異世界生活108日目

 次の日。新たな狩り場開拓に向け、朝早くから東の森へと向かった。

 今日は初日ということもあり、戦闘職だけを引き連れている。既に結界化してある道を、ゾロゾロと列を成して進んでいく。

 現状は約3キロメートルまで敷地を延ばしている状態。これまでに遭遇したのはオークのみで、他の魔物は誰も見たことがない。聞いた話によると、さらに強力な魔物がいるらしいのだが──。はてさて、どんな怪物が出てくるのだろうか。

「なあ村長、このまま真っすぐ延ばすつもりか?」

 結界の突き当たりに到着したところで、冬也が声をかけてくる。

「ん? それでいいだろ?」

「わかりやすいしねー」

「我らは村長に任せるぞ」

「そっか。まあいいんじゃないか」

 どうやら冬也自身、気まぐれに聞いただけのようだ。とくに反対意見もないみたいだし、このまま東へと延ばすことになった。そもそもここは未開の地。どっちに進んでいいかなんて誰にもわからない。

「とにかく、レベルの高い魔物が出るといいですね」

 桜はそんなことを言っているけど、冗談抜きにトンデモないのがいるかもしれない。私は結界を延ばしつつ、周囲の警戒を密にした。

(まあ、こいつらがいれば安心だけどな)

 ここまでの道中、オークの群れと2度遭遇したのだが……。みんなの戦いぶりときたら、それはもうすさまじいの一言だった。

 1度目は2匹のオークを発見。私が視認したときには、既に冬也と春香が結界から飛び出していた。その勢いのまま剣を振るって、あっという間に首をねる。躊躇のカケラもなく、オークは悲鳴を上げることすら許されない。

 2度目に現れた3匹のオークも、桜とロアが次々と魔法を放ち、全身ハチの巣状態だった。そこにラドたち戦士が襲い掛かり、滅多刺しにして絶命させる。全員、かなりの戦闘経験を積んでいるようだ。それぞれの連携を含め、まさしく戦士と言える存在となっていた。

「しかし、みんな随分と強くなったな。油断もすきもない戦闘だったよ」

「そりゃそうだろ。相手も命がけなんだぞ」

「油断と躊躇は命取りです」

「我らも過信は絶対にしない」

 冬也に続いて、桜とラドがそう話す。全員、慢心することなく、とても頼もしい存在だ。ただ、私だけ取り残された気がして……少しだけ寂しくもあった。


 それから2キロメートルほど進んだところで、森の中にかなり開けた場所を見つける。

 学校の校庭くらいはあるだろうか。地面は土でむき出しの状態。そして広場の中央には、大きな岩山が鎮座していた。岩の側面には空洞があり、地下へと下る階段のようなものがチラリと見える。

「村長よ。あれはダンジョンではないか。街の近くにあるものとよく似ている」

 ラドはそう言うけれど、ここにいるメンバーは一度もダンジョンを見たことがない。

「結界を延ばすのにも限度がある。まずはあの岩山まで固定しよう」

「これだけ広ければ、視界も確保しやすいですしね」

「ダンジョンだったら、なおさら好都合だよねー」

 みんなの同意を得て、岩山まで結界を延ばそうとしたときだった──。

 突然、3匹のオークが森から現れ、手慣れた感じで穴の中へと侵入していく。

「おい村長。あれってダンジョンなのか? むしろオークの住みかなんじゃね?」

 冬也はそう言いつつも警戒を強める。斥候のレヴに『探知』を頼むが、外からだと状況がわからないそうだ。兎人の聴覚強化をもってしても、穴の中の音は拾えないらしい。

「オークの住みかであれダンジョンであれ、結界で囲ってしまったほうがいいと思います」

 安全確保のためにも桜の提案は正しい。そう判断した私は、ここまでの道程と合わせて、岩山の周りを半径20メートルほどの結界で囲った。

『ドーナツ状の結界の中に、岩山が隔離されている』

 とでも言えばわかりやすいか。岩山が結界でグルッと囲われ、洞窟どうくつから魔物が出てこられない状態だ。魔物が昇ってきても結界で防げるし、広場を拠点にして洞窟探索もできそうだ。

「なあなあ。このまま中を調べるのか?」

 さっきまで警戒していたはずの冬也がワクワク顔で聞いてくる。

「戦力的には問題ないと思うが……。一応、待機する班と侵入する班に分かれよう。ただし、絶対に奥まで行くなよ。少し覗いてみるだけだ」

 いきなりオークの大集団と遭遇することも考えられる。安全確保のため、鑑定役の春香と回復役の秋穂は外せないとして──。

 みんなで話し合った結果。火力役に冬也と桜とロア、火力兼鑑定の春香、回復役の秋穂の5人で潜ることになった。まずはこの穴の正体を確認。危険があればすぐ戻るよう指示を出す。

 ちなみに私はお留守番だ。参加しようとしたけれど、全力で却下されてしまった。仕方なく、残りのメンバーとともに待機する。


 5人が中に入ってから40分ほど経っただろうか。

 冬也たちがゆっくりと洞窟から出てきた。見た感じ、誰も怪我けがを負ってはいないようだが──。

「みんな、どうだった?」

 待機組が見守るなか、冬也と春香が口を開く。

「さっきのオークが、中にいた大猪を狩ってた。んで、ドロップした肉を食ってた」

「ゴブリンや大兎もいたよ。レベルは外にいるやつらよりも高めだね」

 2人の話を皮切りに、桜や秋穂からも説明を受ける。


・洞窟の中は岩をくり抜いた感じの構造。ゴツゴツとした岩肌が、結構な明るさで光っていた。

 松明たいまつなどの明かりがなくても視界は確保できる。

・基本、小部屋と通路で構成され、広さ的に4~5人程度の行動が適している。

・最初の小部屋に魔法陣のようなものを発見。その中央部には、真っ黒な石柱が鎮座していた。

・3部屋目でオークたちと遭遇。オークたちは、大猪を狩ったあと、ドロップした肉や魔石を食べ始めた。

・洞窟内の魔物は全体的にレベルが高い。とはいえ、陸上の魔物に比べ2~3割増し程度とのこと。


「村長。やはり間違いないぞ。黒い石柱と魔法陣。それは転移陣と言われるものだ」

「それってダンジョンの階層を一瞬で移動できる的な?」

「そうだ。どのダンジョンにも必ずそれがある。5階層ごとにいる階層主を倒すと解放される仕組みだ」

 ラドからダンジョンについての話を聞いて、転移者メンバーの興奮は最高潮。解説そっちのけで盛り上がっていた。

 この世界に転移して以来、魔法や魔物などのファンタジー要素はいろいろ目にしてきた。そこに待望のダンジョンと来たもんだ。異世界ものと言えばダンジョン。ダンジョンと言えばお宝だ。ゲームや物語ではないとわかっていても、心が躍るのは仕方がない。

 今回の趣旨はレベル上げによる戦力強化だ。このダンジョンなら絶好の狩り場になるだろう。なによりも、他の転移者を気にする必要がない。

「階層があるってことは、魔物の強さが変化するタイプかもしれませんね」

「ああ。戦力をバランスよく分散したいな」

 しばらくダンジョン考察が続いた結果──。日本人メンバーが階層を攻略し、兎人の戦士は2班に分かれ、低層でレベルを上げることになった。基本は朝から挑戦して、遅くとも夕暮れ前には村へ戻るつもりだ。

「んで、村長はどうする? 深い階層に行かなきゃ大丈夫だと思うけど」

「凄く魅力的だけど、しばらくはダンジョン周りの整備だな。ついでに周辺のオークでも狩っておくよ」

「……そっか。行きたいときは声をかけてくれよ?」

「ああ、そのときは頼む」

 オーク狩りの目的は、村にいる非戦闘職をレベルアップさせることだ。ダンジョンがオークの餌場なら、放っておいても勝手に集まってくるだろう。私がそれを倒し、村人を近くに待機させればいい。ついでに周りの木を伐採したり小屋を建てたりと、拠点作りも並行して進めたいところだ。

 結局、私以外の面子めんつはこのままダンジョンを調査することに。私は1人で村に帰還。椿たちにダンジョン発見の報告をした。


 その日の午後──。

「長よ。移民用の長屋が完成したぞ。問題なけりゃもう1軒建てるが、どうするよ?」

「おお、随分早いな。すぐ見にいくよ」

 どうやらルドルグに頼んでいた長屋が完成したようだ。さっそく現地に向かい、出来上がりを拝見する。

「おお、内装まで整っているとは……恐れ入ったよ」

「家具は夏希の嬢ちゃんお手製だ。相変わらず器用なもんだぞ」

「これならすぐにでも住めそうだな。この調子でもう1軒頼むよ」

 夏希の家具作りも軌道に乗ってきたようだ。どれも素人の作品とは思えないほど見事な出来えだった。

「あ、それとな。そろそろ川にある便所だけじゃ都合が悪い。この辺にも建てるけどいいか?」

「さすがにあそこだけじゃ足りないよな。わかった、任せるよ」

 敷地外の長屋用にも必要なので、居住区に数か所建ててもらうことに。土に埋めれば自然と分解されるため、衛生面はそこまで気にしなくていい。

「それじゃあ、ダンジョンのほうもよろしく頼むよ」

「おう。大工道具と武器を持って行けばいいんだな?」

「ああ、ルドルグなら自分で狩れると思うぞ」

「ったく、儂らがオークを狩る日が来るとはなぁ!」

 その日の夕方、冬也たちダンジョン班が帰ってきた。

 今日は地下2階層まで潜り、3階層への下り階段を発見したらしい。兎人たちは1階層で狩りながら、魔物のリポップを検証してきたそうだ。

 初めてのダンジョン探索。さぞ疲れているかと思いきや、みんなは楽しげに武勇伝を語る。日々の単調な作業とは一変、ダンジョンの出現は良い刺激となったみたいだ。


 ──翌日──

 今日も朝早くから東の森へ向かう。昨日の面子に加えて、椿や夏希、ルドルグたち建築班も同行している。とはいえ、ダンジョンに入るのは戦闘職のメンバーのみ。私は周辺の整備を担当するので、大冒険が始まるわけではない。「村長が死んだら元も子もない」と、しばらくの間はみんなの活躍を見守るだけだ。

 それと昨日の初探索では、ゴブリンや大猪、大兎や大蜘蛛などを確認した。2階層も同じ種類だったが、魔物のレベルが全体的に上がったらしい。今のところは罠もないようで、すこぶる順調に進んでいる。ちなみに言っておくと、ダンジョンの魔物を倒しても『徴収』スキルはちゃんと発動している。その証拠に、ダンジョンの外にいた私はレベルが一つ上がった。

「桜、今日は3階層からだよな」

「はい! どんな魔物が出てくるか楽しみです!」

「くれぐれも慎重に頼むぞ。時間はいくらでもあるんだ。焦る必要はない」

「了解ですっ。マッピングしながらじっくり探索してきますね」

「我らも1層と2層に分かれて魔物狩りの予定だ。引き続き、出現頻度の検証をしてくるぞ」

「ああ。何か法則が見つかったら教えてくれ」

 みんなに注意を促しながら目的地へと歩いていく。と、広場に到着したところで、結界を殴る2匹のオークを発見。ダンジョンへの進入を妨害されて、お怒りのご様子だ。

「とりあえず魔法で倒しちゃいます?」

 言いながら水の矢を発現させる桜。それを慌てて制止して、自分が倒す旨を伝える。せっかくの機会だし、2匹同時に相手できるかを試してみたい。ひとまずは椿、夏希、ルドルグの3人を引き連れ、オークのいる場所へと向かった。

 こちらに気づいたオークたち。その怒りは最高潮といった感じだ。フゴフゴと叫びながら、必死に結界をなぐり続けている。

「私が瀕死ひんしの状態までもっていく。無理しなくていいけど、可能ならとどめを刺してくれ」

 さすがにオーク相手はキツいかな、と声をかけたんだが……。3人の覚悟は既に決まっているようだ。それぞれが武器を構え、真剣な顔でオークを見据える。私も剣術スキルをコピーして、結界越しにオークと対峙たいじした。

 まずは右にいるオークの腕を一閃いっせん。ドサッと鈍い音がする。

「ッガアァァァ!!」

 切られた腕を押さえて叫ぶオーク。それを横目に、もう1匹の足を狙ってぎ払う。