ストーリーモード
新機能であるストーリーモードへと意識を向けた俺は、さっそくキャラクターを作成してみる事にした。
「何々? まずは職業を選ぶのか……。そして当然初期レベルは1、と……」
考えてみれば当然の事だが、いくら創造神という設定であるプレイヤーであっても、ストーリーモードではレベル1からのスタートのようだ。
まあ、最初から創造神レベル999、とかだとゲームバランスが崩壊するしな。
そりゃそうだ。
それだとストーリーもクソもない。
ちなみに選択できる職業に勇者などの上位職業は含まれておらず、選択しようとしても【エラー! 既に所持している個体がいます!】と出るため、恐らくこの勇者や聖女の上位職業は世界に個数限定でしか出現しないレア職業なのだろう。
勇者を所持している惑星のキャラが死んだらどうなるか分からないが、たぶんしばらくして他のキャラに職業勇者が行き渡るんだろうな。
そんな気がする。
という訳で俺が初期状態で選べるのは一般職の【剣士】とか、【魔法使い】とか、そこらへんだ。
ただ運営のサービスなのかどうかは分からないが、キャラ作成画面の説明に【創造神の分身であるあなたのキャラクターは、職業を最大三つまで保有できます】とメッセージが残されているので、たぶんかなり優遇されているのだろう。
そこらへんはちゃんと有象無象の一般人ではなく、創造神としての優位性を保てるようになっているらしい。
とはいえ、何度も言うが最初はレベル1だ。
職業が多くても最初から調子に乗っていればすぐにゲームオーバーになってしまうだろう。
俺は脳内で何度も最適な組み合わせをシミュレートした結果、近接職、遠距離職、便利職をバランスよく組み合わせる事にした。
メッセージには職業の入れ替えは【マナ】を支払えば自由だが、入れ替えるとその部分の職業が当然レベル1からスタートになるようなので、できれば最初に使いづらい職業を選ぶのは避けたい。
複数の職業を体験することで複合職というレア職業を選択可能となってるので、ピーキーな職は操作に慣れてからにしようと思う。
で、まず近接職だが、これは普通に戦士でいくことにした。
理由は職業選択画面で出現する能力パラメーターが安定しているからだ。
魔法系の能力は壊滅的だが、その他物理面での平均値が剣士や闘士といった近接職よりも、総合すると高い。
恐らく戦士は特定の戦闘技術に特化していない分、剣の扱いに特化した剣士などに比べて強みがなく、その代わり他よりも肉体能力が高く設定されているのだろう。
即採用だ。
次に選んだのは、神官。
とりあえず回復手段が無いと始まらないと思ったのが一つと、威力は乏しいが魔法による遠距離攻撃も可能なのが一つ。
魔法使いのように多彩な攻撃魔法は扱えないようだが、解説には成長すれば光属性の攻撃魔法を習得できるとある。
育てておいて損はないだろう。
最後に三つ目、選んだのは錬金術師だ。
魔力というパラメーターを消費し素材があれば道具を創造できる他、基本スキルに鑑定が搭載されていた。
やっぱり相手のレベルとか、危険度とか、そういう知識って冒険では必須だと思うんだよね。
という訳で、俺が選んだのは以上三つの職業だ。
さっそく作成したキャラクターを確認し、決定する。
すると今度は年齢設定の項目が出現した。
「えー、何々。五歳から五十歳まで選択可能なのか。キャラクター作成後の年齢の変更には【マナ】による奇跡が必要と……」
なんでもありだな、創造神の奇跡。
職業だけでなく年齢設定まで自由自在かよ。
まあ仮にも世界創造の神が作る分身だし、それくらいできてもおかしくはないが。
とりあえず物は試しという事で、【マナ】を微量に消費する以外デメリットというデメリットも無さそうだし、飽きたら変更すればいいと思い十歳から始める事にした。
少年冒険者の誕生だ。
俺は年齢を確定し、次に進む。
どうやらこの確認が最後だったようで、メッセージには新たな文面が出現した。
【イベントクリア! おめでとうございます、あなたのキャラクターが創造されました。基本機能を全て解放し操作しました。チュートリアルイベントを終了します。以後、時間経過は緩やかになります。ストーリーモードをお楽しみください】
お、やっとイベントが終了したぞ。
どうやらここまでがチュートリアルだったようだ。
それに時間経過が緩やかになるとは言っているが、スキップ機能は相変わらず健在なので、時間加速させようと思えばいつでもできるらしい。
ただ、あまり時間を加速させてレベルを上げないまま次のイベントを体験するのは詰む予感しかしないので、とりあえずまずはレベル上げを優先して行う事にしよう。
俺はキャラクター作成画面からいつもの惑星画面に戻り、世界を
時間が緩やかになる前、キャラクター作成時に長時間悩み何時間もかけて操作していたため、だいぶ世界の情勢も変わっていると思い一旦戻ったのだが、やはり放置時間が長かったためか、ついに俺の惑星は立派な国家や文明を創造していたようだ。
まだ国家間の技術格差や文明の格差が激しく安定はしていないが、おおよそ中世前後の世界観になったと思われる。
魔大陸の方は相変わらず健在で、何度か勇者が現れては魔王や魔族と戦いを繰り広げているとログにはあった。
中々遊び甲斐がありそうな世界だ。
俺はそんな自分で作った世界を楽し気に眺めながら、それじゃあさっそく冒険するかと思い【ストーリーモード】を選択する。
だが選択した瞬間、俺の意識は遠のいていき────。
────気づくと俺は、スマホを片手に見知らぬ森の中で倒れていた。
「いや、意味分からん」
誰か、状況を説明してくれ。
◇
なんだここは、一体何が起きた?
俺はあたりを見回すが、周りには異常にでかい木が
え、さっきまでゲームしてたよな。
あれ?
「まだ三十代なのにボケたか? いや、ないだろ……」
さすがにボケるには早い、無理がある。
そんな事を考えしばらく放心しボーっとしていると、突然ポケットがブルブルと振動し始めた。
「あ、スマホが鳴ってる……」
誰もポケットにスマホがあるとは言っていないが、俺はついつい社畜の本能で上司から電話がかかってきたと錯覚し、ポケットからスマホを取り出し画面を見る。
するとそこには見慣れた惑星のホーム画面と、あのゲームのメッセージが表示されていた。
【ストーリーモードを開始しました。創造神の分身となる肉体能力の状態確認、及びストーリーモードでのアプリ機能をご案内いたします】
タップして続きを見ると、自身のストーリーモードで使用するキャラクターの能力値やスキルが『ステータス画面』として確認できる他、惑星を俯瞰した世界地図としての機能、アイテムボックスのような次元収納機能がスマホに搭載されているらしかった。
なるほど、便利だな……。
これならここがどこかもすぐに分かるだろう。
「って、違うだろ。そういう問題じゃない、なんでこういう状況になったんだ?」
誰かのドッキリにしてはあまりにも超常的すぎるし、ステータス画面に映る俺の姿はまるで俺の十代の頃のような────。
「って、よく見たら俺の手足めっちゃ縮んでる!?」
驚いた事に、俺は十歳の少年時代にまで肉体が若返っていた。
あまりに仰天しすぎて、開いた口が塞がらない。
心臓がバクバクと
まさか、いや、そんなまさかな……。
いや、だが……。
思考がフリーズしかけた俺は、何を考えたのかおもむろに近くの石ころに向かってスマホを掲げ、『収納』と言葉を発した。
すると俺の嫌な予感通り、スマホは地球の科学では到底成し得ないような摩訶不思議なパワーを使い、石ころを目の前から消し去った。
おそらく、スマホによって次元収納の中に格納されたのだろう。
「うわマジかよ……。だが、これでハッキリと分かった。これ、ゲームの中だわ。それもたぶん、俺が創造した惑星の大地、だな……」
うわぁー、もう驚きすぎて何も言えないわ。
だが現実として、今俺は【ストーリーモード】とやらでアプリで作った惑星の中にいる。
若返った事もそうだし、スマホのメッセージもそうだし、この不思議な力にしたってそうだ。
証拠はいくらでもあるからな、言い逃れできない。
俺はこれが現実か夢かなんていう無駄な脳内論争はせず、意識がハッキリしている以上まごう事なき現実として認識する事にした。
正直、驚きのあまりまったく実感はないが、そういう事なのだろう。
「そういえばログアウト、ログアウトはできるのか?」
【ストーリーモード】の状態である以上、その状態をやめる事もできるはずだ。
俺は震える指で必死にスマホを操作し、ストーリーモードをタップすると、そこには【ログアウト】の文字が灰色の状態で表示されていた。
まあ、タップしても現状は【ログアウトできません!】というエラー報告が出るばかりなので、今この機能は使えないようだが。
だが良かった、ログアウトという概念はあるらしい。
「……いや、良かったのか?」
そういえばこちらとあちらでは時間の流れも違うし、こちらで何年生きていても向こうじゃ一日しか経っていない、なんて事もあるはずだ。
そもそも現実世界に戻っても、俺はまた会社に向かい、社畜として余生を終えるだけだろう。
そう考えると、これはまたとない休暇のチャンスなのでは、……と、俺は考える。
「そうだよ、休暇だよ。前々から怪しいアプリだとは思っていたが、まさか本当に異世界を創造するアプリだったとは……」
なぜこんなアプリが俺の下へと渡ったのかは今のところ手がかりはないが、実際に遊べちゃったのは事実だし、アプリで星ひとつ作ってしまったので仕方ないから運営する他ないだろう。
まあ、なるようになれだ。
俺はこの世界を生きる事に決めた。
「とりあえずの目標は、人里に辿り着く事だな」
見たところ少年時代の体格に合わせた異世界風の衣装以外、特に手荷物はない。
もしかしたら武器があるかもと思い、スマホの次元収納を確認してみるが、期待に反して先ほど収納した石ころしか入っていなかった。
いや、これでどう戦えと。
自分で創造しておいてなんだが、この世界ヤバイ生物なんて腐るほどいるんだが……。
不親切にも程があるだろ。
余談だが、現在俺の所持しているスキルは【戦士】の身体強化、【神官】の回復魔法、【錬金術師】の鑑定だけである。
職業レベルが上がれば使えるスキルと魔法も増えるとは思うし、スキルの効力も強くなると思うので、そこらへんは鍛え続けるしかない。
たぶん戦ったりするとレベルが上がるんじゃないかな。
実際石を投げたり、そこらへんの木の枝を振り回してみると、子供が投げたにしては石は遥か彼方に飛んでいくし、木の枝を武器として扱う時の感覚もなんとなく分かる。
身体能力もそうだが、運動神経もまるまる良くなっているようだ。
さすが戦士、特定の戦闘スタイルに特化していないが満遍なく肉体性能が高い。
これもスキルの影響かな。
そんな事を思って軽く枝を振り回していた時、後ろでガサリと音が鳴る。
見るとそこにはゲームで言うところの角のあるウサギ、のような生物が
かわいい。
「……スキルの使い方はなんとなく理解できるな。よし、鑑定!」
【ホーンラビット】
よわい。
え、それだけかよ!?
もっとこう、アプリの時みたいな細かい説明とかないの!?
そもそも弱いってなんだよ。
目の前の俺に対して弱いのか、この世界の標準的な生物より弱いのか、それすらも分からないんだが……。
鑑定無能すぎない?
とりあえず
いくら鑑定が無能でも、襲い掛かってくるかもしれない野生動物に油断は禁物だ。
俺は【戦士】の能力で引き上げられた近接戦闘の感覚を活かし、ホーンラビットを見据える。
ちなみにだが、【戦士】等の近接系の職業を持っていれば体を動かす戦いの感覚が、【魔法使い】を持っていれば魔力を感じ取る感覚が引き上げられ、スキルの習得が早くなるとキャラクター作成時の職業解説にはあった。
俺が今ホーンラビットを見て「戦える」と感じているのも、戦士の職業をまがりなりにも取得しているが故だろう。
なんとなくだが、錬金術師の素養である目利きを併用する事で、お互いの
鑑定結果の「よわい」も、自分と比べて弱いという事で良さそうだ。
たぶん俺は、このウサギよりも強い。
「ピキー!!」
「おっと、そうはいかんよ」
「ピギッ!?」
唯一の武器であろう額のツノを突き出し、俺めがけて襲い掛かってきたホーンラビットの攻撃を
そして交わしたついでに勢い余ってたたらを踏む奴を後ろから羽交い絞めにし、首を絞めた。
ちょっとまだ生き物を殺すには抵抗があるが、この世界は弱肉強食だ。
ここでとどめを刺せないようであれば、死ぬのは俺だ。
心を鬼にして、そのまま首の骨を折る。
【レベルアップ! 『戦士』、『神官』、『錬金術師』がレベル2になりました】
ポケットに入れておいたスマホが振動したので確認すると、いまの戦闘でレベルが上がった事が分かった。
手に硬い首の骨の折れる感触が伝わりあまりいい気分ではないが、たった一度の戦闘で職業レベルが上昇したのは大きな成果だろう。
やはり最初は上がりやすいのかもしれない。
なぜ能力を使用していない神官職までレベルが上がったのかは分からないが、たぶんこれが職業を三つ持っている事のメリットの一つなのだろうと推測する。
常人であれば、例えば神官職なら回復魔法などを駆使する事がレベルアップの条件のはずだが、職業を三つ持つ俺はどれか一つの職で経験を積めばそれが「プレイヤーの獲得した経験値」として認識されるのだろう。
システム的に、プレイヤーの獲得した経験値だから神官職だろうと錬金術師だろうと、経験値が割り振られる。
なぜ、とかは考えてはいけない。
そもそも職業を三つ持つ人間など俺だけだし、前提としてこれは創造神の奇跡によって生み出された、もっといえばアプリのルールだ。
職業の力というそのものが、自然現象ではないのである。
だから俺は戦士の行いでも神官の行いでも錬金術師の行いでも、全ての職業に経験値が割り振られる事になるのだろう。
そうとしか考えられない。
ひとつ懸念があるとすれば、経験値が三等分になったことでレベルが上がりにくくなっているのでは、というところだが、……まあ、能力パラメーター上昇による職業補正も常人に比べて三倍だから差し引きゼロだろう。
今の俺には、戦士と神官と錬金術師三つ分のパラメーター補正が乗っかっている訳だし。
「さて、とりあえずウサギを収納しておこう」
スマホを掲げ、ホーンラビットを次元収納する。
それにしてもこの便利なスマホ、無くしたらどうなるのだろうか。
例えば他の人に盗まれたりしたら目も当てられないのだが、そこらへんが気になる。
気になった俺は少し実験する事にしてみた。
スマホを地面に置いて、その場から離れるという実験だ。
もしこれがただのスマホならいくら離れてもそのままだろう。
一歩、二歩と離れてみる。
「…………」
変化なし。
今度は思い切って十メートルくらい離れてみる。
……すると。
「あ、手元に戻ってきた」
なんとスマホはいつのまにか俺の手元に戻り、何事もなかったように帰ってきた。
すげえ、まるで魔道具だな。
どうなっちまったんだよ俺のスマホ。
これもアプリの能力なのだろうか?
疑問は尽きない。
だが、とりあえずこれで盗難の心配は無くなったので、一先ずの安心を得た。
次は人里に向かう方法だが────。
そう思ったところで、不意に物凄い危機感が俺の身体を突き抜けた。
まるで天と地ほどにかけ離れた実力差の達人に相対したような、いや、もっと荒々しい猛獣に
それが物凄い勢いでこちらに迫ってくる感覚だ。
一体何が────。
「な、なんだ!?」
「GYAOOOOOOOOOO!!!」
「うわっ、ワイバー…………ッ」
そう思い振り返った瞬間、俺の意識は途絶える。
最後の瞬間に見えたのは、大口を開けて俺の頭部を喰わんとするワイバーンのアギトだけだった。