日本は発展途上国ではありませんので、心理的欲求は満たされている人が多く、「安全欲求」も多くのビジネスパーソンが満たされていると思われます。
その次の欲求レベルは「社会的欲求」で、人間関係がうまくいくことや、相手から信頼される関係になることを望んでいきます。さらにその次の4段階目が「尊厳欲求」で、承認欲求とも言われます。
16万人を対象とした働きがい調査では、「尊厳欲求」に関する回答が最も多かったのです。「お客様に感謝されたとき」や、「社内でありがとうと言われたとき」「上司の上司に名前で呼んでもらうこと」などに働きがいを感じるというコメントが続出しました。この尊厳欲求には、自分は努力せずに「あれして! これして!」と要求する社員が含まれています。
つまり、この尊厳欲求は相手があってこそ満たされる欲求ですので、相手からの「承認」が、自分が期待する「承認」を下回ると、不安や不満が生まれてしまいます。承認するのは相手ですので、自分でコントロールがしづらくストレスの原因になります。
最後の5段階目の「自己実現欲求」は、あくまでも主体が自分自身であり、自分のなりたい姿に向けて成長したい、なりたい姿に到達したいという欲求です。どの欲求レベルが良いとか悪いとかということではなく、どの欲求を目指しているかによって行動が変わってくるということです。
「5%社員」はその多くが尊厳欲求を超えて自己実現欲求を目指していることがわかりました。つまり主体は自分であり、自分でできることと自分でできないことをしっかりと区分けして、自分でコントロールできる範囲の中でどのように自分が目指す姿に近づいていくかということを考えています。
つまり、自分でコントロールしにくい「相手からの承認」に依存することなく、自分が成長することを目指しています。相手にどう評価されるかではなく、自分の目指すべき姿にどれぐらい近づいたかが重要なのです。
この自己実現欲求は、人手不足の中で企業として社員のモチベーションを高めていく上で不可欠な要素です。
他社へ転職する退職者を減らすため、そして優秀な人材を他社から採用するために、給与水準を高めるのが常とう手段でしたが、その効果は薄まりつつあります。
とくにトップ「5%社員」は自己実現のための成長を望んでおり、また多くの社員は働きがいを欲しています。
一時的な金銭報酬ではなく、自分がその仕事を通じて成長したい、自分はその仕事をすることで自分の存在意義を感じたい、という要望が高まっています。高い報酬を得ることだけを働く目的にする社員は年々減っています。
2016年12月に7623名に対して行った調査では「転職する際に給与報酬を最優先に会社を決めている」と答えたのは43%とダントツで1位でしたが、それから3年後の2019年12月に同調査を8905名に行ったところ、給与報酬を最優先に会社を決めていると答えたのは34%と、3年で9%も落ちたのです。
一方、「やりがい、働きがいを最優先に転職先を決める」と答えたビジネスパーソンは18%(2016年)から26%(2019年)と8ポイントもアップしています。
自分がその仕事をやりたい、自分はその仕事をやることに価値があるというポジティブな感情が心に宿ると、市場や環境の変化を恐怖ではなく挑戦と捉えるようになります。
この変化への対応力を高めることが、企業も個人も長く生き抜くためには必要な要素であることは歴史が証明しています。
一時的な金銭報酬に固執するのではなく、自分が目指す姿に近づけるように目的を意識した行動をすることで、目標を達成しやすく、そして働きがいを得やすいのです。