川沿いの開けた場所へ行くと、勇人を相手に剣を振るう春香と秋穂の姿が──。

 さすがは勇者というところか。レベルで劣る勇人の剣撃は、2人に全く引けを取らない。むしろ勇人が押しているように見える。剣術スキルに身体強化、それに加えて直感のスキルが発動しているのだろう。相手の動きを予測して、次々と有効打を与えている。

「よぉ冬也、勇人はどうだ?」

「見てのとおりだよ。まるで別次元の強さだ」

「おまえから見てもそうなのか」

「ああ。次はオレとやる予定だけど……。正直、手加減はいらないかもな」

「ほぉ、そこまでか……」

『もちろん、アレは抜きでの話な』

 アレとはもちろん、魔剣士スキルのことだろう。口には出さず、念話で話しかけてきた。

『スキル込みならどうだ? 勝つ自信はあるんだろ』

『今なら間違いなく殺れるぞ。勇者のレベルが上がればわからんけど』

『そうか。まあ、今回は上手くやってくれよ』

『わかってる。けど、ある程度は本気でやらせてもらうぞ』

 勇人との戦いで何かを掴みたいのだろう。ひたすらに自分を磨き、貪欲どんよくに強くなろうとしている。普通は天狗てんぐになりそうなものだが、そんな素振りは一切見せなかった。

「ふぅ。ありがとうございました」

「いやぁ、勇人くん強いねー」

「うん、いい経験になる」

「僕のほうこそ、いい勉強になりますよ」

「ねえねえ、あのときの動きだけどさ──」

 どうやら1回戦が終了したらしい。お互いをたたえながら、模擬戦の考察に入っていった。

 スキルにある『超回復』の効果なのか、勇人の息は整ったままだ。疲労のカケラも見せず、すぐに冬也との戦闘が始まった。

「冬也くん、僕のほうが格下だ。最初から全力で行かせてもらうよ!」

 そう言い放った勇人は、光のオーラを全身に纏って冬也に飛び込んでいく──。

(え、何その光……。めちゃくちゃかっこいいな)

 全身に光を纏った勇人は、ものすごい速度で間合いを詰める。私もレベルだけは高いので、なんとか目で追えているが……。まるでバトルアニメでも見ているような感覚だ。

 それに相対する冬也は、剣を正眼せいがんに構えたまま微動だにしない。勇人の放った連撃を、ものの見事にいなしていく。すかさず勇人があとずさりして、両者が間合いを取りなおした。

「っ、ならこれで!」

 勇人が剣を構えると、全身のオーラが刀身に集まる。振るった先から斬撃ざんげきが飛んでいく。それも2連撃で交差するように、光の刃が冬也を襲った。だが冬也は動じない。飛来する斬撃に合わせ、自らも剣を振るって相殺した。勇人の攻撃はなおも止まらず、再び斬撃を飛ばしたあと、自らも突っ込んで迫り──。

(おいおい、なんだよこれ……)

 両者の動きは、常人のそれを大きく逸脱している。打ち合うたびに火花が散り、一進一退の攻防がひたすらに続く。あまりの凄さに圧倒されて、ただただ、傍観するばかりだった。

「はぁはぁ、はぁ」

「ふー、緊張したぁ」

 と、時間にしてものの数分。濃密なバトルもようやく一区切りついたようだ。肩で息をする勇人に対し、冬也はまだまだ余裕があるみたいだ。

「やっぱりすごいよ冬也くん。僕も強くなったつもりだけど、まだまだ足元にも及ばないね」

「オレもこんなに緊迫したのは初めてです。勇人さんの潜在能力、えげつないですよ」

「でもどうせ、とっておきを隠してるんだろ?」

「どうですかね。そこはご想像にお任せします」

 大した休みを挟まず、元気に2回戦へと突入。相変わらず激しい動きなのだが、両者はときおり笑みをこぼす。その戦いに、余人が入る隙なんてどこにもない。2人だけの空間が、そのあともしばらく続いていった──。


 それぞれが交流を深めていくなか、そろそろお昼どきを迎えていた。いったん拠点へと集まり、みんなで昼食の準備に取り掛かる。米や野菜をふんだんに使い、テーブルには豪勢な食事が並んでいく。やがて全員が席に着くと、賑やかな昼食会が開かれた。

「みんなどう? だいぶ打ち解けた感じだけど、不手際があれば教えてほしい」

「えー、そんなの全然ないって」

「もうすっかり友達だよねー」

「わたし年下なのに、すごく丁寧ていねいに接してくれるんです。いいお姉さんばかりですよ!」

「くぅー、夏希ちゃんいい子すぎっ!」

 夏希は女性陣に囲まれて、屈託のない笑顔を振りまいている。それが演技なのかはさておき、職人同士の交流は順調みたいだ。椿の教え方も好評で、農業関連の話に花を咲かせていた。

「おい、勇人ばっかりズルいぞ! 午後は私の番だからな!」

「ごめん立花。ついつい盛り上がっちゃってさ」

 そんな一方、模擬戦組の輪の中では、剣聖の立花が勇人に絡んでいた。どうやら彼女のお目当ては冬也のようだ。午前は勇人が独占してたからな。早く戦いたくてウズウズしているのだろう。春香や秋穂ともいい勝負だったし、この分ならかなりの熱戦が見られるだろう。

 そんな席の反対側では、桜と杏子さんが顔を寄せ合い……何やらヒソヒソと話していた。

「じゃあ、ゆ……は……して……だね」

「ええ、わた……も……そん……ないわ」

 内容まで聞き取れないが、思い悩んでいる感じではないようだ。異世界談議でもしているのかと、席を立って近づいてみる。

「2人とも、何を話してるんだい?」

「うわっ、びっくりしたー」

「あ、啓介さん。どうも……」

「あれ、来ないほうがよかったかな」

「いえいえ、そんなことないですよ。ちょっとしたお悩み相談、みたいな?」

「桜さんが親身になってくれて助かります」

 なんの相談なのかは気になるが……なんとなく、問い詰めるべきではない気がした。相談ができるほどには仲が深まったと、ひとまずは前向きに捉えておく。

「ところで杏子さん。私も昼から参加していいかな?」

「もちろんですよ。異世界のことも話したいですし、是非来てください」

「いい線まで掴めたので、期待してくださいね!」

「おお、それは楽しみだ。じゃあまたあとでな」

 実際、賢者の魔法には興味があるし、桜の調子も気になっていたところだ。午前の成果を聞きつつ、修行の風景を見せてもらおう。

 結局、私が去ったあとも、春香と椿を呼んで何やら話し込んでいた。きっと女性にしかわからない悩みでもあるのだろう。おっさんはそっと見守るに限るので、これ以上かかわるようなことはしない。

 そして午後の武者修行を再開。私も魔法について教えてもらったり、模擬戦に無理やり参加させられたりと、四苦八苦しながら半日を過ごしていった。

「じゃあみんな、また1週間後に顔を出すよ」

「はい、みなさんもお元気で。また会いましょう!」

 彼らと相談の末、次回からは結界を解除せず、そのまま維持することになった。

 交流が深まり、相手の実力も把握した。敵対することはないだろうけど、万が一の対処は万全。十二分な成果を残して帰路についた。

 村に帰って早々、みんなは教会へと直行する。やはり修行の成果が気になって仕方ないみたいだ。そんなに容易たやすくはないだろうけど、確認したくなる気持ちはよくわかる。

 秋穂、春香、椿と、順番に祈りを捧げていくと──。最後、桜の番になったとき、彼女の体がビクッと震えた。振り返った桜は感極まった表情をあらわに。笑顔で涙をこぼしながら、大はしゃぎする。


Lv46 村人:忠誠99 職業:魔導士〈NEW〉

スキル 水魔法Lv4 念じることでMPを消費して威力の高い攻撃をする。飲用可能。形状操作可能。温度調整可能。

スキル 氷魔法Lv1〈NEW〉 念じることでMPを消費して氷を出すことができる。

スキル 火魔法Lv1〈NEW〉 念じることでMPを消費して火を出すことができる。


「桜、おめでとう」

「っ、ありがとう啓介さん!」

「こんなに早く成果が出るとは……。日頃の積み重ねが効いたんだろうな」

「途中で腐らなくてよかったぁ。めっちゃ嬉しいです!」

 喜びを全身で表現する桜。彼女には『魔導士』の職業と、『氷魔法』『火魔法』の2つのスキルが発現した。さっきチラッと試したところ、水を氷に変換できたし、お湯を沸騰させて気化することにも成功している。

「それにしてもさ。火魔法はどうして発現したんだ? 水とは全く逆の属性だろ」

「あ、えっとですね……。絶対に怒らないで聞いてくださいよ」

「ん? まあわかった。とにかく教えてくれ」

「杏子さんに火魔法を使ってもらったんです。たぶんそれが要因かと……」

「なるほど火魔法か。でもなんでだ? 別に怒ることじゃないだろ」

 発動のコツでも教えてもらったのだろう。実際に目にすることで、熟練度が上がったとしてもおかしくない。それの何を怒ると言うのか、理解できないでいると──。

「全身に浴びてみたんですよ。私に向かって何度も使ってもらって。一応、水の膜を張ってたけど、ほぼ全身火だるま的な?」

「っ、おいおい! 体は大丈夫なのか?」

「火力は抑えてもらいましたし、葉月さんが『聖なる祈り』を発動させてくれました。痛みや外傷はありません」

「にしたって……いや、なんでもない。怪我がないならいいんだ」

「ありがとう啓介さん、わかってくれて嬉しい」

 過程はどうあれ、こうして上級職に昇格できたし、忠誠度も上限にまで達している。相当な無茶をしたようだが、本人の決意を否定する気はなかった。

「桜には世話になりっぱなしだからな。おまえが報われて嬉しいよ」

「はい。これからも頼りにしてくださいね」

「ああ、もちろんだとも。今後の活躍に期待してるよ」

 その日の夕方、さっそく新魔法のお披露目会が行われた。

 村人からは畏怖と尊敬の念を集め、賢者さながらにあがめられる。子どもたちも興味津々、桜の周りをとり囲んで、魔法に魅入られていた。

 今回は桜だけが昇格したけれど、他のみんなも自分のことのように喜んでいる。そして次こそは自分の番だと決意を新たにした。

(みんなも早く報われてほしいけど……。桜のような無茶修行は勘弁願いたい)