茉莉がどう反応していいか困ってそれだけ言うと、あるてみすは唐突に長いスカートを膝の辺りまでめくりあげ、その中へ無造作に手を突っ込んで、十センチ四方ほどの大きさの正方形のプレートを取り出した。
「とりあえずはこれを見てくださいなのれす」
なんでそんなところから──? という茉莉の疑問をよそに、あるてみすはプレートを左の手のひらの上に置き、その片隅に一つだけついている赤いボタンを押した。
すると、ぶん──という音と共に、プレートの上に身長十センチほどの一人の男が現れる。──いや、精巧な立体映像だ。わずかに背後が透けている。おそらくはこれも彰造の発明品なのだろう、あるてみすを見たあとでは感動も鈍るが、これも現代科学を充分に凌駕するテクノロジーに違いない。
「うわ……すごい。立体映像?」
志津香が言って、かなみがうなずいた。
男は自信に満ち満ちた精悍な顔つきをし、長く伸ばした白髪をオールバックにして後ろで縛り、同色の口髭をたくわえて、上下真っ黒な服の上に白衣をまとっていた。それは半年ほど前に行方不明になり、捜索願いを出されたままの茉莉の祖父、彰造の姿であった。
身長十センチほどの彰造は両腕を組んだまま、こきこきと首を鳴らした。
「うむ、久しぶりだな、茉莉」
「って、え、しゃべれるの!? お祖父ちゃんと!?」
茉莉が驚いてあたふたとしていると、彰造はにやりと笑い、
「いや、これはあくまでも私の人格バックアップ、いわばコピーに過ぎない。ともあれ、これが再生されているということは、私はかねてからの実験に成功し、高次の世界に到達したのだろう。まずはそれを喜ぶと共に、お前に報告しておこう」
「人格バックアップ? 高次の世界?」
茉莉が疑問を口にすると、立体映像は腕を組み、人差し指を立てた。
「人格バックアップというのは、その名のとおり、私の知識・記憶・経験など、『私』を規定する全てをバックアップしたもので、今はこのプレート上で簡易動作を行なっている。高次の世界というのは──茉莉、例えばお前が好んで読んでいる恋愛小説などにはその作者がいる。それと同様に、この世界にも作者がいるとしたらどう思う?」
彰造はそういう存在がいる世界を『高次の世界』と呼び、その世界へ行こうとする研究をただひたすらに続けていた。寝食を惜しみ、時に騒音を轟かせ、時に異臭を発生させ、時には爆発事故を起こして、それを非難されれば古屋家(明海の旧姓は古屋という)の敷地内に勝手に地下研究所を造って、
「ここならば何が起ころうがお前らに迷惑はかからんだろう。わはははは」
と言い切って研究を続けた。そのために親類一同からは白い目で見られていたが、本人は俗人の言うことなどまったく気にもならないようだった。彰造が研究の手を休めたのは、茉莉が知っている限り、祖母が亡くなったその日だけだ。
厄介なのは、祖父が超優秀な科学者であったということだ。十代の頃にいくつかの特許を取得し、それだけで一生食べていけるだけの金を手にしてしまったのだ。そのどれもが現代科学というものに飛躍的な革新をもたらした。それ故、彰造に自分たちの元で研究をして欲しいという機関、企業は数多あったのだが、「私は高次の世界以外に興味はない」と言い切って全ての誘いを断わり、世間からも学会からも背を向けてしまった。それから半世紀近くの歳月が過ぎ、彰造は今年で六十七歳になるはずだが頭も身体も健康そのもので、明海の実家の地下研究所で研究に勤しんでいた。それが半年前までの話だ。
茉莉が困り顔で、
「……高次の世界なんてあるわけが、」
言いかけると、彰造はにやりと笑った。健康な白い歯がむき出しになる。
「それがあったのだよ。私がその世界へたどり着くための研究に生涯を捧げてきたことは、茉莉、お前も知っての通りだ。そして、実験がいよいよ核心に近づいたところで、私は自らのバックアップを取った。高次の世界へ行けば何があるか分からんからな。もし私が死んでもバックアップが自動的に復旧され、アンドロイド化した私が復活する仕組みになっているわけだが──ともあれ、今の私が高次の世界へたどり着き、『世界生成の秘密』に迫ろうとしていることは確かだろう。そして、世界生成の秘密を解き明かした暁には、私は新世界の神となるつもりだ。お前たちの世界とは別の世界を作り出し──そうだな、まずは女性しか存在しない世界などというのはどうだろう。しかも幼女から女子高生までに限定し、成長という概念を無くしてしまえば──それこそ理想郷ではないかっ!」
彰造は叫んで、右の拳を高らかに掲げた。
「……頭痛くなってきた」
茉莉は呟き、額を人差し指で押さえた。
その隣で、かなみがこくこくとうなずいていた。珍しく同意らしい。と思っていたら、
「うむ、確かにそれは一つの理想郷の形であるな」
そっちか。
茉莉はどっと疲れを覚え、しかし祖父は続ける。苦渋に満ちたような顔で、
「しかし! 高次の世界へと向かう方法の核心に至る直前に、私は誤って横の世界への穴を空けてしまったのだ。測定してみたところ幸い穴は小さなもので、生命体が通れるようなものではない。ただ、本来この地球には存在してはいけないエネルギーがその穴から漏れ出していることが判明した。このエネルギーは──まあお前たちに分かりやすく言えば、光子が重量を持ったようなものである」
茉莉にはちっとも分からなかったが、彰造はそのまましゃべり続ける。
「このまま漏洩したエネルギーが蓄積していくと、大きな危険をはらむ可能性がある。簡単に言えば穴から常に爆弾の燃料が漏れ続けているようなものだからな。本来ならばこの穴の修復を行なってから高次の世界へと行くのが筋であろうが、積年の夢が叶おうとしている今、私はもう一刻も我慢ができんのだ!」
と、彰造は拳を振り下ろした。まるで見えないテーブルに拳を叩きつけるように。
そこに割って入ったのは、志津香だった。
「ちょっと待ってください。いまいち会話に付いていけていないのですけれど……」
「む、なんだね? 先ほどからえらい美人が茉莉の横にいるとは思っていたのだが。まずは自己紹介からしてもらおうか」
「私は姫宮志津香と申します。まーちゃんと同じ藍園学園高校の二年生です」
「まーちゃんと来たかっ!」
彰造は額をばちんと叩き、それから白衣をひるがえして茉莉をびっと指さした。
「茉莉、お前は彼女を何と呼んでいるのだ!?」
死ぬほど言いたくなかったが、志津香の目もあって、茉莉はぼそりと口にした。
「……しーちゃん」
「素晴らしいっ!」
彰造は叫んで、両の拳をぐっと握りしめた。
「それで、二人の仲はどこまで進んでいるのだっ!?」
と、彰造はびっと伸ばした右手で今度はかなみを指さす。かなみはぼそりと、
「昨晩から同じ部屋で寝起き。今朝の朝食時には『あーん』をしあっていた」
「おおうっ! エクセレント!」
再び、自らの額を手のひらで叩く彰造。
「かなみ、あるてみす、二人の応援、くれぐれも頼んだぞ」
「承知した」
「わかりましたのれす、ますたー」
かなみとあるてみすが身勝手にもそれを約束する。そこへ、
「そんなことより、私の話を聞いてくださいっ!」
珍しく声を荒げたのは、志津香だった。
「おお、そういえば君の自己紹介を聞いたところだったな。して、何用かな?」
志津香はまるで彰造に対抗するかのように腕を組み、
「正直、分からないことだらけではあるのですが……お祖父さまが原因でその『横の世界』への穴を空けてしまったのなら、ご自分でも仰っていたとおり『高次の世界』へ行く前に、修復を行なって行くのが筋でしょう? 仮に今現在のあなたがその『高次の世界』とやらにいるのだとしても、そのプレートの上からどうにかするべきではないですか?」
責任感の強い、志津香らしい言葉だった。彰造はむむむと唸り、
「……まあ、君の言うことはもっともだ。だが、プレートの上のこの私は、あくまでも人格バックアップに過ぎない。実世界にいる人間のサポートに回るぐらいしかできんのだよ。修復に戻るのはいつになるのかわからん。手遅れだと言っておこう。そして、話はここからなのだ、聞いてくれたまえ、志津香くん、それに茉莉、かなみもな」
彰造はそう言って、全員の視線を改めて自分へと向けさせた。
「話を戻そう。そこで私は、急遽そのエネルギー、重光子と名付けることにしたそれを収集蓄積する機械を作成した。これで当面は問題ない。しかし、グラフォトン貯蔵タンクには当然ながら容量に限りがあり、無限にそれを収集できるわけではない。そこで」
ぱちん、と彰造が指を鳴らすと、その足下にコンソールのついたタンクが現れた。大きさは一メートル四方の立方体といったところか。それなりにかさばるもののようだ。
「グラフォトンを収集した後に、圧縮する機械を作った。もちろん溜め込める容量を増やすためのつもりだったのだ。しかし、先ほどその実験をしたところだな、まったくの偶然の産物として、圧縮されたグラフォトンは何やら生命体のようなものへと変化した──いや、もちろんエネルギーが生命体のかたちを取って動いているだけのものであるのだが。理由はよく分からん。興味も湧かなかったのでな。で、さらに実験としてその生命体を破壊したところ、圧縮したグラフォトンは一気に消滅した。──そこでだ」
茉莉は猛烈に嫌な予感がして、眉をひそめる。
志津香はただ静かに、腕を組んだまま話の先を聞こうとしている。
かなみは長話に飽きたのか、寝ころんで朝のワイドショーを見ていた。
「茉莉、かなみ、それに同居しているというのであれば志津香くんもだ。君たち三名に、定期的にグラフォトンの圧縮作業を行ない、生まれてくる『生命体のようなもの』の破壊を行なってほしいのだ。半年間もエネルギーを溜め込んでしまった今、常態流量が分からないためにどれだけのグラフォトンが溜まっているかも分からない。故に生まれてくる『生命体のようなもの』がどれほどのものになるかも分からない。だが、とりあえずタンクが満杯になってしまい、さらにそこにエネルギーを溜め込もうとして内圧によって爆発が起こったとすれば、ギガトン級の水素爆弾に匹敵する被害をもたらすとの計算結果が出ているのは確かだ」
「色々納得がいかないうえに……ギガトンって言われてもよく分からないんだけど」
右手で頭を抱える茉莉の横で、志津香が人差し指を頬に当て、
「確か、広島の原爆が十五キロトン、長崎が二十キロトンだったわよね?」
「その通り。そして言うまでもなく、キロとは十の三乗を、ギガは十の九乗を意味する」
かなみはテレビの方を向いたままごく平静に言い放ち、そのまま続けた。
「まあ、爆発が起これば間違いなく人類は滅亡だな」
「えええっ!?」
茉莉が驚きの声を上げる──志津香は驚いて声も出ないといった様子だ。
彰造はうんうんとうなずき、
「エネルギーがどれほど溜まっているか分からない故に、生まれてくる生命体のようなものがどんなものになるか分からない。が、しかし三人協力して立ち向かえばさほど難しいことではないだろう。どうだ、頼めるか?」
「嫌よ」
と、茉莉はきっぱり言った。身勝手さなら明海の上を行く彰造である、無駄であることは分かっていたが──それでも、一縷の望みにかけて。
そんな世界の危機みたいなこと、自分たちが背負うのには重すぎる。自分たちが失敗すれば地球規模の爆発が起こるなんて、考えるだけで耐えられない。
ましてや茉莉は、ゴキブリどころか蚊すら殺すことのできない性格の持ち主なのだ。蚊に刺されているのを発見しても、息を吹きかけて邪魔をすることぐらいしかできない。もちろん自分が他の命を犠牲にして生きていることぐらいは理解しているが、生きているそれを自分の手で殺すとなると躊躇してしまう。料理にしても、魚をさばくことだけはできない。いつも魚屋さんで切り身にしてもらっているほどなのだ。
そんな茉莉である、たとえ正体がエネルギーの塊であったとしても、生命体の姿をしているものに危害を加えることに抵抗があるのは当然のことであった。
「志津香くん、君はどうだね?」
「まーちゃんが嫌なら、私も嫌です」
志津香はきっぱりと答えた。
「ふむ、そうか。……アルテミス」
彰造がぱちりと指を鳴らすと、彰造の隣に一人の女性──いや、あるてみすと同様のメイド服を着ているので、おそらく同タイプのアンドロイドだろう──が現れる。外見年齢は二十代半ばほど、黒髪を腰のあたりまで伸ばし、大きな瞳に薄い唇を持ち、鼻は少し低めだが形は整っている。志津香に少し似ていないこともないが胸はあまりなく、どちらかといえば天然水のCMに起用されるような清純派女優のイメージが強い。おそらくはこれも彰造が自分の趣味を反映して造ったものなのだろう。
「つまり、志津香くんは茉莉がOKならばOKということだな? ……ふむ、それでは茉莉、ここから先はいつスイッチを切っても構わないことを述べておく」
彰造はそう言って、アンドロイド──アルテミスの手から一冊のノートを受け取った。
茉莉には、そのノートに見覚えがあった。誰にも見つからないように自分の部屋の押入れの奥の方にしまって、そのまま忘れかけていた。だが、その表紙に書かれた文字は明らかに自分の文字で──茉莉は顔から一気に血の気が引いていくのを感じていた。
志津香は何が起こっているのか分からず、じっと状況を見守っている。かなみも同様だ。
ただ茉莉だけが、どうすればいいのか分からずにおろおろとしていた。
「私の力を持ってすれば、全世界に同時に音声を送ることが可能なことぐらいは分かっているな? お前ならば祖父の頼みを快く引き受けてくれると信じているが、もしもグラフォトンの始末に協力してもらえなかった場合だな」
彰造はそう言って、ノートをぱらぱらとめくった。
ふとその手を止め、こほんと咳払いをしてから、
「春の甘くて柔らかな香りが好き。おひさまが──」
「だーっ!」
茉莉は神速で赤いスイッチを押した。
とたんに立体映像が消え失せ、あとには十センチほどの大きさのボードだけが残る。
志津香は何が起こったのか分からずぽかんとしていたが、かなみは何か思うところがあるのか、小さく不敵な笑みを浮かべていた。
(……なんであのノートを持ってるのよ……っ)
それは茉莉が中学生の頃、ポエムを書いていたノートだった。
できれば厄介事には巻き込まれたくない。平穏な日々を過ごしたい。けれど──あのノートの中身が公表されてしまったら、今後自分はどうやって暮らしていけばいいのだ。世界中の人間にくすくすと笑われ、後ろ指をさされているような気分で生きていかなければならないのに違いない。いや、こんなものまだ序の口だろう。ここまで用意周到な彰造のことだ、このまま拒否し続ければどんな恥辱を味わわされるか分かったものじゃない。
結局茉莉は、もう降参とばかりにため息を吐き、
「分かったわ。私はそのグラフォトンとやらの始末に全面的に協力するわよ。えーと、」
「あるてみす二号のことは、あるてみす、とお呼びください」
「ええ、分かったわ、あるてみす」
あるてみすはそれから志津香を見やって、
「志津香さまはどうなされるれすか?」
「まーちゃんがやるなら当然やるわ」
「了解したのれす。志津香さま、よろしくお願いしますなのれす」
「こちらこそよろしく、あるてみす」
志津香が微笑むと、あるてみすは最後にかなみを振り返り、
「それから、かなみさまは──」
「協力しよう。実に興味深い事象である」
と言って、にやりと笑った。
「了解なのれす。それでは、」
とあるてみすが言いかけたところで、茉莉はようやく思い出して、
「あ、学校……」
言いながら、茶の間にかけられた古めかしい鳩時計を見やる。壊れて鳩は鳴かなくなっているが、時間は分かるために使われ続けている品だ。
時刻はとっくに九時を回っていた。
「遅刻……ね」
「生徒会長である私が遅刻なんて……」
呟き、志津香がうつむいた。しかしあるてみすは両手をぶんぶんと振り回して、
「そんなこと言ってる場合ではないのれす!」
その言葉に志津香が頭を振って、長い髪がさらさらと揺れた。
「そんな事と言ってもね、生徒会長というのは全生徒の模範となるべく──」
「だーかーら、そんなこと言ってる場合じゃないのれすってばっ!」
再び志津香の言葉を遮ると、あるてみすは続けた。
「皆さまには、今からすぐにグラフォトン生命体の駆除にかかってもらうのれす!」
「ええっ!?」
「学校は!?」
茉莉と志津香、双方の言葉にあるてみすはきっぱりと、
「休んでしまえばいいのれす。それが駄目なら、急いで終わらせて行ってくださいなのれす。先ほどますたーもおっしゃってましたが、グラフォトンというのは本当に危険なエネルギーなのれす。具体的なことは言えないれすが、半年間も溜め込んだ今となっては、いつタンクが満杯になって破裂するかも分からないのれす。破裂すれば当然、結果はさっきかなみさまがおっしゃったとおりになるわけれす」
沈黙が茶の間に降りた。
人類滅亡の危機がそこに迫っているかもしれない、などと言われれば、誰でも黙り込む他にないだろう。
「ようやく重大さが分かってもらえたのれすね。それでは、早速グラフォトン圧縮の準備に取りかかりたいと思うのれす」
(やっとここまで来たのれす……早く皆さまの変身姿を見たいのれすよ……)
という、あるてみすの内心など知りもせず。
あるてみすは、開け放された障子の向こうに見える庭を眺めながら、
「ここなら戦闘にも充分耐えうるれすね」
と言った。茉莉は慌てて、
「ここで戦うの!? ご近所さんとかに迷惑になっちゃわない!?」
言うのだが、あるてみすはどんと胸を叩いて、
「迷彩なら任せておいてくらさい。音声も映像も、このあるてみすが外部からは知覚できないようにするのれすよ。対消滅型熱音響迷彩で音声はカット、熱光学迷彩で映像はカットなのれす。それで、えーと、」
と、またもやスカートを膝辺りまでたくしあげて手を突っ込み──どこにどう入っていたのか、先ほどの映像にも出てきたコンソール付きのタンクを取り出した。
これには茉莉も志津香も、かなみですらも驚いて目を丸くした。
「──ちょ、ちょっと、今それどこから出したの!?」
「手品のレベルを超えているわよ……」
「乙女のスカートの中は神秘に満ちているのれすよ」
あるてみすはそれだけ答え、それを、どん、と茶の間の隅に置いて、
「これがグラフォトン収集圧縮機なのれす。普段は自動稼働して、ますたーのラボに置いてある集気口からグラフォトンを集め、こちらのタンクの中に溜め込んでいくのれす」
「ふむ、この中にギガトン級のエネルギーが溜め込めるというわけだな」
と、かなみはグラフォトン収集圧縮機を足の裏でがしがしと二度蹴りつけた。
「って、ちょっ、危ないんでしょ!?」
茉莉が慌てて言うのだが、かなみは平然とした顔で、
「そのような危険なエネルギーの入っているブツが私の蹴り程度でどうにかなるわけがなかろう。少しは彰造を信用したらどうだ」
「だからって何でそんなことするのよ……」
茉莉は、はああああ、と長いため息を吐き、それから思いついたように
「──って、お祖父ちゃんちからうちまで二キロくらい距離があるけど、そこで吸ってここに溜められるの?」
「わーむほーるというものがあってれすね、理論はよく分からないのれすが、まあとにかく大丈夫なのれす。それで、グラフォトン生命体と戦うために茉莉さまにお渡しするように、と言われてきたものがあるのれすよ」
三度スカートに手を突っ込み、あるてみすが取り出したのは、三つの小さなイヤリングだった。透き通ったブルーの小さな石がぶらさがっていて、趣味はけして悪くない。
「これを身に着けると、変身することができるのれす。変身すると身体能力が大幅に増強され、防御力も強化されるのれす。その際にコスチュームも変わるのれすが、それは使ってのお楽しみなのれす」
「変身?」
と、茉莉はイヤリングを手に取りながら、
「……グラフォトン収集圧縮機を作って、その実験をして、変身のための道具を作って、なんてことをやってる間にその『穴』ってのを塞ぐことはできなかったわけ?」
言うと、あるてみすがテーブルの上に置いた例のプレートが勝手に動作し、再び彰造が姿を現わした。彰造は腕を組んでうんうんとうなずき、
「疑問はもっともなものだ。しかし、異なった世界間に空いた穴を塞ぐ作業はそう簡単なものではないのだよ。それに対して、機械を作るのは私の専売特許──ということだ」
茉莉は頭痛を我慢するように額を押さえ、呆れ声で、
「それで『変身』?」
「うむ。まあ、こんなご時世だしな。世界に一組くらい美少女戦士がいてもよいかと思ったのだよ。幸いお前たちは美少女と言ってもはばからない程度の容姿は持っている」
彰造はわはははと笑って、
「それで変身のキーワードなのだがな」
「キーワード?」
イヤリングを手のひらの上に載せて眺めていた志津香が尋ねると、彰造はうなずき、
「何も知らない人間が偶然そのイヤリングを手にしても変身などできないようにな。まあ安全機構ではあるのだが、美少女戦士にはつきものでもあるだろう?」
茉莉は絶対そっちが本命だと思った。どうせ趣味で造ったのに違いない。
「それで、キーワードは?」
「まあ、イヤリングを装着したまえ」
彰造に促されて、三人はそれぞれの耳にイヤリングを装着した。
「キーワードは『しあわせだから笑顔なんじゃなくて、笑顔だからしあわせなんだ』だ」
彰造の手には、いつの間にか、再び先ほどのノートが開かれていた。茉莉の顔がぼっと赤くなる。志津香は自然と笑みを浮かべて、茉莉の顔を覗き込んだ。
「さっきのもそうだけど、ひょっとしてまーちゃんのポエム?」
たっぷり十秒ほどの間を置いてから、茉莉はうなずいた。
「……うん。中学生の頃の」
「まーちゃんの優しさが伝わってくる、いい言葉だと思うな」
微笑む志津香を見ながら彰造はわはははと笑い、
「いや、今のは冗談だ。本当のキーワードは『スウィートチェーンジ! しゅがあ☆くらふと!!』だ。今度こそ茉莉のポエムではない、私自身が考えた恥ずかしいキーワードだ」
「シュガークラフト……砂糖菓子細工ですか……」
志津香が言うと、彰造はうなずいた。
「うむ、甘くて脆い、お前たちを的確に表現したつもりだ」
茉莉、志津香、かなみは互いを見やった。
そして、同時に口にする。まだ半信半疑、といった感じで。
「……スイートチェンジ、シュガークラフト?」
すると──一瞬三人の身体が白い光に包まれて、次の瞬間に光が消え去った時には、茉莉たちの服装は一変していた。
「って、何この衣装~っ!?」
三人の着衣は、白いスクール水着へと変化していた。しかも、ただの白スクではない。まず襟が立っており、その襟元から右の脇へかけては布が切れていて、裏地に縫い付けられたホックにより、容易に着脱できる仕組みになっている。さらにもう一つ、それほど大きなものではないが、両の腰部分にスリットが入っている。上半分をチャイナドレス風にしたスクール水着、という感じだ。
確かに身体が軽々と動くような感覚はあるが──まずは部屋の中で水着という違和感があるし、脇も大きく開いているし、おまけに太腿がかなり際どいあたりまで露わになっているしで、多分に恥ずかしい。
「わははは、絶景かな絶景かな。素晴ら──」
茉莉は、とりあえず赤いスイッチを押して彰造を消した。
「それはチャイナスク水なのれす!」
と、あるてみすが興奮した声で叫んだ。
「ようやく変身姿が見られたのれす……あるてみすは嬉しいのれすよ。……こほん、まず、ベースはスクール水着の中でも旧スクール水着と呼ばれるもの、背部からもってきた布が前身頃の股間部の裏側に重ねられて筒状に縫い合わされているものを言うのれすが、それを用いているのれす。そこにチャイナドレスのようなスリットを入れ、更に中国衣装の雰囲気を出すために右肩に意匠を施したものが、そのチャイナスク水なのれすっ!」
あるてみすが言うと、かなみがぼそりと付け加える。
「旧スクの熱烈な信奉者からは邪道だといわれるむきもあるが、人気はそこそこ得ている──といっても、まだマイナー嗜好であることは間違いないがな」
「私は大好きなのれすよっ! お三方とも、お似合いなのれすっ!」
あるてみすは、顔を赤らめながらなんとか少ない布地を引き延ばして露出部分を隠そうとしている茉莉と志津香に向かって、
「衣装は毎回変わるようにできていますれすので、もし今回のものがお気に召さなくても、次回をお楽しみに! なのれす」