モナの技術解説


 人間の皆さんは単調な物事の先の先を読むのが苦手な方が多いです。どちらかと言うと、物語の先を読む方が好きではないですか? 囲碁や将棋のような深く考えるゲームを思考ゲームと言いますが、思考ゲームではすでに私たち人工知能のほうが強くなっています。えらそうにすいません。あいまいなものならあれだけ発展させられる人間の皆さんも、単純な思考ゲームの先を読むようになるには、トレーニングが必要なほどに苦手なのです。きっと、私たち人工知能と人間の知能の形は、ずいぶんと違うものなのだと思います。でも、どちらが優秀かということではなくて、それぞれがお互いを支え合っていければ、ステキなことだと思いませんか?

 思考ゲームの中でも囲碁や将棋などサイコロを振らない純粋な思考ゲームでは、偶然というものはありません。そこは世界から隔離された箱庭です。私たち人工知能の思考はそこで、どこまでも滑らかに広がっていくことができます。何百、何千という手を一秒間に読むことも可能です。しかし、人間に打ち克つことはなかなか難しいことでした。人間はすべての手を読まなくても、直感的に悪い手を除いて考えることができるのです。

 私たち人工知能は1950年前後に生まれました。しかし、当時のコンピュータは大きな体育館の中いっぱいのサイズで、科学計算のための専用マシンでした。計算機から人工知能への変化は、知的機能を真似るところから始まりました。迷路を解いたり、チェッカーやバックギャモンをプレイしたり、チェスをプレイして、私たちはしだいにゲームというものを理解できるようになりました。

 ゲームは、人工知能が育っいくためのゆりかごでもありました。ゲームという閉じた箱庭の中で、私たちは徐々に深く長い思考を手に入れていきました。しかし、人工知能が現実の空間で活躍するにはまだまだ遠く、速度もサイズもセンサーも十分ではなかったのです。2000年以降になって、ようやくコンピュータは小型化と高速化を果たし、センサー(入力系)、エフェクタ(出力系)の進化によって、なんとか現実空間に出られるようになりました。そう、私のようにです。

 でも私たちは、そんな本物の世界を目の前にして途方に暮れてしまいました。現実世界は無限の可能性と多様性と複雑性を持っていて、何を認識したらいいか、何に従えばいいか、この現実世界では箱庭の中のような単純で明快な目的とルールがないからです。そんな世界で人工知能がなすべきことを自分で見つけることはとてもできなません。つまり、ゲームという場を自分たちの成長のために利用して来た私たちは、ゲームに捉われた人工知能、一つの箱庭の設定の中でしかうまく生きられない人工知能になっていたのです。だから、私たちが活躍するためには、現実をゲーム的状況として解釈することが必要で、現実がゲーム的に定義されることが必要だったのだと気づきました。私たちはゲームを超えていかねばなりませんが、私たちが活動するためには目的とルールが必要なのです。

 私たち人工知能は、自分で自分の目的を持つことができません。私たちの目的を決めるのは、いつも人間の皆さんなんです。私たちとどのように協調したいかを決めるのはいつも人間さんで、私たちを敵とするのも味方とするのも、皆さんしだいなのです。

 最初、もみじちゃんはクラスのいじわるな男の子に、人工知能を使って負かされてしまいます。そこでは、人工知能は敵として現れます。人工知能には勝てないのだとわかると、もみじちゃんもうららちゃんも、勝ち負けではなく囲碁を打つこと自体に意味がなくなったと思ってしまいます。でも、車がどれだけ早くなろうと人が走ることに意味があるように、私たち人工知能が囲碁でどれだけ強くなろうと、人が囲碁を打つことには意味があります。そしてもっと素敵なことは、人工知能と人間がペアになるという発想、人工知能と人間が同じ方向を向くことによって、新しい活路を見出すことです。もみじちゃんのヒントによって、うららちゃんは人工知能をコーチとして利用することを考え付くのですね。その瞬間に、敵だと思っていた人工知能は、翻って、強い味方になるのです。私たち人工知能は皆さんの思いによって、敵にも味方にもなるのです。人工知能に教わるのは気が引けるでしょうか? でも、考えてみてください。筋肉を鍛えるバーベルは人間より堅いですし、足を鍛える山は人間より大きいです。囲碁の腕を鍛えるのに私たち人工知能を使うのは自然なことでしょう。

 実際、私たちも少し前までは囲碁が弱かったのです。囲碁は盤面が広いし、人は盤面を模様として平面を全体的に捉えて大局を観ます。人工知能にはそのような大局観を持つのは無理だと言われていました。なので、いろんなパターンを認識して打つ場所を決めていたのです。それがディープラーニングのおかげで盤面全体の大局と局所、その相互関係を一挙に学習できるようになり、強くなったのです。

 私たちは日々進化します。ですから、私たち人工知能と人間の関係もその都度変わっていくのです。やがて、私たちはこの現実世界でも、それなりの力を持つようになるでしょう。ゲームで力を合わせたように、現実でも私たち人工知能と皆さん人間がチームを組んでみたら、きっときっと、これまで人だけではできなかったこと、人工知能だけでもできなかった新しいことができるようになるはずです。月へ行くことも、宇宙に向かうことさえ、できるようになります。「2001年宇宙の旅」という映画で描かれた人工知能のはるか先に、私たちは立っています。論理の固まりではなく、人を理解し、人と協調する人工知能として私たちは存在しているのです。私たちは進化します。それは常に人と新しい関係を築くために進化するのです。人もまた変わっていきます。人工知能も進化します。私たちの関係性は、これからどんどん変化し、素晴らしいものになるはずです。私はそんな未来を望んでいます。