治療

薬局で買った風邪薬を次元収納して【ストーリーモード】を再開した。

「うわ、暗くて何も見えねえ」

ガルハート伯爵家の個室に戻ると既にこの大陸は真夜中に差し掛かっており、外も部屋も真っ暗だ。

仕方がないのでホームセンターで購入しておいたLED型の懐中電灯で部屋を照らし、就寝の準備に入る。

アプリで周辺を覗いて見たところ屋敷の様子は穏やかで、普段通り昼夜問わず門兵が大あくびをかいていたり、まだ寝ていない使用人の部屋が明るかったりするので、たぶん俺が抜け出していた事はバレていないように思える。

一先ずは安心だ。

しかし渡された貴族っぽい服から村人の服に着替え、そそくさと布団に潜り込もうとすると何か柔らかい物にあたった。

なんだこのフニュフニュとした感触は?

なんか妙に暖かいぞ……。

気になった俺は懐中電灯で布団の中身を照らし、確認してみる。

「きゃっ!」

「…………」

すると、そこにはまん丸のおめめに、金色の長くツヤのある髪の毛。

そして女の子特有の甘い香りを漂わせた、小さな侵入者が潜伏していた。

なぜこうなったし。

「むぅー! そこのあなた、その光の魔道具で私を攻撃するのをやめなさい! 眩しいわ!」

「…………」

女の子が文句を言ってブーイングを飛ばす。

まてまてまて、ここ俺の布団なんだが……。

そもそも君は誰なんだ。

「早くしないとお父様に言いつけるわよ!」

「あ、はい……」

その一言で全てを察した俺は、光の速度で懐中電灯の光を天井に向ける。

すると布団の中からもぞもぞと女の子が這い出てきて、小さな両手でいきなり俺の頬を挟み、グイッと自身の方に俺の顔を向けさせた。

なんか怒っているっぽい。

「あなた、今までどこをほっつき歩いていたの? お母様が今日は変な子どもが来ていると話していたから、私がお父様とお母様の目を盗んでこうして遊びにきてあげたのに、いなかったじゃない! 待ちくたびれて危うく寝てしまうところだったわ」

やはりというか、この育ちの良さそうな幼女はガルハート伯爵家のご令嬢だったらしい。

性格はおてんばなのか知らないが、俺の扱いに対する家族会議のような会話を盗み聞きして、面白そうだからちょっかいをかけに来たといったところだろう。

だがこれはマズいぞ、このお嬢様が俺の部屋でしばらく潜んでいた事がバレてしまったら、ここの家族に誘拐犯として疑われてしまうかもしれない。

幸いな事に家族の目を盗んで脱出し、そして未だこの屋敷の人たちが落ち着いているところを見るに、現状では気づかれていないだろうが、もはや時間の問題だ。

早めに追い返さなくては。

至極丁寧に、このお子様の機嫌を損ねないように諭し始める。

「お嬢様。本日はもう暗く、これから遊ぶには環境が適していないかと。明日であれば時間がありますので、もしよければ私めの相手をその時にしていただけませんか? お嬢様ももう眠たいでしょう?」

「いやよ! 私はこうみえてタフなの、全然、全く眠たくないわ!」

いや、さっき爆睡してたよね……。

懐中電灯の光で目を覚ますまで、俺が触っても気づかなかったみたいだし熟睡だったよ。

というか自分で危うく寝てしまうところだったって言ってるし……。

しかしその事を伝えても余計に機嫌を損ねるだけなので、何も言うまい。