ШйЛ◉◉ ШЖ €Ш◉Л€Ш◉€ЛйШ₀о ₀ШЪ ю€Лб・Чю¢◉◉ф ЧЛ¢◉◉Ш¢ШЪЛ◉◉ €Ш◉Лй_Чбю◉◉Лй€Ъ Ж юЛй ЧЛ€ €・€ЧЛ€ €・€ Ш◉◉Лй ШЖ йЛ €Ш◉ ¢Л◉◉Ъ ¢◉◉Л・й€◉◉ ф ¢ €Ш◉・Л€◉◉ я Î₀₀Ъ ю€ЛЧбю ¢ЛйЪ Ж ◉◉Л ЛßЧбюЛ Ш Л ШЖ €Ш◉Л bloodЪ ЖюЛЧ◉◉Ш Л ШЖ Лй€Ъ Чбю €Ъ € ф Лй€Ъ€ - ÎЪЧЛ¢ ю€◉◉Ъ ю€◉◉ ф ю€◉◉ - Î₀₀Ъ ю€◉◉ ф ю€◉◉ - σ₀₀₀Ъ ю€・Чбю€◉◉ ф €Ш◉€◉◉Ш₀о ₀ШЪ ю€・Чю¢ф Ч¢Ш¢ШЪ ю€◉◉Л€Ъ ЖЧЛ¢ ß Ш Лй€Ъ Ш Ж Ш₀о ₀ШЛ ◉◉Лю€Ъ ◉◉Лй€ фbloodЪ blood ф bloodß ◉◉ßШ Лй€Ъ ШЧЛ¢ ß Ш юЛ ШЖ йЛ й bloodЪ blood ф blood - ÎЪ й€ bloodЪ Ж Чй€ €・€Чй€ €・€ Ш Лй€Ъ ШЖ bloodЪ Чбю ¢Ъ ¢・й€ ф ¢Чбю・ю€ я Î₀₀Ъ € ¢Ъ ЖЧЛ¢ ¢ю€Лй€Ъ¢ €Ш Ш Ж Лй€Ъ bloodЪ blood ф blood ф Лй€Ъ н Î₀₀₀₀Ъ ・€ ф €Ш₀о ₀ШЪЛй€Ъ・Чю¢ф Чю¢ЛШσ・?ШЪ ю€ Лй€ЪЪ ЖЧЛ¢ € ß◉◉ßШ Ш Ш₀о ₀ШЪ Лй€Ъ ф й н σ₀₀₀Ъ ・€ ф €◉◉Ш₀о ₀ШЪ ・Чй¢◉◉ф Чй¢◉◉Ш¢ШЪ € ◉◉ЛюЪ Ж bloodЪ blood ф blood Ш Лй€Ъ ШЖ Чбюю bloodЪ blood ф blood н σ₀₀₀Ъ blood・€Ш◉€◉◉ф €◉◉Ш₀о ₀ШЪ blood・Чй¢◉◉ф Чй¢йЛШ¢ШЪ й€ bloodЪ Ж ю¢ € €йШЛй€Ъ ШЖйß◉◉Л€ ¢Ш ₀о ó ₀о яÎ?₀ ШШ ó ₀о Î₀₀₀о ÎÎ₀ ШЪ ¢йЛ・й€ ф ¢・й€◉◉ я σ₀Ъ й€bloodЪ ¢Ъ Ж ß_Л◉◉ Ш Лй€Ъ Ш Ж ₀о ₀ €Ъ € ф Лй€Ъ€ - ÎЪ ◉◉Л€ ф € н Î₀₀Ъ €・€◉◉ ф €◉◉Ш₀о ₀ШЪ Лй€Ъ€・Ч¢ф Ч¢Шσ・?ШЪ €Лй€Ъ €Ъ Ж Чбю Чю€ €・€Ч€ €・€ Ш ШЖ¢Ъ ¢Чбю・€◉◉ ф ¢ю・€◉◉ я Î₀₀Ъ € ¢Ъ Ж bloodЪ blood ф blood Ш ₀о ₀ ШЖ bloodЪ blood ф blood - ÎЪ € bloodЪ Ш₀о ₀ШЧ◉◉Ш ШЖ€◉◉Ъ € ф й€◉◉ - Î₀₀Ъ €◉◉фй€ю - σ₀₀₀Ъ €・€◉◉ ф юЛ€Ш₀о ₀ШЪ €・Ч¢ф Чю¢◉◉Ш¢ШЪ €Ш₀о ₀Ш€◉◉Ъ Ж Л ß◉◉Лй_ Ш Лй€Ъ ШЖйю €Ъ Лй€Ъ€ ф € - ÎЪ йЛ◉◉€ ф € н Î₀₀Ъ €・€◉◉ ф €◉◉Ш₀о ₀ШЪ ◉◉Лй€・Чй¢◉◉ф Чй¢◉◉Шσ・?ШЪ € Лй€Ъ€Ъ Ж ¢ю¢ €Ш Лю Ш Ж Лй€Ъ ◉◉Л bloodЪ blood ф bloodЛ◉◉ н Î₀₀₀₀Ъ Лй€Ъ・Чбю€◉◉ ф €ЛюШ₀о ₀ШЪ Лй€Ъ・Чй¢ф Чй¢◉◉Шσ・?ШЪ й€bloodЪ Лй€ЪЪ Ж Л й¢€_¢€ЛШ₀о ₀ ШЖйßйЛ€ юЛ ¢йЛйШ ₀о ó₀о яÎ?₀ ШШ ó₀оÎ₀₀₀о ÎÎ₀ ШЪ ¢Чбю・ю€◉◉ ф ¢Чбю・ю€◉◉ я σ₀Ъ ю€◉◉Л ¢ю◉◉Ъ Ж €ßßШ Ш Ж ₀о ₀ Л ЛЪ ЧЛ¢ ф Чбю н σ₀₀₀Ъ ・€ ф Чбю€Ш₀о ₀ШЪ ・Ч¢◉◉ф Чюю¢◉◉Ш¢ШЪ € Ъ Ж ◉◉Л €ßßШ Ш Ж ₀о ₀ bloodЪ blood ф blood юЛ н σ₀₀₀Ъ ₀о ₀・€◉◉ ф €Ш₀о ₀ШЪ ・Чю¢Лф Ч¢◉◉Ш¢ШЪ € Ъ Ж Чбю ß Ш ₀о ₀ ШЖ bloodЪ blood ф blood - ÎЪ € bloodЪ Ж Л Ч€ €・€Чю€ €・€ Ш ШЖ ЧЛ¢ ¢Ъ ¢ю・ю€◉◉ ф ¢・€ я Î₀₀Ъ ю€ ¢Ъ Ж ß_ Ш Ш Ж bloodЪ blood ф blood€Ъ Л◉◉€ ф € - ÎЪ € ф € н Î₀₀Ъ €・Чбю€ ф Л◉◉€юЛШ₀о ₀ШЪ €・Ч¢ф Ч¢◉◉Шσ・?ШbloodЪ blood ф bloodЖ ЧЛ¢ ¢ю¢ €Ш Ш Ж ₀о ₀ Чбю Ъ ф ◉◉Лю н Î₀₀₀₀Ъ ・Л€юю ф Чбю€◉◉Ш₀о ₀ШЪ ₀о ₀・Ч¢◉◉ф Чю¢ЛШσ・?ШЪ €◉◉Лю ₀о ₀Ъ ЖШ йЛ◉◉ ШЖ€Ш◉◉◉фЧюю¢◉◉Л€Ш◉€ЛйШ₀о ₀ШЪю€Лб・Чю¢◉◉ф ЧЛ¢◉◉Ш¢Шblood ф
「うわぁぁああああああああああああああああッ!?」
突如として頭を抱え苦しみだしたルローラさんに、私はちょっとクラクラする頭を軽く振って、安堵の息を漏らしました。どうやら賭けには勝ったようです。
魔法の呪文の恐ろしいところは、実際に発動しなくても魔力……つまり脳の体力を著しく消耗するという点です。呪文に対する理解が深ければ消耗を抑えることはできますが、少なくとも初見の術式をハッキリと思い浮かべた時点でアウトなのです。
ならばあとは。彼女が私の心を読むことに集中するように思わせぶりな態度を示し、タイミングを見計らってありったけの呪文を思い浮かべればいいだけです。
彼女が相手の心から呪文を読み取れるのかどうかは、正直賭けでした。しかし心を読む能力を使って他人の能力を使用するなら、相手が使用してくる術式を読み取って、それをそっくりそのまま使用するしかありません。ならば私が思い浮かべた術式も読み取れると信じたのです。
しかし危険な賭けではありました。もしも彼女がこれに耐えられたなら、私の魔法を使用して襲いかかってきたかもしれないのですから。まさしくこれは最後の手段だったのです。
「うっ……ぁ……」
ルローラさんの手にしていた錫杖が内側から破裂するように砕け散ると、ふらふらと宙を漂っていた彼女は糸の切れた人形のように脱力して落下を始めます。
私がすぐに「おねーちゃん!」と叫ぶと、ネルヴィアさんは弾かれるように駆け出して、落下してくるルローラさんをしっかりとキャッチしてくれました。
同時に、エルフの里を覆っていたオレンジ色の結界が弾け飛び、周囲を漂っていた銀色の霧も消滅していきます。あの結界を張り直したのは族長さんではなく、ルローラさんだったのですね。そして眠りの霧が晴れたことで、レジィとケイリスくんも目を覚ましました。
ルローラさんをどうにか無力化できたことで、私はようやく人心地つきます。そして緊張が解けたことで、ネルヴィアさんの手に抱かれているルローラさんの現状に意識が向きました。
見れば、ルローラさんの外見は三歳くらいの幼児になっています。
……やはり神霊術を使用するたびに若返っていたのですね。きっと私の心を読んだせいで過剰な負荷がかかり、一気にここまで若返ってしまったのでしょう。服がだぼだぼです。
さて……弱みにつけ込むようで心苦しいですが、エルフに私たちの話を聞いてもらうなら今しかチャンスはありません。
私は上空に浮かび上がっている族長さんと目を合わせると、そのまま頭を深々と下げました。
「ぞくちょうさん、まずはわたしたちをだいひょうして、しゃざいを。このたびは、もうしわけありませんでした」
数拍ほど待ってから再び頭を上げると、族長さんは狐につままれたように目を丸くさせていました。よほど私の行動が意外だったのかもしれません。ちょっと心外です。
「そもそも、ことのほったんは、うちのケイリスくんがとつぜんエルフのさとにきてしまったことです。エルフがにんげんにゆうこうてきではないことをりかいしていたのに、うかつなこうどうでした。もうしわけありません」
そう、エルフたちが商業都市トーレットを襲撃したという事実を知っていたのに、わざわざエルフの里に無策で突入するというのは愚行でしかありません。状況次第ではすぐに殺されていてもおかしくはありませんでしたし、エルフたちの縄張りとルールを犯す行動でした。
私の言葉を聞いたケイリスくんは、自分の三つ編みをギュッと握りしめながら俯いています。
「しかし、わたしたちのはなしをきいてはもらえませんか? そもそもケイリスくんがここをおとずれたのも、どうしてあなたたちがまちをおそったのかをきくためだったんです」
「……大方、人族に都合の良い話を吹き込まれているのではないですか?」
少し険のある口振りながらも、族長さんは手を繋いでいるララさんに指示を出して、上空から降りてきました。どうやら私と話をしてくれるようです。
そして私は周囲をチラリと見渡し、先ほど逃げていったエルフたちが徐々にまた集まってきていることに気がつきました。一応念のためにレジィとケイリスくん、そしてまだルローラさんを抱いたままのネルヴィアさんを手招きして呼び寄せます。
それからつい最近トーレットで耳にした、『エルフ族が突然街を襲ってきた』という旨の話を聞いたと説明すると、それを聞いた周囲のエルフたちがあからさまに殺気立ちました。彼らを代表するかのように、族長さんの隣に控えて黙っていたララさんが、怒りも露わに声を荒げます。
「そ、そんなのデタラメだよ! 悪いのは人間だもん! アイツらが里の子供たちを攫ったから取り返しただけだよ!」
そう訴えるララさんの口から続けて語られた真実に、私は気が遠くなる思いでした。
聞けばどうやら、人間の奴隷商人とやらがエルフの子供を攫おうとしたことが事の発端だったようです。その日、巡回のエルフたちの目を盗んで森へ遊びに行っていたエルフの子供たちが、森に潜んでいた奴隷商人たちに捕まって攫われてしまったのです。
子供たちの悲鳴を聞いて駆け付けたララさんたちが見たのは、エルフの子供を人質にして逃げおおせようとする奴隷商人たち……そこで足の速いエルフが里に戻って族長さんへ報告し、族長さんの指示を受けたルローラさんが奪還したということでした。
しかし捕まえた奴隷商人たちの心を読んで、商業都市にはまだ奴隷商人の仲間がいること、そしてトーレットの役人もグルであることがわかり、今回攫われた子供たちの親族が報復に動いたというのが事件の顛末のようです。尚、奴隷商人は魔族領に捨ててきたとのこと。
「……なるほどね」
私は奴隷商人とやらに対して沸々と怒りを滾らせつつも、思っていたより難儀な状況に焦りを感じていました。
というのも、役人がグルだったということは最低でも街単位、最悪では国家単位で腐敗していることになります。事情を知る私たちがエルフの立場に立って弁護したところで、そんなものに聞く耳は持たれないでしょう。それどころか共和国はそのうち適当な罪状をでっち上げ、都合のいい大義名分を振りかざして、エルフの里に侵攻してくるかもしれません。
せめて族長さんかルローラさんがトーレット襲撃を指揮していたなら、もっとスマートで後腐れのない結末になっていたかもしれませんが……まぁ身内を攫われた親族からしたら、すべて冷静にことを済ませるなんてことはできないでしょう。
「たぶん、そうとおくないうちに、にんげんたちがたくさんおそってきますよ」
「……でしょうね。かといって、この里は先祖代々受け継がれ、そして守り抜かれてきた聖なる土地。簡単に別の地へ移り住むわけにもいかないわ」
さすがに獣人族と同じように住処を移ってもらうわけにもいきませんか。
私がどうしたものかと頭を悩ませていると、そこで私の後ろで申し訳なさそうに控えていたケイリスくんが、遠慮がちに口を開きました。
「……お嬢様。共和国は現在、取り返しのつかないレベルで腐敗しています。五年前から共和国を統べる大統領が替わったことで、様々な悪影響が出ているんだと思います。共和国に奴隷制なんてありませんし、この国で奴隷商人なんて輩は聞いたこともありませんでした」
国家単位の腐敗でしたか……尚更面倒なことになってますね。
私がますます頭を悩ませていると、ネルヴィアさんの腕の中でうなされていたルローラさんが目を覚ましました。脳の負担を軽減させるためか、翠玉の瞳は閉じられています。
「……リルルは……ねぇ、ええっと、勇者ちゃん。リルルはどうなったの……?」
三歳くらいの幼女となってしまったルローラさんが、舌っ足らずな口調でそう訊ねてきました。そういえばさっきリルルについて誤解したままでしたね。
私はルローラさんに対する謝罪の意も込めて、できるだけ詳しくリルルに関する説明をしました。
リルルが入念な準備をして帝国を引っかき回し、勇者である私を陥れようとしたこと。そしてそれが叶わないと悟るや、私を誘拐しようとしたり帝都で無差別テロを実行したりと暴れ回ったあげく、皇帝陛下に襲いかかって異空間に封印された……という一連の事件。
さらには勇者である私に首輪を嵌めて、私たちがこのエルフの里を訪れる間接的な原因を作ったのもリルルです。それがなければ私たちは今頃、帝都で穏やかに暮らしていたはずなのですから。
それらの説明を聞いたルローラさんは、途端に遠い目をしてネルヴィアさんの豊満な胸に顔を埋めると、一言「まじか」とだけ漏らして動かなくなりました。
うん、身内がこんな大事件を引き起こしてたらそうなるよね。リルルがエルフ族である以上、彼女が外で下手なことをすれば、人族とエルフ族の抗争に発展する恐れだってあるのですから。
「───やっぱり『忌み子』だったじゃないか。追い出して正解だったな」
と、そこで私たちの話を少し離れたところで聞いていたエルフの一人が、ぽつりとそんな呟きを漏らしました。その言葉を聞いたほかのエルフたちも、特に大人のエルフたちを中心に「忌み子」という単語を交えてリルルを貶し始めます。
そしてそれらの言葉を受けて、ルローラちゃんは俯きながらビクリと肩を震わせます。私がそれについて説明を求めるように族長さんを見ると、彼女は気まずそうに目を伏せながら教えてくれました。
「私たちエルフは、見ての通り金髪しか生まれることはないわ。父も母も金髪なら、子も金髪で当然。けれど、ごく稀に黒髪を持って生まれてくる子がいるのよ。……決して、不貞の証だとかそういう意味ではないわ。間違いなくエルフ同士の子であったとしても、黒髪として生まれてくるのよ。リルルと、双子の妹であるルルーの両親も、間違いなく純血のエルフだったわ」
「……ルルーさん」
そうでした、リルルはルルーさんの妹だという話でした。ルルーさんがエルフの里を出て帝国にいるということは、つまり彼女もエルフ族であり、この里の出身だったと言うことでしょう。
「リルルとルルーは黒い髪をもって生まれてきた。古来より黒髪のエルフは忌み子として、いずれ一族に災いをもたらすと言い伝えられているのよ」
黒髪……たしかにリルルは黒い髪でしたが、ルルーさんはピンク色……いえ、あの人は自分の体を自在に操れるようでしたし、髪の色を変えるくらい造作もないのかもしれません。
しかし、なんですか忌み子って……たかが髪の色くらいで、そこまで露骨に差別するの?
「その言い伝えによって、あの子たちは腫れ物として扱われていたわ。特に里の年長者たちにね。そしてそんな大人たちの姿を見て子供たちは育つ。……おまけに、ただでさえ不吉とされる『双子』だったというのも、あの子たちの『悪魔の子』としての扱いを決定付けたのよ」
双子を不吉とする風潮は日本でも昔はあったと聞きますが、それも不条理なものです。私というとんでもない存在を受け入れてくれたアルヒー村の人たちは、聖人の集まりだったのですね。
「あの子たちが生まれてすぐに、亡くなった夫の後を追うようにして母親も死んで、ルローラだけはずっと二人を庇い続けていたけれど……そもそもルローラ自身も、その神霊術のせいで周囲から畏怖されていたから……里での扱いが変わることはなかったわ」
「当然だ、族長。現にリルルは里を出た先で災いを撒き散らしているではないか。追い出していなければ今頃、この里はどうなっていたことやら」
エルフたちの中でもそこそこ年嵩の男性が、小馬鹿にしたような口調でそう言い捨てます。
それを聞いたルローラちゃんが、唇を噛みしめながら泣きそうな顔をしているのが見えました。
気がつくと私は、ほとんど無意識に口を開いていました。
「ぎゃくなんじゃないの?」
小さく呟いたつもりの言葉は、思いのほか響いてしまったようです。先ほどの男性に同調して、口々にリルルを罵っていたエルフたちの声が静まり、私に視線が集まりました。
それでも私は口をつく言葉を止めることはできません。
「『いみご』だとかなんとかいって、みんなでおいつめたから、リルルはそうなっちゃったんじゃないんですか?」
髪が黒かったから、双子として生まれたから、ただそれだけの、リルルやルルーさんには何一つとして落ち度のないことをあげつらって、物心さえついていない頃からずっと差別され続けていたのなら。この閉鎖的な社会の中で全員から理不尽に白眼視され続けたのなら。そりゃあ里の外に自分たちの未来を求めるのも頷けます。人間不信にもなりますし、捨て鉢にもなるでしょう。
「わたしは、リルルがきらいです。かのじょは、まぎれもないあくにんでしたから」
悪人。どんな事情があったとしても、それで無関係な帝国の平和を脅かすのは擁護できません。
「だけど、うまれたしゅんかんから、あくにんだったとはおもいません。ましてや、かみがくろかったとか、ふたごだったとか、それがげんいんだったともおもいません」
同じ境遇だったはずのルルーさんが真っ当に生きている以上、すべてを生まれや育ちのせいにすることはできません。リルルは生来、攻撃的な性質を備えていたのでしょう。
しかしそれでも……愛情をたくさん注がれながら穏やかに生まれ育ったのなら、もしかしたら違った未来もあったのではないかと思うのです。
今この状況で、エルフたちの差別行為を糾弾するのは得策ではないでしょう。せっかく落ち着いて話ができる段階までこぎ着けたのに、また振り出しに戻ってしまうかもしれません。
それでも私は、お世話になったルルーさんが抱えているであろう心の傷を思うと、この行き場のない怒りや悲しみ、やるせなさを持て余してしまいます。そして、いまだに私を面白くなさそうな目で見てくる年長者のエルフたちに、どうにかしてリルルやルルーさんがどれほどの苦悩や悲しみを抱えていたかを、ほんの少しでもわからせてやりたいと、心から願いました。
「……ありがとう、勇者さま。もういいよ」
しかしそんな私の企みに待ったをかけたのは、他ならぬルローラさんでした。彼女はネルヴィアさんに抱かれながら、なんだか今にも泣きそうな顔で、儚げな笑みを浮かべています。
「結局、私はママに託されたあの子たちを守ってあげることができなかった。せめてあの子たちが里の外へ自由を求めたのなら、それを邪魔しないことがアタシにしてあげられる唯一のことだと思ってた。……だけど、それすらも間違っていたんだね」
震える声でそう漏らしたルローラさんは、ちっちゃな両手で顔を覆い、ネルヴィアさんの腕の中で嗚咽を漏らしながらうずくまってしまいます。
重苦しい沈黙を破ったのは、感情が抜け落ちたような表情を浮かべる族長さんでした。
「……森を抜けるにも、今日はもう遅いわ。それにまだいくつか聞かなければいけないこともある。座敷牢は壊れてしまったし、今夜はルローラの家に泊まっていきなさい」
余所者を里に泊めることに関して、族長さんは他のエルフたちに有無を言わせず決定しました。
そして私もルローラさんとはもう少し話したいと思っていたので、その申し出に従ったのでした。
***
ルローラさんの住んでいるという家は。里の奥の方にそびえる大樹の根元にありました。
家の中で目立つのは、ウォークインクローゼットのようになっている大きな衣装部屋と、キングサイズのベッド、そして少女趣味なたくさんのぬいぐるみでしょうか。
三歳児の身体にフィットする可愛らしいワンピースに着替えたルローラさんは、ベッドの上で目元を腫らしながら枕を抱きしめています。そのため私たちは大きなベッドの縁に腰掛けました。
「ねぇ、ルローラさんが───」
「ルローラでいいよ。余所余所しくしないで」
「えっと、じゃあ、ルローラちゃんがどんどんわかくなっていくのって、もしかして……」
「お察しの通り、リルルの呪いだよ。あの子、アタシが連れ戻しに行けないように、里を出るときに呪いをかけていったんだよ」
ルローラちゃん曰く、リルルによってかけられた呪いは二つ。一つは魔力を消費するたびに若返っていくというもの。そしてもう一つは、眠っている間だけ急速に歳を取るというものだそうです。
具体的には、三日寝れば一歳くらい歳を取るとのこと。また、心を読むくらいではそこまで急激に若返ったりはしないものの、他人の能力まで使う場合は消耗が激しいようです。
この呪いのせいで、能力を使って変装したり潜伏したりといったことができず、さらには仲間がいない状態で若返りすぎれば無力となってしまうため、迂闊に戦うこともできません。
ルローラちゃんは妹たちをこの里に連れ戻すつもりはないものの、せめて安否くらいは確認したいとずっと考えていたようですが、呪いのせいでそれも叶わなかったみたいです。
私は彼女を安心させてあげようと、ルルーさんの現状についても教えてあげることにしました。
「ルルーさんも、げんきにしていましたよ」
「ルルー!? あの子のことも知ってるの!?」
私がルルーさんの現状……すなわち、ヴェリシオン帝国で魔導師様として活躍しており、多くの人に尊敬され頼りにされていることを伝えると、ルローラちゃんは心底安心したように項垂れました。片割れであるリルルがはっちゃけすぎていたため、不安だったのでしょう。
嬉しそうなルローラちゃんを見て、私も嬉しい気持ちになっていると……不意に真剣な表情を浮かべたルローラちゃんがベッドの上をにじり寄ってきて、そのちっちゃくなってしまった身体で私の目の前までやって来ました。
そして、深々と頭を下げてきます。
「ありがとう、勇者さま」
意図の読めない突然の謝礼に、私はポカンとしてしまいました。
「さっき、リルルを庇うようなことを言ってくれたでしょ? あの場でリルルに味方するような発言をするのは、アンタにとっても危険なことだったよね。それでもあの子たちの境遇に怒りを訴えて、ハッキリと里の奴らに物申してくれたのが、嬉しかったんだ。だから、ありがとう」
ルローラちゃんの蒼玉の瞳と翠玉の瞳が、まっすぐに私を見つめています。そこには確かな親愛の気持ちが溢れていて、まっすぐな感謝が込められていて、私は落ち着かない気分で「う、うん」と情けない返事を辛うじて返しました。
「当然です、何せセフィ様ですから! 私もセフィ様に拾って頂いたのです!」
「オレ様たち獣人族もな。へへん!」
なぜか自分のことのように得意げになっている二人に、私は苦笑してしまいます。そして二人の心を見通したのか、ルローラちゃんは「へぇ、これはまた……」と感心したように呟きました。
それからベッドに腰掛ける私たちの後ろで、所在なさげに立っているケイリスくんへと視線を向けたルローラちゃんは、ちょっと驚いたように目を見開いてから、意味ありげに微笑みました。
「面白いね、アンタたちは。それに温かい。心から愛し合って、尊重し合ってる。こんなに綺麗な心って、そうそう見つからないんだよ?」
心が読めるルローラちゃんのお墨付きを得て、ネルヴィアさんとレジィがすごく嬉しそうな顔をしてます。かくいう私も嬉しくなって、にまにましちゃいましたけど。うふふ。
嬉しそうな私を見つめたルローラちゃんは、それから少し緊張した面持ちで口を開きます。
「だからさ、その、アタシも……」
「うん、いいよ。いっしょにいこう?」
ルローラちゃんの言葉を先回りして了承してあげると、彼女は呆気に取られたように固まってしまいました。ネルヴィアさんとレジィを見ると、二人とも「しょうがないな」みたいな顔で笑っています。この流れがわかっていたのでしょうか。
「い、いいの? アタシは、アンタを陥れたリルルの姉なんだけど……」
「それをいうなら、おせわになったルルーさんのおねえちゃんでもあるよ。べつにわたしはこころがよめるわけじゃないけど、ルローラちゃんがわるいひとじゃないのはわかるしね。リルルとルルーさんがしんぱいなのと、リルルがわたしにはめた、くびわのつみほろぼしなんでしょ?」
責任意識の強いらしいルローラちゃんが考えそうなことを指摘してみると、彼女は案の定ギョッとしたように目を見開いてのけぞりました。心を見透かされるのは珍しい経験なのでしょうか。
「でも、ルローラちゃんこそいいの? かってにここをでていったら、まずいんじゃない?」
「ん、大丈夫だよ。また馬鹿な人間たちがエルフ族を狙わないようにするために、共和国の腐敗を正してくるとでも言えば、利害も一致するし何も言ってこないよ。それに……妹たちが里を抜けてからは、アタシもあの子たちと同じような扱いを受けてるしね」
そんな、なんてことを……酷すぎる!
「なにせ、あの子たちが里を出ていった直後、腹いせに里の全員の恥ずかしい秘密を片っ端から暴露してやったからね! ふへへっ、ざまみろ!」
なんてことをっ!? 酷すぎる!?
そういえばさっき族長さんも、ルローラちゃんの能力を里のエルフたちが恐れて敬遠してるみたいなこと言ってましたね……。
よし、それだったら気兼ねなく、ルローラちゃんを連れ去ってしまいましょう!
私がそんな決心をしていると、ルローラちゃんが家の玄関を振り返って笑みを浮かべました。
「ね、アタシも里を出ていいでしょ、族長?」
そんな彼女の呼びかけに、玄関扉がゆっくりと開いて、その向こうから族長さんが現れました。
「……はぁ。わかったわ。里の皆には私から上手く言っておくから、好きになさい」
随分とあっさり許可が下りたことで、私は少し拍子抜けしてしまいました。すると族長さんは家の中に踏み込んできて、大きなベッドに腰掛ける私たちの前で立ち止まります。
「ルローラ、貴女は姉として本当に上手くやっていたわ。あと少し時間があれば、あの二人の迫害を止められたかもしれないほどに。……託されたものを守れなかったのは、私よ。貴女が気に病むことなど、ありはしないわ」
そう告げる族長さんは、先ほど見た感情の抜け落ちたように虚ろな表情を浮かべています。
そしてそんな族長さんに、ルローラちゃんはどこか悲しげな瞳を向けていました。
「族長こそ、もう苦しまなくていいんだよ。ママとの約束に縛られないで」
ルローラちゃんが優しい声音でかけた言葉に、族長さんはその端整な眉を歪めて、唇を噛みます。それから私たちへと向き直ると、彼女は長い髪が床につくほど深々と頭を下げました。
「……この子のことを、それから、あの子たちのことを、どうかお願い」
「わかりました。あとはわたしたちにまかせてください」
空気を読んだ私が笑顔で答えると、族長さんは儚げな笑みを浮かべてもう一度頭を下げた後、おぼつかない足取りで去って行きます。
族長さんが玄関から出て行ってから少しして、ルローラちゃんが小さく溜息をつきました。
「アタシたちのママは、族長の親友だったんだよ。あの人も族長という立場のせいで大っぴらにアタシたちのことを庇えなかったけど、それでもあの人なりに裏で手を尽くしてくれてたんだ」
なるほど……しかし結局託された二人は里を抜けて、ルローラちゃんも孤立してしまったと。
「とにかくアンタたちも、今日はゆっくり休んでね。ここしばらくは馬車での移動ばっかりで、ベッドで寝ることもなかったんでしょ?」
当たり前のように心を読んで、こちらの事情を知り尽くしているルローラちゃん。なるほど、普段の生活の中で心を読んでくる相手というのは、その相手を信頼していないと気疲れしそうですね。エルフの里の住人たちが怯える気持ちも、まぁわからないでもないです。
でもルローラちゃんは悪い子ではなさそうですし、無闇に他人の触れられたくない過去に踏み込んだり、悪意をもって秘密を言いふらしたりはしないでしょう。……里のエルフたちへの報復については例外として。
もし私たちにそんなことをするようなら、叱ってオシオキすればいいだけです。だから、特に気にする必要はないでしょう。
私がそんな結論を出したところで、なぜかルローラちゃんが驚いたように私を見つめていました。
「うん? どうしたの?」
「い、いや……心を読まれるのって、もっとこう……いや、ごめん。なんでもない」
なにか言いかけたルローラちゃんでしたが、最後まで言い切ることなく口を噤んでしまいます。そして泣き笑いのような表情を浮かべると、そのちっちゃな体で私をギュッと抱きしめてきました。
「……アタシを怖がらないなんて、これは大物になるね。さすがは勇者さまだ」
そう囁いたルローラちゃんに、私の傍にいたネルヴィアさんとレジィが、当然だと言わんばかりに得意げな顔をしていました。
***
深夜に始まった今回の騒動が幕を下ろしてから、私たちはルローラちゃんのお家で身体を休めていました。いろいろあったせいでかなり疲れていた私たちは、ルローラちゃんの大きなベッドにお邪魔しています。特にさっきまでの戦いで動き回っていた三人は、泥のように眠っていました。
室内を薄ぼんやりと照らしているのは、オレンジ色の淡い光を放つ苔を詰めた籠です。まだ夜明けまで少し時間がある室内はまだまだ暗く、遠目ではシルエットでしか人を区別できないでしょう。
しかし私はそんなことなど関係なく、音も立てずにベッドから降りて出口へと向かう人影にすかさず声をかけました。
「どこいくの、ケイリスくん」
みんなを起こさないように私が発した小さな声に、ケイリスくんはビクリと大げさなくらい肩を震わせて振り返ります。
「お、お嬢様……すみません、起こしちゃいましたか?」
「ううん、ねてなかっただけ。まただれかさんが、どっかにいかないようにね」
私がちょっと棘のある言葉をかけると、ケイリスくんは「あぅ……」と気まずそうに俯いて、自身の三つ編みをギュッと握りしめました。その様子はさながら叱られた子犬のようです。
「ケイリスくん、ねむれないの?」
「……はい」
「そう。こっちにおいで?」
私が努めて優しい声音で誘うと、ケイリスくんはわずかな逡巡の後に歩み寄ってきました。
それからネルヴィアさんとレジィに左右から挟まれている私は、ケイリスくんに向かって腕を伸ばし、抱っこを催促します。そうして彼の腕の中に収まってから、私は彼の顔を間近からジッと見上げました。
「ケイリスくん。共和国にくるのははじめてだって、いってたよね?」
「……は、はい」
「じゃあ、商業都市もはじめてなわけだ。そんなまちのために、わたしたちをほっぽりだして、あぶないエルフのさとまでくるなんて……ふつうじゃないよね?」
「そ……れは……」
明らかに目が泳いているケイリスくんが、せわしなく三つ編みをいじります。わかりやすい。
「べつにね、かくしごとをするのはいいんだよ? まだ、であってそんなにたってないし、わたしをしんようできないっていうのも、しょうがないことだとおもうしね」
「い、いえっ! そんなことは……!」
慌てたためか少し声が大きくなったケイリスくんの唇に、私は「しー」と指を当てて諫めます。顔を赤く染めてコクコクと頷く彼の様子に、私はにこりと微笑みました。
「でも、おねがい。ひとりでどっかにいっちゃうのはやめて。あぶないことはしないで。……ケイリスくんがいなくなったらしんぱいするし、きずついたらすごくかなしいよ」
ケイリスくんの目が、ゆっくりと見開かれます。まるで、信じられないものでも見たかのように。
「ケイリスくんのきもちもしらずに、トーレットをたすけたいっていうおねがいをききいれなくて、ごめんなさい。こんどからはそんなことしないから、しっかりはなしあおう?」
私は謝りながら頭を下げると、それから彼の瞳を真摯にまっすぐ見つめて、
「わたしはケイリスくんのことも、たいせつなかぞくだとおもってるんだよ? だからなにがあってもまもるし、ちからになってあげたいの」
私がそう言うと、ケイリスくんはしばらくポカンと口を開けていました。
そして彼は自分の三つ編みを撫でていた手をギュッと握りしめると、瞳に涙を浮かばせます。
えっ、何!? なんで!?
狼狽える私に構わず、ケイリスくんはぐすぐすと涙を零し始めてしまいました。
「ごめっ、ごめん、なさいっ……! ひっく……お嬢様……!」
「あ、あの、こっちこそごめんね!? なにか、へんなこといっちゃった? な、なかないで……?」
私は泣き出してしまったケイリスくんの頭に手を伸ばして抱き寄せると、できるだけ優しく彼を撫でてあげます。しばらくそうしていると、やがてケイリスくんは私を抱き返してきました。
「……ボクの秘密は、いつか必ず……そう遠くないうちに、必ず説明します……。だから……」
「うん、うん。いいんだよ。はなしたくなるまで、はなさなくっていいからね。だから、もうあぶないことはしないで? もっとわたしをたよってね」
「……はいっ……!」
それからしばらく、私はケイリスくんが落ち着くまで、彼に身を寄せて慰め続けました。
ケイリスくんも少しは休んだ方がいいと思い、私は彼に少しでもいいから眠るように言って聞かせます。すると間近にあるケイリスくんの伏せられた瞳から、涙が一筋だけ零れました。
「……お嬢様が、ボクの本当の家族だったらよかったのに」
その言葉を聞いた私は、彼の家庭環境に何やら不穏なものを感じました。ケイリスくんの突拍子もない行動の原因はそこにあるのかもしれないと思い、私はフォローの言葉を探します。
そうだ、ケイリスくんは親の愛情に飢えているのでは? それなら私は大人ですから、母親のように愛情を注ぐことができるかもしれませんよ! それに仮にも貴族です。ケイリスくんが望むのなら、養子にしてあげることだってできます!
「だったら、これからほんとのかぞくになってみる?」
私が顔を寄せながらそう訊ねると、ケイリスくんは数秒ほど固まってから、ぼんっ! と顔を真っ赤にして、黙りこんでしまいました。
えっ、な、何? どういう反応なのそれは?
それからしばらくの間、ケイリスくんは私と顔を合わせてくれなくなってしまったのでした。
***
夜が明けたエルフの里に、朝の日差しが差し込んできます。ネルヴィアさんとレジィ、そしてルローラちゃんは、なかなか目を覚ましませんでした。よほど疲れていたのでしょう。
結局私が三人を無理矢理起こして、エルフの里を後にしました。
里の最高戦力であるルローラちゃんがいなくなることについて、里のエルフたちは不安半分、安心半分といった様子です。それでも族長さんが上手く言い含めてくれたのか、大した騒ぎにはなりませんでしたが。
ちなみにケイリスくんがエルフの里まで乗ってきた馬と、私たちが追いかけてくるのに乗ってきた馬は、エルフたちに保護してもらっていました。帰りもその馬たちに乗ったわけですが、もちろん動物から異様に恐れられる私は、帰りもレジィに運んでもらいます。
そうしてエルフの里を出た私たちはトーレットへ向かうと、まずは奴隷商人に関する情報を集めました。どうやらエルフたちの襲撃で怪我をした人たちの一部は、その日のうちに荷物をまとめて逃げるように街を出て行ったようです。おそらく襲われる心当たりのあった人たちでしょう。
襲撃の後で唯一街に残っていた奴隷商人の関係者は、彼らとグルだったという役人さんでした。普通に話を聞こうとしたら情報は引き出せなかったでしょうが、心を読めるルローラちゃんがちょっと鎌をかけたら、一発で証拠を掴むことができました。ほんとチートですね、この能力。
とにかく直近でエルフの里を再び襲撃するような計画はないことがわかったので、こいつは捨て置くことにしました。こんな使い捨ての末端を潰したところで意味はないでしょう。
トーレットを出る前に、お話し好きなおばちゃんたちにエルフ襲来の真実を吹き込むことも忘れません。今まで不干渉を貫いてきたエルフたちが理由もなくいきなり襲ってきた、などという話よりは、よほど説得力があるでしょう。あとは放っておけば、彼女たちが噂を広めてくれるはずです。
……それとついでに、ルローラちゃんが悪い役人さんの恥ずかしい秘密も広めてました。
***
そして現在。
馬車を回収した私たちは一路、次なる街を目指して旅を再開しています。
次の街までは結構かかるらしく、ケイリスくんの見立てでは一週間くらいとのこと。
今のところ特に事件らしい事件が起きることもなく、私を見ては勝手に逃げ去って行く野獣たちを眺めながら順調に旅路を進んでいます。
順調なのは結構なのですが……。
「なーんで、わたしってどうぶつにきらわれるんだろう?」
熊とか狼なら近づいてこないのは便利ですが、犬や馬にまで恐れられるのは面白くありません。特に私たちの馬車を牽いてくれている馬が可哀想でなりません。ケイリスくんが言うには、馬たちは疲れるのがやけに早かったり、抜け毛が酷かったりするそうです。ストレスかな?
私がブーたれながら投げかけた問いに答えたのは、私を抱っこしてくれているレジィでした。
「だってご主人はほら、『死の匂い』がするからな」
「は?」
なんか凄いことを言い出したレジィに、私は驚いて彼の顔を見上げました。
詳しく訊いてみると、どうやらレジィが言うには、強力な魔族というのは特有の匂いを纏っているらしく、動物たちは生存本能に従って逃げてしまうのだそうです。
いや私、魔族じゃないけど? 人間ですけど?
「勇者さま、魔力をたくさん浴びたモノは、性質が変化するからね。強大な魔力を持つ生き物は絶えず魔力を発してるから、その放出された魔力が周囲の空気の匂いを変えちゃうんだよ」
困惑する私にそう告げたのは、対面の座席に寝っ転がるルローラちゃんでした。三歳くらいの外見であるルローラちゃんは、幼児用のちっちゃな白ロリドレスを着ています。皺になるよ?
彼女は現在、里から持ってきた綺麗な眼帯で右目を覆っていました。これは彼女と一緒の時間を過ごす私たちを気遣って、心を読む瞳を封じてくれているという理由の他に、魔力の節約と、そして何より私の心を覗いてしまわないようにという意味もあります。……私が術式を思い浮かべているタイミングでうっかり心を覗いてしまったら、大変なことになるかもしれません。
「臆病な動物ほど、魔力を嗅ぎ分ける感覚が鋭敏なんだけどね。勇者さまほどの魔力だと、意識せずに漏れ出してる魔力だけで、猛獣すら近づけなくなってるんだと思うよ~」
そう言いながらルローラちゃんは、ネルヴィアさんの太ももに頭を乗せて寛いでいます。そんなルローラちゃんを、ネルヴィアさんはニコニコしながら撫でてあげてました。
「じゃあ、その『まりょく』っていうのを、おさえればいいの?」
「そうだけど、基本的に魔力量が多いほど制御が難しいらしいよ? うちのルルーも規格外の魔力量だったけど、制御にかなり苦労してたし」
むむ……魔導師のルルーさんでもそうなんだ。じゃあ私も一朝一夕で会得は難しそうですね。
「ルルーが言うには、慣れないうちは瞑想とかして心を穏やかにすれば魔力は抑えられるらしいよ。逆に、怒ったり興奮したりすると魔力を放出できるみたい。前者は敵へ不意打ちする時とかに、後者は雑魚を追い払う時とかに使える感じかな」
「へぇ~。どっちもやったことないなぁ」
私がそう言うと、ネルヴィアさんとレジィがすごい驚いたような顔で私を見ました。
「いやいやいや、ご主人! 殺気を叩き付けるのはよくやってるじゃんか!」
「以前、殺気だけで伯爵を追い払ったり、御前試合で観客を黙らせたりしていましたよね?」
二人の物言いに、なぜかルローラちゃんは軽く引いたように表情を引きつらせます。
「ええ~……野生動物とか魔族が相手ならともかく、戦えない一般人でさえ感じ取れて、しかも恐怖を感じるレベルの魔力ってヤバくない?」
……私が怒ったときにみんなが怯えるのって、それが原因だったの?
んん!? つまり『魔力=殺気』だとすると、私って常に殺気垂れ流しベイビーってこと!? ヤバい奴じゃないですか! こうしちゃいられません、ただちに魔力を抑えなければ!!
「むむむっ……」
心を無に……心を穏やかに……。雑念を捨てて涅槃へと至る……。
………………。
…………。
……。
「どう? おさえられてる?」
私がそう訊ねると、三人はなんだか気まずそうに視線を交わして、何やら頷き合って、それからとても優しい笑顔を浮かべました。
「とても抑えられていました! セフィ様、素晴らしいです!」
三人を代表してか、ネルヴィアさんがそう言って私を褒めてくれました。
うん、全く抑えられてなかったんだね?
私が唇を尖らせていると、慌てだしたネルヴィアさんの膝の上で、ルローラちゃんが苦笑を浮かべます。
「えーっと、ルルーは放出と抑制を交互に練習して、ちょっとずつ感覚を掴んでたみたいだよ?」
ふむ……なるほど。そういえば筋肉を弛緩させ脱力するためには、逆に思いっきり力んで緊張させてからが良いと聞いたことがあります。それと似たようなものでしょうか。
私は試しに魔力の放出とやらをやってみることにしました。えーっと、たしか怒ればいいんだよね? じゃあ過去に私が怒ったエピソードを思い返してみましょう。
真っ先に思い浮かんだのは、うちの村を襲撃してきた盗賊たちとの一件です。苦痛に喘ぐお兄ちゃんと、血に塗れたお母さんの姿を思い返した時、カッと頭に血が上るのを感じます。
そして次の瞬間───私の白金の髪が、ふわりと浮かび上がりました。
続いて馬車の壁が〝ミシミシッ!!〟と不穏な音を立て、天井から下がった照明器具が甲高い音を響かせて爆散します。さらには馬車の前方から馬の悲鳴や暴れるような物音が聞こえてきて、御者であるケイリスくんの「どうどう! 大丈夫だ、落ち着け! どうどう!」という叫び声も耳に届きました。
窓から外を見ると、青空を覆い尽くすほどの鳥の群れが一斉に飛び立ち、彼方へと消えていきました。地上では動物たちが遠ざかる足音が地鳴りのように響いています。
「えっと……ごめん……?」
目を見開き、首筋に鳥肌が立っているネルヴィアさんたちに、私は虚ろな目で力なく謝罪をするのでした。
***
それから三日後。私たちは現在、休憩がてらにお昼ご飯と洒落込んでいました。
こうやってちょくちょく休憩しないと、馬車を牽いてくれる馬たちに疲労やストレスが蓄積して長旅ができなくなるのだとか。
私にはそういった詳しいことはわかりませんが、ケイリスくんが言うのだからそうなのでしょう。
そうそう、ケイリスくんと言えば、あのエルフの里の一件以来、彼は私を避けるようにして視線を……いえ、視線どころか顔も向けてくれないのです。
やっぱり、複雑な家庭の事情がありそうなのに、家族になろうだなんて冗談めかして言ったのがいけなかったのでしょうか……。
馬車の中から御者席をチラッと覗くと、ケイリスくんは一人で食事していました。
……まだ怒ってるのかなぁ。
私は恐る恐る席を立つと、馬車の横をちょこちょこ歩いて、御者席に座っているケイリスくんの足元へと移動します。
私が下からジーッと視線を注いでいるのに気が付いたケイリスくんはギョッとしたように目を剥いて、それから頬っぺたをちょっとだけ赤くして、ゆっくりと目を逸らしました。
それでも私が根気強く見つめていると、やがて根負けしたケイリスくんは御者席から降りてきて、私を抱き上げてくれました。よし、勝った。
それから私を抱えたまま再び御者席へと戻ったケイリスくんに、私は後ろめたさから俯きがちになって、
「あの……ケイリスくん……まだ、おこってる……?」
私の問いに、ケイリスくんは「え」と小さく漏らして、動かなくなりました。
「エルフのさとから、ずっとおこってるよね? あのとき、エルフのさとをでるまえに、わたしがへんなことをいっちゃったから……」
「いえ、そんな……怒ってなんか、ないですよ」
嘘だぁ。怒ってる人はみんなそう言うんです。
「もうヘンなこといわないから、ゆるして……? なんでもいうこときくから……」
「あの、だから怒っては…………あっ」
困惑の表情を浮かべていたケイリスくんは、突然何かを閃いたかのように声を上げると、
「それじゃあ、一つだけお願いを聞いてもらっても良いですか?」
「……! うん、いいよ!」
お願いを提案するという事は、そのお願いを聞いてあげれば、今までみたいに私と顔を合わせてくれるという事です。
私が嬉々として頷くと、ケイリスくんはちょっぴり照れくさそうにしながら、その〝お願い〟を口にしました。
***
数分後。
「ねぇケイリスくん。ほんとにこんなことでいいの?」
「はい。ボクにとっては、大事なことなんです」
うーん、まぁケイリスくんが良いなら、良いんですけど。
ケイリスくんは、自分が編み込んだ私の髪を撫でながら、うっとりと目を細めていました。
現在私の白金色の髪は、ケイリスくんによって三つ編みに結われていました。まるで高級な調度品でも取り扱うかのような手つきで編まれた髪は、それはそれは見事なお手前。さすがは執事です。まだそんなに長くはない髪を無理やり編んでいるので、幼さが強調されている気はしますが。
それにしても、ケイリスくんは三つ編みが好きなのでしょうか? ときどき自分の三つ編みを撫でているところを見かけたりもしますし。
まぁ、これくらいでケイリスくんが機嫌を直してくれるのなら安いものです。ほらほら、好きなだけ編むがいいさ。撫でるがいいさ。
なーんてことをやっていると、馬車の中からネルヴィアさんとレジィがこちらを覗いていました。
どうやらケイリスくんのお膝に乗っけられている私の髪を見ているらしく、二人はしばらく黙りこんでから、唐突に口を開きました。
「私は、セフィ様にはツインテールがお似合いだと思います!」
「オレは何もしてないのもイイとおもうぞご主人! しいて言うなら、戦ってる時に風になびいてるのが一番好きだ!」
いや、うん……ごめん、別に聞いてはいないんだけどね?
でもせっかくみんなが申告してくれたので、これからは時々髪型を変えてみたりしよっかなぁ。
私個人としては、本当は髪切りたいっていうのが本音なんですけど。しかしうちのお母さんは髪が長いほうが好きということなので、プチ親孝行としてずっと伸ばしているのです。
そういえば前世でもわりと髪は長かった方ですが、当然ながら誰も私のことなんて見てはいませんでした。それを思えば、たかが髪型一つでうちの大切な子たちが喜んでくれるのなら、是非もありません。やってやろうではありませんか!
休憩を終えて私が馬車の座席に戻ると、年齢を回復させるためにずっと寝ていたはずのルローラちゃんと目が合いました。彼女は、やや呆れたような目を私たちへ順番に向けながら、
「……今は赤ん坊だからまだ良いけど、あと十年もしたら壮絶な争いが起きそうだね」
ええっと……? それってどういう意味なのでしょうか?
意味深な言葉を残して再び眠ってしまったルローラちゃんに、私は首を傾げるのでした。
***
さらにそれから二日が経ちました。
ゴトゴトと揺れる馬車の中、寝ているレジィの頭を撫でていた私が、ボーっと窓の外を眺めていると……突然、ネルヴィアさんが「ひゃっ!?」と悲鳴を発しました。
何事かと思って見てみると、どうやら彼女の膝を枕にして寝ていたルローラちゃんが、いきなりネルヴィアさんの豊満な胸を鷲掴みにしたようです。え、なにやってるの?
あわあわと顔を赤くしているネルヴィアさんに、ルローラちゃんはジトーっと不満げな視線を向けています。そんな目つきの悪い表情をしていると、ルルーさんそっくりです。さすが姉妹。