異世界生活158日目

 次の日。農業班を中心に、村人総出で田植えを行う。他の作業はすべて休止。ダンジョンの探索も今日だけは中断している。

 それというのも昨日の夕方、ダンジョン班からとある報告があったのだ。なんと10層のボスを倒し、転移陣の解放を成し遂げたらしい。今日はひとまずの区切りとして、村で休息を取ってもらうことになった。

 10階層のボスは『オークジェネラル』。将軍の冠をつけるだけあって、そこらのオークとは比べ物にならない強さらしい。その取り巻きにはオークファイター3匹とオークメイジが2匹。こいつらもかなりしぶとく、みんなは苦戦を強いられたそうだ。

 じゃあ、どうやって倒したのか。そう聞いたところ、冬也たちが興奮気味に語り出す。

「まず開幕はロアだ。ジェネラルを土壁で何重にも囲ってさ! その動きを完全に封じたんだ! そのあとメイジに切りかかっていったら……やつら火魔法を使いやがってよ」

「私の水魔法で相殺できたんですけど、今度は3体のファイターが襲ってきて──」

「目標をファイターに切り替えてさ。メイジのほうを桜さんとロアに任せたんだ」

 取り巻きのレベルはいずれも40前後。当時の冬也たちよりも高く、相手の連携を前に苦戦を強いられる。冬也と春香、それに秋穂が前に出て、1対1の状況に持ち込んで倒した。

「なあ秋穂。おまえも前衛なのか?」

「そりゃあ私だって戦うよ。当然でしょ」

「そ、そうか。なんていうか、すごいな……」

 いわゆるバトルヒーラーってやつだろうか。そこそこ戦えるのは知っていたが、まさか接近戦までこなしているとは──。

「今度はメイジなんだけどさ。相変わらず、バンバン火の玉を放ってくるわけ。らちがあかないし、ロアの土壁にも亀裂が入りだして……」

「そこで私の水魔法です! ピンっとひらめきましてね。冬也くんを水の膜で包み込んだんですよ」

「いきなりでビビったけど、そのおかげでメイジに接近できたんだ。水の魔法剣よろしく、一刀で切り伏せてやったぞ!」

 冬也の全身に加え、剣をも水の膜で包み込む。そして、火の玉を切り裂きながら接近。見事メイジ2体を亡き者に──。残すところは大ボスのジェネラルのみとなった。

 ボスは土壁を突き破ると、雄叫おたけびをあげながら飛び込んでくる。冬也と春香が盾となって、秋穂は後方支援の態勢。桜とロアが魔法を撃ちまくったものの、

「体中が穴だらけになってもへっちゃらでした。さすがはボスって感じですね」

 前衛が応戦しつつ、なおも魔法を放ち続ける魔法職。冬也が一瞬の隙を突いて、ジェネラルの両腕を切り落とす。

「最後は不肖ふしょうこの春香が、敵将の首をバッサリいただきました!」

 ──という感じで。帰ってきて早々、みんなの武勇伝を聞かされた。

 食事中の村人たちは、終始、冬也たちの話に釘付け。大好物の芋を取る手を止めてまで聞き入っていた。ひとしきり話が終わったあとも、次から次へと質問が飛び交い、そのまま大宴会へと突入する。冒険譚を酒のつまみに、夜遅くまで語らっていた。

 なお、待望の討伐報酬は3つ。ジェネラルが装備していた大鉈おおなたと、こぶし大はあろう魔石。それに加えて、極上霜降り肉を50キロほど入手している。さっそくその日に食べてみたところ──。肉の味は極上の名にふさわしく、口に入れた瞬間にとろけてしまった。


 そんなこんなで一夜明け、本日の田植えを迎えている。10階層を制覇してめでたしめでたし。そう思っていたが、この話には続きがあった。

 ──それは今日の昼過ぎのこと。冬也が教会に立ち寄ったのがキッカケだった。

 昼食を終えたラドたちが、日々の祈りを捧げに教会へと向かう。休日だったこともあってか、その日はたまたま、冬也もついていったんだと。

 普段は居間のモニターを使っていたので、わざわざ教会へ行くこともなかったそうだ。かくいう私たちも、教会を設置した日以降はほとんど顔を出していない。

「冬也殿は女神さまに祈らないのか?」

「ん、オレですか?」

「ああ、せっかくここまで来たんだ。感謝の一つも捧げてみては?」

「あー、確かに。たまには祈っとかないと罰が当たりそうですね」

 ラドとそんなやり取りを交わし、何げなく女神像の前で祈りを捧げたとき──。


『職業の派生条件を達成しました』

『魔剣士へ昇格することが可能です。昇格しますか? Yes/No』


 そんなアナウンスが聞こえてきたらしい。いかにも強そうな『魔剣士』という単語にかれ、どうするか迷った末に「はい」と答えた。


冬也Lv41 村人:忠誠97 職業:魔剣士〈NEW〉

スキル 魔剣術Lv1〈NEW〉 剣に魔力をまとわせることが可能となる。


 すると、今まで『剣士』だった職業が『魔剣士』へと変化。新たに『魔剣術』なるスキルを習得する。実際に試してみたところ、剣に魔力を纏わせることにあっさりと成功。剣を包み込むように紫色のオーラが発生した。どうやら流した魔力量により、色の濃さが変化するらしい。濃ければ濃いほど切れ味が増すみたいだ。

 ちなみに、所持していた剣術スキルは、そのまま引き継がれている。ステータスにこそ表示されないが、威力も扱いも今までどおりだと言っていた。

 ──と、こんな隠しイベントがあったもんだから、さあ大変だ。この話を聞いたメンバーが、競い合うように教会へと乗り込む。田植え中だった椿を除き、全員、期待に胸を膨らませた。

 だが、世の中そんなに甘くないようだ。クラスチェンジなんて現象、そう易々やすやすとさせてもらえるわけがない。先に結果を言うと、夏希以外は変化なし。お告げやアナウンスは一向に聞こえてこなかった。

「なんか申し訳ないですね。うへへっ」

「おい、その割には変な声が漏れてるぞ」

「まあいいじゃないですか! ではでは、新生夏希の能力をご覧あれ!」

 両腰に手を当て、ドヤ顔でふんぞり返る夏希。そんな彼女のステータスはこちら。


夏希Lv27 村人:忠誠96 職業:たくみ〈NEW〉

スキル 技巧Lv1 あらゆる素材の加工に上方補正がかかる。完成品に特殊効果を付与(低確率)。


 細工師から派生したのは『匠』という職業だった。おそらくは『ずば抜けた技術を持つ職人』という意味なのだろう。まあ、職業と言っていいのかは怪しいところだが……。

 それよりも注目すべきはスキルのほうだろう。『技巧Lv1』の能力は、『細工』スキルの完全上位互換。対象素材の制限もなくなっている。しかも特殊効果まで付与されるというオマケ付きだ。

「付与される内容にもよるけど、明らかにアタリだよね」

「ああ。武器や防具に付けられたら最高だな」

「アクセサリーなんかもいけそうじゃない?」

 それにしても、なんで夏希だけが昇格したのだろうか。冬也の場合、水魔法を纏ったのがトリガーっぽいけど……。本人に思い当たる節を聞いてみるも、さっぱりわからないそうだ。最近は家具作りに専念しており、特別なことはしていなかった。

「もしかして、複数の職業経験じゃない? 夏希ちゃん、家具以外にもいろいろ作ってたしさ」

 そう言ったのは春香だ。これまで建築や機織りなど、夏希は様々な職種を体験している。それらの熟練度が蓄積され、一定値を超えたのだと語った。

「なるほど熟練度か。その可能性は十分ありそうだ」

「夏希ちゃん、村のために頑張ってたもんね! きっとそのご褒美だよー」

「えへへ。ありがとうございます!」

 思い返せば、これまでたくさんの仕事を任せてきた。それこそ、村の中では断トツのマルチ職人だろう。そのため様々な技能が一定値を超え、匠へと昇格した可能性は高い。

「まあなんにしても、こうして2人が転職できたんだ。私たちにもきっとチャンスがある。今回はそれがわかっただけでも良しとしよう」

 こうして村の教会には、『転職システム』があると判明した。

 まだ知らない機能や恩恵だってあるかもしれない。今まではロクに教会へ寄らなかったが、

「これからはちょくちょく行こう」とみんなで話し合った。