感謝をしっかり表現する


 今回の調査で「5%社員」が感謝を発する頻度は、一般社員の3・2倍であることがわかりました。

「5%社員」は、「ありがとう」という言葉を自然と周囲のメンバーに提供し続けています。特にトップ5%の管理職は、一般の管理職よりも部下を4倍以上ほめています。承認や感謝、労いの言葉が多いのです。他者が認められると嬉しいことは自分でもよくわかっているので、それを周りに伝播させているのです。

 あざとさや何か企んでいるわけではなく、自然と「ありがとう」と口癖のように発言していました。

 一方で、上位20%の社員だけを見ると、むしろ「ありがとう」を発する頻度が一般社員よりも少なかったのです。後の追加ヒアリングでわかったのですが、「5%社員」はとても謙虚ですが、「20%社員」はどこか自信家で1人で仕事を進める一匹狼のような人が多い印象を持ちました。

 個人の能力を最大限に発揮するのはトップ「20%社員」でも、できるかもしれませんが、チームとして最大限の成果を出すにはトップ「5%社員」のシンプルな考え方や行動が必要です。


 人には優秀な能力を持ちたいという願望があるので、それを刺激されれば「自分はできる!」と前向きに捉え、新たな挑戦への動機付けになります。そこで、12社約8000名の社員を対象に、「ありがとう」を意図的に多く伝える期間を設けました。対面やメール、そしてビジネスチャットを通じて普段の感謝の思いを言葉で伝えるようにしてもらいました。

 当初はなかなかストレートに感謝を伝えられないでいましたが、少しずつ「ありがとう」が伝えられ始めると、それに影響受けて多くの人が「ありがとう」を口にするようになっていきました。

 興味深かったのが、この「ありがとう週間」終了後に行ったアンケートで、63%もの人が「予想外の人から感謝を伝えられた」と答えたのです。つまり、感謝の気持ちがあっても言葉で伝えなければ相手に伝わっていない可能性が高いということです。

 感謝されて、承認されれば幸福度は上がりますから、意欲やモチベーションに直結します。もちろん、根拠なくほめるのは意味がありません。不必要にほめると相手は図にのってしまい、内省をしなくなってしまうからです。


 ある精密機器メーカーで承認とパフォーマンスの相関関係について行動実験をしました。任意に選ばれた12名のターゲットに対して、周囲の79名が意図的に普段の感謝の思いを言葉で伝えるという実験です。

 ターゲットの12名にこの実験内容は伝えず、廊下ですれ違う時や、Slack(スラック)のチャットを通じて「この前のサポートありがとう」と伝えたり、「あの時の資料はとても助かったよ、ありがとう」といった言葉をかけたりしたのです。その上でその対象の12名がどのように行動が変わったかを追跡しました。

 全く同じ条件にすることはできないですが、その12名に変化を確認できました。

 特に変化があったのは、実験の前と比べて、メールやチャットの返信が早くなったこと、資料の作成時間が9%短くなったこと、作業と作業の合間にパソコンを開かない時間が13%増えたこと、関わる人の人数が20%増えたこと、朝の出勤時間が18分ほど早くなったこと、などです。

 追加調査でわかったのは、パソコンを開いてない時間は同僚との会話に当てたり、今後の作業のことを止まって考えたりしていたそうです。

 また、関わるメンバーの人数が増えたのは、「ありがとう」と言ってくれた同僚をランチに誘って一緒に食事をしていたからだそうです。

 さらに、この12名の周囲のメンバーの中には「不平不満を言う口数が減った」という人もおり、心地よく集中して仕事を取り組んでいたように見えたのです。

 多くの変数があるので一概に論じることはできませんが、このように人は感謝されると能動的になって人との接点を多くし、また集中して作業に取り組むという変化を12人中10人で確認できました。

 この実験からも、感謝と承認が心理的に良い影響をもたらし、それが業務処理に好影響を与えるという仮説を立てることができます。



手ぶり・首ふり効果


 承認と共感は言葉だけでなくジェスチャーで表現することができます。それが拍手と頷きです。

「5%社員」は、相手の話を聞くときに体を動かします。手や首の動きや表情を使って相手の話を聞くのです。一般社員よりも大きく体を動かして聞くので、周りからも目立ちます。また、相手に体を向けて話しています。肩のラインを相手に向けて聞いていました。そして、ゆっくり頷きながら笑顔で話を聞いていました。

 興味深いのは、そうされた相手はだんだんと笑顔になり、「5%社員」と同じようにゆっくりうなずきながら嬉しそうに話していくのです。

 重要なことは、相手を知ること、伝達ではなく対話することです。

 特に日本人は、なかなか腹を割って話すことがないため、相手の反応もわかりにくいです。空気を読みながら効果的なコミュニケーション術を使い、対話によって相手の心を開いてみてください。



部下のエネルギーを高める上司


 優秀な管理職が部下をほめることが多いのは、成果の有無に関わらず、しっかりと言葉で表現する習慣が身に付いているからです。

 思っていても口に出さなければ相手には伝わりません。部下に対して感情表現と言語化が上手な管理職が部下を元気にさせ、結果的にパフォーマンスを高める可能性があることがわかりました。

 組織論の専門家は、「社員のモチベーションなんて上げる必要ない」と論じる人もいます。確かに成果を残していないのに、ただ一方的にほめたたえるのは私も反対です。

 しかし今回の調査でわかった通り、パフォーマンスを高めるエネルギー源としてモチベーションや働きがいが相関関係にあるという実験結果は無視すべきでないと考えます。



組織全体のパフォーマンスを上げる


 今求められているのは、組織の中のメンバーの能力を最大限発揮して、かつその能力を組織内でかけ合わせて最大化することです。

 働く人の寿命が長くなることや、日本国内で少子高齢化が進むこと、そして法律で長時間労働が制限されること、といった状況の中で〝より少ない時間でより多くの成果を残す〟には、能力の高い人だけに依存するのは危険ですし、それだけでは不十分です。これまで以上の成果を残すには、1人ではなくチームでパフォーマンスを高めていく必要があります。「5%社員」のような優秀な個を高めるだけではなく、組織全体のパフォーマンスを高めるためには、自分は何ができるかをしっかり把握して、役割に応じた正しい行動をすることが求められます。

 ありがとうと感謝されて心情がマイナスになることや、パフォーマンスが下回ることはありません。むしろ、行動が改善されることは先ほどの精密機器メーカーの実験でも明白です。周囲のメンバーに「ありがとう」と伝えることは、コストがかからないので、コストパフォーマンスは高いと考えてよいと思います。



間接承認の威力


 承認の言葉は、直接相手に伝える場合と、間接的に、相手に伝える場合とがあります。

 直接、面と向かって伝えてもらう承認も嬉しいのですが、間接的に、人から聞く承認はもっと効果があるようです。


「5%社員」は承認の言葉を誰かに直接伝えるのではなく、その知り合いに伝えます。

「~さんって、こんな良いところがあるんだよ」

「~さんに、~をしてもらって、とっても助かった」

「~さんが、あなたのことを~って言ってたよ」


 という感じで相手を承認していました。

 間接承認は、本人に伝わるには、時間がかかりますが、その分ジワジワと効いてきます。

 自分が他人から聞いた目の前の人の良いところを、目の前の人に伝えることも威力がありますので、ぜひ試してみてください。