異世界生活156日目
翌日──。今日も数人の仲間を引き連れて、勇人たちの拠点へと向かう。馬車に手土産を詰め込むと、ワクワク気分で御者台に搭乗。手綱を握るラドの合図で村をあとにした。
本日の随行者は、椿とラドとロアの3人。男女のバランスに加え、今回は現地人の紹介を予定している。他にも希望者はいたけれど、ひとまずは見送りとなった。
昨日同様、結界を延ばしながら進んでいく。別に固定してもよかったんだが、彼らには点滅した状態を見せている。変に怪しまれないためにもこのままにしておいた。
「ラド、ロア。相手の顔や特徴を覚えてくれ。たぶん、これから何度も会うことになる」
「はい、お任せください」
「承知した」
道中の魔物は見つけ次第、馬車に乗ったままのロアが土魔法で倒していく。桜の影響なのか、以前に比べてかなり好戦的に見える。まあ、結構な頻度でダンジョンに潜り、オークを簡単に
そんなこんなで砦に到着。物見櫓にいた杏子さんが、こちらに気づいて手を振ってくれた。入り口の手前で馬車を止めると、相手の出迎えを待った。
「みなさん、おはようございます。随分と早い到着でしたね」
「おはようございます。今日はこのとおり、馬車で来たんですよ」
今日は10人総出のお出迎え。昨日とは打って変わり、屈託のない笑顔を振りまいている。いささか不用心だと思うけれど、相手の誠意だと素直に受け取っておく。
挨拶も早々。ラドとロアを目にすると、みんなの視線がウサ耳に集まる。
初めて見る異世界人。それが獣人となればさもありなん。興味津々な彼らをよそに、さっそく自己紹介を始める。
「この2人は兎人族の親子です。縁あって一緒に暮らしています」
「私はラド。途方に暮れていたところを村長に救われた。今は村の戦士として生活している」
「娘のロアです。みなさん、仲良くしてくださいね」
ピョコピョコと動くウサ耳を前に、彼らの視線は釘付けとなる。しばらく呆気に取られたあと、たどたどしく挨拶を返していく。
「では、持ってきたものを確認してください。サイズ調整もしてありますよ」
そう言って荷下ろしを始めたものの、当然、彼らは結界に入れない。いったん結界の外に並べていき、結界越しに拾ってもらう。衣服や防具の試着も兼ねて、持参したもの全てを砦の中に運んでもらった。
それからしばらく経つと、着替えを終えたみんなが戻ってくる。ボロボロの姿から一変、冒険者っぽい凛々しさを感じる。なにせもともとが美男美女揃い。実に様になっていた。
「杏子さん、着心地はどうですか? サイズが合うといいのですが」
「ありがとうございます。全員、問題ありません」
実に5か月ぶりとなる新しい衣服や下着。全員のテンションは爆上がりしていた。いまも服の感触を確かめながら大はしゃぎしている。立花さんに至っては、両腰に剣を携え、ニヤニヤと狂気じみた笑顔を見せる。
「喜んでくれたみたいで何よりです。武具や道具はこれで足りそうですか?」
「いやいや、もう十分すぎますよ! 本当にありがとうございます!」
勇人くんも大層喜んでいるようだ。彼の喜ぶ姿を見て、周りの女性陣が嬉しそうにしている。何ともまあ、うらやま──微笑ましい光景だった。
「それにしても、こんな短期間でよくここまで……。あっ、もちろん良い意味ですよ」
「最初の頃は必死でしたよ。村人たちの協力があってこそです」
「そうですか。村での生活は、さぞ充実してるんでしょうね……」
そう返してきた杏子さん。含みのある言葉の意味は、それとなく察することができた。昨日も少しだけ触れていたが、おそらくは今の人間関係についてだろう。
「ああ、大丈夫ですよ。みなさんの関係はわかっているつもりです」
「そうですか。啓介さんはもうお見通しのようですね」
「他人がどうこう言う権利なんてありませんよ。突然、こんな状況に放り込まれたらなおさらです」
杏子さんは、自分たちのハーレム状態を
場の空気が重くなる前に、さっさと話題を切り替える。
「では、こちらの検証をしてもいいですか?」
「あ、はい。小屋の荷物は移動させました。いつでも大丈夫ですよ」
相手の確認が取れたところで、さっそく物置に向かって拡張をイメージする。が、一向に反応がない。やはり他人の所有物があるとダメなのかも。そう考えていると椿が──。
「まずは道中の結界を固定してみては? 一度に複数の結界は張れないのかも……」
なるほど。そういえば点滅状態にしたままだった。先にそっちを固定しないと、飛び地を拡張できないってことか。一理あるなと思い、杏子さんたちに声をかける。
「杏子さん、いったん今張っている結界を固定してもいいですか? あとで解除しますので」
そう言ってみたものの、相手は何のことだかわかっていないようだ。細かいことは伝えてないし、それも当然だ。仕方なく当たり障りのない程度に結界についての説明をした。
「わかりました。そういうことなら遠慮なくどうぞ」
相手も問題ないと言うので、まずはここまでの道を固定する。と、点滅が止まり、いつもどおりの結界が張られる。続いて物置小屋に向けて敷地の拡張をイメージ。今度は結界が拡がり、無事に点滅状態となった。
「よし、建物は残ったままだな。じゃあ次は固定してみるよ」
結界の中にある小屋は、それまでと変わらない状態で残った。他人の所有物があっても敷地の拡張は可能みたいだ。おそらく、大森林の中であれば制限なく張れるのだろう。
「椿、アドバイスありがとう。おかげで上手くいったよ」
「はい。村の安全性がさらに高まりましたね」
念のため、小屋の中を確認したあと結界を解除しておく。
「みなさん、ご協力に感謝します。無事検証が終わってやれやれです」
「そうですか。正直、とてつもない能力に
どうやら杏子さんは、結界の使い道を正しく理解しているようだ。他の仲間が疑問符を浮かべるなか、彼女だけは真顔でそう答えた。
「これが私の切り札です。もちろん悪用するつもりはありません」
「でしょうね。もしその気だったら、出会った瞬間に
「自分の能力に溺れないよう、普段から気をつけているつもりです」
信用を得られた、とまではいかないまでも……。能力の開示や支援品によって、予想以上に警戒は緩くなったと思う。その証拠に、砦の中を見せてくれたり、海での漁や塩の作り方まで教えてくれた。昨日別れたあと、いろいろ話し合って決めたのだろう。案内はスムーズに行われ、少し大げさに思えるほどの歓迎ムードだった。
それからしばらく、砦の中で雑談に興じ、私も杏子さんと2人で語らっていた。
「それにしても、杏子さんの魔法はすごいですね。うちにも魔法使いがいますけど、複数の属性持ちは1人もいませんよ」
彼女は土魔法の他に、火と水と風の魔法も使用できる。
海沿いの断崖絶壁。これを土魔法で操作し、階段状に降り口を作っていた。なんと、手すりまで付いており、下まで安全に降りられる仕様だった。降りた先には洞窟があり、そこを拠点に塩作りや漁をしている。岩肌を丸ごとくり抜いた洞窟。これも杏子さんのお手製らしい。
「異世界ファンタジーよろしく、いろいろ試して習得したんですよ」
「あー、わかるわかる。私も同じだったよ。それこそ呪文を
「私以外はそういったものに興味がなくて……。最初は恥ずかしい思いをしました」
「うちは椿以外、大好物なやつばかりだよ。そういう意味では運が良かったかもね」
やはり同類同士は話が弾む。近くではラドやロアを囲んで、ワイのワイのとやっている。
「おいしい……おいしいよぉ」
「うう、懐かしい味だ……」
食べきれない量を持ってきたつもりだが、この様子だと全部なくなるかもしれない。
久しぶりに食べた日本の味。それに
「みんな、ちょっといいかな」
勇人たち全員が一斉に私のほうを向く。その表情は穏やかで、警戒心のカケラもない。
「私がみんなと仲良くなりたい一番の理由、それを今から話したいんだ」
私がそう言っても、ほとんどの人はポカンと呆けているだけだった。
「仲良くなりたい理由、ですか?」
かろうじて杏子さんがそう呟いた。
「実を言うとさ。私は鑑定のスキルを持ってるんだ。悪いけど能力を調べさせてもらったよ」
「まあ、相手の能力を把握するのは当然ですよね」
「それで君たちの職業とスキルを知ったんだが……少し問題があってさ」
「え、ちょっと待ってください。スキルはわかるけど、職業って何ですか?」
杏子さん以外の人は、頭の上にハテナマークを浮かべていた。「このおっさん、急に何を言ってるんだ?」と、鑑定のことを含めて、たぶんそんなことを思っているのだろう。
私がどう説明しようか迷っていると、
「それって戦士とか魔法使いみたいな、いわゆるゲーム的なアレですか?」
「ああ、大体そんなところだと思うよ。何種類あるのかは知らないけどね」
「なるほど。それで私たちの何が問題なんでしょうか」
「この中の4人がさ、特殊な職業を持っていたんだよ。杏子さん、あなたもその1人だ」
それを聞いた杏子さんは一瞬驚いて固まった。が、すぐに立ち直ると──、
「私の職業って、もしかして『賢者』ですか? スキルは『全属性魔法』とか」
「おおー、すごいね。私の鑑定にはそう表示されていたよ」
「やっぱり……。どおりで都合よく魔法が──」
「他にも、立花さんは『剣聖』、葉月さんは『聖女』、勇人くんに至っては『勇者』の職業を持っている」
さすがにこれくらいは知っていたのか、3人とも自分の職業を聞いて驚いている。
「立花さん、さっきも剣に執着してただろ? 葉月さんも、誰かの怪我を治したことは? 勇人くんもさ、なんでもやれちゃうような──全能感みたいなものを感じないか?」
「あ……」
「じゃあ、あのときのはアレって」
「僕もそう言われると思い当たることが……」
どの程度かはわからないが、3人とも思い当たる
「他の6人にしてもそうだ。特殊なスキルではないにしろ、それぞれがとても貴重なスキルを所持しているよ」
それを聞いて喜ぶ人や安堵する人、まだよくわかってない人と、反応は様々だが、貴重という言葉に浮かれていた。
「まるで誰かが仕組んだ、そう思えるほど都合のいいスキル編成だ。物語で言えば、君たちは完全に主役だよ」
しばしの沈黙のあと、杏子さんが気を持ち直して返してくる。
「でもみんな、突然の転移でした。それこそ、神のお告げなんかもありませんでしたよ?」
「そのへんのことは私もわからないな。お告げを忘れているだけなのか。何か理由があって説明がなかったのか。案外、勇者の特性で集まったのかもしれない」
「あー、主人公補正ってやつですね。自分たちが言うのもアレですけど、勇者の異世界ハーレムものって感じで……」
ハーレムという言葉に反応して、勇人くんが少し動揺している。うっかり口を滑らせたのか、杏子さんは申し訳なさそうにしている。
「まあ、勇人くんが心の支えだったんだろう。それが悪いなんて、これっぽっちも思わないよ」
「あ、そうだ魔王……勇者がいるなら魔王もいますかね?」
「いや、全然わからん。この世界に呼ばれた理由すら謎だし。私もそれが知りたいよ……」
「ですよねー」
少し素の口調が出てきた杏子さんを尻目に話を戻す。
「とにかく、これがみんなと仲良くなりたい理由だ」
「私たちが大きな力を持っているから……ですか」
「そう、ぶっちゃけると、恩を売っておきたいってこと。もちろん、敵対するなら別だよ?」
「いえ、今さら敵対とか考えませんよ。ねえ、みんな?」
杏子さんが周りを見渡すと、他のみんなも頷いて返した。これまでのおもてなし効果は十二分にあったみたいだ。
「そんなわけで。鑑定結果を伝えようと思うんだけど、どうかな? 自分たちの力を知れば、これからの生活が楽になるし、戦力アップにもつながると思う」
全員が
ユニークスキル 全状態異常無効Lv━━ あらゆる状態異常を無効にする。
スキル 剣術Lv2 身体強化Lv2 光魔法Lv1 治癒魔法Lv1 超回復Lv2
直感Lv2 幸運Lv3 解体Lv2 料理Lv1 空間収納Lv2
ユニークスキル 全属性魔法Lv2 念じることで全ての属性魔法を発動できる。※レベルにより威力が上昇。
スキル 消費MP減少Lv1 魔法使用時のMPが10パーセント減少する。
ユニークスキル 聖剣術Lv2 剣の扱いに
スキル 身体強化Lv2 身体能力を強化する。※常時発動
ユニークスキル 聖なる祈りLv2 あらゆる傷や部位欠損を回復する。あらゆる状態異常、病気を回復する。※レベルにより効果と範囲、回復速度が向上する。
スキル 消費MP減少Lv1 魔法使用時のMPが10パーセント減少する。
主要な4人の鑑定結果はこのとおり。他の6人も、農民、細工師、漁師、鍛冶師、調理師と、まさに万能詰め合わせ集団という構成だった。
「疑うわけではないですけど……。なんていうか、ユニークという割には物足りないような」
「あー、最初は私もそう思ったよ。たぶんスキルレベル次第で増えるんじゃないかな」
「なるほど、今後に期待ってことですか」
「今までは自分の能力を知らなかっただろ? 持ち味を
私の村スキルがそうであるように、次々と能力が解放されていくのだろう。というか、この程度で留まるとは思えない。なにせ彼らは勇者一行、どこまでも強くなるはずだ。
「あの、啓介さん……」
そのあとも解説を続け、一段落つきそうな頃に、勇人が申し訳なさそうに近づいてくる。
「空間収納のこと、黙っててすいません」
「いや、それで正解だよ。
「でも、啓介さんはいろいろ話してくれたのに……」
この勇者、本当に人のいい性格をしている。
私はそんなことを考えつつ、勇人の謝罪を素直に受け止めた。
「さて、と。スキルの説明も終わったし、そろそろお
「えっ、もう帰っちゃうんですか」
「村のみんなが待ってるからな。それに、あまり長居すると迷惑だろ?」
「っ、そんなことないですよ! もっといろいろ話したいし……」
「そっか。じゃあまた会いに来るよ。今度は米でも持ってこようかな」
米のワードが出た瞬間、女性陣から歓声が沸き起こる。昼に出したおにぎり効果は抜群のようだ。胃袋をガッツリつかんだところで、今日のところは別れることに。
「勇人、来るときは必ず結界を進んでくる。それ以外は敵だと思ってくれ」
「わかりました。啓介さんたちもお気をつけて」
「ああ。何かあったら川沿いを北へ向かえ。村で対処できることならなんとかする」
その帰り道──。
満足のいく成果を土産に馬車を進める。軽くなった荷台に乗り込み、椿たちと言葉を交わす。
「今日はお疲れさま。みんなのおかげで上手く接触できたよ」
「我は何もしておらんが……まあ、獣人に興味があるのはよくわかった」
「でもお父さん、嫌な感じはしなかったでしょ。聞き耳でも悪い話は出なかったしさ」
「私は村での生活を聞かれました。みなさん、かなり興味をお持ちでした」
今回の人選は我ながら上手くやったと思う。優しげな獣人の親子は大人気。椿による村の紹介も見事なものだった。次回もこの面子で向かいたいところだが──。
(まあ、他の連中から不満が出るだろうな。とくに春香とか夏希とか……)
村に到着した頃には、村人のほとんどが広場に集まっていた。
夕飯の準備をする人や、その周りで談笑している人たち。いつもの賑やかな光景を目にして自然と心が
「おーい、みんなー。10層のボス部屋を見つけたよー」
と、しばらくして、上機嫌の春香を先頭に攻略班の面々が戻ってきた。夏希が走って迎えに行くと、すぐに桜と秋穂が歓声を上げる。
「うわっ、久々の海の幸!」
「お魚大好き。早く食べたいっ」
どうやらこの2人、魚料理が大好物みたいだ。その存在を知るや否や、速攻で着替えに飛んでいく。他のみんなが風呂へと向かうなか、2人は席に着くなり頬張り始める。塩焼きや魚介のスープなど、出来立ての料理をあっという間に平らげていった。
「にしても、まさか勇者だったとはなぁ。オレ、全然気づかなかったよ」
「勇者ならハーレムも納得だよね。ジャンルで言うと、善良系勇者のハーレムものかな?」
「おい夏希、ジャンルとか言うなよ。勇人さん、優しくて良い人なんだぞ」
「冬也って、村長にはタメ口なのにさ、勇者にはさん付けするんだね。ハーレム野郎なのに」
「秋穂まで……オレも一般常識くらいあるっての!」
「いや、そうでもないでしょ」
「説得力皆無だよね」
新鮮な魚に
一方、そんな私の隣では、桜が不満そうに膨れている。「なぜ秘密にしていたのか」「私にだけは教えてくれてもいいんじゃ?」と、
「桜はダンジョンを攻略中だろ? 余計な情報を伝えるのはどうかと思ったんだよ」
「まあ、それはわかってますけど、せめてちょっとだけでも──」
まだ拗ねているが、不信に感じているわけではなさそうだ。隠していて悪かったと、ひとまずは謝罪を述べておく。すると今度は夏希が──。
「ねえねえ、じゃあわたしは? 毎日ずっと村の中にいるんですけどー」
こいつの場合は完全にダル絡みだろう。冬也に続いて、私にまで絡んでくるとは……。
「なあ。お前に話したとして、だ。誰にも言わずにいる自信はあるのか?」
「えっ。……ど、どうかな、大丈夫なんじゃない?」
全然まったくこれっぽっちも大丈夫ではない。こいつなら確実に言いふらして回るだろう。
「まあとにかく、掴みは上手くいった。しばらく様子を見るつもりだからよろしくな」
「あれ? 村人として受け入れないんですか?」
桜は受入れに積極的じゃないことを疑問に思ったみたいだ。
「決して悪いやつらではないよ。ただ、村に住むのは難しいだろうな」
「もしかして、私たちとの確執を考えてます?」
「いや、村のみんなは上手く付き合ってくれると思うよ。勇者がハーレムを続けても、それほど気にしないだろう」
「ではなぜ? 戦力強化のチャンスですよね」
勇者を中心に完成されたコミュニティ。それが村に移住してくればどうだろう。それぞれが分業となり、勇者と一緒にいる時間に差が出てくる。そうなれば必ず
今でも多少の不和はあるだろうが、村に来れば目に見えて膨らんでいく。あとに待っているのは争いか離別か。どう転がっても悪い未来しかない。そうみんなにも伝えた。
「あとはアレだ。私の指示で動くことになるだろ?」
「あー。先導者が変われば、納得しない人も出てくるでしょうね」
「その問題が解決しない限り、受入れは厳しいだろうな。間違いなく派閥ができる」
「納得しました」
「なるほどねー」
「まあ、なるべく友好的にいこうよ。良き隣人としてつながりを持てればいいさ」
戦力的にはこれ以上ない逸材。されど、今の私にはあの集団を制御する自信がない。今できることはせいぜい恩に着せること。そして、頼れる味方を演じることくらいだった。
〈南の勇者たち〉 啓介と2回目の会合後
今日の昼過ぎ、啓介さんたちが自分の村へと帰っていった。
新品の服や靴、よく切れそうな武器、他にもいろんな道具をもらって、みんなは大喜びしている。何より衝撃だったのは、日本で食べ慣れた米を見たときだ。「もう二度と食べられない」そう思ってただけに、涙がこぼれるほど嬉しかった。
夕飯となった今も、昼に食べきれなかったパンやおにぎりを主食に、みんなで夕食を囲んでいるところだった──。
「勇人さん、食べないんですか?」
「うん? 食べてるよ。ちょっと考えごとをしてたんだ」
「それって、あの人たちのことですか?」
今日、鍛冶スキルを所持していることが判明した
「とても良い人たちだったな、ってね」
「そうですね。でも私たちは勇人さんがいれば十分ですよ」
「うんうん!」
「そうだよー!」
「ありがとう。僕もみんなと出会えて良かったよ」
杏子さんからハーレムという言葉が出たときは、正直、後ろめたい気持ちでいっぱいだった。まあ、ほとんどの子とそういう関係になってるから、実際そのとおりなんだけど……。
でも啓介さんは、それを
「あー、勇人また考えごとしてるー」
「ごめんごめん。ところでみんなは彼らのこと、どう思った?」
みんなはどうなんだろう。それが気になって聞いてみると、
「いい人たちだと思うよ? 服とかいっぱいくれたもん」
「私たちのことをエロい目で見てなかったしさ。前のやつらと全然違ったよね」
「わたしはスキルが知れて良かったかな。勇人の役に立てそうだし」
杏子さん、立花、葉月以外の6人は、理由はどうあれ好印象のようだ。確かに良いものをたくさんもらったし、スキルを把握できたのも助かった。
「立花や葉月はどう? 2人も楽しそうに話してたけど」
「んー、あたしは大丈夫だと思うよ? 一応警戒はするけどね」
「そういえば立花、剣をもらってご満悦だったよね。ひとまず信じてみようって感じかな?」
「そそっ。今日からはこの剣でみんなを守るよ!」
自分が剣聖だと知り、彼女はさらに自信をつけていた。今までも狩りを頑張ってくれていたし、僕にとっても頼れる相棒みたいな存在だ。
「私も自分の能力がハッキリわかった。これからいろいろ試して頑張る」
「葉月に手当してもらうと、傷がうそのように消えるもんね。これからも助けてほしい」
「任せて。みんなのために立派な聖女になる」
啓介さんが言うには、どんな傷や病気でも治せるらしい。僕らにとってかけがえのない存在、まさに生命線といった感じだ。
「杏子さんも、交渉を任せてしまってごめんね。普段もそうだけど、今回は本当に助かったよ」
「勇人も上手に話してたと思うわよ。今回はいろんな意味で本当に助かったわね」
「えー、なんか含みのある言い方じゃん。なんかあんの?」
「含みも何も、みんな殺されなくて良かったねって意味よ」
僕たちが少しでも敵対してたら、その場で全員殺されていただろう。と、彼女はみんなの前でそう言い切った。
「でもさー。うちには勇人と立花がいるし、杏子さんの魔法もあるじゃん」
「甘すぎよ。ヘタしたら、啓介さん1人に全員やられていたわ」
「それってあの結界みたいなやつのこと? まあ守りには強いと思ったけどさ」
「単純にレベルの差よ。たぶんあの人、私たちの何倍も強いわよ。結界の外に出てきたのも、絶対に負けない自信があるからでしょ」
確かに、僕も同じことを感じていた。彼は常に余裕を持ち、自信に満ちたオーラみたいなものを放っていた。もちろん嫌な印象は一切なかったけど、恐ろしく強いことは確かだ。
「でもこっちには勇者がいるんだしさ。それ目的で近づいたって暴露してたよね?」
「まあまあ落ち着いて。彼は相当に強いと思う。その上で仲良くしてくれたんだよ」
「まあ、勇人が言うならそうなのかな。私にはよくわかんないけど」
一部の子はまだしっかりと認識できていないようだ。今の僕たちでは、彼らの敵にすらなれないことに──。
「とにかく、相手の力量はしっかり
「そっかー。杏子ちゃんごめんね。私の考えが甘かったよ」
「いえ、私の言い方も悪かったわ。あまりにも差がありすぎて困惑しているのよ」
多少の食い違いがあっても、最後はお互いを尊重している。それぞれ思うところはあるだろうけど、表面上は上手くやっているんだと思う。
「話は変わるけどさ。勇人は街へ移り住む気はあるの?」
誰かしらが空気を読むように、話題が街のことに移る。
「そうだね。生活は豊かになるだろうけど、正直まだ決め兼ねている。懸念事項もあるしね」
街にいる日本人のこと、人族との戦争のこと、何より自分が勇者という存在だということ。
啓介さんの話によれば、街では日本人の職業とスキルを管理しているらしい。教会で能力を鑑定されれば一発でバレてしまう。そうなれば、必ず議会からの接触があると言っていた。もちろん優遇はされるだろうが、身動きは取りづらく、戦争にも絡むだろうとのこと。
「勇人、街にはダンジョンがあるらしいぞ。レベル上げには好都合なんじゃないか?」
「立花の言うことはわかるよ。僕らも早く力をつけないとね」
「川の東にいたオークと戦ってもいいと思う。立派な武器や防具もあるし、怪我は私が治すよ」
葉月の治癒魔法があれば心強い。僕もやれそうな気がするし、啓介さんから魔物の情報をもらっている。無計画のまま街へ行くのは自滅行為だ。まずはみんなを守れるだけの力が欲しい。
それからみんなで話し合った末、しばらくはここに留まってオークを狩る流れとなる。
「杏子さんもそれで構わないかな?」
「ええ、今すぐ街へ行くのはリスクが高いと思う。私も賛成よ」
「そっか。ありがとう」
こうして僕たちは決意を新たに動き出す。今はまだ軟弱だけれど、1日でも早く強くなってみせる。そしていつかは啓介さんのように、みんなを引っ張れる存在になろう。
僕はそう心に誓った──。