「それよりも早く先に進みますよ?」
「あっ、待ってください! こんな奥で置いていかれたら死んでしまいます! ちなみに僕の名前はユウです! 言ってませんでしたよね?」
「そうですか、行きますよ」
慌てて後をついてくる彼を伴い先に進む事にします。
▼▼▼▼▼▼▼
「……はぁ?」
思わず溜め息を洩らしてしまう……その原因である彼女は、たった今襲ってきたサハギン三体の首を落として秒殺したところだ……本当にどんなPSしてるんだろこの人……。
「? 大丈夫ですか?」
「え、えぇ大丈夫です。気にしないでください」
三日前に曲がり角で遭遇してしまったのが運の尽きだった……同じ検証班のフレンドがリアルの急用で来れなくなったのだから、素直に一人で来るのをやめておけばよかったと、後悔しても後の祭りですよね。
「そうですか、なにかあったら遠慮なく言ってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
まぁ、しかしながらこのジェノサイダーさんは……いや、レーナさんは噂やプレイスタイルとは違って意外と気配りしてくれる。
最初こそ強引に連れてこられたし、ふとした拍子に恐ろしくなるが本当に無理な事はさせなかった。
むしろ『あれはなんですか?』『ではこれはどうなっているのですか?』『あれはそういう意味だったのですか?』と無邪気な子供のように知らない事を聞いてくる様は好感すら覚える。
僕自身も検証班として、語りたがりとしてそんな彼女に知識を披露するのは気持ち良かったし、知らないと答えれば『そうですか、ではこれは──』と素直に引き下がり別の質問をしてくる姿は、本当に彼女があのジェノサイダーだとは思えない……なにより可愛いし……。
今だってそうだ、僕のレベルが低いために敵は彼女が全てこちらに来る前に倒してしまうし、ちょくちょく後ろを振り返っては気遣いを見せてくれる。
「……」
そんな彼女の後ろ姿を眺めながら考える……後ろ姿も綺麗だな、歩く度にお尻が、スラッとした脚が美味しそ──って違う違う!! そうじゃなくて!! 僕が考え込んでいる事、それはレーナというどこかリアルで聞いた事のある名前と、彼女の顔にどこか見覚えがあるのだが……その事が妙に気になって仕方がない。
「……僕みたいなオタクにこんな美少女な知り合い居る訳ないし(ボソッ)」
本当にどこかで……? それこそリアルの学校で──
「──あっ! あぁ━━━!!」
「っ! いきなり叫んでどうしました? なにか見つけましたか?」
「っ!! い、いえ! なんでもありません!!」
──そうだ! 同じクラスの一条玲奈さんだ!! 髪には白のメッシュが入ってるし、瞳の色もワインレッドだがそれだけだ、後はまったく変わってない。レーナという名前だって下の名前を少し捩っただけだ!!
「……そうですか?」
「は、はい! ビックリさせてしまい申し訳ありません!!」
危ない、今レーナさんは手に短刀を持っている。下手な事したら殺される……事はないけど怖い目には遭うだろう。
それよりもそのレーナさんだ! クラスではまったく喋らず友人どころかクラスメイトとすら交流がまったくなく、静かで、けれどもそのお嬢様然とした佇まいと整った容姿からある種の偶像……アイドルと化してたあの人だ!!
先生とも連絡事項以外では会話せずクラスでいつも一人でじっとしてる大人しい印象しかなかったから、全然ジェノサイダーと結びつかなかった……これもう詐欺だよ。
「……遂に壊れましたかね?」
なにやら貶されてる気がしないでもないけど、僕は内心それどころじゃなかった……あの一条玲奈さんがジェノサイダーさんだった?! 嘘でしょ!!
まぁこの際それはいいとして、あの一条玲奈さんが手を伸ばせば触れられるほど近くに居るという事実が僕から冷静さを奪っていた……ついさっきは一条玲奈さんの顔がすぐ近くにあったんだ……口に短刀突っ込まれてたけど……。
「……ついに陰キャキモオタクの僕に春が?!」
「……頭大丈夫ですか?」
「はっ! いえ! 本当になんでもないです!! 気にしないでください!!」
舞い上がるな僕! そうやって何度裏切られてきた?! オタクは一生オタクのまま!! 嫁を裏切るんじゃない!!
はいそこ! でも三ヶ月毎に嫁代わるじゃんとか言わない!!!
と・に・か・く! 僕達陰の者はナメクジだ! 岩の裏のジメジメした所から出てはいけないんだ!! 陽の下に出てみろ! すぐさまあまりの眩しさに目を焼かれてから干からびて死んでしまうぞ!! だから僕は騙され──
「そうですか、あまり無理をしてはいけませんよ?」
「──」
そう言って至近距離でこちらの顔を覗き込んでくる一条玲奈……いや、レーナさんによって僕のなけなしの理性は吹っ飛び、オタクとしての矜恃をかけた牙城は脆くも崩れ去っていったのだ──
「あんまりアレならサクッと首を落としてリスポーンさせてあげますからね?」
──知ってた。
▼▼▼▼▼▼▼
なにやらいきなり騒ぎ出したと思ったら落ち込み始めた彼にどう対応しようか悩みますね。本当にどうしたのでしょうか? やはり首を落としてあげた方が良いのでしょうか?
「本当に大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です……」
……絶対に大丈夫じゃありませんよね、これ。
「とにかく大丈夫です、なにも変わった事はありません。えぇそうです、私は変わっていない」
これは大分重症ですね……? なにか精神攻撃でも受けましたか? 索敵には引っかかってないのですがね? もっと索敵の範囲を広げた方が──
「止まってください」
「……なんですか? ついに僕の首を」
「人の足音がします」
「っ! どこから? 何人くらいですか?」
お、復活しましたね? それは喜ばしい事ですが今はそれどころではありませんね。
「で、どうしますか?」
「? なにがです?」
「どうやら私はジェノサイダーと呼ばれているのでしょう? 一緒に居るところを見られて平気なんですか?」
「……あぁ」
彼が私の仲間だと思われてこの先ゲームがやりにくくなっても可哀想ですしね、あらかじめ聞いておきましょう。
「僕は別に構いません、むしろここまで来たんですから一緒に街を目指しましょう?」
「……私の仲間だと勘違いされて不都合はありませんか?」
「大丈夫です! 心配しないでください、そのくらいなんとかなりますよ」
そう言って彼は満面の笑みでもって応える。ここまで言われてはこっちが変に配慮しなくても問題なさそうですね。
「……それに今まで接点のなかったクラスメイトのオタクと美少女がゲームを通じてなんてラノベの王道……(ブツブツ)」
またなにやら小声でブツブツ言い始めた彼を伴いその足音に向かって進みます。
▼▼▼▼▼▼▼
半ばトリップしかけていた意識を無理やり正気に戻してレーナさんについていく。
「……」
正気になって今さら緊張してきた……あれだけ啖呵切っておいてかっこ悪い……が、でも僕は別に攻略組ではないし、リアルでも荒事の経験なんてないから仕方ないと思う……。
「……そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、私が全部殺りますし」
……やはりレーナさん根は優しいんだな。なんでこんな殺伐としているのだろう? 家庭環境に問題が──いやいや、さすがに失礼だ。クラスの美少女との接点がとか、さっきから僕は無礼な事ばかり考えてる。これは良くない。
ちゃんと彼女自身を見て判断し、それから──友達になりたいな。
「大丈夫です。レーナさんの足は引っ張りませんし、僕は支援系統が得意です。むしろ役に立ちますよ?」
そう笑顔で彼女の気遣いに応える。
「……そうですか」
そんな会話をしながら進んでいくと──
「っ?! てめぇまたかよ!!」
──プレイヤーと会敵した。相手は攻略組じゃないか。しかもハンネス達のパーティーだし……クラスは違うけど同級生だからやりづらいんだよなぁ。同じ攻略組ならハロルド達が良かったよ。
幸い向こうは所謂カースト上位の生徒だ、陰キャオタクの僕の事なんて知らなさそうなのが救いかな? レーナさんの事だって雰囲気とかやってる事がイメージと違いすぎてまだ気付いてないみたいなのが良かった、本当に……。
「……また?」
「お、お前ぇ……?」
「ハンネス、落ち着け。俺もちょっとどうかと思うが、冷静になれ……」
「……まずは個人を覚えて貰うところから頑張らないといけないわね?」
「ハンネス可哀想……」
嘘でしょレーナさん?! あなた三回この人達キルしてますよ?!! その時だって広場で唯一戦闘になったし、狭い場所で少ない人数で顔を見合わせてたらしいし、クーデター事件の時も最初から最後まで生き残ってたし、途中までとはいえ口上も捨て台詞も聞いてましたよね?!
絶対忘れないと思うんだけどなぁ……? ハンネス達があまりにも可哀想だよこれは……。
「ただ殺されるより残酷かも知れません……」
「なんだか僕、一周回って面白くなってきちゃったよ」
今は敵同士ですけど激しく同意しますよ。
「……待って、後ろにもう一人いる」
「っ! お前仲間が居たのか?!」
一番大きな変化だし気付くよね、そりゃ。見慣れない僕に一気にハンネス達のパーティーメンバーが警戒の視線を投げる。
「? 彼は仲間じゃありませんよ?」
「……じゃあ、なんで一緒に居る?」
「物知りなので情報を吐き出させてます」
「「……」」
いや、事実だけども!! もっと他に言い方あるでしょ?!!
ほら、見てよハンネス達のパーティーを! こちらを見る目が警戒から一気に気遣わしげなものに変わっちゃったじゃん!!
めっちゃ居た堪れないよ!! 『あいつなにされたんだ』とか『可哀想な奴だな』とか言いたげな目だよ!!
「……彼になにしたの?」
「可哀想な奴だね、君も」
ほら言われた!! ケリンの奴に至っては笑ってんじゃん!!?
「? 話の流れがまったく読めませんね……」
「ダメだこの人……」
薄々わかってたけど、もしかしてレーナさんって超がつく天然なのかな──そんな事を思いながら僕は自分に出来るありったけの支援をレーナさんにかけて後ろに下がるのだった──
▼▼▼▼▼▼▼
「ダメだこの人……」
そんな失礼極まりない言葉と共に支援をかけて彼──ユウさんは下がっていきます。
どれどれ、強化の具合は……と。
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名前:レーナ 性別:女
種族:人間 Lv.40
状態:憑依《影山さん》
付与《STR上昇・中》
付与《VIT上昇・中》
付与《AGI上昇・中》
付与《切断強化・中》
付与《命中率上昇・中》
カルマ値:-181《悪》
クラス:暗殺者 セカンドクラス:テイマー
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おお、素晴らしい強化具合じゃないですか。別になくても構いませんけど時間短縮して損はないですからね、助かります。
「仲間じゃなかったんじゃねぇのかよ?!」
「……どっちでもいい。彼は敵」
ユウさんに向けられた矢を弾きながら毒針を投擲。これだけ数が居るのですから一人くらい新作の毒薬を喰らってくれませんかね?
そのまま投擲を続けつつ突撃します。すぐさま前衛が前に出て後衛が下がりますが関係ありません。
左右から長剣と斧が迫ります。振るわれる長剣を躱し、斧を短刀の柄で下からかち上げてから横を通り抜け、槍使いに短刀を振るい──防御の姿勢を取ったところで神官の女の子に鉄片を投擲して頭をぶち抜きます。
「しまっ!」
驚いた槍使いを余所にすぐさま反転して、背後から斧使いと剣士を襲い、ユウさんを襲わせないよう牽制しつつ脇下からまた投擲──もちろん今度は金属音と共に防がれますが足止めが目的なので構いません。
重いために構え直すのに他よりも時間が掛かる斧使いを捨て置き、剣士に向かって短刀による突きを放ち、利き手を貫きます。剣道で言う小手ですね。
「ぐぅっ!」
長剣を落とした剣士の首を刎ね飛ばしてから最初の位置に戻り、《聖壁》と《風壁》を発動して貰います。
「《爆裂火炎》」
間を置かずして魔術師から放たれた魔術を防ぎ、再度突っ込み斧使いを強襲──
「そう何度も殺られるかぁ!! 《大地律動》!!」
──強烈なエフェクトを伴い地面に叩き付けられた斧から放射状に地面が陥没し、隆起し、それに足を取られたところに槍が迫ります。
「《旋風三連》!!」
それを麻布さんと井上さんに引っ張って貰ってから後方に避け、牽制の鉄片と毒針を後衛に複数投げ付けます。
「《炎壁》!」
「《雷雲剛矢》!」
魔術で防がれさらに反撃を貰いますがそれをこちらも《爆炎四刃》にて打ち落とし、迫る斧を弾き、槍を吹き飛ばしてから斧使いの首へ捩じ込みます。
「がふぅっ?!」
そのまま首のない胴体に火薬玉を仕込んで後衛に投げ飛ばします。何発か不発に終わり、さほどの効果は見込めなくても牽制にはなります。
「フッ!」
復活した槍使いの一撃を頭を下げて躱し、短刀の柄で横から殴り付けて体勢を崩します。
すぐさま脇腹に回し蹴りを放ち、すぐ側の壁に打ち付けてから後衛に再突撃します。
「っ! 《熱線》!」
「《キラーショット》!」
後衛からの妨害を壁を走る事で回避しながら近づき、すぐさま次の矢を番える弓使いの頭を鉄球と投岩スキルの《流星》でぶち抜き、そのまま自由落下と共に魔術師のお姉さんに短刀を振り下ろし頭を左右に分断します。
「ハハッ、マジかよ……」
立ち上がってきた槍使いに向けて再度反転突撃します。
「……もう俺一人じゃねぇかよ!」
叫びながらこちらと同様に突撃をしてくる槍使いの顔に向かって、砂粒を投げるのと一緒に《突風》を発動して貰い目潰しします。
「ぐうっ!」
そのまま槍を短刀の柄でかち上げてから腹を蹴り飛ばし地面に引き倒してから秘技・くるみ割り──小学生時代にお尻を触ってきた男子に使用して問題になった技──を放ちます。
「──ぅあ?!」
『パキャン』という間抜けな音とビックリしたような顔に泡を吹いて槍使いはリスポーンしていきます。
《既存のスキルのレベルが上がりました》
《カルマ値が下降しました》
「……終わりましたね」
「……鬼だこの人」
なぜか内股になっているユウさんの元へと戻り、『ベルゼンストック市』への道を急ぎます。
▼▼▼▼▼▼▼
「ねぇ、なにしてるの?」
未だに内股気味のユウさんが尋ねてきましたので答えておきましょう。
「通路に自作の爆薬を仕込んでいます」
「……なんで? もう出口はすぐそこだよ?」
「ここのすぐ上が海ですから、爆破したら海水がなだれ込んでくるでしょう? 毎回出会ってすぐバトルなのは疲れるので、他のプレイヤーが辿り着く時間稼ぎをするんですよ」
そうやって会話に応じながら、階段から上がってすぐの通路に満遍なく爆薬を仕掛けていきます。天井だけでなく地面や壁にも仕掛けます。
「……そんな事して大丈夫なの?」
「別にここを通らないと行けない訳でもないですし、そもそもここでは海水は水晶になるのでしょう? またすぐ通れるようになりますよ」
「そ、ソウデスカ……」
「よし、終わりました!」
会話をしながら続けていた作業が終わりましたので爆破しましょう、それはもう盛大に。
「では、我々はここを出ますよ。時間経過で爆発しますのであと三分です」
「あ、ハイ」
遠い目をしたユウさんを連れて長かった地下通路をようやく抜け出ます。
んん?? 大体一週間ぶりぐらいですか? 外の空気が美味しいですし青空は眩しいです。まぁ、リアルでいくらでも堪能してましたけどね。
そうして感慨に耽っていると、背後の地下通路出口からの盛大な爆発音と共に左手側にある海面からは海水が大きく吹き上がり、その後すぐに渦潮が発生します。
《カルマ値が下降しました》
「どうやら成功のようですね」
「……ソウダネ」
さて、そのまま少し西に向かえば『ベルゼンストック市』です