Tips2 中央政府の動揺


「……それは真であるか」

「ハッ! バーレンス辺境領にて辺境伯のしょがクーデターを起こし家督を継いだとの事です!」

 担当官が読み上げたその報告により俄かに議会は騒がしくなる……王太子である私も動揺を隠せないのだから仕方がない部分があるが……。バーレンス辺境領、それは『エルマーニュ王国・西部辺境地』における要所であり、南西の帝国に対する盾でもある。

「バーレンス辺境伯に庶子など居なかったはずでは?」

「そもそもあそこには辺境勇士アレクセイが居たはずであろう、虚偽の報告はよせ」

 そこでクーデターが起きた事など、この場に居る高位貴族は誰も信じず鼻で笑う。それもそのはずで、辺境伯にはアレクセイという長子が居る。中央神殿にも覚えめでたく、学生の頃からベテランの近衛兵を打ち負かす事もあり、辺境騎士団長になった頃より南西の帝国に対する抑止力として働くほどの傑物で、その武勇は国内外に広く知れ渡っているほど……そして私の学友でもある。ぽっと出の庶子に彼をどうにか出来るなど信じられるはずもなかった。

「……それが、アレクセイ辺境騎士団長はクーデターの際に討ち取られたとの事です」

「馬鹿な!?

「それこそありえんわ!」

「貴様、自分がなにを言っているのか理解しているのか?」

 …………伝令のさらなる報告に我が耳を疑う。アレクセイが討ち取られた? 馬鹿な……国内でも有数の傑物を破る人材をその庶子は雇ったとでもいうのか?

「証拠はあるのかね?」

「ないのであれば、到底信じる事は出来ん」

 貴族達の言う事はもっともであろう。陛下……父上でさえ眉をひそめ、信じきれてはいないようだ。

「…………これを」

 伝令が一緒に持ってきた厳重に梱包されていた木箱からなにかを取り出す──

「「……っ!?」」

 ──取り出された物を見て息を呑む……それは、アレクセイの首だった…………まさか、そんな……本当だったとは。……わずかに残ったけいにはハッキリと貫かれた痕跡があり、口からは血を流した跡が残っていた。…………満足そうな顔なのが唯一の救いか。

「……どうするのだ?」

「そんな事を聞かれても困る」

「本当に庶子がなしたのか?」

 少し時間を置いて貴族達はボソボソと小声で話し合う。その内容を盗み聞く限り動揺や不安の色が濃い。

「今は庶子の事などどうでもいい!! それよりも南西の帝国に対する抑止力がいきなりなくなった事の方が問題だ!!

「そ、そうですぞ! いつ帝国が攻めてくるか……」

「いや、そもそもアレクセイ殿は帝国の陰謀によって殺されたのでは?」

「確かに……ぽっと出の庶子に倒されたというよりも説得力がある」

 確かにその通りだ。伝令の追加報告によるとアレクセイの遺体は複数の劇毒でめちゃくちゃであったらしい……その庶子に帝国の支援はもちろんのこと、工作活動の助力や実力者の派遣などもあったに違いない。

「そこらへんの事実はまだわかりませんが、これにより辺境領で予定していた、陛下も招いての武道大会は中止するとの事です」

「……ふむ、仕方あるまい」

 ……久しぶりにアレクセイと語らうことが出来ると、楽しみにしていたのだがな。

「陛下、ここにきてその庶子とやらも本当に辺境伯の子か怪しいですぞ」

「その通りですな。かの御仁は誠実で実直。決して将来のこんになるような女遊びをするような方ではありますまい」

「おそらく帝国側が用意した傀儡でしょう」

 そうなると非常に不味い。辺境領から王都まで有力な領地を持つ貴族はおらず、それどころか『ベルゼンストック市』とを繋ぐ内海にまで進出され、海峡封鎖されると物資の補充などが滞る。

「後継者争いの結果などと……信じられるはずもありますまい!」

「ここは直ちに辺境派遣軍を編成すべきですぞ!」

「辺境伯にはまだ娘が居たはず、婿を取らせればまだ間に合います!」

「その庶子に嫁がされる前に急ぐべきです!」

 確かに今ならばまだ間に合う。軍を派遣して状況などを精査し、証拠を固めてその庶子を王命ではいちゃくする事が出来れば、バーレンス辺境領はまだ生き永らえる事が出来る。

「…………父上、ここは辺境派遣軍を編成すべきと私も考えます」

「……」

 この会議での初めての私の発言に、父上だけでなくその他の貴族達も黙り込んでしまう。

「仮にその庶子が辺境伯の実子であっても、帝国が関与している可能性は高いでしょう。ならばこそ軍を派遣し、アレクセイの代わりの抑止力としても機能させるべきです!」

「…………」

 貴族達が私の考えと、それを踏まえての父上の判断を聞こうとかたを呑んで見守っている視線を感じる。

「……直ちに辺境派遣軍を編成し、事の詳しい経緯の調査と帝国に対する牽制を行う。規模は連隊三千人、総司令官は…………グィーラン、王太子でもあり、アレクセイと親交のあった貴様が務めよ」

「っ!! ……ハッ! つつしんではいめい致します!」

 なるほど、アレクセイと学友であった私ならば辺境伯も口が軽くなるかも知れないし、その庶子も表面上は王太子である私を、少なくとも今はまだ無碍には出来ないだろう……そして父上はこれを私のういじんとするつもりのようだ。

「人員の選抜は……右将軍、其方に任せる」

「かしこまりました」

「それでは議会の解散を宣言する!」

 父上のその言葉を最後に皆部屋を後にする。私もこれから準備をしなければならない……アレクセイ、お前の仇はこの私が……もし、とれなくとも尻尾を掴み、事実を白日の下に晒してやるからな……。

「……」

 決意を新たに、私は急ぎ自室へと戻った。