「家に最大の利益をもたらしてくれる人をお選びください」

「なんじゃつまらん……」

 からかってみるもコイツはワシには似ず生真面目きまじめな返事をするのみで面白みがない。我が妻ならそれも可愛かろうが息子ではな……。

「……父上、今なにを考えてました?」

「ふん、お主が面白みに欠けると考えておったわい」

「まったく、父上は飽きもせずよく人をからかい──」

「お話中のところ失礼します! 緊急の連絡です!」

「──なんだ? 要件を申してみよ」

 話の途中で伝令が緊急の要件を携えてきたために親子の会話はそこで止まり、ここから領主とそれに仕える騎士団長となる。

「はっ! ついさっき軍の詰め所が数箇所同時に爆破され、それと同時に何者かが貴族街に侵入したとの事です!」

 なんだと? 一体なにが起こっておる……軍の詰め所が数箇所同時に爆破され貴族街には侵入者、敵の数はどのくらいだ? 同時に詰め所を襲うくらいだ、多く見た方がいいだろう。

「無事な詰め所からただちに応援を寄越せ! それから非番の者、休憩中の者も区別なく引っ張ってこい! 敵の全容が不明だ。戦力は我々と同じかそれ以上あると思え! 警ら隊や守備兵は新たな襲撃に備えて後方待機! 衛兵は見廻りを強化しろ!」

 襲撃について思考を巡らせている内に息子……いや、騎士団長が次々と指示を出している……この情報が足りない状況で戦力の分散は避けたいが、詰め所が同時襲撃され貴族街にも被害が出ているとなると致し方あるまいか……。

「それとすぐに住人に避難勧告と貴族街の者達には家から出ぬよう伝令を出すがよい。行け!」

「はっ!」

 追加の指示を出すと伝令は外に駆けていく。

「……お主も万が一の時はワシに遠慮せず出撃するがいい」

「……かしこまりました」

 半月前の悲劇と違いこれは明らかなテロ行為だ。目的を持った襲撃──戦争である。

 市街地戦など勘弁して欲しいのじゃがなぁ……言っても詮無き事よな……。


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 さて、昨日の内に準備した、詰め所の仕掛けが発動したところで私も行きましょう。

 目指すは貴族街の中心地の領主館です。そこまで走り抜けましょう。

「っ! そこの君! 止まり──」

「っふ!」

 こちらに静止を呼び掛けようとした、貴族街と下町を隔てる門の番兵へ向けてガラス片を投擲、喉を刺し貫き殺します。

 その後に火薬玉Lv.4(単純に威力を上げただけ)を思いっきり振りかぶって門へ投げます。

 ドンッ! ドォ━━━━ンッ!!

 ……ちょっと火薬の量が多すぎましたかね? 門だけでなくその周辺まで吹っ飛んじゃいました……確かアレはこういう時にするんでしたか?

「……て、テヘペロ」

 ……自分でしておいてなんですが寒気しかしません。もう二度とやりません。

 それよりも交通の利便性が上がったので走り抜けましょう。


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「アァ? まだ納得いかねぇよぉ?」

「……ハンネスまたか?」

 ボヤく俺にラインが声を掛けてくる。その声色には呆れが多分に混じっているが、仕方のない事だろう。

「だってよ! なんだよ『レーナと下僕達』ってよ! そんなふざけたパーティー名の奴らに初攻略取られたんだぜ?!

「確かに悔しいがもう半月ぐらい前だろ?」

「そうだが……クソっ! あの野郎にあそこで殺られてなけりゃ……」

 確か最終的には街の北に逃げたとは聞いたが……普通未攻略エリアに初心者がソロで突っ込むか?

 そのおかげでまったく知らねぇ奴らに先を越されちまった。ハロルドの所のパーティーならまだ納得出来るのに!!

「反省会の途中でワールドアナウンスが流れた時、あなたすごいショック受けてたものね……」

「しかもなんだよジェノサイダーちゃんって……ありゃそんな可愛いもんじゃねぇよ」

 公式掲示板じゃ専用スレまで作られてるし、ほう犯は続出するし……まぁ、どれもすぐにちんあつされるんだがな。衛兵の見廻りの数が初日と段違いだし、なによりアイツに比べてみんなクソ弱ぇ……。

「あれから姿も見せないし、なにしてるんだろうな!」

 ケリンがそんな気楽な調子で言う……本当になにしてんだろうな? どうせ碌でもない事企んでんだろ? 見つけたら絶対に──ドオォォ━━━━━ン!!!

「な、なんだ?!

 いきなりどデカい爆発音がしたと思ったら、あちこちで断続的に続きやがる。

「急げ! 複数の詰め所が襲撃を受けた!」

「なにが起こった?!

「ここ以外も襲われてるのか?!

 目の前を焦った様子のNPCの衛兵達が駆けていく。これは……。

「……気のせいかな、私こんな光景を最近見た気がする」

「……同意」

 チェリーとミラがそんな会話を交わしてからそんなに間を置かず──ドンッ! ドォ━━━━ン

!!

 ──特大の爆破音が貴族街の方から響いてきやがる……あぁ、間違いない。こういう時の俺の勘はよく当たるんだ。おそらく貴族街が本命でそこに──

「ハンネス、まさかこれって……」

「あぁ、間違いない……行くぞ! おめぇら! 俺達のリベンジマッチだ!!

 ──奴が居る!!


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「これで終わりですかね?」

 ついさっきまで相手をしていた兵士の方の死体を蹴り転がしてどける……と言っても兵士の死体ばかりで地面が見えないほどなので、あんまり意味はないですけどね。

「なんなんだこいつは……」

「例の指名手配犯だ……」

「この女が?!

 残りの兵士さんはいち、にぃ、さん……十四人程度ですか。最初の頃はそれこそゴキブリのように湧いて出てきたというのに。

 残りの彼らも遠巻きにこちらを窺うばかりでなにもしてきません。

「やっぱり兵隊さんだけあって鍛えてますね、筋肉の量がすごいです。せんがビローンってなります」

 こんな所までリアルなんですね? というか常々思ってますがこのゲームは、所謂いわゆるゲーム的処理が少ない気がします。

 戦闘中でも、ドロップした訳でもないのに相手の武器を奪って使えますし、死体だって使えるし、NPCも人間と同程度で思考してる感じですしねぇ。

「お前ぇ?!!」

 おや、なにもしてこないのでそこらの兵士を解体しながら人間爆弾を作っていたら、誰かが突っ込んできました。なにやら怒っているようです?

 まぁ丁度いいので完成したばかりの人間爆弾その一を投擲して爆破しておきましょう。

「「──っ!」」

 ドォ━━━━ンッ!!

 ……ボウリングのピンのように吹っ飛んでいきましたね、少しそうかいな気分です。

「さて、残りを担いで先を──」

「《熱線》!」

「キラーショット!」

 ──急ごうとしたら邪魔が入りましたね……麻布さんが咄嗟に《風壁》で防いでくれて助かりました。

 あれ? この方達どこかで見たような……?

「? どこかで会いました?」

「っ! 野郎ォ……」

「ハンネス、挑発に乗るな」

 新しい兵士さんか騎士の方かと思ったんですが、どうやら違うようです。というよりどこかで会った気がするんですけど思い出せませんね……。

「……まぁ、戦ってる内に思い出すでしょう」

 そう結論付けて人間爆弾その二とその三を投げます。

「《聖壁》」

 まぁ防がれますよね、知ってました。本命の目くらましです。

「シっ!」

「ふんっ!」

「ハッ!」

 お? 投擲したガラス片と共に突きを防がれましたよ? おそらくこの方達はプレイヤーですね……NPCの兵士よりも楽しめそうです。

「半月前の俺達じゃねぇぞ!」

「……半月前?」

「……本当に覚えてないのか?」

「残念ながら……」

「ぶっ殺す!!

 知り合いのようですが覚えていません。彼が怒るのも無理ないですね、反省です。

「残酷だわ……」

「そうですね、さすがに可哀想です……」

「同意」

 袈裟斬りに振るわれる斧を身体を反らして躱しながら、背後から迫る槍使いに向けて脇下からガラス片を投擲。

 後ろで軽い金属音が鳴り、足止めに成功した事を確認すると、すぐさま斧使いの横を通り抜け後衛を狙います──が剣士の振るう長剣が迫っていますのでこれを走り高跳びのように躱し、弓使いがたった今放った矢に火薬玉を投擲して相殺すると共に目くらまし。魔術師のお姉さんの狙いを外します。

「くっ! キャンセル!」

 上手くいったようでなによりです。視界が悪い状態で魔術を放ったら、近くにいる剣士と私の背後に居る斧使いに当たる可能性がありますからね。

「相変わらず嫌になるPSプレイヤースキルだねっと!」

 すぐそこまで迫っていた槍を短刀の柄でかち上げ、懐に潜り込むと同時に長剣による薙ぎ払いから逃れます。

 そのまま槍使いの喉か心臓を狙いますが、斜め下より斧が振るわれるのでキャンセル、槍使いの足首を引っ掛け転ばせるに留めます。

「っおぉと!」

「チッ!」

 槍使いに当たるのを恐れ、無理やり斧の軌道修正をして姿勢が不安定な斧使いに、ガラス片を投擲します。けれど途中で迫ってきた剣士に邪魔され狙いがおぼつきませんでした。

 斧使い自身も意地なのか無理に身を捩って、肩に刺さるだけの結果に終わりましたね。

「ぐっ!」

 前衛に包囲されかけていたので起き上がろうとした槍使いを踏み台にして跳躍、そのまま剣士の頭上を飛び越えながら後衛にけんせいの火薬玉をまたプレゼントしましょう。

「《えんそう》!」

「《しょう》!」

 魔法で相殺され斧使いと槍使いに回復が飛びましたね。やはりヒーラーから先に潰しておくべきですか……。

「おい、ハンネスのパーティーがジェノサイダーちゃんと戦ってるぞ!」

「マジか、俺らも加勢すんぞ!」

「祭りの時間だぁー!」

「まーたスレが加速すんぞ!」

 攻防を続けている内に他のプレイヤーが増えてきましたね……好都合です。


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「……人が増えてきたな」

 クソ女と戦ってたらこの騒ぎを聞きつけた他プレイヤーが集まってきた。数の差でもって叩き潰せればいいが逆に足手まといにならねぇだろうな……?

「どうする? 時間が経つほどお前さんが不利になるぞ? 短時間で俺らを倒せなかった時点でお前さんに勝機はもうないぞ?」

「そうです、降参してください……」

 ラインとチェリーが投降を呼び掛けるが──

「? なぜ?」

 ──こいつがそんなんで止まる訳ねぇだろ。第一ここで降参されてハイおしまいになったら俺が納得出来ねぇ! それじゃこのクソ女に勝った事にならねぇじゃねぇか!!

「……無理よ、その子に投降の意思はないみたい」

「……残念」

「マジかぁ? これで諦めないの? キマッてるねぇ?」

 そうやって会話する間にもどんどんプレイヤーが増えてくる。いつの間にかクソ女は周りをプレイヤーの山に囲まれていた……しかも攻略組パーティーが俺らの他に三組も居やがるな……。

たくはいい、俺らで仕留めるぞ」

「えぇ、そうね」

 そのまま斧を構え周りのプレイヤーと目線で合図をし合い、歩調を合わせ、飛び掛かろうとして──

「「っ!」」

 ──奴が消えた?!!

 いや、違う! いきなりスピードが上がりやがったんだ。目に追えないほどじゃないが先ほどまでとは段違いだ!

「クソッ! どうなってやがる!」

「なぜ急に……」

 驚いている間にも、奴は俺らの反対側の群れに突っ込んでから五人の首を飛ばし、八人の手足を斬り飛ばし、後衛を三箇所爆破し、さらに五人を投げ飛ばし、飛んでくる魔術や矢を風魔術や光魔術で防いでやがった……魔術まで使うのかよ?!

「俺らも行くぞ!」

「っ! あ、あぁ!」

 これ以上好き勝手させてなるものかと、この際ザコは放っておいて他の攻略組と連携して奴を仕留めようと動くが──そのことごとくが躱され、時にキルされる。

 斧を上段から叩き付けるがバク転で躱され、ついでと言わんばかりに顎を蹴り上げられちまった……。

 地に手を突いたと思ったらそのままカポエラの如く周りに居た前衛達の顔を蹴り吹き飛ばす。そのまま自身に《突風》魔術を掛けて空を駆け、一足飛びに包囲を離脱、すぐさま反転し──そこからは後衛の悲鳴しか聞こえなかった……。


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 邪魔な後衛達を処理しながら思いますが、この《称号:虐殺者》が結構役立ちましたね? 今まではあまり効果を実感しませんでしたが、今は周りを見渡す限りの人の群れ……おそらく上限近いところまでAGIが強化されているのではないでしょうか?

「ぐぅっ!!

 神官の女の子の顎をかち上げ、浮いたところを背後に回り込み腰を思いっきり蹴り飛ばします。こちらに向かってきていた前衛に突っ込みそのまま──仕込んでいた火薬玉が起爆し盛大に巻き込みます。

「な、なんだ?!

「前が見えん!」

 爆発の煙と余波で混乱し、相手がこちらを見失っている内に誰のかわからない槍を投擲し、知らない人のナイフを奪って喉を貫き、ヒーラー三人の首を刎ね飛ばします。

 追い付いてきた前衛の一人である剣士の手首を斬り落としてから腹を殴り昏倒させ、頭を踏み砕きながら再度敵の中心へ突撃を敢行します。

「ぎゃっ!」

「がっ!」

「嫌っ!」

 短刀の柄で短剣使いの頭を殴ってかち割り、その背後の大剣使いに向けて彼が持っていた短剣を投擲してヘッドショットです。

 ついでに迷い込んでいた魔術師の女の子の襟首を掴み、引き摺りながら前衛の群れへ突っ込み盾として使います。

「野郎ぉ!」

「本当にようしゃがない……」

「ガチの畜生で草なんだっ──!」

 草を生やそうとした方がいたので、その開いた口に短刀を突き入れ上顎から上を切り離します。

 そのまま駆け抜けていき、そろそろ女の子のHPがなくなりそうなので火薬玉を仕込んでぶん投げます。

「っあ……」

 良かったですね、元のパーティーに戻れましたよ。

 女の子がパーティーメンバーを巻き込んで爆発したのを横目に見ながら、足元に突き込まれてきた槍を足場に駆け上がり、槍使いの顎を蹴り上げながら跳躍。

 上から火薬玉と従魔達の魔術をばら撒き、さらに数を削り取って空いた所に着地します。

「大分減りましたね?」

「「……」」

 最初の方は数えるのも馬鹿らしく、最後尾の方まで見えないくらいプレイヤーとNPCが溢れていたものですが、今は全体を把握出来るまでに減っています……それでもまだ三桁は居るでしょうけどね。

 さて、再度突撃をしようとしたところで──


「《こうえんれん!!

 ──ものすごい攻撃が殺到してきたので全力で避けます──半身になって振り下ろしを──逆袈裟を上体を反らして──頭を下げて横薙ぎの一撃を──上段からの攻撃はクルリと回転して──突きに対してはむしろ前進して──振り上げは跳躍しながら身体を捻って──最後に回転斬りをバックステップしながら避けつつ、ガラス片と火薬玉を投擲して反撃してみますが……防がれましたね。