第一章 チュートリアルおじさん殺人事件
『ようこそKSOへ!』
そんな大文字と共に視界いっぱいに広がる真っ白な空間。見れば自分も現実の姿そのままですが、ここはキャラメイク空間だろうかと辺りを見回していると、背後から声が掛けられます。
「ようこそ一条玲奈様、わたくし第25番サポートAIが貴女様のキャラメイクを支援致します。気軽にニコちゃんとお呼びください」
能面の、デキる秘書といった感じの美人さん、通称〝ニコちゃん〟が私のキャラメイクを手伝ってくれるようです。
「わかりましたニコちゃんさん」
「では早速キャラメイクに参りましょう。ここではプレイヤーネームとゲーム内での容姿の他に、初期スキルを十個選べます。もちろん後から変更する事は出来ませんのでご注意くださいませ」
「わかりました、では早速作っていきますね」
会話が終わると同時に目の前に半透明の画面が出てきました。これを操作してキャラメイクしていくんですね。そうですね、名前は……本名からとって『レーナ』で。少し安直かもですが自分にネーミングセンスがない事を自覚しているので冒険には出ませんよ。
次は種族ですか。色々ありますがここは無難に人間ですね。容姿はあんまり現実とかけ離れると動きづらそうですし、身長体形はこのままで、髪を肩につかない程度に短くし、黒髪に白のメッシュを入れましょう。顔も、センスもないのに変に弄るよりも現実のままで。どうせ私のリアルの知り合いに、ゲームをするような人は居ないので大丈夫でしょう。目の色をワインレッドに変えるくらいですか……。
後はスキルですね……うわっ、結構多いですね。私のプレイスタイルは大体決まってますが、それに合うスキルを探して組み合わせも考えてってなると、少し時間掛かりそうですね、うーん──
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──よしっと、少し時間が掛かりましたが無事に終わりましたね。
「終わりました」
「よろしいですか? 他に質問などはございませんでしょうか?」
「はい大丈夫です、このままお願いします」
私が選んだスキルは『短剣術』『投擲』『歩行』『軽業』『調薬』『不意打ち』『テイム』『偽装』『看破』『交友』です。
「では最後にいくつか設定をしていただきます」
「? 設定ですか?」
なにかまだあったのだろうか? それとも私が忘れているだけですかね?
「そう難しいものではありません。まずはセクシャルガードを……これはどこまでの範囲の人にどこまで触れる許可を出すかという──」
「全部ブロックでお願いします」
「──かしこまりました。次は描写規制設定です。これは相手を斬ったりした時にゲーム的なエフェクトにするかそれともリアル準拠にするかという設定です」
「では完全リアル準拠でお願いします」
「では最後に痛覚制限ですが」
「それも制限なしでお願いします」
「……かしこまりました。これにて全ての設定すべき事柄は終了でございます。キャラデータを作成しますので少しお待ちください」
さて少しばかり手間が掛かりましたがようやくですね、楽しみです。
「……お待たせしました、これで全ての工程は完了です。このまま始めていただきたいところですが最後に一つご忠告を」
「? なんですか?」
「この世界では、プレイヤーとは違いその世界で生きているNPCは、死亡したら復活出来ませんので予めお気を付けください……」
「なるほどわかりました、気を付けます」
「……では貴女の冒険が心躍るものである事を祈っております……ようこそ『カルマ・ストーリー・オンラインへ』!」
その言葉と共にニコちゃんさんは頭を下げ、私は視界を埋める白い光に呑み込まれました──
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視界いっぱいの白い光が収まるとそこは石造りと木造りが半々の、東欧っぽい建物の並ぶ『始まりの街』の噴水広場でした。
「多い……」
周りは私と同じ初期装備に身を包んだ、おそらくプレイヤー達でごった返しています。苦手な人はそのあまりの多さに人酔いしてしまいそうなぐらいです。ここだけで軽く三桁は居るんじゃないでしょうか?
「まぁ、なにはともあれ──」
──ここから私は『一条玲奈』ではなく『レーナ』として切り替えていきましょう。
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さてと、ぐるりと視界を動かせば、大勢の人混みの中で一際賑わっている所があります。そこの中心には『始まりの街』がある国の兵士であろう格好をした、通称『チュートリアルおじさん』と呼ばれるNPCが居ます。ベータ版にも登場し、現実の人間となんら変わりない言動をするNPCが売りの一つのこのゲームにおいて、まずほとんどのプレイヤーが最初に接するNPCなのだそうです。その人間臭さと気さくな性格からプレイヤーからの人気も高く、『俺達の兄貴』と慕われています。ベータ版でリアルの相談をしたら真面目に回答され、離婚回避出来たプレイヤーが現れてから一躍時の人(?)にもなったとか。そんなNPCは『チュートリアルおじさん』の通称通りに、プレイヤーに最初のクエストでのモンスターとの戦い方、スキルや魔法の使い方、その他諸々を教えてくれるため、プレイヤーはまずこのNPCに話し掛けるのが必須と言えます。
「本当に多い……」
半ばうんざりしながらもチュートリアルおじさんに近づきますが、如何せん人が多すぎる……まぁ、これからの事を考えると好都合でもあるけれども……。
「あの」
「ん? あぁ君も渡り人だろう?」
「えぇ、そうです」
やっと話し掛けられた……本当にプレイヤーが多すぎる……まぁ、この人混みでの移動の仕方にも慣れたしもう大丈夫ですけどね。
ちなみに渡り人とはNPCにとってのプレイヤーの事です。
「君もなにかわからない事があるのかな?」
「そうです、こちらに来たばかりでわからない事だらけでして」
「だったらこのクエストを──」
「──なのであなたには死んで頂きます」
そして私は持っていた初期装備の短刀でチュートリアルおじさんの首を刎ねました──
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「は?」
それは誰が漏らした言葉だったのでしょう? 今この噴水広場は時が止まったかのようにプレイヤーもNPCも関係なく口を開けて惚けています。動いているのはなにも見えない後ろの方にいる人達くらいです。
「……よし」
チュートリアルおじさんの首を刎ね飛ばす時に、短刀がうっすらと赤黒いエフェクトを放ちました。ちゃんと『不意打ち』スキルが発動した証拠です。暗殺ではなく不意打ちという名称からもしやとは思いましたが、不意を衝けば正面からでも発動するようですね、良かったです。
というか描写設定をリアル準拠にしたせいか、切断面から血が噴水のように噴き出してますね。これ同じように見えてるプレイヤーは居るのでしょうか?
《レベルが上がりました》