女の子が怖いのは今でも変わらなくて、きっと距離を置こうとしてしまう時だってあると思う。また水守を不機嫌にさせてしまうことだってあるかもしれない。

 ただ、それでも。

 少しずつ、少しずつ。水守に寄り添いたい──そう強く思った。


 覚えていないけれど、とても幸せな夢を見たような気がする。

 ぼんやりした頭をもたげると、カーテンの隙間からは朝日が零れていた。随分と寝た気がするけど今は何時だ? っていうか、俺の部屋にしては全体的に可愛いような。

 ああ、そうか。水守の部屋に泊まったんだっけ。それで一緒に寝ることになって──。

 ──このまま離したくないくらい、水守のことを愛してるから。

「……~~~っ!?

 思い、出した──昨夜、水守にあんな言葉を言ってしまった。

 おお、おおぉぉおおぉ……!

 よくあんな恥ずかしい言葉を真顔で言えたな!? いやまあ、本音には違いないんだろうけど、羞恥心で気絶しててもおかしくなかったぞ……!

 まずい、動揺しっぱなしだ。とりあえず、水でも飲んで落ち着こう。

 立ち上がろうとした時だ。右腕に違和感を覚えて、その場で固まる。

 なんだろ、このくらくらしてしまうくらい柔らかい二つの感触。

 そう思って視線を移し、ぜんとする。

 まるでぬいぐるみでも抱くように、眠っている水守が俺の腕に抱きついていた。

「み、水守っ……!?

 その瞬間思ったのは、水守が寝ててくれて良かったということ。起きていたらきっと、真っ赤になった俺をいじり倒していただろう。

 あまりに穏やかな寝顔に、俺は驚いたままそーっと横になる。

「あ、あのさ。もしかして、まだ寝てる?」

 けれど、水守は小さな寝息を立てるのみ。

 参った、起きられない。

 なんか、猫に膝の上に居座られた時と同じ気分。とても困るのだけど、まだこの至福に浸っていたいというか。

「もういっそ、水守が起きるまでこのままでもいいかもな……」

 ふと思う。ぐっすり寝てるみたいだし、今ならふにふにしてそうな頰を突っつくくらいしても、バレないんじゃ……い、いやいや。何を考えてんだ俺は。

 せめて布団をかけ直してあげようと思い、空いた方の手を伸ばす。と、体勢が悪いせいか偶然水守の肩に触れてしまい……わずかに、水守の肩が跳ねた。

 ……んん?

「なあ、水守。もしかして寝たふりしてない? だって今、明らかに肩が動いたよね?」

「…………(すうすう)」

「起きないならがすけど」

「……残念だな。もうちょっとだけ、このままでいたかったのに」

 上目遣いで、水守がくすりと笑った。

「やっぱり確信犯か」

「里久君と一緒に寝る機会なんて、滅多にないから。それに、里久君だって昨夜言ってくれたでしょ? 私のこと離したくない、って」

「っ!? い、いや、出来ればあの台詞は聞かなかったことにして欲しいんだけど……!」

「だーめ。だって、あの里久君の言葉がずっと頭に残ってて、しばらく眠れないくらいだったもん。絶対に忘れられないよ。それとも、あの言葉は私を慰めるためだけの噓だった?」

「……いえ、本心です。はい」

「ん、そっか」

 水守は満足そうに笑い、ベッドから立ち上がる。俺は羞恥心を誤魔化すように口にした。

「エレベーター、もう直ってるかな」

「どうかな、もう動くようになってても不思議じゃないけど。……まあ、でも」

 朝日に照らされた、優しい水守の微笑み。

「まずは、朝ご飯でも食べない? 今から作ってあげるから」

「……はは、そうだな。水守の朝食かぁ、楽しみだな」

 彼女に嫌われることを恐れて距離を取る俺と、彼氏に愛想を尽かされるのが怖くて距離を寄せる水守。俺たちは傷つくことに怯えるヤマアラシと同じで、だからこそ互いの正しい距離が分からない。

 ただ、それでも。昨日の夜のように。

 俺と水守が寄り添うことを諦めなければ、いつかきっと二人だけの距離が見つかる。

 そんな気がした。