異世界生活152日目
昨日と一昨日は全ての作業を休みにして、開通を祝う
そして本日は、いよいよメリナードたちが戻ってくる日だ。村人全員、新たな住民を待ち望み、村全体が歓迎ムードとなっている。
ただ今回の受入れは、21人もの大所帯となる。不測の事態に備えるため、全員、目に見える範囲で活動中だ。冬也たちダンジョン班も、戦闘要員として村に待機していた。
朝食後、2時間もしないうちに斥候から連絡が入る。メリナード一行が村の近くまで来ているそうだ。4台の馬車を連ね、こちらへ向かっていると言う。
「じゃあみんな、手筈どおりに頼むぞ」
斥候の報告から20分。森の合間に4台の馬車が見え始めた。この世界の馬は普通だったけど、どことなくファンタジーっぽい雰囲気を感じる。先頭を行く馬車にはメリナードの姿も。
「メリナード、今回も無事に会えて嬉しいよ」
「私も同じ気持ちです。この日を待ちわびておりました」
「それで道はどうだった? 随分と
「ええ。開拓速度もさることながら、路面の状態に驚きましたよ」
若干ドヤ顔の私に、メリナードは笑顔で答えてくれる。
「ところで、そちらの方々はご家族かな? 是非紹介してほしい」
メリナードの隣には、おっとり顔の素敵な女性が。その後ろには、20代の女性と10歳くらいの男の子がいる。家族も羊人だと聞いていたが、外見的特徴は角と尻尾くらいだろうか。見た目は人族となんら変わりない。
「村長さん、お初にお目にかかります。メリナードの妻、メリッサと申します」
妻のメリッサに続いて、メリマスの奥さんと子どもを紹介される。奥さんはメリーゼ、息子はメリナンドと言うそうだ。みんな名前にメリーが付くのは、羊人だからなのか、それとも異世界翻訳が仕事をしているのか。とにかく、これ以上似た名前が増えると混乱しそうだった。
(いや、もう既にしているけども……)
商会の人の紹介が終わると、馬車から奴隷たちが降りてくる。全員の顔を確認したところで、居住の許可を一斉に出す。ちなみに村や忠誠度のことは、メリナードが事前に話している。もちろん、村人になる意思も確認済みだ。あとのことを春香に任せ、私は隣で見守る。
「じゃあ、商会の人は中にどうぞー。他の人はちょっと待ってねー」
「春香さん、うちの者たちはいかがでしょうか」
「全員大丈夫だよ。みんな数値は高いから安心してね」
「そうですか。ありがとうございます」
春香がそう言いながら、みんなのステータスをこっそりと教えてくれた。とくに問題のある人はいないようだ。忠誠度の値も予想以上に高い。
その場にメリナードと護衛を残し、奴隷以外の人たちが村に入っていく。村の案内や荷物の整理なんかは、諸々を含めて椿に任せている。
「じゃあまずは、ベリトアの知り合いって方からどうぞー」
春香の隣にベリトアが来ると、鍛冶師の男が村に入ってくる。
「おじさん久しぶり!」
「よぉベリトア! 相変わらず元気そうだな!」
「わたし1人だと忙しくってさぁ。おじさんが来てくれて嬉しいよ!」
「ってかお前。移住するなら一声かけろよな! 突然いなくなるから焦ったぞ!」
「うっ、ごめんね。忘れてたわけじゃないんだよ……」
ベリトアがおじさんと呼ぶのは熊人族の男性。お互い気心も知れた感じで、長い付き合いなのは間違いなさそうだ。
男はベアーズという名前で、まさに熊のような体つきをしている。歳は40の独身。独り身のほうが気楽で良いと、気付けばこの歳になっていたらしい。なんだか似たようなものを感じつつ、挨拶がてらに
「ベアーズ。おまえが廃業したのって、日本商会の影響か?」
「まぁそれに近いけど、なんとか食いつないでいたよ。移住を決めた理由はこの村の芋だな」
ベリトアもご執心だったが、種族的なものでもあるのだろうか。まあ、芋で鍛冶師が釣れるなら万々歳だ。こうして村人になれた以上、逃がすつもりはない。
「村に住めば食べ放題だ。しっかり働いてたっぷり食べてくれ」
「おお、それはありがたい! 村長、ベリトア、よろしく頼む!」
鍛冶場の案内をベリトアに任せ、引き続き奴隷たちの受入れに取り掛かる。
結界の際に並ばせると、隣にいる春香が鑑定をかけていく。今回は人数が多いので、ひとまずは鑑定結果をメモ。受入れは午後からだと伝えて、結界外の長屋で休息をとらせることに──。
ウルガンとウルークには長屋の警護に当たってもらう。
「メリナード、私たちもいったん戻ろう。春香、桜たちを自宅に呼んできてくれ」
「おっけー、任されたよー」
それから10分もしないうちに、村の主要メンバーが集まってきた。全員が揃ったところでさっそく打合せを開始。奴隷のステータスや忠誠度など、必要な情報を共有していく。
今回の奴隷は全員が獣人。犬人や猫人、狼人や狐人と、種族は様々だ。年齢は下が15歳から上は30歳と、比較的若い者が多い。
「そういえばさ。種族間の相性とか対立みたいなものはないのか?」
ちょっと気になったので、ラドやメリナードに聞いてみる。
「対立はありません。もちろん、同種族のほうが仲間意識は高いですが」
「我らは聴覚強化があるからな。多少煙たがられるが……対立というほどではない」
「なるほど。じゃあ次は鑑定結果だけど──とくに目立った者はいないみたいだ」
残念ながらスキル保持者は1人もいなかった。けど、これについては問題ない。教会で授かる恩恵に期待しよう。再びメモに目を下ろすと、忠誠度の項目を眺める。
「すぐ村人になれるのは10人か。残りも40後半が多いし、十分期待できる数値だな」
「でもこういうときってアレじゃない? 大体怪しいやつが
夏希の発言に対し、春香や冬也が「あるある」と頷いた。まあ、議会も馬鹿じゃないし、忠誠度のことも把握している。すぐにバレるような
「あーなるほど。それができちゃったら、もはやステータスの改変だもんね」
「他にも気になることは遠慮なく言ってくれ。そういうの、めちゃくちゃ助かるよ」
いろいろ考えてくれるのは本当にありがたい。どこに穴があるかわからんし、どんな些細なことでも無下にはできない。みんなにそう伝えて話を戻す。
「まずは村に入れる10人を先に迎えよう。残りの受入れが済むまでは、できるだけ目立つ場所で作業させたい」
「村での生活を見せて、安心させようってことですね」
「ああ。それと隷属の首輪は外そうと思う」
「村人になる前に逃げちゃったら?」
「逃げ出しても構わないよ。そんなやつ、どのみち忠誠度は上がらん」
みんなが納得したところで、今度は作業分担の話に移る。
今回は採掘作業に人数を割きたい。まずは何人かやってくれる人を確保して、残りは農作業をメインに割り振りたいと説明した。みんなからの賛同を得たのち、他に何かないかと尋ねたところ──椿から一つ提案があるようだ。
「村人の数がかなり増えてきました。そろそろ専属の調理担当者を決めましょう」
「なるほど、村の料理人か」
何せ60人を超える大所帯だ。この人数の調理となれば、仕込みを含めてかなりの時間がかかる。従事する作業によっては、食べる時間がズレることもあるだろう。「この際、村に食堂を作りましょう」と、椿は語気を強めて言った。
「食堂があれば自然と人が集まります。交流の場としても使えるでしょう」
「いいねそれ! 楽しそう!」
「夜は酒場に、とかもできそうね」
私自身、お酒はあまり好んで飲まない。が、そういうのが好きなやつはたくさんいる。新たな娯楽になるし、忠誠度にも好影響を与えるだろう。
「よし。食堂建設と調理担当。両方とも採用しよう。椿とルドルグで進めてくれ」
毎日食事を作っている椿からの提案だし、実際、かなり忙しかったはず。鉱山での採掘作業やダンジョン攻略なんかは、どうしても一日中村を離れる。『物資転送』で食事を送るのもいいが……。毎朝食堂でお弁当をもらう、なんていうのも素敵だなと思った。