陰陽師

その日の夜、俺はガルハート伯爵家の屋敷に招待された。

俺の存在は秘匿性が高いらしく、高級そうな馬車に同席させてもらい人目を避けながら屋敷まで案内されている。

そして屋敷に着くと俺はさっそくメイドのような人に身嗜みだしなみをチェックされ、服装を着替えさせられ、さらに髪をセットされていく。

何やら既に俺の話は密偵のような者を通じて屋敷の人間に伝わっていたらしく、まるで本当に貴族のおぼっちゃんのような対応だ。

この対応を鑑みるに、このギルド長、いや元ガルハート伯爵は本気らしい。

ちょっとお孫さんの病気が治らなかった時の事を想像してチビりそうになった。

い、いや大丈夫だ。

そもそも俺は不死身だ、冷静になれ。

そして俺専用に与えられた個室でメイドが運んできた食事をとった俺は、ついにギルド長に呼ばれガルハート伯爵家の一家とご対面する事になった。

まずそこにいたのは当然ながら俺を呼びつけた張本人である元ガルハート伯爵。

名をウィルソン・ガルハート。

次にその息子である現ガルハート伯爵のガレリア・ガルハートと、孫のクレイ・ガルハートだ。

彼の妻は部屋には居なかった。

理由は分からないが、一家の責任者であるガレリア・ガルハート伯爵が俺の対応をするという事だろう。

ちなみにクレイは予想通り体調が悪そうで、俺が呼ばれてきた時もベッドから身を起さず寝ているようだった。

ときおり咳もしてかなり苦しそうである。

しかし、やはりどこからどう見ても風邪にしか見えない。

症状は重くかなり苦しそうではあるけども。

「ふむ。……確か、サイトウだったかな。では、やりたまえ」

「ん?」

「回復魔法だよ、使えるのだろう? 我が父はその前提で君を招いたはずだ」

ガレリア・ガルハート伯爵は、さっそく治療しろと言わんばかりに俺に命令を下す。

うーんでもなぁ。

他の人の回復魔法で治らないなら、俺が今やっても同じことだろ。

無駄な努力だ。

しかし彼は俺が治療できるのかどうかは半信半疑なところがあるものの、回復魔法そのものを使えるのを疑っている様子はない。

たぶん全面的にギルド長、もといウィルソン・ガルハートを信頼しているのだろう。

まあ実の父でありクレイ少年の祖父だからね、それはそれで納得だ。

今のところ騙す理由がない。

「一応回復魔法は使いますけど、本格的な治療は明日になります。それでもいいですか?」

「何? そうなのか? 父上、この者はこう言っていますが……」

「うむ、その話は事前に報告を受けている。とりあえずまずは、彼のやりたいようにやらせなさい」

当然風邪を治すためには日本に戻って薬局へ寄る必要があるので、とある事情により、今すぐには治療ができないとギルド長には時間的猶予ゆうよの約束を取り付けている。

この作戦を実行するにはログアウトができるかどうかが不安要素であったが、一度戦闘不能になった事が原因なのか、個室でアプリを確認したところログアウトの項目が選択可能になっていた。

とりあえず日本には戻れそうである。

「それじゃ、痛いの痛いのとんでいけぇ~」

「おおっ……!」

俺が回復魔法を発動させると、少年の父であるガレリア伯爵ではなく祖父のギルド長がおののいた。

たぶん部下であるイリス副支部長と冒険者ガイの報告を信用していても、内心不安だったのだろう。

実際に回復魔法を発動させた事で、期待を持ってしまったようだ。

回復魔法をかけ終わるとクレイ少年は一時的に穏やかな表情になり、安心したような表情で眠る。

ただ、ここまでは特別な事は何もしていないので、恐らくここからまたぶり返してしまうのだろう。

「まあ、今日のところはこの辺で。それじゃあ明日またよろしくお願いします」

「うむ、よろしく頼む」

そう言うと俺はまた自分に与えられた個室へ案内され、晴れて自由時間となった。

さて、やる事をやろうか。

アプリを操作し、一先ずログアウトを選択する。

「……ふむ、帰ってきたな」

いつもの自宅だ。

外を見るともうすぐ夕方になるかな、といった頃合いの時間。

まだ薬局は営業中だろう。

それとしばらく向こうで過ごしていたが、こちらでの日付は変わっていなかった。

いきなり一週間とか経っていたらどうしようかと思ったが、無断欠勤にならなくて良かったよ。

会社を辞めるにしても、やっぱり無断欠勤は後味が悪い。

「じゃ、薬局いくか」

財布を持ってそそくさと出かける。

幸いな事に薬局には風邪によく効くと評判のモノがあり、俺は迷わずそれを手に取った。

とりあえず予備も含めて二つ買っておく事にし、会計を済ます。

うむ、完璧だ。

「あら、治癒の異能を使える人でも風邪にかかるんですか?」

「いや、アレは傷には効果的だけど病気には弱いから」

「へぇ、そうなんですね。でも風邪を引いているようには見えませんけど……」

「だって別に、俺が使うわけ、じゃ、ない……、し……?」

……って、何奴なにやつ!?

緊張と危機感から緊急で飛びのいた俺は、たった今会話していた謎の存在に目を向ける。

あまりに自然に話しかけてきたのでつい普通に話してしまったが、よくよく考えたら会話内容がおかしい。

どういう事だ。

「こんにちは、また会いましたね! すごい偶然です!」

「……ん? 君は確か、美少女A」

そこにいたのは、今朝方チンピラに絡まれていた美少女Aだった。

なんだよ、驚いて損した。

そりゃあれだけ堂々と回復魔法を見た後なら、この会話も納得だわ。

しかしここはホームセンターからだいぶ離れた、というか正反対の場所にある薬局だぞ。

偶然会いましたねって、そんな事あるか?

「そう警戒しないでください、私はあなたに危害を加えるつもりはありません。ただちょっと話があって、こうしてお邪魔した次第であります」

「は、はぁ……」

美少女Aはそう言って綺麗な所作でお辞儀をした。

はぁ、美少女はなにをやっても様になるな。

しかし、和風美人を連想させるロングストレートの綺麗な黒髪のお嬢様は、一体俺に何の用だというのか。

「あ、ここでお話するのもなんですから、続きは私の屋敷でどうぞ。外に車を用意しております」

「いや、俺はこれから用事が」

「いえ。用事なんて、ありませんよね? だって私の家の者があなたの自宅を見張っていましたもの。そうですよね、斎藤健二さん。既に調べはついております」

怖っ!?

何者だよこのお嬢さん!?

ただの美少女Aかと思ったら、もしかしてとんでもない裏社会の人間だったのか!?

しかも俺に語り掛ける笑みが黒い、黒すぎる。

どう考えても何か企んでますといった雰囲気の表情だ。

だが悲しきかな、俺はこっちの世界ではレベルやスキルが反映されていても不死身じゃない。

明らかにヤバそうなこのお嬢さん、もっといえば外で待機している黒服のお兄さんに囲まれては、社会的に生き残る意味で従わざるを得ない。

だって今日会ったばかりの手品師に対して、異能っぽいからという理由で個人情報を丸裸にするような奴らだ。

絶対まともじゃない。

「わ、分かった、分かった」

「ふふ。ありがとうございます! ……ああ、自己紹介が遅れました。私、こういうものです」

渡された名刺には呪いのような赤い文字で、【戸神とがみ黒子くろこ、職業:陰陽師おんみょうじ】と書かれていた……。

陰陽師って、なんだっけ。

俺は薬局の前に用意してあった黒塗りの高級車に連れ込まれ、囲んでいた黒服の人にまるで「絶対に逃がさんぞワレェ」と言わんばかりの威圧を受けながら、陰陽師と名乗る戸神黒子と一緒に屋敷へと向かう事になった。

どうしてこうなったんだ、俺はただ風邪薬を買いに来ただけなのに。

これからどうなるのかという不安と緊張で足が震えている。

「ふふふ、あなたのような殿方でも緊張をするのですね。大丈夫です、彼らはただのボディガードですから。私や斎藤様に手出しをする事は万に一つもありません」

「そ、それはようござんした……」

やばい、緊張で口調がおかしなことになっている。

とはいえあの黒服ボディガードが明らかにお嬢様である戸神さんを守るためだけでなく、俺の身柄も大切に扱っているという事を聞いて少し安心した。

やっぱり情報共有って大事だよね。

だが、そもそもこんなボディガードをつけて移動するようなお嬢様が、何故あんな路地裏でチンピラに絡まれていたのだろうか。

まずそこからして疑問なのだが、果たしてこれは聞いていい事なのかどうか判断がつかない。

女性のプライベートを詮索するのがマナー違反という意味ではなく、ただ単に踏み入れてはいけない領域に踏み入れてしまうのが怖いという意味で。

「気になりますか?」

「な、ななな、何をですか? ははは、この不肖斎藤、何も気になる事などございませぬ」

「無理をなさらなくても大丈夫ですよ。私が裏路地で素行の悪い者たちに絡まれていたという事自体、この状況から見て明らかに不自然ですし。斎藤様のお気持ちはお察しいたします」

そういって戸神さんは困ったように優しく微笑む。

何か事情があるようだが、そもそも俺はそちらの領域に踏み入れたくないから無理に気にしないようにしているのだ。

気を遣うベクトルがずれているよ、もし気遣う心があるならば今すぐに身柄を解放してほしい。

というか俺が倒したあのチンピラたちはあの後どうなったのだろうか。

こうして危険な臭いのするボディガードを何人も傍に置いているところに鑑みるに、とてもじゃないがあのチンピラ二人が無事解放されたとは考えにくい。

俺に微笑みかけるその笑顔は相変わらず美人なので、できればこういった黒い背景無しで、普通にお知り合いになりたかったよ……。

そんな妙に噛み合わないやり取りをしていると、とある屋敷の前で車は停車した。

目の前には馬鹿でかい庭と古風な建物があり、土地成金も真っ青なくらい風格のある屋敷が姿を現す。

「戸神お嬢様、お屋敷に到着いたしました」

「はい、ありがとうございます。それでは斎藤様、お疲れとは存じますが少々お付き合いくださいませ。詳しいお話は屋敷の中で説明させていただきますね」

こちらを気遣う穏やかな表情とは裏腹に、戸神さんは俺の手をがっしりと掴み強制的に連行していく。

握力そのものは華奢な女の子そのもので、【戦士】レベル3の職業を持つ俺の敵ではないが、有無を言わせない迫力がある。

日本において不死身の身体を持たない社畜は権力に弱いので、抵抗する事なく素直についていく事にした。

情けないと思ってはいけない。

これは処世術である。

そして屋敷に上がらせてもらい、そのまま美少女と手を繋ぎながら長い廊下を渡っていくと一つの襖部屋へと辿り着いた。

ボディガードをしている黒服の一人が一度お嬢様にお辞儀をして、ふすまを開く。

すると中には畳の上で胡坐あぐらをかき、パイプ型のタバコを吸っている老人がいた。

「おう、お前にしては遅かったではないか黒子。それほどに手ごわい男であったか?」

「はい、おじい様。私も万が一に備え斎藤様の足取りを追っていたのですが、式神しきがみからの連絡が途中で途切れてしまい、つい先ほどまで行方が分からず仕舞いでした」

「ほっほっほ、……黒子の式神をあざむくか。これは期待できそうじゃのぉ」

目の前で理解の及ばない会話が繰り広げられていく。

式神ってなんだ、陰陽師の道具か何かかな。

というかここは由緒正しき科学の支配する地球文明だぞ、そんな不思議能力があってたまるか。

……と、言いたいところだが俺が既に摩訶不思議生物になりつつあるので、強くは言えない。

そして式神にどんな能力があるのかは不明だが、もしその不思議能力で対象を追跡していて連絡が途絶えたというのであれば、それは恐らく追跡の対象である俺が異世界に飛ばされていた事が原因だろう。

そもそも先ほどまで地球上には居なかった訳だから、そりゃあさすがに追跡困難にもなるだろう。

さすがの式神様も、異世界までは追ってこれなかったようである。

「して、黒子が見初めたお気に入りの殿方は、治癒の異能を持っていると申しておったな。他にはどんな能力がある?」

「おじい様、こんなところで孫をからかうのはおやめください。お客様の前ですよ。私が見たのは治癒の異能の他に、類まれなる身体能力、そして戦闘技術ですが……。式神の追跡を振り切ったところを考慮すれば、他にも異能があると思われます」

当事者の俺を差し置き、勝手に話が進んでいく。

あれ、これ異世界でもこんな事があったような……。

デジャヴ?

二人の話を聞いた感じだと、式神や異能を日常のものとして捉えているみたいなので、とりあえず鑑定を掛けてみる。

どうせ大雑把な情報しか得られないだろうけど、俺ばかり調査されるのはしゃくだからな。

お返しに異能の一端とやらを目の前で使ってやる。

……こ、こっそりとね。


【陰陽師のお爺さん】

しきがみをつかう、そのたおおくのことがとくい。すこしだけつよい、にげるのもあり。


【陰陽師のお嬢さん】

しきがみをつかう、けっかいじゅつがとくい。ふつう。


その他多くってなんだ!?

どんなインチキ爺さんだよこの人、式神を使った上で他にも色々できるって事か!?

もしかしたら刀術とか槍術とかもマスターしているのかもしれない。

というかさっそく鑑定さんがビビりはじめ、逃亡を推奨している。

ほんとブレないなこの能力。

まるで臆病な俺の性格を投影しているかのようだ。

とはいえ実力は俺より少し強い程度。

レベルでいうなら6とか、7とか、そのくらいかな?

詳細な戦力差は不明。

そしてもう一人の陰陽師、実力は互角と表記される嬢さんだが……。

「……結界術とは?」

式神とは違うのか?

分からん。

戸神家のお嬢さんをよく見て鑑定をもう一度かけ直すが、やはり結界術と判定される。

これだと式神を使った結界術なのか、式神と結界術が別々に得意なのか、判断がつかない。

やはり錬金術師レベル3では鑑定能力もガバガバだな、もっとレベル上げを頑張ろう。

「ほう。黒子の結界術を見破るか、大した男だ……。確か、斎藤と言ったか?」

俺の呟きに目ざとく爺さんが反応し、先ほどまでのからかうような態度を潜めこちらを真っすぐと見据える。

どうやら爺さんの琴線きんせんに触れてしまったらしい。

「治癒の異能があるとはいえ、初見では凡庸な男だと思っていたが、……どうやら評価を改めねばならぬようだ。わし耄碌もうろくしたか」

「おじい様」

「分かっておる。……ふむ。どれ、それでは一つ試験をするとしよう。相手はうちの若手でいいかのぅ?」

「ですから、おじい様。それでは斎藤様には何も伝わりません……」

陰陽師の爺さんは勝手に自己完結して納得し話を進めるが、お嬢さんの言う通り何のことか全く分からない。

まずは俺を連れてきた理由と、なぜ試験をする必要があるのかと、その後俺をどうしたいのかを説明してもらいたものだ。

そう思い戸神お嬢さんに顔を向けるが、彼女は困ったように笑い首を振った。

どうやらダメらしい。

たぶんこの爺さんは、こうなったら止められないタイプなのだろう。

「クカカカッ! なに、そうおくするな。お主の実力如何によっては質問には答えてやる。……おい、話は聞いていたな、一人連れてこい!」

「はっ!」

爺さんは黒服の一人に声をかけると、よっこいせという声と共に立ち上がる。

試験とやらのせいで、戦いは避けられないようだ。

試験をすると言い、無理やり連れてこられた場所は古風な豪邸の巨大な庭。

庭もそれはそれで和風テイストに整えられているが、一番目を引くのはそこかしこにあるお札だ。

何やら赤い文字で呪文のようなものが書かれているが、あれが何なのかは分からない。

分からないが、たぶん結界か何かだろう。

庭に攻撃的な兵器がおいてあるのもおかしな話だし、もし何か意図があるとすれば侵入者の感知や、そういった何かから身を護るためのバリアなんかが一番妥当だ。

まあ、確証はないけど。

それからしばらく待っていると、先ほど爺さんの命令で駆けていったボディガードの一人が、和風装束に身を包んだ若者を連れてきた。

若者はちょうど戸神家のお嬢さんと同じくらいの歳頃で、黒髪に少しキツイ目つきをした青年だ。

「お呼びでしょうか大旦那様」

「やめんか、儂は既に当主ではない。今の当主は現役を退いた戸神とがみ源三げんぞうではなく、娘婿むこ戸神とがみ砕牙さいがであろう。履き違えるでないわ」

「しかし、自分にとっては今もなお源三様が当主であり、そして戸神家で随一の陰陽使いでございます。……何卒ご容赦を」

なにやらここでも家督を継ぐだのなんだので一悶着あるようだ。

貴族や豪家っていうのはお家問題が複雑で大変だね、俺には関係ないけど。

それにしても爺さんは戸神源三というのか。

現在は砕牙さんに家督を渡しているらしいが、娘婿っていっているところを鑑みるにたぶんここが陰陽道の本家であり、砕牙さんは分家かもしくは余所の家から嫁いできた存在なのだろう。

戸神本家に嫁ぐまでどんなドラマがあったのかは知らないが、この偏屈な爺さんから合格を貰ってまで婿になるとは、なんとも剛毅ごうきな人だ。

俺だったら裸足はだしで逃げ出すね。

ぜったいヤバい爺さんじゃんこの人。

「まあ、良い。……既に話は聞いておるだろうが、今回はそこの斎藤殿の試験相手としてお前を連れてきた。くれぐれも心してかかれ、こやつは黒子が自らの眼で自分に相応しいと選んできた強者つわものだ」

「この者が黒子様の……? とてもそう大した男には見えませんが……」

青年は訝し気にこちらを観察し、ジロリと睨む。

やっぱこの家の人みんなまともじゃねぇ、まだ高校生の青年にすら、目の奥に狂気の光が宿ってるよ。

ちなみに俺が大した男じゃないという青年の判断は限りなく正しい。

こちとらただのおっさんだ。

ただちょっと、傷が癒える手品とか相手を見極める手品が使えるだけにすぎない。

というかそろそろガルハート伯爵家に戻らないと、俺が個室に居ない事がバレてしまう可能性がある。

解放してくれないかなぁ。

「甘い、甘すぎる。お前は儂が拾った時から、そうやってすぐに表面だけで物事を判断する悪い癖がある。この者の内に眠る霊力を感じて見よ、只人ではないことが一目瞭然じゃ」

「し、しかし……」

「……分からんか、未熟者め。だが試験結果は嘘をつかない、気になるならばそれこそ己が力で試してみればよかろう」

青年は一言分かりましたと頷き、庭の方に足を向ける。

試験とやらが始まるらしい。

それにしても俺に霊力なんてあったのか、知らなかった。

もしかして魔力の事かな?

まあ、どうでもいいか。

青年に続くようにしてこちらも庭に赴き、少し距離を開けてから向き合うように対峙した。

「それでは試験を始める。準備は良いな?」

「はい」

「大丈夫ですよ」

おっと、その前にとりあえず鑑定をしておこう。

得意分野くらいは分かっていた方がいいからな。


【陰陽師の青年】

しきがみをつかう、けんかがとくい。ややよわい。


キャラレベル3より弱いらしい。

それと喧嘩が得意ということは、格闘戦がメインなのかな。

冷静そうな見かけに寄らず短気なのかもしれない。

それに、もし向こうが刃物を取り出すならこちらも鉈くらいは必要だと思ったが、今のところは必要無さそうだ。

ただ向こうには式神という未知の兵器があるので、その危険性如何によってはこちらも武器を取り出した方がいいだろう。

鑑定情報を元に考察を進めていると、審判役であろう爺さんから声がかかる。

「よし、それでは始め!」

「はぁっ!」

試験が始まった。

相手役の青年は独特な歩行法と構えで突っ込んでくるが、身体能力そのものは【戦士】のレベル3よりもだいぶ低いらしく、今の俺から見ても余裕をもって受けられそうな勢いだ。

反撃しようと思えばそれなりに有効打を与えられそうである。

だが、いい年こいたおっさんが力のままに青年をいじめるのは、なんとも絵面が悪い。

どうしたものか。

……とりあえずかわし続けよう。

攻撃が当たらないと悟ったら爺さんも試験を終わらせるかもしれない。

これ殺し合いじゃないしね。

避ける、避ける、避ける。

「くっ、馬鹿な!? な、何故当たらない!?

「どうやらキミは喧嘩が得意らしいけど、まあおじさんは色々とズルしてるからなぁ。落ち込む事はないよ。一般人がここまでおじさんに迫る事ができるなら上出来だ」

「……なにっ!?

こっちは職業を三つも取得してパラメーターにブーストをかけている上に、さらにレベルにまで開きがあるからな。

そんなおっさんの動きについてこれるだけでも大したものだ。

喧嘩が得意というのは伊達ではないらしい、よく頑張ってるよこの青年は。

しばらく避け続けると、だんだんと青年の息があがってきた。

「クカカカカッ! 対あやかしに特化しているとはいえ、武の基本を学んだこやつの攻撃を容易く躱すだけでなく、かつての喧嘩屋としての特性まで見抜くか! やるのぅ婿殿!」

「お、おじい様! 斎藤殿はまだ婿ではありませんよ!? 勝手に決めてはあの方に失礼です!」

「ほう。……まだ、とな?」

「くっ!? 揚げ足取りはおやめください!」

外野は外野で盛り上がっている。

賑やかな事だ。

青年がこんなに頑張っているんだから、少しくらい応援してあげたらいいのに。

一応は身内だろうし。