プロローグ

──Side『***』──

ああ……。

ダメだ、またしても失敗だ。

やはり上手くいかぬ。

何度創造しようと、何度やり直そうと彼らは滅んでゆく。

万能の創造主たる私をもってしても、この破滅を止める事はできなかった。

何故なのかは分からない。

ただ唐突に、時代の節目節目に彼ら特異点は世界に現れ、その時代をかき乱していくのだ。

問題を解決へと導くため、私はその度に自らの手で特異点への終止符を打ってきた。

当然、創造主たる私にとってそのような事は造作もない事である。

しかし、それは一時しのぎにしかならない。

かの特異点は時を経て同じ問題を抱えた存在として、何度でも生まれ変わるからだ。

まるであるべき解決法が他に存在するかのように、まるで何かを待っているかのように、創造してきたどの世界でも特異点は問題を抱えて生まれ直し、いずれは世界を滅ぼす。

私はこれを『創造の破綻はたん』と呼んでいる。

そしてどうやら、この破綻を回避するには私のやり方では上手くいかないらしい。

唯一安定した星として成功を収めたこの地球でさえ、もう特異点は存在しているのだから。

もはやこの『創造の破綻』は、この創造主たる私の想定を超えたものである。

だが、だからこそ面白い。

私の想定を超えたこの特異点に、ある意味では可能性とも言える『創造の破綻』に、期待しよう。

かの星で世界と共に滅び、唯一私の心にこの疑問を残したあの者に、世界を託そうではないか。

「なあ、魚って空を飛んだりすると思うか?」

「何言ってるんですか先輩? というかなんで魚が空を飛ぶんですか、完全に物理法則とか無視してますよ」

とある会社のオフィスで、二人の男が呟く。

片や黒髪に黒目の標準的な出で立ちの中年男、三十二歳独身の斎藤さいとう健二けんじ

最近ちょっと腹が出てきたのが悩みらしい。

片や茶髪にカラコンの、一見するとガラの悪い不良にも見える出で立ちの若手社員、後輩の宮川みやがわ琢磨たくま

ちなみに斎藤の部下である。

「そ、そうか……、そうだよな。いや最近やってるゲームでな、そういう生き物がいるんだよ」

「へぇ~、ファンタジーものですかね? ちなみにタイトルは何ですか?」

「異世界創造のすゝめ」

「え?」

宮川は聞き返す。

「いやだから、『異世界創造のすゝめ』っていうアプリ」

「いや、知らないゲームですね。俺が知らないなんて、よっぽどマイナーなのかなぁ」

斎藤の言葉を聞いて宮川はさっそくアプリを検索するが、どうやらヒットするものが無いらしく、険しい表情を浮かべる。

「……見つかったか?」

「いや、見つかりませんね。……もしかして先輩、俺の事からかってますか?」

「そうか。いや、見つからないならいいんだ。忘れてくれ」

「はぁ、そうすか?」

二人は斎藤の持つ謎のアプリ『異世界創造のすゝめ』について議論を交わす。

宮川は何かに落ちない様子のようだが、見つからないものは見つからないのでそれ以上の詮索は控えたようだ。

そして切り替えるように次の話題へと移る。

「というか先輩、今日の昼ヒマですか? メシ食いに行きません?」

「いやパスで、今日は残業したくないしな」

「えー、たまには後輩を連れてってくださいよ。もちろん先輩のおごりで」

その言葉を聞いた斎藤は露骨ろこつに面倒臭そうな顔をした。

「ダメったらダメだ。また今度な。せっかく仕事も残さず帰れるんだ、俺にもプライベートの時間くらいくれ」

「へーい、分かりやしたー」

「なんか山賊の下っみたいな喋り方だぞ」

「気分ですよ、気分」

斎藤は部下の軽い態度に溜息を吐きつつも、確かに飯くらい奢ってやるべきだったかと反省し、この埋め合わせはまた今度しようと考える。

一応は上司としての責任も感じているようだ。

なんとも苦労人な性格である。

意外と真面目なのかもしれない。

しかしそんな日常を満喫しながらも、『異世界創造のすゝめ』をやり繰りする平凡な中年の男性である斎藤健二は数日後、突然地球上から姿を消す事となる。

手塩てしおにかけて育てた惑星、『異世界創造のすゝめ』のゲームデータと共に。