異世界転生のすゝめ

「おほっ、ダーマ・ラルカヤの奴やるなぁ……。もうこんな偉業を達成したのか。さすが種族:英雄。……くくくっ」

「…………」

なんだこのおっさん、電車内で不気味に笑ってやがる。

勘弁してくれよ、ただでさえこの満員電車の中での通勤は体力を使うのに、こんな不気味なおっさんが隣で薄ら笑い浮かべているのを見てなくちゃいけないなんて拷問ごうもんだろ。

やってられん。

「うおお! お前さっきまで魚だったのにこんな立派な龍になりやがってぇ!」

「…………」

うおお、じゃねぇって。

魚がドラゴンになる訳ないだろうによ。

すこしは周りを気にしろおっさん。

そこまで良い反応されると、いい加減気になるじゃねえか。

何のゲームか知らないが、そんなに面白いなら俺がチラ見してやるよ。

ほら、見せてみぃ。

ほんほんほん。

うおー、ほえー、なるほどねー。

うん、だいたい分かったわ。

結論から言おう。

このゲームめちゃくちゃ面白そうなんだが?

いや、なんていうかね、戦闘シーンが凄いのよ。

おっさんが言う英雄ダーマ・ラルカヤとかいうキャラが空飛ぶクジラに特攻し、滅茶苦茶な戦闘力をもって周囲のモンスターをブチ殺してたわ。

しかもそのモンスターや人間の映像クオリティが高いのなんのって。

ちょっと俺もこのゲームやりたくなってきた。

タイトルはなんて言うんだろうか?

聞きたいなー。

あー、でもなー。

さっきまで不気味とか思ってたこのおっさんに話しかけるのは負けな気がする。

いや、分かるよ?

それだけ面白ければニヤけちゃうのも分かる。

くそ、このおっさんが変な笑い方さえしてなければ勇気を出して質問できたものを。

だがまあ、いいだろう。

これだけ面白そうなゲームならばすぐ検索にも引っかかるだろ。

自力で探してやる。

そう思いつつも俺は電車を降り、脳内であの面白そうなアプリゲームの事を考えながら会社に向かった。

しかし、それがいけなかったのだろうか。

気が付くと俺は赤信号なのにも気づかず横断歩道を渡り────

「あっ……」

────そして、クラクションを鳴らしながら迫りくるトラックを認識し、そのまま意識が途切れた。

ここはどこだろうか。

……ぼんやりとだが天井が見える。

「シムーン坊ちゃま!? お気づきなられましたかシムーン坊ちゃま!」

「……んん?」

「奥様! 坊ちゃまが目を覚ましましたッ! 奥様ー!」

目覚めると、何故か執事服のダンディなおじさんが俺に迫り、意識があるのを確認すると部屋から猛スピードで飛び出していった。

いや、おかしいだろ。

知り合いには執事なんていなかったし、俺は坊ちゃまでもなんでもないんだが……。

「……痛っ!」

そう記憶を探った瞬間、頭に鋭い痛みを感じた。

そして理解する。

ここが俺の住んでいた日本ではなく、異世界であるという事を。

なぜそれが分かったのか。

その理由は単純だ。

何を隠そう、今の俺が持つこの子供の身体がこの世界の事を記憶していたからである。

……これはあれだろう、いわゆる異世界転生、という奴なのだろう。

頭の中では五歳になるまでに経験してきたあらゆる記憶と、そして日本で最後に見た光景である『トラックとの交通事故』の場面が鮮明に思い描けていた。

「そうか……。俺は死んだのか」

まあ死んだのは良い。

いや良くは無いが、事実として受け入れられる。

運が悪かったとか、そもそも自業自得だとか色々言いたい事はあるが、死んでしまったものはしかたがないからな。

だが問題は、この身体に残った記憶の方だ。

「これって、あのおっさんがやっていたゲームの世界じゃね?」

転生した身体には空飛ぶクジラやドラゴンといった、この世界の脅威となる異世界の超生物達にまつわる記憶があるのだが、どうにもそれに既視感を感じるのだ。

このクジラとかドラゴンとか、どう考えてもおっさんがやってたゲームをチラ見した時に見えた、あの怪物たちだろ。

もう姿形が完全に一致してしまっている。

しかもきわめつけは俺の祖先がダーマ・ラルカヤとかいうヒト族の英雄で、俺がその遠い子孫であるラルカヤ家のおぼっちゃまである、という事だ。

そう、電車内に居たおっさんの独り言に登場した、あのダーマ・ラルカヤである。

一体どんな偶然か奇跡か、もしくは何者かの思惑によるものなのか。

そもそもあの奇妙なおっさんは何者だったのか。

依然として俺には分からない事だらけであったが、とりあえずこうして第二の人生をスタートした、という事だけは間違いないであろう。

「にしても、この世界の文明遅れすぎだろ……」

文句を言っても仕方がないが、それにしても遅れている。

いまの時代背景を人間史で表すならば、中世盛期の一歩か二歩手前、五〜六世紀といったところだろうか。

文字や数字は一応誕生しているが、紙はとても高価。

武器は剣や槍が基本装備で、機械的なモノは一切無し。

基本的にこんな感じだ。

ただし、全てが完全に一致しているという訳ではない。

この世界にはスキルや魔法といった、伝承によると創造神から与えられたというファンタジーな技術が存在するからだ。

かくいうこの五歳のシムーン君も、剣術スキル習得のための訓練中に頭を強く打ち気絶していたらしい。

そして気絶している最中になにかの拍子で俺の前世の記憶が目覚め、こうして意識を取り戻したという訳だ。

「う〜ん、なるほど。だいたい状況は把握できた。で、これからどうするかだが……」

考察の末、今の自分が置かれている状況が把握できたので、次は自分が何をしたいかを決めようと思う

とはいえ、やる事はだいたい決まっている。

簡単に言えば、まず第一優先とすべきは生まれ治したこの物騒な異世界で強くなり、なるべく死なないようにして、人生を満喫する事だ。

前世では結局二十代半ばで死んじまったからな。

今度の生では長生きしたい。

でもそうなると、この世界の環境的に人類最強になる、くらいしないと安心して過ごせない気がするので、結局このシムーン君がやっていたように、頑張って修行していくしかないわけだ。

「となれば、まずは魔物狩りからだな」

しかし、修行といっても剣術ばかり磨いていればいいわけではない。

なにせこの世界には『レベル』というロールプレイングじみた、どこぞのドラゴンを倒す仮題のようなゲーム概念があるのだから。

そんな日本人の知識を持つ俺からしてみれば、スキルを磨いて徐々に強くなっていくなんていう遠回しなやり方よりも、弱い魔物から倒していきレベルアップを重ね、加速度的に強くなると言う概念の方がよほど効率的だと理解できる。

もっとも、経験値という概念が明確に存在していない以上この考えが的外れな可能性もあるが、あの電車内で発見した奇妙なおっさんがやっていたのがアプリゲーだったことにかんがみるに、あながち方向性は間違っていないだろうと推察する。

この感覚のズレは現地の人間であるここの異世界人と、地球というゲームの概念が浸透した星で生まれた人間の決定的な違いであり、アドバンテージだろう。

「よし! やる事は決まった。まずはレベル上げを視野に入れ、いずれは人類最強になる!」

こうして、俺の第二の人生は幕を開けた。

……俺がこの世界で記憶を取り戻してから数ヶ月が経過した。

現在はこの身体に宿った五歳までの記憶を頼りに、日本人の感覚とここでの暮らしの感覚のズレを修正しつつも、情報収集に明け暮れている。

まあ当然といえば当然だ。

魔物を倒すといってもいくらなんでも無計画で特攻する訳にはいかないからな。

準備くらいはするさ。

そして今までの情報収集と、元々あった記憶を元に周りがどういう状況であるのか整理する事にした。

まずこの伝説の英雄、ダーマ・ラルカヤを先祖に持つラルカヤ家の家族構成から。

家に滞在する家族は父、母、兄、俺、妹の全五人。

もちろん屋敷の使用人を除いた数字である。

父親であるウィズベルト・ラルカヤはこの国の用心棒的な存在であり、正式な爵位こそ持っていないものの、先祖代々王家の懐刀としてそれなりの発言力を持っているらしい。

王家と繋がりがあるのにも関わらず爵位が無いとはこれいかに、と思いはするが、それもこれも伝説的な英雄であるダーマ・ラルカヤの功績の一つに理由があるのだとか。

なんでも英雄である初代ラルカヤは大昔にこれまた伝説の英雄であるハイエルフ、ララ・サーティラと盟約のようなものを結んでおり、いざという時にはエルフの長でもあるララと協力して人類の障害を打ち払う約束をしているようなのだ。

そういった事情があり、国家への功績そのものは公爵級かそれ以上の働きをしているというのに、盟約の性質上どこかの国に忠誠を誓う訳にはいかないから、爵位そのものは存在していないというややこしい事情があったりする。

よって、爵位は特にないけど国からしたら是非その力を取り込みたいので、言い訳として『用心棒』とか『懐刀』とかいって回りくどいやり方でその力を抱え込んでいるという訳だ。

ちなみにハイエルフのララさんはまだご存命であり、というかめちゃくちゃ長寿でいつ寿命が来るかも分からないレベルらしい。

なのでその盟約を確かめにたまに我が家を訪れたりもしている。

彼女はこの国からは少し離れたエルフの里という場所に居を構えて族長をしているそうなのだが、フットワークが軽いのかなんなのか、一年に一回は家族に顔を見せに来ているくらいだ。

暇なのだろうか?

まあ記憶に残る彼女の姿はハイエルフという種族なだけあって物凄く美人なので、俺としては訪問は大歓迎だけども。

でもって、次は母であるルルノア・ラルカヤ。

なんとこの国の公爵家出身。

さっきも言ったが、国がこの家に受け継がれる英雄の血とかそれに紐づく戦力を囲い込みたいがために、国家ぐるみでつながりを持とうとした結果嫁にだされたのだと思う。

いわゆる政略結婚という奴なのだろう。

ただ本人はいたって幸せそうで、常に父とイチャラブしているところを見せつけているので、政略結婚とはいえ本人は望んで来たのではないかなと想像している。

まあ、ハッピーなのは良い事だ。

俺も家族が幸せならなんの文句もない

で、次は二つ上の兄であるガルノック・ラルカヤ。

我がラルカヤ家の嫡男だ。

我が家は代々不思議な力を持っていて、英雄というヒト族の進化形である種族を先祖に持つ影響なのか、家長には特別な力が備わっているらしい。

その特別な力というのが、英雄覇気という人間の身体能力の限界を超える超人モードだ。

なんでも、大昔にこの世界の神様である創造神が英雄ダーマ・ラルカヤの願いを聞き入れ、スキルでも魔法でもない特別な力を種族進化という形で授けたのが始まりなのだとか。

なぜかこの力はラルカヤ家の当主となった家長にしか受け継がれない。

まあここは神様が実在する異世界なので、なんでもありなのだろう。

残念ながら次男である俺には受け継がれる気配は無いのだが、まあラルカヤ家の息子として生まれたメリットは英雄覇気のような分かりやすいモノだけではないので、不満とかはない。

よって跡目争いとかは存在しないのだ。

で、この長男のガルノック兄さんはなんというか、とても性格が良い。

いや、ふざけているとかではなく、本当に性格が良い素直な少年だ。

普通こんな恵まれた家に生まれたら増長しても不思議ではないのだが、俺のような俗物とは違い魂からして高貴なのかなんなのか、〝他者に対しては優しく、そして間違った事は反省し、自分には厳しく〟を地でいく好青年ならぬ好少年なのである。

ガルノック兄さんの笑顔があまりにも眩しくて、常に邪な事を考えている俺はそれだけで消し炭になりそうな勢いである。

そして最後に我が最愛の妹、フォズ・ラルカヤ、三歳。

端的に言えば天使、より詳しく語るなら大天使である。

俺の欲目だろうがなんだろうがこの結論は変わらない。

毎日剣で訓練する俺のことをベンチで応援し、訓練が終われば労いの言葉と共にタオルを手渡し、そしてお兄さまと言いながら後ろをペタペタと付いて来る。

まごう事なき天使なのである。

もし仮に妹が反抗期にでもなろうものなら、俺はショック死する可能性すらある。

そのくらいの可愛さだ。

妹にはどうかこのまま健やかに優しいまま育ってもらいたいものである。

まあ、情報の整理としてはこんなものだろうか。

「お兄さま、お兄さま。今日もまじゅつごっこする〜?」

「ああ、するとも。よーし、兄ちゃん今日も瞑想しちゃうぞー」

「わーい!」

俺の部屋にやってきた妹が、ベッドの上で座禅を組み瞑想する俺のマネをして同じように座禅を組む。

やはり可愛い。

……と、俺の感想はさておき、この瞑想には意味がある。

本来魔法というのは、それ相応の魔法使い系の職業についた者がレベルアップし、徐々に高位の魔法を使えるようになるのだが、実は魔法の真髄しんずいはそれだけではない。

こうして瞑想し魔力を感じ取り、体の中で循環することで様々な事に応用可能な技術でもあるのだ。

この形での魔法の習得方法は地味だし、成長するのにも時間がかかる。

しかし剣士という職業についてなくとも剣を振る事ができるのと同じように、魔法だってちゃんと修行すれば着実に身に付く物なのだ。

魔法スキルがオート操作だとすれば、修行による魔法はマニュアル操作と言った所だろうか。

この職業補正によらない魔法の習得の大事さを教えてくれたのは他でもない生きる伝説、ハイエルフのララ・サーティラ大先生である。

彼女は年一くらいのペースで我が家に訪れるので、つい一ヶ月前に訪れたのを良い事に、俺は魔法の使い方というものを質問し教授してもらったのだ。

このマニュアル魔法はエルフ達の間では原初魔法と呼ばれ、現在ではほとんど使い手がいないらしいレアな技術だ。

俺はこの技術を妹の自衛手段として、このマニュアル魔法を自らが伝授している。

なかなか奥が深い技術なので、最強を目指す俺はともかく妹が極めるのは難しいだろうが、どのような職業補正を受けようとも武器もなく振るえる力というのは魅力的だ。

幸い俺のマネをするのが好きなようなので、さわりの部分を教える分には苦労していない。

まだ魔法の発現には至っていないようだけどもね。

ちなみに、原初魔法に必要な魔力というものは丹田たんでんの部分に強く集中しているようで、座禅を組み瞑想することでより強くそのエネルギーを感じ取る事ができるのだが、この魔力を感じ取るという所で挫折する者が多いらしい。

なんとなくで身体に存在する魔力を認識するくらいならば、その辺の魔法使いとかもよくやっている事なのだそうだが、その程度の認識ではピクリともマニュアル魔法は発動しない。

ただ、俺は前世の記憶があるせいか今までの身体との違いを鮮明に感じてしまい、丹田に日本の俺の記憶にはない不思議な力があるのを簡単に感じ取れてしまった。

故に修行ははかどり、ヒト族にしてはありえないスピードで魔法を体得していっている。

これも俺の持つアドバンテージの一つであり、武器だ。

魔物を倒しレベルアップを目指す上で、これ程鍛えて有益な力も無いだろう。

よって、しばらくはこの原初魔法の訓練に費やし、周囲の魔物の情報を隈なく調査した上で万全の準備が整ったならば、こっそり屋敷を抜け出して魔物狩りに向かう所存である。

……さて、俺の異世界初戦闘はもうすぐそこだ。

「よろしいですかシムーン様。王家の懐刀と呼ばれるラルカヤ家の歴史を紐解けば、いかに初代様が国のいしずえとしてご活躍なされたのか理解できるのです。またその歴史があるかこそ、こうしてお家が存続している。剣術の鍛錬も良いですが、次男であるとはいえ貴族に負けるとも劣らない特殊な家柄。お勉強をおろそかにしてはなりません」

「ああ、分かってるよセバス」

現在俺は執事のセバスから歴史の勉強を学んでいた。

本来であれば使用人をまとめる存在である執事という存在は、次男の家庭教師に時間を割く余力など無い。

しかし、この特殊な事情のある家柄、ラルカヤ家の執事の場合はちょっと訳が違う。

何を隠そうラルカヤ家の歴史を深く理解している教師が、そう多くないからだ。

昔から国に多大な貢献をしてきた我がラルカヤ一族であるが、あくまでもその基本姿勢は国の味方ではなく人類の味方、という側面が強いために王国の歴史に残る事は少ない。

なぜならば歴史的な人物として功績を残してしまうにはグローバル過ぎて、これは王家の歴史である、王家の功績である、と言えなくなってしまうからだ。

そういった事情もあり、歴史学者などといった特殊な研究を行う者でない限りは、ラルカヤ一族の活躍を詳しく知り教える事が出来る者がいないのである。

なので唯一我が一族に代々仕えている分家とも言うべき執事のセバスが家庭教師となり、こうして授業を行っているという訳だ。

実のところこの英雄の歴史には多少なりとも興味があり、ヒト族という種族が進化して英雄の力を手にする、その過程を知るためにも真面目に取り組んでいた。

嫡男ではない俺が家を継ぐ事は万に一つも無いが、過去に進化を遂げ英雄となった先祖ダーマや師匠であるララ大先生のように、俺自身がこれからも進化しないと決まった訳ではないのだから。

よって、長生きの為にとりあえず最強を目指す俺としては、どうしてもその進化の秘密を解き明かしパワーアップしたいと考えている。

まあ、これについては強くなるための方法の一つとして理解しておこう、というくらいだ。

まだ何の手がかりも掴めていないので、基本的には予定は未定である。

「では、本日の授業は以上です。……しかしもう慣れたつもりでしたが、こうして見るとやはりシムーンお坊ちゃまは到底五歳とは思えぬ聡明ぶりですな。授業態度といい、文字の読み書きといい、私が今まで見て来た全てのヒト族の中で最も優れております。まるで大人と話しているようですよ」

その言葉にすこしビクリとしてしまうが、なんとか平静を保つ。

とはいえ、セバスの感想も的外れなものではないのも確かだ。

前世の俺は二十代だったし、いまさら子供の真似をするなんてのにも無理がある。

加えて文字の読み書きはカタカナやアルファベットのような表音文字であったため、一度日本語と照らし合わせて覚えればそう習得に苦労する事はなかったのだ。

なにせ会話に関しては五歳のこの身体が記憶しているからな。

このアドバンテージのおかげで、俺は文字を覚えるのに一週間もかからなかったくらいである。

この習得の速さのせいで周囲の者達からは天才児なのではと疑惑の目を向けられているのだが、実は違うので、ボロが出ない内にこれ以上噂が広がるのは避けたいところだ。

万が一にも英雄ダーマ・ラルカヤの再来だなんてことになったら大変な事になるし。

ガルノック兄さんにはちゃんとこの家を継いでもらい、家長として立派に成長してもらいたいと思っているのだ。

だから次男の俺が下剋上する訳にはいかないのである。

まぁ、俺みたいな前世の記憶でズルしている転生者なんかより、正真正銘の秀才であるガルノック兄さんの方が当主の座に相応しいし、そこから転がり落ちるなんてことは無い。

これは俺の考え過ぎっていうやつだろう。

また、セバスから歴史を学んでいく上で、英雄とはまた別の面白い知識も得る事ができた。

その表題となったのが、この世界の龍神や魔神といった存在達の神話である。

どちらも神に連なる圧倒的存在としてこの世界に君臨しているのだが、俺は種族進化という側面においてこの二つの神がそうあろうとしてきた過程に注目した。

なんでも、龍神は配下である龍や竜を従え、龍山脈という魔大陸全土を囲う大地にて魔神を監視しているのだという。

遥か昔、まだ先祖である英雄ダーマやララ大先生が全盛期だった創造神話と呼ばれる神話の時代、今は敵対しているこの龍神と魔神の関係もまた違ったものだったそうなのだ。

その頃はまだ魔神や魔族といった存在は出現すら確認されておらず、神は人を見守り、龍は人の外敵となる太古の生物をひっそりと排除し、人は日々の営みを繰り返し逞しく生き抜いていたという。

だがある時、それこそ人類史上初の英雄であるダーマが種族進化を遂げた頃、突如として魔神という存在が現れ龍・竜・人等の様々な生物を魔族に変換し、同時にそれに対抗するために職業補正と呼ばれる奇跡の力が人間に備わったのだ。

そこで俺はどうにも不思議に思った。

この一連の流れ、あまりにも種族の強化イベントが重なり過ぎじゃないか、という違和感が頭を過ったのだ。

もしかしたらなんだが、いや、本当にもしかしたらという程度なんだが。

……この魔神とかいう神様は、人間である英雄ダーマの種族進化を見て『あいつが出来るなら、自分も進化できるんじゃね』って思ったんじゃないだろうか。

元々は魔神も何らかの生物で──まあ、進化して神様になるくらいだから元が高位の生命体である事は疑いようがない──強引な種族進化によってその領域まで上り詰めた、そういう存在なのではないだろうかと考えたのだ。

考えてみれば、やはりおかしいのだ。

魔族化と呼ばれるこの現象、善悪はともかく聞けば聞く程、明らかに元の肉体のスペックよりも強化されている事が窺える。

それもレベルやスキルに依存しない種族としての力が強化されているのだ。

もはやこれも一つの『進化の形』なのだと疑いようがなかった。

尤も、この世界の人間にこのような事を言っても異端扱いされてしまうだけだろう。

だが元日本人としての記憶持つ俺であれば、進化という現象そのものには善も悪も無く、ただの変化だという事に気付く事ができる。

そしてその進化という条件を満たすための何かを、自力で強制進化を果たした魔神は知っているという事に他ならない。

今はこのパワーアップのための条件が何なのか分かりもしないし、手がかりも何もない。

しかしこの魔神という存在に出会えれば、何かヒントを得られるかもしれないと、この頃の俺はそう思うのであった。