「俺は、絶対に水守を拒まないから」

 絞り出すように口にして、ぎぎぎ、とぎこちなく水守に視線を移す。

 こうして見つめていたって、どうせまた俺は羞恥を覚えて目を逸らしてしまうのだろう。

 それでも、約束出来ることがある。

「俺からはまだ水守に恋人っぽいことは出来ないかもしれないけど、水守が求めてきたら精一杯かなえるよう頑張る。もし俺が水守を好きか不安になったら、いつでも確かめてくれていいから。……これで、どうかな」

「じゃあ、今すぐ里久君とキスしたい、って言ったら?」

「………………」

「あはは、いいよ無理しなくて。心の準備出来てないだろうし、二度目のキスは里久君から、って決めてるから」

「な、なんだよそれ。真剣に考えてたのに。……まあ、遠慮してくれると助かるけど」

 そういえば、初めてのキスはこの寂れた部室だった。

 あの日、水守にファーストキスを奪われてから、俺たちの交際は始まったんだっけ。

「うん、いいよ。今はまだそれで許してあげる。私が一番里久君にしたいことって、里久君をからかうことだから。これでいつでも里久君で遊んでいいんだよね?」

「そうなるのか!? いや、確かに拒まないって言っちゃったしな……やっぱ前言撤回しとこうかな……」

「無かったことにしちゃうんだ? 今の里久君、ちょっとカッコ良かったのに」

「……いや、もう好きにしてくれ。ただし、俺だってずっと照れっぱなしじゃないからな。水守が期待してるような反応しなくても文句言うなよ」

「それでもいいよ。そっか、里久君は私のしたいこと何でも付き合ってくれるのか。じゃあこれから里久君のことはいちゃいちゃサンドバッグって呼ぼう」

 くすくすと笑みをこぼす水守。良かった、やっと笑ってくれた。

 ……でも、根本的な問題の解決にはなってないんだろうな。

 昨日涼音は俺に、女の子嫌いを克服出来たって言ったけど違ったようだ。俺は依然異性に対して恐れを抱いていて、それが原因で水守に寂しい思いをさせている。

 だけど、俺はもう水守の彼氏だから。

 水守のために変わりたい。そう、心の底から思った。


 その後、もちろん俺も水守も授業には遅刻した。