異世界生活145日目

 集落を拠点にしてから15日が経過。

 日々の作業は順調に進み、交易路は開通間近というところまで延びている。いくら効率が上がったとはいえ、この早さは異常すぎる。前回に比べて、3倍以上の速度で進んでいた。

 もちろんこれには理由がある。私たちがそれに気づいたのは、開拓を再開して2日目のこと。話の発端は、冬也が放った一言だ──。

「なぁ村長。敷地拡張ってさ。いったん固定すると解除はできないのか?」

「ん? どうだろ。そういや試したことないな」

 せっかく確保した安全地帯。それを解除するなんてこと、今まで考えたこともなかった。

「試しにやってみないか? スキルの把握は大事なことだろ」

「んー。でも失敗すると怖いよな」

 解除自体は可能でも、その分の敷地が戻ってこなかったら……。なんてことが頭をよぎり、なかなか踏ん切りがつかないでいた。

「そもそも、なんでそんなことを思いついたんだ?」

「うん? だってさ、解除ができるなら、伐採なんてアッと言う間だろ?」

 結界を拡げると、その範囲の樹木はすべて消える。点滅した状態なら元どおりだが、固定した後は消えたままだ。なら、固定と解除を繰り返して進めばいい。それなら切り株も残らないし、地盤の整備だけで済むはず。と、冬也はそんなことを語った。

 言っている意味はわかるし、可能性としてはゼロじゃないけど……。結局、あれやこれやと話し合った末、ひとまず挑戦してみようという流れに。みんなの期待が集まるなか、近くの森に向かって敷地を拡張する。道の途中に結界があると、村人以外は通行できないからだ。


 結果から言うと解除することはできた。解除した分は戻ってきたし、何度でも展開することが可能。ただ残念なことに、結界が消えた場所には、木々が元どおり生い茂っていた。

「まあでも、敷地は戻ってきたからな。それがわかっただけでも十分だ」

 森は元に戻ったけれど、とても有意義な検証となった。手軽に拡張できるとなれば、使い道はかなり広がる。個人的にはとても満足のいく結果だ。

「……いや、ちょっと待ってくれ。なんか変じゃないか」

 そう言いながら、冬也は森の一画を見つめている。さっきまで検証を繰り返していた場所。私にはなんの変哲もない森に見えるが……。

「これって本当に元のとおりか? 木や草は生えてるけどさ。落ち葉とか石ころなんかは消えてないか?」

 言われてみれば確かに。さっきよりも地面の土が露出している。

「落ち葉と石ころ……木や草との違い……。もしかしてアレか。生物だけが元に戻った?」

 みんなもアレコレと考えているが──。スキル保持者の私でもわからないのに、答えが出るはずもなかった。と、そんなとき、冬也がおもむろに剣を抜いて何本かの木を切り倒す。

「村長、これでもう1回やってくれ。根から切り離したし、生物じゃなくなったかもよ?」

 一理あるなと思い、切り倒した木々を巻き込むように試してみる。すると、切り株だけを残して、その上部はすべて消失していた。

「おっ、消えたぞ村長」

「ああ、消えたな冬也」

「いやはや、相変わらず冬也くんのひらめきはすごいですね」

「ほんと、毎度のことながら感心するよ」

 これなら切り株の処理だけで済む。木材こそ消えてしまうが、開拓自体は恐ろしい速度で進むだろう。米の発芽のときもそうだったが、冬也の発想力には驚くばかりだ。


 ──と、そんなことがあり、交易路の開通まであと4日足らずとなっていた。

 今日もせっせと結界を張り、倒れた木材を処理していると、しばらく経ったころで斥候から報告があがる。どうやら街の方角からウルガンが向かってくるそうだ。

 次回の帰還予定は5日後。おそらくはメリナードからの先触れだろう。報告から10分もしないうちに、ウルガンが単身、森の中から現れる。

「村長、驚きましたよ。まさかこんな近くまで進んでいるとは……」

「今回は頑張ったからな。それで、こっちに来たのは事前の報告か?」

「は、はい。帰還の日取りと移民の人数調整です」

「わかった。もうそろそろ昼休憩だし、いったん集落まで戻ってもいいかな」

 桜たちに声をかけると、一足先に集落へと向かう。

 ウルガンの報告によれば、あと5日もあれば準備が整うらしい。こっちの都合に合わせて日程を決めるとのことだった。

「あと4日もあれば開通するからさ。一応余裕を見て、出発は7日後でどうだろう」

「問題ありません。そのように伝えておきます」

「で、移民の集まり具合はどう? さすがに奴隷以外は早々集まらないよね」

「現在、借金奴隷が20名、一般民の希望者は1名です。この方は鍛冶師で、ベリトアさんの知り合いだと聞いています」

 まあ、これは予想の範囲内だ。そもそも、日本人の移住は募集してないし、議会ともそういう契約で話をしている。街にいる獣人たちにしても、よくわからん村に住むくらいなら、首都や他の街に流れていくだろう。

 まあなんにせよ、鍛冶師の存在はありがたい。奴隷のほうは、健康状態と労働意欲を見て選んだらしい。その他、細かい調整をしているうちに集落へと到着する。

「ごめんウルガン。話が済んじゃったな。無駄足をさせてしまったよ」

「いえ、移動しながらのほうが無難ですよ。密偵の動きも把握しやすいので」

「え、全然気づかなかったけど……密偵がいたのか」

「今はもういません。森に入る手前で尾行をやめたようです」

 ウルガン曰く、大手商会に雇われた者らしい。街中でもチラホラと怪しい姿を見かけたそうだ。森の中までは侵入してこないあたり、多少は配慮しているとのことだった。

「せっかくだし、昼飯でも食べてってよ。ウルガンも芋は好物だろ?」

「おお、それは是非とも!」

 そのあとウルガンは、ガツガツと芋料理を食べ始めた。というか、3回もおかわりした。「そんなに食べて大丈夫か?」とは思ったが、好きなだけ食べさせることに。すべて軍に収めているので市場に出回らないのだろう。街の市場に並ぶことは滅多にないそうだ。