異世界生活152日目

 奴隷たちが村に来てから2日が経ち、残り10名の受入れも無事に完了した。

 受入れ当日、全員を奴隷から解放したとき、まずは5人の忠誠度が上がった。そして翌日にはさらに3人。残った2人も、今日の朝には村人となった。そもそもの話、奴隷から解放されるだけでも破格の好条件だ。それに衣食住を約束すれば、信用を得るのもさほど難しいことではない。

 今回受け入れたのは、成人男性12名と成人女性8人。種族は猫人、犬人、狼人、狐人で、それぞれ5名ずつの4種族構成となる。新たな村人たちと話し合った結果。犬人と猫人の男性6人が、採掘作業を申し出てくれた。

 狼人の男性3人は戦闘職を希望。ダンジョンの存在を知るや否や、嬉々ききとして参加の意を示した。どうやら狩猟本能が高いらしく、村の戦力として貢献したいそうだ。今後はラドの下で戦士団として働くことになった。

 次いで狐人の男性3人には、建築班としてルドルグの下で作業をしてもらう。兎と狐、日本のイメージだと立場が逆だが、彼らに言わせれば全く関係ないらしい。

 最後に女性陣に関しては、農作業に6人、機織り作業に2人を割り振っている。これで農地の拡大にも目途が立ち、あとは敷地拡張のアナウンスを待つばかりとなった。


 そんな現在、私は万能倉庫の前に来ている。椿とメリナードが立ち会うなか、万能倉庫のサイズを広げていく。

「椿、広さはこれくらいでいいか?」

「問題ありません。内装の整備はこちらで進めておきます」

 村の人口が72人に増え、かなりの大きさまで拡張できるようになった。物流倉庫並みの建物を見て、商人のメリナードは驚きの声を上げている。

「それで、調理関連はどうなった? 今後も椿が担当するのか?」

「いえ、すべて兎人の女性陣に任せますよ。私はお手伝い程度になると思います」

 今後は兎人の4人を中心として、朝昼晩の当番制で調理を行う。4人は専属の料理人となり、足りない分はその都度補充するそうだ。

「そういえば椿、パン工房を開く予定は?」

 麦が採れるようになって以来、食事にパンが並ぶようになった。日本のものと比べても遜色そんしょくのない出来栄え。椿自家製の天然酵母がそれを再現している。日本での経験を活かし、パン屋さんでも開いたらと聞いてみるが……。

「将来的にはやってみたいですね。でも今は啓介さんをサポートしたいです」

 彼女には農業全般に加え、物資の管理を全て任せている。そんな忙しい中では、パン作りに専念できないのだろう。片手間にできるものではないし、ちょっと配慮が足りなかったようだ。

 感謝と謝罪を伝えたところ、椿は首を何度も振る。今の暮らしは充実しており、村への貢献に誇りを持っているらしい。任された仕事に、自分の存在意義を感じているそうだ。

「村長。そのことなのですが、私からも一つよろしいですか」

「どうしたメリナード、遠慮なく言ってくれ」

 メリナードが言うには、村の物資管理をメリマスに任せてほしいとのことだった。

 なんでも、自分の妻と息子夫婦を、この村に住まわせるそうだ。村にいれば安全だし、家族の拉致らちなどを防ぐことができる。余計なトラブルのせいで迷惑をかけたくないらしい。

「私だけであれば、ウルガンやウルークがおりますので。何かあっても、見限っていただいて構いません」

 何かあったときは私が本当に見捨てる。そう理解した上での発言なのだろう。メリナードの表情からは、確固たる意志を感じる。

「わかった。そこまで言うなら構わない。だけど、椿はどう考えてる?」

「そうですね。メリマスさんに管理していただくのが最善でしょう」

 商人であれば在庫管理はお手のもの。メリナードとの調整も上手くいくし、村の誰よりも適任だろう。と、そんな感じのことをつらつらと言い放った。

「でもいいのか? さっき言ってた村への貢献とか誇りとか。それこそ存在意義なんかは? 言い方は悪いけど、仕事を奪われることになるだろ」

「まあ、そうですね。この際だから正直に言いますけど……」

 そういったきり、彼女は目を閉じて沈黙する。どう続きを話そうかと整理しているようだ。

「初めての村人であること。そして同じ日本人であること。何より、忠誠度が最も高い村人であること。私は、村長が最も信用している存在だと自負しています」

 確かに私自身、誰が一番のり所かと問われれば、まず椿の名前を挙げるだろう。それは村人にしても同じ。大多数の者がそう思っているはずだ。

「何かを他の方に任せたところで、自分の価値が下がるとは思っていません」

 椿は視線を逸らすことなく、堂々とした態度で言い切った。

「なるほど、確かにそのとおりだな。一番心を許せる存在はおまえだよ」

「ありがとうございます」

 笑顔で返す椿に、そこはかとなく凛々りりしさを感じた。


『ユニークスキルの解放条件〈忠誠度上限〉を達成しました』

『能力が解放されました』

『敷地の拡張が可能になりました』


「うわっ、びっくりした……」

「啓介さん? 大丈夫ですか」

 感慨に浸るのもつかの間、すっかりご無沙汰だったアナウンスが頭に響く。

 新たな能力が増え、念願だった敷地の拡張もできるらしい。解放のタイミング的に、椿の忠誠度が上限に達したのだろう。そのことを2人に伝え、まずは物資管理の件を片付ける。

「メリナード。椿も問題ないようだし、物資の件はメリマスに一任する」

「はい。精一杯やらせていただきます。椿さんにも感謝を」

 最近得意の『丸投げ』を発動して、諸々の処理をすべて任せる。今後はメリマスが物資管理を担当。メリナード以外の家族は村へ定住することになった。

「話は変わりますが──。椿さんは村長代行として活躍なさっているご様子。この際、みなの前で宣言したほうが良いのかもしれません」

「宣言? そんなの必要あるかな? みんなも大体わかってると思うけど」

「いえ。ここは明確にするのがよろしいかと。任命されたほうも動きやすいですよ」

「なるほど、確かにそうかもしれん。ちょっと考えておくよ」

 ようやく話が終わると、メリナードは家族のところへ。私は椿を連れて居間へと向かった。

 実に47日ぶりとなるスキルアップ。足早に到着すると、期待を込めてモニターに触れる。


啓介Lv42 職業:村長 ナナシ村 ☆☆☆

ユニークスキル 村Lv8(72/1000)

『村長権限』『範囲指定』『追放指定』『能力模倣』『閲覧』『徴収』『物資転送』

『念話』〈NEW〉忠誠度が90以上の村人と念話が可能になる。

村ボーナス ☆豊かな土壌 ☆☆万能な倉庫 ☆☆☆女神信仰


「おお!」

「これはすごいですね!」

 表示されたその内容に、思わず歓喜の声が漏れる。『念話』といえば、念じるだけで意思疎通ができる超便利スキルだ。ネットもスマホもない世界において、計り知れない価値がある。もしダンジョンや街でも通じるのであれば大当たりの能力だ。

『椿、私の声が聞こえるか』

 さっそく椿に念話を試すと、一瞬ビクッと驚いたあとに返答がくる。

『とても不思議な感覚ですね。頭に直接聞こえる、とでも表現したらいいでしょうか』

『ああ。アナウンスもこんな感じで聞こえてくるよ』

『なるほど、そうだったんですね。なんとなくゾワゾワして変な感じかも?』

 念話の確認ができたところで、ひとまず通常の会話に戻す。

「いやいや、これは便利だわ。せっかくだし、ダンジョン組にも試してみようかな」

「いや、どうなんでしょう。戦闘中だと危ないかも?」

「……やめとくか。こんなことで怪我でもさせたら目も当てられん」

「じゃあ、夏希ちゃんに送ってみましょうよ。村の中なら安全だと思います」

 確かに彼女なら、今日も工房にいるはずだ。よほどのことがなければ大丈夫だろう。遠距離の念話は後日にして、まずは村の中で通じるかを試みる。

『夏希、夏希聞こえるか? 私だ、啓介だ』

 何度か問いかけてみたのだが、一向に返答が来ない。村の外へは出ていないはずだし、忠誠度も十分足りている。となれば、使い方がわからないってことか。

『今、新しく覚えた能力で話しかけている。聞こえたなら頭で念じてみてくれ』

 すると、すぐさま気の抜けた声が聞こえてくる。

『あーあー。聞こえますかー。こちら夏希、現在は鍛冶工房にいます。どーぞー』

『さっきスキルレベルが上がったんだ。敷地拡張も試すからさ。そのときは手伝ってくれ』

『オッケー。りょうかいでーす』

 夏希は大して驚きもせず、スキルが上がったことにも一切触れなかった。いつもどおりと言えばそれまでだが、なんとも順応が早いことで……。

「さて、と。とりあえずつながったよ。ダンジョン班との念話はまた今度にしよう」

 そう椿に話しかけると、彼女はステータスを確認しているところだった。忠誠度の数値を指さして、渾身こんしんのドヤ顔を披露する。まるで「私が一番乗りだ」と言わんばかりだ。

「椿、これからも私を助けてくれよ」

 黙って頷く彼女は満足そうに微笑んでいた。


 村人たちと昼食をりながら、敷地拡張のことを伝える。

 午後からは基本自由行動。村人たちにも拡張するところを見てもらうことに。いざというときに驚かないため、そして能力を誇示して忠誠度を高める目的もあった。

 食事を続けながら、忠誠度が90以上の面子を見回す。椿と夏希、ルドルグとベリトア、それにメリナードがいる。たぶんメリマスもギリギリ超えているだろう。

『みんな、私の声が聞こえるかな。聞こえたら頭で念じてみてくれ』

 複数人を指定した場合、同時に伝達できるかを検証する。

『さっき覚えた念話の能力だ。このことは秘匿ひとくしたいから声には出すなよ』

 そこまで言ったところで、対象にした全員がこちらを向く。

『ねえこれってさ。わたしの声もみんなに届いてるの?』

『あ、それは気になるな。みんな、夏希の声は聞こえてるか? 聞こえてたら答えてくれ』

 そう問いかけると、他のみんなが一斉に話し始める。声がダイレクトに届くせいで、ちょっと頭がクラクラする。が、ひとまず全体通話も可能だとわかった。

 いろいろと試してみた結果。まず、椿や夏希のほうから私に念話を送ることはできた。そして私を交えた場合のみ、村人同士でも念話が可能。村人同士だけでの念話はできなかった。

『これはおおやけにできませんね。村長経由だとしても、とてつもない価値があります』

『ああ、メリナードの言うとおりだ。みんなもそのつもりで注意してくれ』

 通信手段が手紙しかない世界だ。即時の情報伝達は、これ以上ない武器となる。そしてその真価は、秘匿してこそ最大限に発揮されるだろう。

 ひとしきり検証したところで、久しぶりに解放された敷地の拡張を試す。

 村人たちを引き連れて、村の南端へと歩いていくと──。

「村長。結界の先に人らしき者が1名。森の中に潜伏しています」

 結界の近くまで来たところで、斥候のレヴから報告を受ける。境界から20メートルほど先に誰かが潜んでいるらしい。ここからだと見えないが、わずかな息づかいが聞こえるそうだ。

『メリナード、今の聞こえてたよね。悪いけどウルガンとウルークに協力してほしい』

『わかりました。手傷を負わせても構いませんか?』

『ああ、もちろんだ。死なない程度なら好きにしていいよ』

 すると2人が両隣に待機。警戒する素振りも見せず、私を護衛しながら自然体を装う。

「今から結界を拡張する。森が消えたら制圧してくれるか?」

「問題ありません。拘束が難しい場合はご勘弁を」

 2人と小声でやり取りをしたあと、村のみんなにも声をかける。

「それじゃあみんな、今から結界を拡張するぞ。危険はないけど、びっくりさせたらごめんな」

 そう前置きしてから結界を限界まで拡張。見渡す限りの広大な森が一瞬にして消え去った。

 と同時に、ウルガンとウルークが駆け出していく。対象は木の上にいたらしい。突然の変化に対応できず、落下して地面に伏した。

 ドサッと音がした頃には、対象の目前まで距離が詰まる。倒れている男に接触すると、即座に両足のけんを切った。そのまま流れるような動きで組み伏せ、ロープで手足を拘束。抜かりなく周囲を警戒していた。

「こんな感じでさ、結界を拡げると森が消えちゃうんだ。事前に言うつもりだけど、突然の場合も驚かないようにね」

「これは素晴らしい。ここまでの広さがあれば、村もさらに発展するでしょう」

 村人たちは、目の前に見える広大な更地にも驚いていたが……どちらかと言えば、突然起こった拘束劇が気になって仕方ない様子。いまだ状況がみ込めない一部の村人たち。メリナードがフォローしてくれたが、耳に届いていないようだ。

「結界の中には人も魔物も入ってこられない。武器や魔法も弾いてくれるからね」

 先人たちの落ち着いた態度を見て、新規の村人もようやく冷静になる。捕縛した獣人を放置したまま、夏希たちと一緒に計測を始めた。

 正方形で拡張をした結果。なんと一辺の距離は1キロメートルにも及んだ。面積に換算すると、今までの3倍以上は広くなる計算だ。もはやここまでくると何に例えていいのかもわからない。『森の中に突然、どこまでも続く平原が出現した』と、そんな漠然とした表現しかできなかった。

 それからしばらく──。村のみんなが立ち去りはじめ、周囲の人だかりが消えていく。せっかくのお披露目だったが、予期せぬ事件が起こったせいで、若干微妙な空気になってしまった。

「さて村長、どうされますか?」

「とりあえず身元を吐かせよう。そのあと、ちょっとした検証をするつもりだ」

 現在地は村の南側。襲撃者用に掘った穴がある場所だ。この場に残っているのは私とメリナード、それに護衛の2人だけ。斥候のレヴは少し離れた場所で警戒している。

 何はともあれ、まずは拘束したやつを鑑定。種族は狼人であることが判明する。レベル25と高いが、スキルの類は持っていなかった。

「なあウルガン。これってどれくらいの強さなんだ?」

「街基準だとD級の冒険者ですね。単体でオークを倒せますよ」

「その割には、見つかったときの対処が杜撰ずさんだったよね」

「森が一瞬で消えるなんて、普通は予測できませんよ。我らでも対処できるかどうか」

 熟練者のウルガンが言うくらいだ。この場はそういうものかと話を進める。

「それで、あなたはどこの誰?」

「…………」

 ずっと沈黙している相手に向かって、そう問いかけた。

 この冒険者風の男。現在は手足を縛られ、両足も負傷している。にもかかわらず、うめき声一つ出さないとは見上げた根性である。だがこうなってしまった以上は素直に白状してほしい。

「確か冒険者って、ギルド証みたいなのがあるよな? とりあえず身ぐるみを剥いでくれ」

 ウルガンらに頼んで、革鎧や衣服をすべて剥がす。が、所持品は剣とナイフ、それに数枚の金貨が入った皮袋のみだった。身分を証明するものは何一つ持っていない。

「あのさ。仮に冒険者だった場合、ギルドからの報復とかってある?」

 そうなっても村の中なら対処できるが、街との交易がしづらくなっては面倒だ。

「いえ。依頼途中で死ぬのはままあること。全て自己責任ですからありえませんね」

「わかった。ならひとまずは安心か。ちなみにこの顔に見覚えは?」

 ウルガンとウルーク曰く、街の酒場で見たことがあるようだ。冒険者と騒いでいたのを何度か目撃している。けれども身元まではわからず、街なかで見かけた記憶もないらしい。

 こんなにアッサリと捕まるくらいだ。議会の暗部ってことはないだろう。せいぜい、どこぞの商会絡みで雇われたってところか。

「なぁ。これ以上話さないなら処分するけど。命乞いしなくても大丈夫?」

「…………」

「わかった、もうい──」

「待ってくれ! おれは街の冒険者だ……。依頼を受けて村の様子を探ってた」

 殺されるとわかったところで、ようやく話してくれる気になったみたいだ。

「じゃあ冒険者証は? あと、誰からの依頼か教えてくれるかな」

「冒険者証は森に入る前に埋めてきた。依頼主からそう指示があって……」

 依頼主は酒場で声をかけてきた男だが、フードのせいで顔は見ていないらしい。

「誰ともわからんやからの依頼を? とてもじゃないけど信じられんな」

 議会との協定が結ばれてすぐ、大森林への侵入を禁じるお触れが出ている。しかも厳しい罰則付きって話だ。そんな状況のなか、安易に依頼を受けるだろうか。

「うそじゃない! 報酬が破格だったんだ!」

 冒険者の男曰く、かなりの前金を渡されたらしい。入手した情報次第で、さらなる追加報酬を約束される。「上手くいけば1年は遊んで暮らせる」と、二つ返事で飛びついたそうだ。

「なら具体的な指示は? 何を調べてこいと言われた?」

「異世界人の数や特徴。あとは村の広さとか……。とにかく何でもいいらしい」

 発言の真偽はともかく、どれも依頼主の特定に至るものではない。日本人のことや村に関しても、誰が興味を持ってもおかしくない情報だった。

「なあ、見逃してくれないか? なんなら奴隷でもいい! 助けてくれ!」

「いや、それは無理。ここで見逃すほどお人好しじゃないんだ」

「そんなっ! だったら──」

 さっきまでとは打って変わり、大騒ぎする口を塞いで黙らせる。とてもじゃないが、この男に忠誠度があるようには見えない。奴隷にしたところで、一生、村人にはなれないだろう。

「今からスキルの検証をするからさ。2人は周囲の警戒を頼むよ」

 ウルガンたちにそう伝えて、捕らえた冒険者を中心に敷地を拡げてみる。

 結界が点滅している場合、中に人がいても弾かれることはなかった。

『ならばこの状態で、結界を固定したらどうなるか』

 ゴブリンなどの魔物は、敷地を拡げると同時にその場から消失する。敷地を固定しても消えたままだ。だが、敷地を解除すると元の場所に復活した。一方、普通の動物に関しては、結界を固定してもその場に残る。では、対象が人だった場合はどうだろう。とてもじゃないけど、村人や奴隷では試したくなかった。今回はそれを試す絶好の機会となる。

「じゃあいくぞ」

 結界を固定した瞬間、目の前の彼は一瞬にして消え去った。ドサッと鈍い音がして、すぐ近くにある穴に落ちる。どうやら指定しておいた追放場所へ転移したらしい。穴を覗くと、縛られた状態のまま転がっていた。侵入の許可を出していない場合、自動的に排除されるようだ。

「なるほど、人の場合はこうなるのか」

 これでまた一つ結界の仕組みが判明。ちなみに、現在わかっていることは以下のとおりだ。


1.生きている魔物や草木など、生命判定されたものは、結界を解除すると元の状態に戻る。

2.伐採済みの木材や落ち葉、魔石や魔物肉などは生命のくくりから外れる。もともと魔素により形成されているので、結界を生み出すためのエネルギーとして消費される。

3.消費された魔素は、結界の解除とともに大地へと吸収、もしくは空気中に霧散すると思われる。ただし、命あるものは元の状態に戻る。

4.馬やクルック鳥は、魔素から作られた生物ではない。そのため、結界を固定しても消滅することはない。結界から排除されない理由は不明。村に害がないからだと思われる。

5.兎人の集落にある住居や道具は、結界を固定してもそのままの状態で残った。森の外で結界が張れないため、街の建物にも有効なのかは不明。

6.大森林以外の場所では、敷地を拡張できない。大地神の加護には有効範囲がある。もしくは大森林特有の魔素が存在すると予想。

7.人を巻き込んで結界を固定すると、指定した場所へと追放される。衣服や装備品の他、拘束していたロープも転移した。ただし、点滅状態では追放されずにその場へ残される。人も魔素により構成されていないので、エネルギーとして吸収されることはない。


 ちなみにゴブリンが消えた位置や木があった場所に関して。そこに剣を構えた状態で結界を解除してみたのだが……。見事に剣が貫通した状態で復元。当然ゴブリンは死んだし、木には剣がめり込んでいた。

 村に人がいる状態で解除すれば、とんでもない事態に陥る。木と同化したら大惨事だ。外敵に対しては必殺技。されど村人にとっては恐怖の対象となる。みんなには悪いけれど、この事実を公表するつもりはない。

「そ──ちょ、村長!」

「あ、ごめん。考えごとしてたわ」

 ここは結界の外。気を抜かないようにとお叱りを受け、捕まえた男の処遇を問われた。

「誰に雇われたか知らんが、助ける義理はない。金に釣られた報いだ。諦めてもらおう」

 もしここで見逃せば、のちのち私や村に悪影響を及ぼす。うっかり手心を加えた挙げ句、あとになってから後悔する。なんてことは絶対に御免ごめんだ。

「ではあとは我らが。村長は先に帰られてはいかがですか」

「いや、自分でやるよ。せめて苦しまずに退場してもらおう」

 侵入者への対処と貴重な検証を終え、村の中へと戻っていった──。


 後始末を済ませたあと。倉庫管理の件を含め、メリナードの家族と話しているところだった。

「改めまして。我が妻と息子たちをお願いします」

「「「お願いします」」」

「ああ、メリマスには購買関係と倉庫管理を任せる。メリーゼはその補佐を頼むよ」

「はい! 夫婦共々、精一杯頑張ります!」

「それとメリッサさんには、子どもたちの教育係をお願いしたい」

 子どもの数が増えてきたし、既に何人かの妊娠報告を受けている。今後のことを見越して、学校みたいな制度を作っておきたい。

「村長、私に務まるでしょうか。算術程度しか教えられませんが……」

「そのほうが実用的で助かるよ。ただ、農作業が忙しいときはそっちを優先してくれ」

 現代の倫理観だと、「小さな子どもに仕事をさせるなんて」と思うかもしれない。だがこの世界では当たり前のことだし、そうすることで働く意味を理解できる。講釈を垂れるつもりはないけれど、働かざる者、食うべからず。子どもと言えど例外でない。

 やがて夕方になり、冬也たちダンジョン組が戻ってくる。夕食を交え、念話スキルや敷地拡張のこと、他にも侵入者の一件なんかを説明していった。

『ってことで、念話の件は秘密にしてくれ』

『了解です』

『わかった』

「ところで村長。いよいよ南の海へ進出するんだろ?」

「まぁ、その予定なんだけどな。いかんせん人手が足りない。当面は村の整備が先だ」

「ダンジョン探索を中断すればいいだろ? オレも手伝うからさ」

 ファンタジー好きの冬也から、まさかそんな言葉が出るとは──。私に遠慮するようなやつじゃないし、海に思い入れでもあるのだろうか。

「冬也。ダンジョン探索、というかレベルアップを続けたほうがいいと思うぞ」

「なんでだよ。気になることでもあるのか?」

「とくにないけどさ。他の転移者は冒険者をやってるんだ。どんどん強くなっていくぞ?」

「そいつらに対抗する力が必要、ってわけですね」

 話に割って入った桜が得意げに言い放つ。どうやら私の思いをんでくれたようだ。冬也も納得した様子で「なるほど」と頷いていた。

 海産物はちょっと惜しいが、塩は数年分の在庫を確保できている。とりあえず偵察だけしておけば、当面は問題ないだろう。敷地の拡張ならいつでも可能だ。

「まずは各自が強くなること。次に村を整えていくこと。そして少しずつでも人手を確保すること。この3つに重点を置いていこう。みんなもそのつもりで頼む」

「「はいっ」」

「「おー!」」

 周りにいる村人たちも、一斉に声を上げてやる気を見せる。みんな協力的だし、じっくり一歩ずつ進めようと思う。