しいなって」

「わぁーそれめっちゃやさしーやつじゃんー。しかも普段はあいそうなのにユイちんと二人の時はやさしーってことでしょ? そーゆーの女の子的にきゅんきゅん来ちゃうトコだよね~♪」

 陽菜がきゃっきゃ言いながら、両頰に手を添えて身体からだをくねくねともだえさせる。

 ……これは新手の拷問か何かなのだろうか。

 あまりの褒め殺しで、まるではずかしめられてるように身体からだ中から変な汗が出て来る。

(いやもちろんユイがそう思ってくれてることはうれしい、うれしいんだけども……)

 人前で褒められるだけでも照れ臭いのに、それが自分の好きな相手にイジられるというのは格別につらい。つら過ぎる。

 もうまったく陽菜とユイの会話が頭に入らない俺をよそに、陽菜がガンガンと追い打ちを仕掛けて掘っていくが、ユイもまた一生懸命に考えては楽しそうに答えていく。

 こういう素直さがわいいとこだとさっき思ったばっかりだけど、こういうことじゃない……こういうことじゃないんだよなぁ……。

 心を無にした乾いた笑いで、何とか地獄のような時間をやり過ごしていく。

「はー。片桐せんせーの魅力が良く伝わるお話、大変ごちそうさまでした」

 どうやら話(拷問)が一段落付いたようで、陽菜と書記が深々と頭を下げるとユイも釣られて顔を赤くしたまま頭を下げた。

 ユイもだいぶ消耗してるようで、かばんから出したハンドタオルでおでこを押さえている。

 そんなユイをにや~っとのぞき込みながら陽菜がしみじみとつぶやく。

「ほんとユイちんは片桐せんせーのことが大好きなんだね~?」

「……それは、人として……ということでいいでしょうか?」

 以前に同じ問い掛けに対して墓穴を掘った経験から、努めて冷静にユイが返事をすると看破された陽菜が驚いたように目をぱちくりさせた。

「てへ。イジワルな聞き方してごめんね。ユイちんわいくてつい」

 陽菜がいたずらっぽく笑いながら舌を出して謝る。

 ユイが眉根を寄せたまま難しい顔で深呼吸をすると、意を決したように顔をうつむけたまま小さな声を絞り出して答えた。


「そりゃあ…………好き、ですよ……」


 とても小さなつぶやき。

 でもそのれいな声がはっきりと隣にいる俺の耳にまで届いて、思わずユイの方へと丸くなった目を向ける。

 長い髪の隙間から真っ赤になった耳がのぞいていて、膝の上に置いた小さな手がハンドタオルをぎゅっと強く握っていた。

(……ダメだ、これはもうダメだ……)

 不意の台詞せりふと仕草が直撃してしまい、ソファの背に仰向けになって熱くなった顔を両手で隠した。

 もう拷問の時間が終わったと油断していたところにまさかの正面衝突。

 陽菜と書記もお互いの肩を抱き合いながらうつむいて、ぎゅっと手を握り締め合いながら言葉もなく小さくうなずき合っている。

 りちに答えたユイ自身もうつむいたまま固まっていて、時間が止まっているかのような生徒会室の中には静かなエアコンの駆動音だけが響いていた。

 四人がしばらくそのままで固まっていると、ユイが一番最初に再起動する。

「……あの、もしかして……答えない方が良かったでしょうか……?」

「いや、ごめん……ユイちんがあまりにわいくて……」

 陽菜も予想外のもらい事故に顔を赤くしながら、緩み切って止まらない口元を手で隠して素直に謝った。

「ごめん、せんせー。もうほんとおなかいっぱいだから真面目に取材させてもらっていーかな……」

「そうだな、とっとと頼む……」

 もはや陽菜の言ってることにツッコむ気力すらもなく、ユイと一緒にためいきをシンクロさせながらいわゆる普通の質問に普通に回答をしていった。


◇   ◇   ◇


 それから三十分ほどが経過して、無事にインタビューも終了。

 さっきのダメージを引きずっているユイがソファーの手すり部分でぐったりしているのを横目に、俺は陽菜がお茶をれ直してくれるのを手伝っていた。

 ちなみに書記の子はさっきのインタビュー内容を、今現在猛スピードでパソコンにカタカタと打ち込んでいる。

 締め切りが今日までだって言ってたもんなと思いつつ、猛烈なその仕事ぶりに感心していると陽菜がなつっこい笑顔を俺に向けた。

「いやぁお陰様で今日は楽しいお仕事だったなあ。生徒会がいつもこんな仕事ばっかりならいーのにねぇ」

 妙につやつやとした表情でいたずらっぽく笑いながら俺を見上げる。

「仕事じゃない部分が楽しかったんじゃないのか」

「あ、そーいえばそーだね。まぁ楽しくやれたなら良しってことで~」

 主に遊ばれていたユイが可哀かわいそうではあるけども、でも俺も楽しくなかったかと言われたらヤブヘビになりそうなので黙っておく。

 すると陽菜がにや~っと笑いながら俺の耳元に口を寄せて小声でささやいた。

「ユイちん、まんざらでもなさそうだったし、これは頑張るしかないっしょ~?」

「……そういうのは脈がありそうだから頑張るとかじゃないだろ」

「んん? ってことは……脈がなくても頑張るってこと?」

 首をかしげながら楽しそうに俺をうかがって来る。

 相変わらず陽菜は緩い感じの割に細かいところによく気が付くと言うか、しっかりと人の言葉を聞いてるというか……。

 ただ図星を突かれたからと言って否定してごまかすのは、ユイへの気持ちに胸が張れなくなりそうで言葉に詰まってしまう。

 機転をかせて話をらすことも出来ない俺に、茶目っ気たっぷりのほほみで陽菜が愛らしい垂れ目を細めてうなずいた。

「ははぁ~、なるほどねぇ、そーゆーことかぁ~」

 俺の内心を察した陽菜がにんまりとしながら、楽しそうにぽんぽんと俺の腕をたたく。

 自分の好意がバレた相手にどんなリアクションを取ればいいか分からず、頰をきながら陽菜へと顔を向ける。

「……ヴィリアーズに迷惑かけたくないから、周りには黙っててくれないか」

「へ? 迷惑? どゆこと?」

 陽菜が不思議そうに首をかしげる。

「俺は別に何言われてもいいけど、ヴィリアーズの周りを騒がせたくないんだ。ああ見えても色々と苦労してるから」

 俺がそれだけを頼むと、俺の意図を察した陽菜が遠慮なしにくすくすと笑い声をこぼした。

「うち、人の気持ちをネタにするようなことはしないよ。それは約束するから安心して。ってか片桐せんせーってばマジで優しいんだね」

 いつもは緩くてひようひようとしてる陽菜がぐに俺を見てそう口にすると、なつっこい瞳の奥から陽菜の誠実さがしっかりと伝わって来る。

 見たことない陽菜の優しいほほみで、胸の中のかすかな不安が溶けるように消えていく。

「じゃあもしかして、うちめっちゃいアシストしてた?」

「別にアシストはしてないだろ」

「あ、そっか。うちがごちそうになっただけだったね~」

 いつも通りあいきようたっぷりにそう言うと、みが三つ載せられたお盆を渡される。

 約束してくれた安心感も相まって、憎めない笑顔を見せられるとまぁ陽菜なら仕方ないかと思えてしまう。

 それから魂が抜けたようにへばってるユイのところへお茶を運ぶと、陽菜もまた向かいのソファに座って一緒にお茶を傾けた。

「あ、ユイちん。最後にもいっこだけいい?」

 小さな両手でみを抱えながらふーふーとお茶を冷ましてるユイに陽菜が顔を向ける。

「はい、お手柔らかなことでしたら……」

「あはは。さっきみたいなのじゃなくて、ただ気になったことなんだけどさ」

 陽菜がこくっと小さく喉を鳴らしてお茶を飲んで続ける。

「ユイちんは卒業後とかどーすんのかなって」

 陽菜の言葉でみを傾けていた俺の手が止まる。

 ユイとまだ話すタイミングのなかった進路調査の話。

 自分の中にかすかな緊張を感じながら隣のユイに視線を動かして、詰まった息をみ込むようにお茶をすする。

「そうですね。留学自体が突然に決まったことでしたから、まだ具体的な進路までは考えられてないですけど……」

 自分の気持ちを探すように言葉を選びながら、俺が思っていたよりもずっと穏やかな声でユイがそう前置く。

 温まった息をゆっくりと吐き出したユイが、少し照れながら小さくほほんだ顔を上げる。

「卒業後も日本で暮らせるような進路を、とだけは考えています」

 短くそれだけを答えると、隣の俺を見てユイが困ったように青い瞳を細めた。

「じゃあ卒業しても一緒に遊べるね。マジうれしーやつだ」

 陽菜がなつっこい声を上げながらもろを挙げて喜ぶ。

 それからいたずらっぽく目を細めて俺をのぞき込んで来る。

「だって。片桐せんせーもうれしー?」

「ほっとけ」

 何とかその一言だけを返すと、思わず安心して緩んでしまう顔を二人かららす。

(……そっか、ユイは日本に残るつもりなんだな)

 本人もまだ具体的なことは何も分からないとしても、その意志が聞けただけでさっきまでの緊張が消えてなくなる。

 ずいぶんと自己中心的な安心だなとは思いつつも、好きな人が近くにいてくれることを喜ぶのも素直な気持ちだしなと思って小さな笑い声がこぼれてしまう。

「なので、今後もよろしくお願いします」

「ああ、こっちこそだ」

 少し照れながらほほんでくれるユイに向かって、俺も口元を緩ませたままうなずき返した。


◇   ◇   ◇


 生徒会室を後にして校門をくぐると、スマホの時計は午後二時を表示している。

「今日は午前中に帰れるかと思ってたけど、だいぶ遅くなっちまったなぁ」

「そうだね、インタビューの後もおしやべりしちゃったし」

 夏らしいけるようなしに目を細めながら、肩を並べて歩くユイと一緒に苦笑いを浮かべる。

『今日でしばらくユイと会えないから』と、あの後も陽菜がもらいものの大量のお茶菓子まで広げて取り留めのない話をしていたらこの時間になってしまった。

 ちなみに書記の子は『私は壁だとでも思って存分にご歓談を。ごちそうさまです』と、い笑顔で返されたので三人で。

 終業式だけであれば、昼飯の買い出しをしても午前中には帰宅出来ていたはずだったので、それからユイと家で昼食を食べる予定だった。

 でも生徒会室で茶菓子ももらったし、もう昼食には遅くて晩飯までも微妙な空き時間。

 どうするかと少し考えてからユイにひとつ提案をしてみる。

「ちょっと軽めにフレンチトーストでも作るか」

「えっ、フレンチトースト? 食べたい!」

 提案の意図を聞かれることもなく即答でユイが食い付いてくれる。

 そりゃあ喜んでくれるかなと思ったからこその提案だったんだけれども、予想以上に素直に瞳を輝かせているユイがわいくてつい笑みがこぼれてしまった。

 前に一緒に紅茶専門店に行ってからユイはスイーツがお気に入りのようで、たまにスーパーの特設コーナーで売られている有名菓子店の小売りのお菓子を、ちょこっとだけ買うのがプチぜいたくでお気に入りらしい。

 欲しいお菓子があった時は、売り場で吟味に吟味を重ねた上で手に取って、

「……買ってもいい?」

 と、控え目に窺って来るのがめちゃくちゃわいくてたまらない。

 まぁなので昼食代わりのスイーツといった感じで、腹持ちもちょうど良さそうなフレンチトーストの提案だったわけだけども、一も二もなく喜んでもらえるなら何よりだった。

「……あ、でも」

 ユイが指先をもじもじとからめながら困ったような顔で俺を覗き込む。

「私はうれしいけどさ、でも夏臣はお昼には物足りなくない?」

「確かにちょっと前までだったら物足りなかったかもだけどな」

 小さく肩をすくめながらユイに笑いかけると、ユイがハテナを浮かべて首を傾げる。

「ユイのお陰で俺も甘い物が好きになったから大丈夫だ」

「夏臣……」

 その返答を聞いてユイが少しだけ瞳を丸くする。

 俺は今まで特に甘いものに興味はなかったけど、でもユイに付き合ってワタラッパンを食べたり、アイスを作ったりと、色々食べてる内に目覚めたというかしいなと思って食べるようになった。

 だからこれはユイに受けた影響で、それが一緒の生活の中で生まれた変化だと思うと何だかうれしく思える。

「私も夏臣が作ってくれるからあげが大好きになったのと同じだね」

「ああ、同じだな」

「自分の好きなものをお互いが好きになるって、何かすごくいいなぁ」

 ご機嫌そうに声を弾ませながら、ユイがえへへと表情をはにかませる。

 似た者夫婦なんて言葉があるけど、きっとこうやって一緒に暮らして行く中でお互いがお互いに影響され合って近づくことを言うのかも知れない。

 ユイと会わなかったら猫カフェに行くことも、ブライダルフェアのモデルをやることも、花火大会でデートをすることも、人を好きになるということも分からなかった。

 自分の好きな人に影響を与えて、好きな人から影響されて、そんな風に二人の世界が広がっていくことはすごく素敵なことだと思うし、嬉しい。

「イギリスにいた頃は食べること自体あんまり興味なかったんだけどね。夏臣がしいごはん作ってくれるから大好きになっちゃった」

「その責任を取れるように今後も精進するよ」

「ん、約束ね。期待してる」

 ユイも幸せそうな笑顔でうなずくと、歩調を合わせながら二人でゆっくりと夏のしの下を歩いて行く。

 うだるような夏の暑さでも、ユイと一緒にいるだけで不思議と気にならなくなってしまう。

「とりあえず今はいフレンチトーストをごちそう出来るように頑張るかな」

「ありがと。すっごく楽しみ~♪」

 ユイも柔らかくてわいらしい笑顔をはにかませ、こうやってまた二人の思い出がまたひとつ増えていく。

 そんなことをうれしく思いながら、夏休み最初の昼食の材料を買いにいつものスーパーへと肩を並べて歩いて行ったのだった。