魔族

ミゼットを背にして洞窟を進むと、先ほどまで既に濃かった瘴気の違和感がさらに強烈になってきた。

それになんだか奥の方で金属と金属がぶつかり合うような音がする。

怒声も聞こえるし、何者かが戦っているのかもしれない。

「うーん、やっぱり危ないよなぁ。ここから先はキツいですよお嬢様」

「何言ってるのよ、本番はここからじゃない。私はワクワクしてきたわ」

「左様ですか……」

これはあくまでも予想だが、たぶん戦っているのは瘴気を生み出す洞窟の主と、一足先にこの洞窟を見つけ調査に乗り出した斥候職の冒険者たちだ。

子供二人で軽く探索し見つけられるような洞窟が、本職の斥候せっこうに見つけられない訳がない。

既にこの洞窟が怪しいと踏んで乗り込んだ冒険者チームが奥で何者かと遭遇し、それで戦闘になったと考えるのが自然だろう。

まだ戦いの音が響き渡るため決着はついていないが、これが仮に洞窟の主側の勝利で終わった場合逃げ出せるかどうかも怪しくなってくる。

なにせ冒険者たちが町へ報告にも戻らず、否応なしに戦闘に突入する程の相手だ。

可能性としては十分に考えられる範囲だろう。

しかしこのまま突撃するというミゼットの案も、何も間違いばかりという訳ではない。

考えそのものは浅いと言わざるを得ないが、万が一冒険者チームが窮地に陥っていた場合、ミゼットはともかく俺が参戦することでできることは多いだろう。

基本戦力としては伯爵家の騎士と肩を並べ、さらには回復魔法によって戦線離脱した冒険者を復活させる事ができるからだ。

「早く行かないと手遅れになるかもしれないわ。行くわよケンジ」

「分かりました。ですが、もし私でもどうしようもないと思った場合は逃げます。これだけは肝に銘じておいてください」

「あら、分かったわ。でもそれが条件だと、たとえ相手がだれであっても逃げる必要はなさそうね」

事の重大さを理解していないミゼットは、すまし顔で奥へと進む。

そしてしばらく進むと、洞窟の奥に大広間のような広大な空間を発見した。

そこでは手に武器を持ち戦う冒険者チームと、全身が黒いオーラに覆われたエルフの男が戦っているようだ。

冒険者チームの方は三名が戦線を維持しており、もう二名が床で意識を失い倒れている。

遠目からでは生きているのか死んでいるのかが不明だが、五対一で不覚を取っているチームの現状を見るに、残りの三名もそう長い間戦い続ける事はできないだろう。

これはヤバいな、引き返そう。

彼らには悪いが、恐らく調査に乗り出した高位冒険者の一角であろう彼らが戦い、瘴気エルフに対して勝ち目が全く見えていないのだ。

しかもあの瘴気エルフは余裕の表情で遊んでいるようにも見えるし、もしかしたら既にこちらの存在にも気づいているかもしれない。

そんな奴を相手にここから参戦した所で、既に状況は手遅れと言っていいだろう。

逃げるが勝ちである。

しかしそう思い逃げようとしたところで、突然ミゼットが倒れている冒険者に向かって飛び出していった。

「そこの冒険者たち、援護するわ! 後ろで倒れている怪我人の治療は任せなさい!」

「……何っ!? 神官の増援か、助かる!! このエルフは魔族だ。恐らくスタンピードを意図的に作ろうとした元凶だろう。仲間を治療したらギルド本部へ連絡に戻ってくれ、それまでになんとか時間を稼いでみせる!」

ミゼットの声に反応し、こちらを振り返りもしない冒険者たちは瘴気エルフ、もとい魔族と交戦を続ける。

恐らく魔族との戦いで時間を稼ぐのが精一杯で、こちらの状況を気にする余裕がないのだろう。

だから助けに来たのが子供だと誰も気づかない。

……しかし、ミゼットが飛び出してしまったことにより魔族には完全に存在がバレた。

もう後戻りはできない。

「お嬢様、約束が違いますよ」

「教訓その二、強きをくじき弱きを助ける者となれ。……この状況で怪我人を見捨てることはできないわ」

血だらけで倒れている冒険者に対し、焼石に水といった微弱な回復魔法をかけ続けるミゼットは語る。

……はぁ、仕方ないなぁ。

どうせもう飛び出してしまったし、今から逃げるのもこの冒険者を助けて逃げるのも生存確率は同じだ。

いやむしろ、二人を助けて戦力に加えてから逃げた方が、より生存確率は高まるだろう。

そこまで計算した俺は二人に回復魔法をかけ、一気に治療を施し大回復させた。

「うっ、ここは……?」

「お、俺はいったい……。というか、幼女……?」

「ふふん、感謝しなさいあんたたち! このミゼット様がケンジを連れてきてあげたわよ! 大船に乗ったつもりで後の事は任せるといいわ」

回復魔法により意識を取り戻した二人は、唖然とした表情で俺とミゼットを見つめる。

たぶんこんな状況で助けに来たのが子供二人だという事に対し、認識が追い付いていないのだろう。

ミゼットと俺は最近の冒険活動により、そこそこ町で有名になってはいるが、それでも魔族との戦いに割って入るほど非常識な存在として認められてはいない。

この反応はいたって常識的な反応だ。

しかしこれで動ける護衛を二名確保できた。

ここから先は洞窟に魔族がいたという情報を持ち帰り、逃げるだけだ。

ミゼットも人命救助ができて満足だろうし、俺との約束を違えて飛び出したのもあくまで人命救助を優先させるためだろう。

当然もう我儘を言う気はないだろうし、現にミゼットは逃げる体勢へと移行しつつある。

どれ、それじゃあ情報を持ち帰るついでに、最後に鑑定で丸裸にして立ち去ろうか。


【魔族:エルフ種】

闇魔法と召喚魔法が得意。

まだ本気を出していない。

かなり格上。


闇魔法というのは精神操作系の能力が多い特殊な属性魔法のことだ。

なるほど、これで魔物たちを操りスタンピードを計画していたのか。

たしかにこいつの力ならそれも可能だろう。

だがスタンピードが起こりそうだと発覚してから日が浅く早期の段階なため、まだ準備は完全に整っていないはず。

情報さえ持ち帰れば討伐するのは容易いだろう。

この魔族の力がある程度冒険者より高かろうとも、町から差し向けられる討伐隊を相手に抗えるとは思えない。

個の強さも異世界では重要だが、その力に絶望的な開きが無いなら戦いは数で決まる。

戦場の鉄則だ。

しかしそう思い逃げ出そうとしたところで、待ったがかかった。

「はははは! これは面白い! 一体どんなネズミが侵入してきたのかと思えば、ヒト族の子供が二人だと。それに年齢にそぐわぬ強力な回復魔法……、面白い。面白い面白い面白い、面白ィイイイイイ!!!」

魔族が狂ったように叫び出すと突如として洞窟の出口から魔法陣が出現し、中から朽ちかけた剣と鎧を着こんだ……、というか鎧そのものが本体であるデュラハンの出来損ないような魔物が三体出現した。

おいおい、逃がす気はないってことか。

鑑定結果では三体で今の俺と五分か、それよりちょっと弱いくらいの魔物らしいが、魔族が本気を出して残りの三人を蹴散らすだけの時間は余裕で稼げそうな魔物だ。

何より数が面倒臭い。

「……あー、これは仕方ないな。リトライ前提で動くか。冒険者さん、ミゼットお嬢様を連れて一度町まで帰還していただけませんか? あの魔物と魔族は俺が引きつけますので、五人で逃げてください」

「は? ミゼット? ……ミゼットって言えば、あの伯爵家の!」

「そのミゼット・ガルハート伯爵ご令嬢で間違いありません。彼女に何かあればその首が飛ぶと思っていいですよ」

素性を聞かされて動揺する冒険者たちだが、そんな事に構っている余裕はない。

「いいから早くしなさい! ケンジがこう言ってるんだから、この場はケンジに任せておけば楽勝なのよ! 私のケンジが負けるはずないもの!」

「だ、だが、子供を置いていくなんてよぉ……」

「いいから行くの! 晒し首にするわよ! 私を信じなさい!」

晒し首にするという発言が効いたのか、魔族と戦っていた冒険者を含め五人と幼女が逃げの体勢に入る。

もちろんそれを許すはずがないだろうが、こちとら闇属性に超特効を持つ光弾スキルの所持者だ。

魔族の力が格上だろうとも、相性の問題で時間稼ぎ程度なら楽勝である。

俺は牽制としてありったけの光弾と挑発スキルを魔族と魔物に放ちながら、幼女を小脇に抱えながら逃げていく冒険者たちを見送った。

……さて、それではひと暴れさせてもらおうか。

強力な闇属性を持つ魔族と魔物に対し、神官スキルである光弾を打ち込み続ける。

さすがに格上の力を持つ魔族にはそうそう当たる攻撃ではなかったようだが、動きの遅い魔物に対しては大ダメージを与えたようで、相手のボディそのものである鎧を蜂の巣にして沈黙させた。

……ざっとこんなものかな。

どうやら冒険者たちは全員逃げ切ったみたいだ。

「ふぅー。とりあえずミッションクリア」

「ぐ、き、貴様ぁ……、一体何者だ。その力、子供の鍛錬でどうにかなるレベルを超越しているぞ」

「ああ、この惑星の魔族から見てもそう見えるのか。うーん、意外だ」

てっきりちょっと強い子供くらいのつもりでいたが、やはり職業補正三倍はチートだったらしい。

まあ、そりゃ二ヶ月レベル上げしただけで騎士と互角だもんな、そりゃそうか。

さすが創造神の分身なだけはあるらしい。

ちなみに現在、俺は魔族に攻撃するのをやめてその辺でぶらぶらしている。

魔族は俺の動きに裏があるのかと訝しみ、まるで抵抗の意志も見せず、かといって諦めた様子もない俺に対し次の行動を取りあぐねているようだ。

そんな警戒しなくても、ただブラブラしているだけなんだけどね。

スタンピード解決の情報源となる冒険者と、必ず守らなければならなかったミゼットを逃がした以上、俺はもうどのタイミングで戦闘不能になっても良いので対応は気楽なものだ。

そもそもこの魔族がなぜスタンピードを起そうとしたのかは知らないが、ぶっちゃけてしまえば俺からすればそんな事はどうでもいいのである。

俺は別に魔族が憎いと思った事も無いし、明確な敵だと考えた事もない。

こちらの認識としては、アプリで創造した惑星に生れ落ちた規定外の種族、というだけである。

別に無理に絶滅させようとかは思わない。

ただせっかく創った世界をめちゃくちゃにされては困るので、龍神に見張っておいてもらっている、というだけだ。

だがこうしていてもしばらくは魔族側からアクションを起こさなさそうだったので、暇になった俺は質問をしてみた。

「で、どうしてスタンピードを起そうとしたんだ? やっぱり魔神絡みかな?」

「な、なに!」

「確か魔大陸は龍神が見張っていたはずだけど、そもそもよくこの大陸まで龍神や原始龍、またはその眷属たちの目を掻い潜ってこれたよね。……意外と優秀だったりするのかな?」

「貴様、……なぜその事を知っている」

いや、でもやっぱり優秀ってことは有り得ないか。

だってワイバーンが相手ですら今の俺では確実に狩れるとは言い切れないのだ。

ワイバーンとは種族的に格の違う竜族と、そのさらに上にある竜族最高峰の高位古代竜ハイ・エンシェントドラゴン、そして創造神の加護を受けた竜よりもさらに上位の存在である原始龍、最後にそれらを含め全ての龍と竜の上位種、最強の龍神が見張っているんだぞ。

こんな吹けば飛ぶようなレベルの俺に苦戦している魔族が、龍神やその眷属の目を掻い潜って大陸を渡ってきたという説は、正直言って無理があるだろう。

だとすると、こいつは魔大陸出身ではない、という事になる。

「んー、考えれるのは元々ただのエルフだった奴が、なんらかの儀式か、もしくはより高位の魔族に瘴気をあてられ魔族化したってところか」

「なっ!? 貴様、どこまで事情を知っている! 馬鹿な、ありえない!!

「お、当たった? どっちが正解?」

動揺する元エルフの魔族は頭を掻きむしり、顔を真っ赤にして驚愕する。

なんか薬をキメたヤバイ人みたいだ、近寄らんとこ……。

ついでに、せっかくだから脱出を試みる。

「待て、逃げるな! 貴様だけは放置しておく訳にはいかん!」

「嫌だね! そんな薬をキメたヤバイ表情の奴に近寄られたくないからな! 光弾、光弾、光弾!!

光弾を牽制にして動きを阻害し、追ってくる魔族を余所に俺は洞窟からの脱出を始めた。

今の手札でまともに戦っては勝ち目がないので、あわよくばこいつを町まで連れていき、そのころには冒険者たちからの情報が行きわたり討伐隊が組まれているだろう地点で、この魔族を討ち取る。

こいつに恨みはないが、どっちにしろスタンピードによって犠牲者を多く出そうとし、町を混乱させた以上は討伐される事になるだろう。

もはや早いか遅いかだけの違いのように思える。

もちろんこの魔族が今から死ぬ気で逃げおおせるというのであれば、また話は違ってくるだろう。

しかしここまで計画し、そして俺という存在を逃がそうとしないこの魔族にはもう未来が無い。

追いかける、という選択をした時点でみなのである。

「くっ、小癪こしゃくなぁ……」

「うぉ、どこから出してるんだその怨嗟の声は」

憎悪に満ちた凄まじい殺気を飛ばし、とても元人間種のものとは思えない恐ろしい声で追いかけてくる。

しかもさすがに格上の魔族というだけあって、光弾を避けまくりながらも何やら魔法を編んでいるようだった。

確か得意分野は闇魔法と召喚魔法だったはずだが、咄嗟にデュラハンもどきを召喚した手腕を見るに、メインで鍛えてるのはたぶん召喚魔法かな。

だったらこの魔法も召喚魔法と認識しておいた方が良さそうだ。

「出でよ冥府の番犬ケルベロス、出でよ冥府の守護者腐敗竜、我が意に応え召喚に応じよ……」

「げっ!」

魔法を編み終えた魔族は自らの片腕を引きちぎり、それを依り代として召喚魔法を発動させた。

引きちぎられた腕は魔法によって二分割にされ、片方は三つ首の犬のような姿に、もう片方は骨が丸見えの腐ったドラゴンのような姿を模していく。

どうやら俺をここで始末するために切り札を出したようだ。

というか、普通そこまでするか?

見つかったなら一旦逃げて再起を図ればいいじゃん。

まあ、創造神として知っている情報から考えたあの推測が、そんなに彼にとって都合の悪い物だったという事なのだろう。

あの血走った眼をみれば、相当オツムに来ている事が窺える。

「この二匹は我が命と瘴気を依り代として召喚した疑似生命だ! 瘴気が尽きるかお前を殺すまでは死ぬ事がない! ……お前はここで諦め、そして我らの為に死ね【勇者】ァアア!」

「勇者じゃないよ!?

逃げようとする俺を追い、大きな代償と引き換えに姿を現した召喚獣たちが俺を襲う。

魔族本体の方はいまので力をだいぶ使ってしまったのか、かなりヘバっているようだ。

もはや命を使い果たして、寿命も残り僅かって感じで体が萎んでいる。

先ほどまでは若々しい姿をしていたのに、もう奴の姿は死にかけの老人にしか見えない。

……あれ?

という事は、これ素直にここで戦闘不能になっておけば役目を終えた召喚獣は塵になり、あの魔族は勝手に死ぬんじゃないか?

俺はとんでもない事に気付いてしまった。

迫りくる召喚獣に対し、とりあえず魔族が死ぬまでは様子を見ようという事で多少抗ってみる事にした。

いやたぶん、これ俺がこのまま戦闘不能になれば全てが解決すると思うんだけど、まあ今のキャラレベルでどこまでやれるのかっていうテストも兼ねて、という意味合いもある。

どうせ戦闘不能まで戦えるんだから、せっかくだし全力でやってみようというやつだ。

そして抗ってみた結果、惨敗。

現在俺は満身創痍で魔力も尽きかけ、おびただしい血を流しながらあと一歩で戦闘不能というところまで追い込まれていた。

しかし追い込まれているはずの俺の表情は晴れやかで、全く絶望すらしていない。

「ふむふむ、なるほど。これは思わぬ発見だな。……命を脅かす程の相手に限界ギリギリまで抗うと、こうも経験値効率がいいものなのか」

俺の眼に映るのはスマホ画面の【レベルアップしました!】という項目の羅列と、そして【聖騎士への転職条件を満たしました。戦士と神官を融合させますか?】という転職への案内。

既に肉体の限界を迎えようとしているのに、そんな痛みが吹っ飛ぶほどの嬉しさだ。

ちなみに魔族の方は召喚獣と戯れているうちに、いつのまにか死んでいた。

途中途中で「勇者討ち取ったりィイイイ!」とか、「魔王様、私はお役目を果たしましたぁ!」とかいって盛り上がっていたので、彼は彼で幸せな人生を送れたんだと思うよ。

いったいこの魔族に何があったのかは今となっては知る由もないが、一応創造神としてエルフという種族を生み出してきた手前、ちゃんと満足する最後を迎えられたようで良かったと思う。

できれば次に【ストーリーモード】を再開した時には、この魔族がなんでこういう事をしたのか、という点についても探ってみようかな。

「さて、ではあの化け物に匹に食われる前にいっちょ、聖騎士とやらの力を確認して散ってみようかな」

俺は満身創痍まんしんそういで動きの鈍った体でアプリを操作し、【聖騎士】への転職項目をタップする。

すると突然、見た目は何も変わっていないのに力が溢れ出てくるような感覚を味わい、一瞬の全能感の後に物凄い魔力が吹き荒れた。

まるで追い詰められた主人公の覚醒場面のような、そんな絵面である。

「……へぇ。これが上位職に迫る力を持った複合職の力ってやつか、こりゃあすげえ」

転職したてでレベル1だというのに力が満ち、魔力が溢れ、そこに存在しているだけで俺を襲おうとしていた召喚獣が警戒し、足を止める。

物凄いパワーだ。

しかも凄いのはパラメーターによる補正だけではない。

聖騎士になった事で得られた初期スキルの方も、これもまたとんでもない代物だった。

こりゃあ確かに国が優待職として召し抱えるだけの事はありますわ。

こんなのチートだチート、マジの超エリート職業だよ。

全ての複合職がこんなに優れているのかは謎だが、少なくとも【勇者】や【剣聖】と言った上位職はこれすらも凌ぐっていうんだから、そりゃ強い訳だよ。

さすがとしか言いようがない。

……それじゃ、いっちょ転職で体力が微回復した隙に、一発大技を決めてログアウトしますか。

せっかくこちらに恐れ戦き足を止めた召喚獣が待っていてくれるんだから、ここで決めなきゃいつ決めるって感じだ。

俺は聖騎士の初期スキル『聖剣招来』を発動させるべく、一瞬を永遠に引き延ばすかのように精神を統一させ集中する。

すると真上へと掲げた俺の手に光の粒子が集まっていき、『ゴゴゴゴゴゴ』という謎の発生音と共に光の粒子が巨大な剣を形成していく。

目測だが、全長五十メートルくらいはあるだろうか。

そんなとんでもない大きさの光の剣は森の木々を突き抜け、周囲を照らし、嵐のような突風を引き起こす。

完全に必殺技の体を成した光の剣に魔力も体力もどんどん吸われていく感覚があるが、……これを振り下ろしたら一体どうなってしまうのだろうか。

とりあえず最後だから全余力を注ぎ込んでスキルを使用してみたが、……これ、命を懸けて使用したら絶対ダメなタイプの超攻撃的な環境破壊スキルだ。

スキルの発動主である俺の方が怖くて、なかなか振り下ろす勇気が生まれない。

たぶんこれ、光の聖剣が大きすぎて町の方からもその様子が窺えるんじゃないかな。

騒ぎになってなきゃいいけど、……なってるだろうな。

恐らくこのスキルは使用者の魔力や体力を吸収して放つ大技なんだと思うけど、まさかこんな土壇場で命を燃料にして放つ大馬鹿がいるとは思えない。

十歳というありあまる若さ、そして寿命を対価に支払って作成したこの聖剣はたぶん、聖剣史上最大火力に匹敵しそうな勢いである。

まあそれでもレベル1だからこの程度で済んでいるけど、これがもっと聖騎士を鍛えて放っていればどうなっていたのか、想像もつかない。

もしかしたら、町にまで余波が及んでいたかもしれないな。

「まあ、考えても仕方ないか。……それじゃ一発、お前たちを道ずれにしてログアウトしてやる。悪く思うなよ召喚獣」

俺はそのまま五十メートルにもなる光の聖剣を振り下ろし、あまりの破壊力に周囲が光のエネルギーで包まれるのを感じたあと、ぷっつりと意識を手放した。