異世界生活7日目

 妙な世界に飛ばされてから1週間。僕らの生活はようやく軌道に乗り始めていた。

 4人がなんとか寝られるサイズの掘っ立て小屋。ゴブリンから手に入れた錆びだらけのナイフ。食べ物といえば、猪の魔物から取れる肉と、川で捕まえた魚が主だ。他にも自生している果物など、飢えに困ることはなくなっている。

 正直、日本の米が恋しいけれど……愚痴ぐちをこぼしたところで仕方がない。生きているだけでも儲けものと、日々を忙しく過ごしていた。

 そんな現在は本格的な住居を建設中。まずは外敵の侵入を防ぐために砦を構築しているところだ。壁の高さは3メートルくらいだろうか。太い丸太を地中に差し込み、なるべく隙間ができないように立てていく。

「杏子さん、追加の丸太を頼んでもいいかな」

「もちろんよ。すぐに用意するわね」

 近くの木々に向けて風魔法を放つ杏子さん。伐採や枝打ち、果ては基礎部分の穴掘りまでを一手にになっている。僕らの出番といえば、せいぜい木材を運んで建てていくくらいか。建築作業だけではなく、日常生活の大半は杏子さんを中心に回っている。

「やっぱり杏子さんの魔法はすごいよね。僕が活躍できるのは狩りくらいだよ」

「そんなことないわ。前にも言ったけど、勇人が近くにいると落ち着くのよね」

「……そっか。役に立ってるなら嬉しいよ」

 風魔法だけでなく、火や水、土の魔法まで使える杏子さん。そんな彼女の見立てによると、僕には複数の才能があるらしい。身体の強化や直感に加え、精神を安定させるスキルを持っているそうだ。「あくまで私の妄想よ」と、いつも気恥ずかしそうに語っていた。

 ちなみにスキルに関してだが、変化があったのは僕や杏子さんだけではない。立花や葉月にも似たような兆候が起きている。

 立花はナイフを持つと好戦的になり、嬉々として魔物に飛びかかっていくように──。武器なんて持ったこともないはずなのに、驚くほど良い動きを見せた。

 葉月は葉月で傷の手当てが得意……というより、異常とも言えるほどの治癒能力があるようだ。以前、立花がゴブリンにまれて怪我をしたんだが──。葉月が処置した翌日には、傷がすっかりえてしまった。薬も塗らず、ただ布切れを巻いただけ。杏子さんは回復魔法の一種だと睨んでいる。

 戦士の立花、勇者の僕、僧侶の葉月、そして魔法使いの杏子さん。ロールプレイングゲームでは鉄板の構成だと話していた。

(にしても僕が勇者って……。あんまり良いイメージがないんだけどな)

 物語の勇者といえば、『勇敢で正義感に溢れた存在』であり『弱き者を助けて悪を断つ』って印象を持っている。言い換えれば、『自分の正義を押し付け、善悪を勝手に決めつける』ってことでもある。

 親しい人のためならともかく、赤の他人のために動く義理はない。そもそもトラブルに首を突っ込むなんて御免だ。自分のことを最優先に考え、みんなとは共依存の関係を保ちたい。

「──え。ねえ、ちょっと聞いてるの?」

「あっ、杏子さんごめん。なんだっけ」

 いつの間にかもの思いにふけっていたらしい。彼女の呼びかけに気づいたときには、辺り一面の木々が倒れていた。払った枝葉は吹き飛ばされ、長さの揃った丸太がこれでもかと転がっている。

「これだけあれば足りるでしょ。あとは住居の分に取り掛かるわよ」

「そ、そうだね。今日中には囲いを完成させよう」

「立花と葉月も帰ってくる頃だし、午後から一気にやっちゃいましょう」

 砦の中にいれば夜も安心して寝られる。広さも十分だし、今後の生活が快適になることは間違いない。できればもう少し人手が欲しいけれど……それはそれでトラブルの原因となりそうだ。他に人がいるとしても、今しばらくはこのままでいいのかもしれない。