「もちろんです。私たちの村もかつて襲撃を受けました。お互い警戒したままで構いませんよ」

「……なら、このままお引き取り願いたいのですが」

 当然こうなることは予想していた。だが、このまま引き返すわけにはいかない。なんとか取り次いでもらえるよう交渉を試みる。

「そちらがそう言うなら引き返します。ただ、情報交換だけでもどうですか? もちろん、言える範囲のことで構いません」

「情報交換? それに何の意味があるんですか」

「そうですね。このまま立ち去った場合、お互いの存在が脅威となります。なので、少しでも素性を明らかにして、敵対心を薄めたいんです」

 今ならレベル差で全員殺すことも可能だろう。でもこの人たちは迂闊うかつに手を出せない存在だ。森から現れた3人を見てそう確信していた。

「でしたら、まずそちらの情報を提示してください。それに合わせて検討します」

「それで十分です。では、まずは私たちの経緯から──」

 ひとまず話を聞いてくれるらしい。私はゆっくりと、転移してからの経緯を話していく。むろん隠すところは隠し、当たり障りのないところだけを語っていった。


 それから30分ほど話しただろうか。

 相手の状況がある程度、というか、思った以上に詳しく知ることができた。

 最初こそ警戒されていたが、徐々に緊張がほぐれ、いろいろと聞き出すことができた。たぶん、まともに会話できる相手だと認められたのだろう。襲撃の件も聞いたが、下卑たやつらばかりだったと息巻いていた。

 彼女たちの話によると、転移した日も状況も、私たちと全く同じ。神やらなんやらとの接触もなく、突然この森へ転移したらしい。転移直後は、いま話している4人がたまたまこの場に居合わせたようだ。

 とはいえ、全員が初対面で、何の関係性もないと言っている。何日かは必死で生き延びていたが、ある日杏子さんが魔法を使えると判明。それ以降は生活が安定し始めた。

 話を聞く限り、杏子さんは私たちと同類のようだ。異世界転移にすぐ思い至って、自力で魔法を見つけたのだと。雰囲気で言えば桜に近い感じだろうか。春香ほど野性的ではない。

「それで啓介さん、街はそんなに危険なんですか? 日本人がたくさんいるなら、むしろ安全な気がするんですけど……」

「先ほども言いましたけど、人族との戦争が近いようです。あなたたちに何かあって、あとで恨まれるのは御免ですからね」

 街の存在を教えたとき、4人は大層驚いていた。どこまでも続く森を抜け、あるのかも不明な街を探す。そんなことは無謀と考え、半ば詰んでいる状態だったらしい。今回、私からの情報を得たことで、街への進出を考えている様子。

「ここでの生活も悪くないんですけどね。環境の良い場所へ移りたい気持ちはあります」

 杏子さんの発言に、他の3人もウンウンと頷いている。

「うちの村からなら、歩きでも1日かからず到達できますよ。街までの道も開拓してあります」

「街の存在がわかって安心しました。前向きに検討したいと思います」

 と、ここにきて初めて、若い男が口を開く。名前は勇人ゆうと18歳の超絶イケメンだ。見た目はボロボロなのに、爽やかな雰囲気を醸し出している。

「あの、僕からもお礼を。貴重な情報に感謝します。こちらばかり情報をもらっちゃって……」

「私のほうこそ。友好的に話せたのは初めてです。正直、ほっとしています」

「僕たちもです。今後も仲良くしてください」

 向こうの警戒はかなり緩んできた。そろそろ頃合いだと思い至り、本題へと移る──。

「あの、実はみなさんに提案があるんです。聞くだけ聞いてみませんか?」

「提案ですか? まあ聞くだけなら」

「先ほどの話で聞いたあの建物。あそこに結界を張らせてほしいんです」

 これまでの会話で、初期に住んでいたというボロ小屋の存在を知った。現在は物置きと化し、放置したままとなっている。『他人の所有物に結界を張れるのか』これを試す大チャンスだ。この機を逃すと、次にいつ試せるかも不明。なんとしても通したい案件だった。

「結界を張っても解除はすぐにできます。ただ、建物が消えてしまうかもしれません」

「みんな、どうだろうか。僕はいいと思うんだけど」

 仲間の意見をちゃんと聞くあたり、オレ様ハーレム系の主人公ではないようだ。一人称も「僕」だし、物腰もかなり柔らかい。

「私はいいと思うわよ。やろうと思えば、私たちの拠点だって占拠できるはずだもの。わざわざ確認をしてくる時点で、誠意は十分感じられるわ」

 そう発言した杏子さん。なるほど頭もよく回るようだ。状況を的確に把握している。

「あたしは、勇人がいいっていうなら構わないよ」

「わたしも勇人に合わせる」

 残りの女性、立花りっかさんと葉月はづきさんも同意。勇人に依存しているみたいだが、そのあたりの事情はこの際どうでもいい。

「啓介さん、やってみてください。僕もどうなるか興味があります」

「ありがとう。ではこちらからの対価として──」

 村で作った衣服と生活用品、それに加えて武器や防具を提供することに。今日はいったん村へと戻り、明日の同じ時間に伺うと伝えた。

「え?」

「新しい服……」

「武器までくれるの?」

 そうつぶやくと、4人は目を丸くしてほうけていた。どれも彼らにとっては必需品ばかり。きっと喉から手が出るほど欲しいだろう。ボロ小屋一つで手に入るのなら安い買物だ。

「4人分──いえ、5人分ならすぐに用意できます。気にする必要はないですよ」

 櫓の上にいる女性をチラ見して、人数を訂正する。

「……そうですか。とてもありがたい提案です」

 杏子さんはそう言ったあと、3人と顔を見合わせている。ここまで言えば、砦に隠れている人の分も要求してくるはずだ。そう思っていると案の定──。

「啓介さん、隠していてごめんなさい。実はあと5人いるんです……」

「いえいえ、警戒して当然ですよ。では10名分用意しますね」

 相手に後ろめたさを感じてもらい、しっかりと恩に着せた。初顔合わせでこれなら上出来の部類だろう。結局、10人が顔を出し、簡単な自己紹介を済ませたあと村に戻った。彼らの話によれば、杏子さん以外は全員10代後半。杏子さんは25歳だと言っていた。ちなみに勇人以外はすべて女性。まるでりすぐったかのように、美しい人ばかりだった。

 村に戻ったあとは、ベリトアとベアーズの2人に装備の微調整を頼んだ。私たちも明日に備え、輸送の準備に取り掛かる。

 夕飯を交え、南に日本人がいたことを説明したのだが……。うちの女性陣は、「やっぱりいたのかハーレム野郎」とあざ笑っていた。「男性は随分とイケメンでしたよ」という椿の言葉を発端に、話はさらに盛り上がっていく。

 本性は知らんが割といいやつっぽかったので、ちょっと勇人がかわいそうに思えた。

 あ、それと念話については問題なかったよ。ダンジョンの中でも街にいても、しっかり通じることを確認。今後も大いに役立ってくれるだろう。