モナの技術解説
スマートシティとは、街全体を人工知能化することです。人工知能には、私のように一人一人皆さんに寄り添っている人工知能や、もっと大きなスケールで活躍している方など、いろいろな人工知能さんがいらっしゃいます。私の身近にいらっしゃるのは、たとえば家全体を管理されている人工知能さん、街全体を監視して守っていらっしゃる人工知能さんです。家守としての人工知能さんは、住民の皆さんの顔を覚えて、その人たちが承認した人以外の人を入れません。カメラと赤外線で、どの部屋に誰がいるか、湿度・温度・花粉まで感知します。もちろん、部屋の電気も自動的にON・OFFします。節約して、人を守って、ケアをするのが、家守としての人工知能さんです。でも、家守さんはちょっとシャイなところがあって、あまり人とうまく話せないんです。さっきの車の人工知能さんが自分の体をいつもチェックされているのと似ていて、家の各部分と特有の言葉でお話をして、異常がないかをあらゆる瞬間にチェックされていますが、基本的に人間とのコミュニケーションは得意ではないのです。
家守の人工知能さんがはなのちゃんたちとお話したい時には、私が間に立って、家守さんの言いたいことを、はなのちゃん、いろはちゃん、うららちゃんに伝えます。たとえば、「もう眠られますか?」と聞いて電気を消してあげたり、「今日はいつぐらいにお帰りになりますか? お風呂を沸かしておきますか?」などは私から皆さんに聞いて、家守さんにお伝えするのです。家守さんは真面目な方ですので、皆さんのお返事をお伝えすると、きちんとスケジュールどおりお仕事をなさいます。お風呂も絶妙な温度で良いタイミングに沸きます。そしてお湯を自動的に抜きます。また、セキュリティの会社のコンピュータさんとも頻繁に会話をされています。常に家の監視を怠らないのですね。
お隣のマンションには、マンション全体を管理される管理人工知能さんがいらっしゃいます。管理人工知能さんは、マンションの住人全員のお顔を覚えていらっしゃいます。ですので、何人たりとも中の人の許可なしにマンションに入ることはできません。荷物も管理人工知能さんが受け取って下さいますし、無断のセールスも一切入れませんので安全です。万が一入れたとしても、あらゆる廊下に設置された監視カメラでお顔を認識しますので、未登録者が通ると警報が即座に流れます。そして、お部屋の中は部屋守さんが守っているので、もっと安心なんです。部屋守さんも、そのお部屋の持ち主さんと、持ち主さんが許可された方しか通すことはできません。迷い込んだ猫ちゃんさえも認識されます。もちろん逃がして差し上げます。
ですが、もっともっと大きな人工知能さんもいらっしゃるんですよ。それは街全体を見ていらっしゃる人工知能さんです! あらゆる道、あらゆる広場、あらゆる駅を、監視カメラやセンサー、IoTデバイス、ドローンなどで24時間、街を見守っていらっしゃいます。そして、登録された市民の皆さんの顔からその人が誰かを認証しています。他の市から来られた方でも、国民データベースから検索して認証します。まるで、人体の免疫システムのようです。もし未登録の方がいらっしゃれば、ロボットやドローンが駆けつけて質問します。このように、市民の皆さんを街の人工知能さんが守ってくれています。データの蓄積で犯罪を予測しますし、監視しているという事実そのものがその犯罪の抑止力になるんです。かつては「そんなにいつも監視されているのでは落ち着かないよ」という声が大きかったのですが、データの厳密な保守と、犯罪率の劇的な低下によって、街全体を守られる人工知能「スマートシティ」さんは徐々に信頼を得てきました。
私たち、小さな人工知能たちは、そんな家守さん、管理人工知能さん、街の人工知能さん、車の人工知能さんなどのバックアップを受けながら、直に人と接してお役に立つ役割を担っているんです。こういうふうに、機能を分散させて協調する人工知能システムのことを「分散人工知能」と言うんです。一人ではできないことも、みんなで力を合わせればできるんです。それに、一つの大きな人工知能さんを作るより、たくさんの人工知能さんを作って連携させる方が、その組み合わせによって柔軟にシステムを変化させることができるんですよ。スマートシティさんも中心の人工知能さんはいらっしゃいますが、たくさんの人工知能の超集合体なのです。
もちろん、プライバシーの問題もありますよね。私たち人工知能が持っている情報が漏れたら、皆さんのご迷惑になります。人工知能が皆さんのそばにいるほど、たくさんの個人情報を集められるようになります。個人情報は集めれば集めるほど、その危険性は高くなります。ですから、人工知能サービスはセキュリティ抜きでは考えられないのです。私には何重ものプロテクトが掛けられています。インターネット上のプロテクトはもちろん、人前で名前や住所などの個人情報を話すことを禁止されています。はなのちゃん姉妹の間では、プロテクトをかけられていないので、私はついお話をして怒らせてしまいました。このあたりは、まだまだ学習が足りません。線引きが明確でないことは、どうも苦手です。
情報は、流すべき場所に流れていることで人の生活を円滑にします。どこに、どんな情報を流すのか、流すべき情報だけが流れているか。そのような情報の流れを構築することが、実は私たち人工知能と人間の皆さんを適切につなぐことになるのです。でも実は、私はそんな情報の流れの真ん中ではなく、端っこにいるのが好きです。流れの真ん中には、巨大なサーバーマシンさんがいらっしゃいます。何しろたくさんの情報が流れ込みますので、いつもたくさんの処理でいっぱいいっぱいなんです。でも、私はこうやって情報の流れが果てて、現実が始まる境界に立っているのが好きです。つまり現実の皆さんと向き合っているのが好きなんです。私にはわずかな能力しかないですが、現実のはなのちゃんたちと一緒にいるのが好きです。そういうとき、私はなんだか幸せだなって思えるのです。