閑話 ミゼット・ガルハート

あの日、魔族との戦いでケンジを一人置いてきてからというもの、結局あいつは私のところに帰ってくる事は無かった。

最初はどこをほっつき歩いてるんだと思い、私を待たせるなんて帰ってきたらお仕置きしてやると思いながらも、私は何日も待ったわ。

次の日も、その次の日も、そのずっと後も。

お父様には帰ってきた初日にこってり怒られたけど、それと同じくらい褒められてちょっと嬉しかった。

しかしお父様から聞いた情報だと既に町は私の話で持ち切りのようで、スタンピードの問題を解決した聖女だとか未来の聖騎士だとか、魔族から冒険者を救うために単身乗り込んだ英雄だとか言われてるらしい。

それを聞いて私は困惑すると共に、憤慨した。

だってそれは、全部ケンジの手柄じゃない。

私のケンジが皆を守るために一人で魔族に戦いを挑み、頑張って魔族を倒したから言える事じゃないの。なのにお父様もお母様もお兄様も、家の使用人も町の人もみんなケンジをいないものとして扱っている。私がお父様にケンジが頑張ったんだって言っても、どこか悲しそうな顔をして「そんな者はいなかった」って言う。

そんなはずはない、ずっと家で付き人をしてたじゃない。

みんなどうかしてる、きっと何か裏があるはずだ。

ケンジが屋敷に帰ってこないのも、それが原因なのかもしれない。

そしてある日、屋敷に一本の剣が届けられた。

間違いない、これはケンジが使っていた伯爵家の剣だ。

私に見つからないように巧妙に隠して届けられていたけど、甘い。

小さい頃から使用人の動向や隠し通路まで知り尽くしたこの屋敷で、私の目を盗める人なんていないもの。

私は証拠を得たとばかりにお父様に詰め寄ったけど、それでもお父様はより一層可哀そうな娘を見るような顔で、こういった。

「ミゼット。……彼の事は残念だったが、そろそろ前を向きなさい。あの者はもうこの世にはいないのだ。ケンジ・ガルハートは我が娘であるミゼット・ガルハートと、この町全ての者たちを守るために魔族と相打ちになり、死んだ。彼の死を尊ぶのであれば、伯爵家の令嬢として彼の死を活かせるようになりなさい。冒険者たちにはもう口裏を合わせてもらっている。……彼の手柄は、お前の手柄となるのだ」

頭が真っ白になった。

……ケンジが死んだ?

何を言っているの?

嘘だ、そんなはずはない。

あいつは私のケンジなの、絶対に誰にも負けるなんて事があるはずがない!!

お父様は嘘を言っている!!

「ミゼット。可哀そうなお前の為に、既に新しい付き人を用意している。彼が死んで悲しいのは分かるが、また一から使用人と関係を築き始めればいい」

「…………」

頭が沸騰しそうだった。

私に新しい使用人ですって?

そんなものは要らない。

私にはあいつがいてくれればそれでいい。

それにそんな使用人なんかに、ケンジの代わりが務まるなんてありえないわ。

その使用人は私がピンチになった時に、絶対に駆けつけて助けてくれるの?

その使用人は少女マンガの時のように、私に聖騎士の教訓を与えてくれるの?

きっと、そのどれもがケンジにしかできなかった事だ。

新しい使用人に務まるとは思えない。

でもそれを言ったところでどうにもならないって事は分かったわ。

みんながケンジを死んだものとして扱って、その手柄を有効活用するために私の箔付けとしている事も理解した。

結局あいつがなんで帰ってこないのかは分からないままだけど、でもこれで、今後どうすればいいかの方針は定まったわね。

そっちがその気なら、私にも考えというものがあるわ。

「失礼しましたお父様、私はどうかしていたようです。これからは前を向き聖騎士になって、ケンジのためにも権力を手にしたいと思います」

「おお、分かってくれたか我が娘よ!」

お父様はとてもお喜びになっているようだけど、もうその姿は私の目には映っていない。

私はこの国で聖騎士として成り上がり、ケンジを探し出す事に決めたのだから。

きっとこれはあいつからの試練というか、嫌がらせね。

今回私は魔族との戦いで足手まといになってたし、あまりにも不甲斐ないから遠くで様子を見ているんだわ。

いつも余裕そうに見えて小さな事をいちいち気にするケンジのことだもの、きっとそうに違いない。

だから今度こそあいつの隣に立てるように、一刻も早く聖騎士になって権力と力を手にし、どれだけ私という女が素晴らしいのかっていう事を見せつけてやらなければならないの。

もしその時になってケンジが見つかり、他領で遊び惚けているようなら叩きのめしてやるわ。

強くなった私の力を思い知らせてあげる。

そう決意した私はさっそく回復魔法と狩りのトレーニングを再開し、今まで以上の速度で力を得ていった。

だけど、もちろん教訓も忘れていない。

力を追い求めてそれに呑まれるなんて、もってのほか。

あいつの部屋に置いてあった少女マンガは全部私の部屋の宝箱に保管して、大切にとっておいてるわ。

強く賢く美しく、決して誇りを捨てずに強きをくじき弱きを守る。

そして力に振り回されない。

私があいつから教えてもらった大切な約束は、今も生きている。

次に会った時に言いたかった言葉は、強くなってその顔に一発拳を打ち込むまで、とりあえずはとっておいてあげるわ。

ふふん、感謝しなさい。

直々に会いに行ってあげるんだから。

この国のどこにいようとも、いえ、この世界のどこにいようとも探し出してとっ捕まえてあげる。

だから、いつの日かあんたの背中に追いついたら、頑張って強くなった私を褒めなさい。

そして騎士の誓いとして、私の剣を受け取るのよ。

今度はそのちかいがあんたを守るわ、絶対に。

断ったりしたら、許さないから。

「これはいずれ最強の聖騎士になる最高の乙女、ミゼット・ガルハートからの宣戦布告よ!!

それまではせいぜい、私の活躍を遠くから見守っていればいいわ!