エピローグ

 ……子守うたが聞こえてきた。

 異国の歌声。その澄んだ声に導かれるまま足を伸ばすと、家のリビングの奥で、ルナの背中を見つけた。彼女は縁側に腰掛けて星空を見上げ、優しい子守唄を紡いでいる。

 ──もう迷いはなかった。ゆっくりと歩みを進めて隣に並ぶと、彼女はそっと歌声を止め、エメラルドグリーンのひとみをオレに向け、月に照らされながらふんわりと微笑ほほえむ。

しのぶさん、今夜は星がれいですよ」

「ああ、本当に綺麗だな」

 短いあいづち。いつもの冗談も出てこなかった。緩やかに鼓動が高鳴っていく中、ルナは子守唄──以前エルニからプレゼントされた歌を再び奏でたのち、「そろそろ私も、受験勉強をはじめないといけませんね」と、柔らかく語り出す。

 今年はオレもひじりもマキナも高校三年生だ。

 来年のいまごろは、みんなも大学を目指して勉強中なんだと思う。多分そのときには、ルナもかおるんも一緒なのだろう。この先の未来を想像してか、

「みんなと一緒に大学生になれたら、いい思い出がたくさんできそうですね」

 夢を見るようにやんわりとほおを染め、ルナはうれしそうに声を弾ませる。

 彼女と紡ぐ思い出。人間とは違う彼女と歩んでいく日々。それはオレにとって、決して短いものではないのだろう。

 しかしルナにとっては、一生の何分の一の出来事でしかないのかも知れない。オレは彼女の思い出の中にずっといたいのか、それとも彼女のために思い出を残してあげたいのか。

 きっとその両方なんだと思う。

 ふと、背中を押してくれた聖と父さんの言葉が脳裏をかすめる。

 そばにいてくれる人たち。支えてくれる人たち。守ってくれる人たち。人間と悪魔の違い。本当の家族。そして昔よりも強くなれた自分。

 ……もう、我慢しなくてもいいんだ。

 星と月が綺麗な夜だった。

 静かで澄んだ夜だった。

 こんな夜のことを、今日の出来事を、彼女がずっと覚えていられるように、伝える言葉がルナにとってささやかな永遠になればと思って、

「なあ、ルナ……」

 彼女のこともずっと繋ぎとめておきたくて、オレも彼女とつながっていたくて、胸の中からあふれてくるおもいを、温かく彼女に打ち明ける。

「──オレは、ルナが好きだよ」