「……いえ、いいでしょう」

 ほんの少し躊躇する素振りを見せたものの、最終的には引き受けてくれた。理由はわからないが、おそらく自身の父親と確執があるのだろう……。

「では、さようなら。すごく楽しかったです」

「……私も、お前とはもっと別の出会い方をしたかったよ」

 あぁ、本当に悔しい……我が故郷を荒らす大罪人であり、父上の敵であり、そして秩序の敵であるコイツとの戦いは──楽しかった。

「それでは」

 ゆっくりと短刀が自身の喉を貫いていく。異物が侵入してくる感触と炎に炙られるような熱さに一瞬顔をしかめるが、すぐに感覚が無くなりなにも感じなくなる。

 鉄の塊がうなじまで通る感触を感じながら、最後に──奴の美しい顔を目に焼き付けて俺の意識は途絶えた。


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《レベルが上がりました》

《スキルポイントを獲得しました》

《カルマ値が大幅に下降しました》

《新しく心眼スキルを獲得しました》

《新しく火属性耐性を獲得しました》

《新しく毒耐性を獲得しました》

《新しく斬撃耐性を獲得しました》

《既存のスキルのレベルが上がりました》

《レベルが一定に達したスキルがあります 進化が可能です》

《新しく称号:人類の天敵を獲得しました》

《新しく称号:英雄殺しを獲得しました》

《新しく称号:ざんけつを獲得しました》

《山田さんのレベルが上がりました》

《山田さんのレベルが一定に達しました 進化が可能です》

《影山さんのレベルが上がりました》

《影山さんのレベルが一定に達しました 進化が可能です》

《麻布さんのレベルが上がりました》

《麻布さんのレベルが一定に達しました 進化が可能です》

《三田さんのレベルが上がりました》

《三田さんのレベルが一定に達しました 進化が可能です》

《井上さんのレベルが上がりました》

《井上さんのレベルが一定に達しました 進化が可能です》


 なんとか騎士団長さんに勝てましたね。今回はすごい苦戦しました。辛勝しんしょうという感じですね。反省し今後に活かしましょう。

「さて、どうしますか?」

 既にプレイヤーの大多数が死に戻りし、NPC達は騎士団長さんが膝を突いた時点で座り込み、ていかんの表情を浮かべています。

 その中でも未だにまっすぐこちらを睨んでいるパーティーが一つだけありますね。

「……」

「ハンネス、やるなら最後まで付き合うぞ?」

「えぇ、そうね。相手も消耗しょうもうしてるはずだし」

「わ、私も精一杯支援します!」

「……今度こそ射抜く」

「えぇ?? マジかよ、しゃーねぇーなぁー」

 ほうほう? 最初に仕掛けてきたパーティーですね、別にこちらは構いません。即座に武器を構えますが……。

「……いや、やめとく」

「ハンネス?」

「今の俺らじゃ力不足だ。なにが目的か知らんがここで挑んでも時間稼ぎが精々だ」

「……」

「だが、勘違いするなよ? 勝負は一旦お預けってだけだ!」

「そういう事か……」

「まったくしょうがないわね……」

「強くなっていつかてめぇをぶっ潰してやるから覚悟──」

「──御託はいいんですよねぇ」

 なにやら熱く語り出したところ悪いのですが先を急いでるのでサクッと心臓を貫きます。

「──やっぱ俺、お前の事大嫌いだわ」

「? そうですか?」

 そのまま残りのパーティーメンバーもほぼ不意を突き皆殺しにしてその場を後にします。


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「……敗けたか」

 領主館のバルコニーから先ほどの戦闘の決着を確認し、私はそう力なく呟く……。

「私の順番を抜かすでないわ、バカ息子め……」

 人には大事な順番というものがある。先に生まれた者が先に死ぬ──単純なものだが重要なものだ。ワシは父から貰ったものをほとんどなにも返す事は出来なかった……けれども順番だけは守り先に死ぬ事は決してなかった。

 どれほど親孝行者でも、その順番を守らず親より先に死ぬなど、それまでの善行を利子を付けて返すほどの親不孝だと知れと、騎士団長として戦いに身を置く息子に嫌と言うほど──

「──言い聞かせてきたんじゃがなぁ」

「? なにをですか?」

「……いや、なんでもない。こちらの話じゃ」

 背後から掛けられる女の声に返事をしつつ振り返る。

「それよりも息子はなにか言い残してはなかったか?」

 いくら大馬鹿の親不孝者でも遺言くらいはしているだろう? そう相手に問い掛ける。

「……えぇ、生きてくれと」

「……そうか……そうか」

 噛み締めるようにしてその言葉を深く胸に刻み込む。息子の最期の言葉だ……最大限の努力で遂行せねばなるまい。

「……それで? 勝者は敗者になにを望む?」

 酷く複雑な表情をしている相手に当然の質問を投げかける。

「そうですね、先ずはあなたにはムーンライト・ファミリー幹部のエレンさんを養子にするか、隠し子として認知して貰います」

 一瞬にして無表情になった相手の要求に顔を顰める。この後の展開がわかってきたからだ。

「諸々の手続きを終えた後、あなたはエレンさんを後継者に指名し、領主の地位を退いて貰います」

「……中央政府にはなんと説明するつもりだ?」

「後継者同士の家督の奪い合いの結果エレンさんの側が勝利したとでも言っておいてください」

「……断ると言ったら?」

 その瞬間思わず息が止まるほどのプレッシャーに襲われる。

「……息子の遺言をふいにするんですか?」

「……そういう訳ではない、仮定の話だ」

 これは……いかんな、息子がわざわざ遺言して託す訳だ。およそその目付きを見ればただ死ねる訳ではないとわかる。

「まぁ、そうですね。もし断ったら生き残りの娘さんに頑張って貰いましょうかね? 確か今年で十四歳ですからもう子供が作れますし、領主の血を引いたゴブリンでも後釜に据えますか?」

 聞くだけでおぞましい事を平気で語る相手に怖気おぞけが走る……。こんな事正気で言えるものなのか? いや、そもそも考えつくものなのか?

「……要求を全面的に呑もう。だから娘と妻には手を出さないでくれ」

「そうですか? なら構いません」

 そもそも息子が敗けた時からこちらに選択の余地など存在せん。出来る事はなるべく多くの命を守る事のみ。

「……それともう一つ」

「まだあるんですか?」

「これで最後じゃ……領民を決してにはしないと約束してくれ」

「? それだけですか?」

「……あぁ」

 一瞬さらに吹っかけようかと思考がぎったが、やめておこう。碌でもない結果にしかならん気がする。

「その程度なら構いませんよ。むしろ一部政策を除いてこれまで通りで進めますし、なんならエレンさんが領主を継いだ後の事はムーンライト・ファミリーの親分さんと一緒に話し合ってください。私はただ傀儡が欲しかっただけですので」

「……そうか、ではすぐに行動するとしよう」

「はい、お願いしますね」

 今日という日がバーレンス辺境伯領の実質的な最期だ──


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「ふむ、まさか本当に成し遂げるとは」

 次の日に領主の使いと一緒にムーンライト・ファミリーの親分さんの所を訪ねて、開口一番に言われたセリフがこれです。

「信じてなかったんですか?」

「まぁ、いくら人間ではないとはいえ一人じゃったからな。それがアレクセイ騎士団長まで討ち取るとはさすがに予想外じゃわい。ワシももうろくしたかの?」

 半信半疑だったんですね。まぁ小娘一人だけでクーデターが成功するだなんて普通思いませんよね。

「……一つ質問じゃ。もしワシらがお前さんの望まない領地経営をしたらどうする?」

「? また頭をすげ替えるだけですよ?」

「……そうか、お前さんとは出来るだけ敵対したくない。こちらからなにかする事はないじゃろう」

「それは良かったです」

 せっかく成功させたのにまたやり直しとか面倒臭いですからね、騎士団長さんが居ない分二回目は楽でしょうけど。

「それでは後の事よろしくお願いしますね?」

「あぁ、任せてくれ」

「では、これで」

 そう言ってその場を後にし、宿に帰ってログアウトします。今日は濃厚な一日でした。良い疲労感です。

 次はなにしましょう? そろそろ次の街を目指してみますかね?