異世界生活60日目

 僕らが異世界に来てから2か月が経過した。

 最初の襲撃以来、度々たびたび訪れてくる日本人たち。その誰もが敵対者ばかりで、まともに会話できるような相手は皆無だった。ここには現地人がいないのか、それらしい人影は一度たりとも見ていない。

 そんな一方、僕らの生活レベルは少しずつ向上している。海で魚を獲ったり、海水から塩を作ったりと、海産物のレパートリーは格段に増えた。下りられないはずの断崖は、杏子さんの土魔法により解決済み。手すり付きの階段によって海面まで安全に下りることが可能だ。

 そして改善したのは食生活だけに留まらない。地面を土魔法で固めた露天風呂。魔物の毛皮で作った敷き布団。襲撃者を監視するための物見やぐらなど、普段の生活環境も程よく充実してきた。

 残る問題といえば、みんなの衣服と武器の確保だろうか。毎日のように森へ入って、魔物狩りや薪集めを繰り返す生活。当然、服はすぐに汚れるし、靴底の消耗もすこぶる激しい。襲撃者からの戦利品があっても追いつかないレベルだ。

 武器についても似たようなもので、ゴブリンの錆びたナイフは、いとも簡単に折れてしまう。小剣を3本だけ手に入れたけれど……それもいつまで持つのか怪しいところだ。

(どこかに街が──いや、せめて村でもあればいいのだけれど)

 かれこれ2か月。探索範囲を広げているものの、いまだに現地人の痕跡すら見つかっていない。どこへ行っても延々と森が続くだけ。たまに見つかるものといえば、日本人の遺留品くらいだ。正直な話、「ここで一生を終えるのかも」と半ば諦めかけていた。


「勇人どうしたの? さっきから全然食べてないけど」

「っ、ごめんごめん。ちょっと考え事をしてた。大したことじゃないからね」

 そんな今は夕食の真っ最中。広場でかまどを囲いながら、みんなで談笑しているところだ。

 心配そうに見つめる鈴音すずねに対し、僕は微笑んで返す。

「ならいいんだけど……。悩みがあるなら相談してよ?」

「大丈夫。みんなのおかげで助かってるさ。これだって、ほらっ」

 僕が掲げて見せたのは料理の入った木の器。素人の作品とは思えないほど精巧に削られている。他にも箸やコップなど、全部目の前にいる鈴音が作ってくれたものだ。木工の経験など一度もないと言っていたけれど、職人技のような手さばきで次々と仕上げていた。

「わたし、勇人の役に立ててるかな?」

「もちろんだよ。これからもみんなで頑張っていこう」

 くよくよ悩んだところで仕方がない。とにかく探索を続けて手掛かりを見つけるまでだ。