でもただでさえ人見知りなネルヴィアさんに、そういうよくわからないことをして怯えさせないであげてほしいんですけど……。

ルローラちゃんは、ネルヴィアさんの胸を鷲掴みにしているちっちゃな指をわさわさ動かしながら「むぅ……」と唸りました。

「ねぇ、なに食べてるの?」

「え?」

「ふだん、なに食べて生活してるの?」

唐突なルローラちゃんからの質問に、ネルヴィアさんは「え、えっと、ケイリスさんのごはんを……」と返します。それを聞いたルローラちゃんは「ふーん」とだけ言うと、今度はネルヴィアさんの輝く金髪に手を伸ばしました。

相変わらずネルヴィアさんの髪は、金属かと見まごうばかりの光沢です。それを見て、ルローラちゃんは深々と溜息を吐くとうつ伏せになり、ネルヴィアさんの太ももに顔をうずめました。

そして太ももの隙間から「ふこうへいだ……」というくぐもった声が聞こえてきます。

どうやらルローラちゃんは、ネルヴィアさんの外見的女子力に憧れているみたいです。

なんか意外かも。ルローラちゃんは一見すると飄々ひょうひょうとしているって言うか、ドライな性格に見えます。なので、そういう俗っぽいことには興味ないと思ってました。

「えっと……胸なんて運動の邪魔ですし、べつに良いことありませんよ?」

ネルヴィアさんのそんなフォローに、ルローラちゃんはギラリと睨みをきかせます。その突き刺すような視線を受けたネルヴィアさんは「ひうっ!?」と飛び跳ねていました。……まぁ、今のはネルヴィアさんが悪いですね。それは持たざる者にとって、嫌味にしか聞こえませんよ……。

「エルフの女性の美的要素は、金髪が美しいことと、胸が大きいことなんだよ! その条件を満たしてなければ、ちんちくりん扱いされるの!」

そう叫んだルローラちゃんは、ムスッとして寝返りを打ちます。

へぇ、そんな基準があるんですね。そもそもエルフ族は美形しかいませんでしたから、顔の造形の良し悪しなんて逆に気にしないのでしょうか?

うーん、しかしネルヴィアさんほどじゃないにしても、ルローラちゃんも結構綺麗な髪してると思うんですけどね。でもネルヴィアさんの、あんなキラッキラの髪を見たら自信を喪失しちゃっても無理はありませんか。

言われてみれば、里を出る時に男性のエルフたちがネルヴィアさんに注ぐ視線に、熱いモノがこもっていたような気がしないでもありません。

ではネルヴィアさんがあのまま里にいたら、その美貌で男共を骨抜きにしちゃってたかもしれないのですか。罪な女です。

そんなネルヴィアさんは、ここまで露骨にセクハラじみた褒められ方をして、ほおを染めてあわあわ言っています。

「で、でも、ルローラちゃんも、きっと大きくなったら……」

「……大きくなっても……大きくなかったでしょ……」

あぁ……。

私たちが出会った当初の、三十歳くらいのルローラちゃんの姿を思い出して、私たちは静かに目を逸らしました。……・ス、スレンダーでしたよね。

「え、ええっと……いっぱい食べれば、いっぱい大きくなるんじゃないでしょうか……?」

といったネルヴィアさんのフォローも、どこか空々しい響きを感じます。

そんな気休めを受けたルローラちゃんは、とびっきり胡散臭うさんくさそうな目をした後、ふと私に視線を向けました。その瞳には、なにやら強い期待が込められています。

「勇者さまは、アタシの『同志』だよね?」

ど、同志……? それって、私の成長はあんまり期待できないと言いたいの!?

いやいやいや! たしかに私は生まれつき身体が小さかったですけど! いまだに乳児かと間違われますけれど! しかし私はきっと大器晩成型なのです! ゆくゆくはスラリと長い手足を手に入れて見せますよ! ダイナマイトボディですよ!

私が全身で『異義あり!!』と叫んでいると、ルローラちゃんの言葉にネルヴィアさんがちょっと怒ったような表情で口を開きました。

よぉし、言ってやってよネルヴィアさん!

「セフィ様は小さくたっていいんです! むしろ小さいのがいいんです!」

チガウヨ……ソウジャナイヨ……。

ネルヴィアさんの残念なフォローに私が肩を落としていると、ルローラちゃんがその幼い顔で得意げに笑いました。

「ふっ……ざんねんだけど、勇者さまは貧者同盟こっちサイドなんだよ。さぁ、持たざる者同士で手を取り合って、いっしょに革命を成し遂げようじゃないか!」

そんな悲しい同盟に加わった覚えはないよ!?

私はもうちょっとしたら人並み程度には成長する……はずだし! ま、万が一の時は、魔法でどうとでもしてみせるしっ!

だからルローラちゃん、その「わかってるわかってる」みたいな生温かい目をやめなさい! その視線、なんだか無性に不安になるから! 不気味に手招きをするのもやめて!?

ひぃぃ、私を悲しき同盟軍に呼び込まないでぇ……!!