すりすりと素足でオレの
ひょっとしたらあまり怒っていないのかも知れない。相変わらずルナの足の動きはソフトなままである。だがしかし、彼女の言葉はちょっぴりハードだった。
「……踏まれているのに、
「マ、マジでやめて。頼むからそんなことを言わないでくれ……」
「どうしてです?
「あ、いや、オレは別に喜んでいるわけでは……」
「忍さん、ちゃんと『好き』って言ってくれないと、もう気持ち良くしてあげませんよ?」
こちらの言葉を遮り、色香を漂わせて
「えっと、ルナ、お前のことは、その、なんと言うか、……だよ」
「聞こえません。もっと大きな声で、『大好きだ』と言ってください。そうしたら、もっと気持ちいいことが待っていますよ? 朝までお仕置きしてあげます」
「さ、さっきみたいな
「──はい。わかりました。朝まで気持ちいいことをしましょうね」
か、会話が成り立っていないみたいだ。こちらが
もはや笑うしかない。
ルナは両脚で上下左右にオレの頬を擦り、時折円を描くような動きを見せ、その度に身につけている着物が一層はだけていく。もう柔らかそうな白い
と、違和感を覚えた瞬間、先程母さんと交わした会話の内容を思い出した。
そういえば母さんが言っていたな。ルナもマキナも『着物を着るときは下着をつけない』という冗談を
つ、つまり、ルナは下着を身につけていないのにも
「
「いえ、これはその、なんと言いますか……」
「うふふ、
こちらの反応を楽しむかのように、
……ほんとにダメかも知れない。彼女が動きを強くするたび、こちらの
理性がもつかどうか危うい状態だ。彼女の
「もし忍さんが『愛してる』って言ってくれたら……全部見せてあげてもいいですよ?」
「……ジュテーム、ルナ」
「あぁん、忍さん、私も愛しています」
おっと待ってくれ。なんで色っぽくもあっさりと受け
懸命に理性を振り絞って冗談を飛ばしたのにも
途端、たわわな乳房が無邪気に弾んで揺れ動き、ルナは頬を染めたまま、あでやかに
すると以前Gカップと聞き及んだ彼女の美巨乳がゆっくり眼前に迫り、オレの鼻先で左右に揺れ惑い、またルナはこちらを見下ろし、声音を普段の優しいものに戻した。
「忍さん、踏んじゃったりしてごめんなさい。痛くなかったですか? やっぱり私、SMとか向いていないみたいで……こっちの方がずっといいです」
柔らかな言葉と共に、ルナはぎゅっとまろやかな乳房をオレの顔に押しつけてくる。
「ふふ、忍さん、もう痛いことなんかしませんからね。今度は私のおっぱいで、たくさん気持ち良くさせてあげますよ」
これが俗にいうところの
顔全体に押し当てられたふっくらとした乳房。それは恥じらいのためか
「うぅん、忍さん、気持ちいいですか? はぁん、忍さん、大好きです、あぁん……」
お、落ち着け。ルナは甘酒で酔っているだけだ。そんな相手に妙な気を起こしてどうする。このままなにもせず……おっ、ようやく意識が
しかしそれにしても、こんな調子でルナに気持ちを伝えることなんてできるのだろうか? 漠然とした不安を抱えたまま、オレはため息すら
● ● ●
……なにやら妙に心地いい。
朧気な意識の中、目を閉じたまま手を動かすと、大きく丸みを帯びた何かが掌に触れたのだが……これはすごいな。柔らかく温かい上に、程よい重さと
何度触っても飽きることがなく、しばし夢中で手を動かしていると、
「やぁん……
は、ははは、さすがに目が覚めちまったよ。でも覚めなければよかった。
耳元で小さくあがったソプラノボイス。それを受けてなんとなく察しがつき、おそるおそる
しかも
や、やっちまった──とベッドの上で絶叫しそうになったが、紳士らしくグッと耐えた。
まずはよく思い出せ。確か昨夜はルナが酔ってSMの女王様で最後はおっぱいだった。
……やはりオレも冷静じゃないな。だけど少しずつ思い出してきた。そういや昨日、酔ったルナに胸を押しつけられて、そのまま意識を失ったんだったな。
しかし、どうしてルナは裸で眠っているんだ? ひょっとして昨夜オレに胸を押し当てたあと、ルナもそのまま眠ってしまったのだろうか? 彼女はずいぶんと熟睡しているらしく、またどんな夢を見ているのか、
「いやぁん……忍さん……おっぱいばっかりダメです……んぅん……」
などと悩ましく腰をくねらせ、
こんな姿を見ていたら、告白どころか昨日のように理性がおかしくなりそうだ。オレは素早くベッドの上で身体を起こし、そっと優しく掛け布団でルナの裸体を隠して一息つく。
と、そこで、突然自室の扉がノックされ、
「忍君もう昼だYO! YO! せっかく帰ってきたのにいつまで寝ているんだYO!」
聞き覚えのある懐かしい男性の声が耳に触れ、彼は短い間妙に
「……忍君、もう飽きちゃったから開けるよ?」
相変わらず熱しやすく冷めやすいらしく、こちらの制止を待たないまま、笑顔と共にひとりの男性が部屋に姿を見せた。どこかなずなと似た顔立ちの
が、この状況はまずい。父さんもはじめのうちは
「えっと、
「か、
「まあ、
言いながらルナに目を戻したと思ったら、
「しかし金髪は底なしだってよく聞くけど、どうやら昨日は寝かせて
「おかえり父さん。直ちに消えろ」
「……忍君はずいぶんと冷たいね。エルニとマキナちゃんとは大違いだ。さっき軽く
どうやらオレが寝ている間に、エルニとマキナと自己紹介を交わしたらしい。父さんは上機嫌な様子で口元を緩め、「ところで忍君」と話を振ってくる。
「今度半ば強引にエルニを出張先まで連れて行ってもいい?」
「どれだけエルニを気に入ったのかは知らんが──そのときはあんたを殺す」
「……なんて物騒なことを口走るんでしょうかこの子は。母親の顔が見てみたいわ。きっと天使みたいな顔をしているんだろうね。ちょっと確認してくるよ」
久し振りに再会しても、やはり父さんの口調は適当で冗談混じりで、母さんへの
「忍君、大切な話があるんだ。あとで少し時間をくれないか?」
「……断るに決まっているだろうが。その
「残念ながら今回は違うよ。ボクがうちに戻ってきたのは、もちろん巴やなずなちゃんに会いたいというのもあったけど、一番の目的は、忍君と二人で話をすることなんだ」
「なんか怖いぐらい真面目な顔をしているけど……なんだよ話って?」
「いまここで言えることはひとつだけだ」
こちらに背中を向けた、父さんはコホンと
「ジュテーム、しのむん。もう大好き。どうでい、今夜辺り親子の垣根を越えて──」
話の最中だったが、オレは無言で手元の
案の定オレの攻撃など意に介さないみたいだ。父さんは「あとで話そうね」と平然とした様子で立ち去って行き……多分騒いでいたせいで目を覚ましたんだと思う。それまで眠っていたルナがむくっと
「
わりと寝起きの悪いルナ。彼女はほわんと緩んだ表情で朝の
「え? あら? どうして私、こんな格好で忍さんの隣にいるんですか?」
「……昨日のことは覚えていないのか?」
「えっと、昨日はみんなで甘酒を飲んで、それから私……何かしちゃったんでしょうか?」
どうやら酔ったときの記憶がすっぽりと抜け落ちているようだ。やはりルナは酔うと記憶を
そういえば……父さんの話ってなんだろう?
あれから深夜の出来事を
……先程珍しいことに、あの父さんが
けれど、父さんは一種のトラブルメーカーなのだ。また妙なことに巻き込まれる可能性も高いと思う。もし仮にそんなことになったら、ルナと話す機会がますます減り、彼女に気持ちを伝える日が一層遠のいてしまうような気がする。
と、少し不安を感じていたところ、階段を降りたあたりで、一匹の猫と遭遇した。
黄色と赤茶の
「……なんだよお前。再会の挨拶がそれか? 一体なにを怒っているんだ?」
理由がわからずオレが首をひねっていたところ、廊下の曲がり角からマキナとエルニが顔を
「ちょっと聞いてよ忍! カガリったら全然あたしたちと仲良くしてくれないの! ただおやつをあげようとしただけなのに、あたしのことを引っ
「わたしなんか
「はは、まさか。まあ自慢のかぎ
動物と話せるらしいエルニも、おそらく今日は不調なのだろう。あまり気にも留めず、オレはマキナとエルニの話を受け、やや
「なあカガリ、お前のその
「にゃあ! にゃにゃあ! ふしゃああああ!」
こちらの注意も聞かず、ビンタでもするように前足でオレの
「……変な猫」
肩をすくめてそう
ちなみに父さんの印象だが、マキナ
まあそれはともかく。オレたちがそろそろリビングに行こうかと話していたところ、身支度を整えてきたのか、小さな足音と共にルナが階段から降りて来た。
が、意外なことにルナは胸にカガリを抱いていて、
そんなカガリの姿を認め、少し前に攻撃的な対応を受けたこともあるのだろう。マキナとエルニは
「あの、お姉さま……カガリに一体なにをしたの?」
「もしかしてわたしみたいに噛み付かれて、それで『めっ!』とかしちゃったのか?」
「え? 私はなにもしていませんよ? さっき部屋の前でばったり会ったんですけど、声を掛けたらすぐに仲良くしてくれました。大人しくていい子ですね」
……野生の勘ってすごいな。この家の新たなボスが
「な、なんか、昨日のことを思い出しちゃったわ」
「もうルナにお酒を飲ましたらダメだ。逃げ遅れていたらどうなっていたことか……」
昨夜酔ったルナになにをされたのか、若干顔を
どうにも変な空気になってきた。ひとまずオレはルナたちを促し、みんなでリビングへと足を運ぶ。するとまず目についたのは、部屋のテーブルの上に置かれた見慣れぬ灰皿。おそらく喫煙者の父さんのために母さんが用意したものなのだろう。
なんて考えながら視線を移すと、リビングのソファーの上で父さんが母さんに
仲が良くて結構なことだ。なんかエルニは「お餅食べたい」とか言ってダイニングへと消えて行ったが、マキナは二人の様子を眺め、「ああいうのっていいわね」と
「
「おう、うちのアホで適当な父さんだ。もうエルニもマキナも
「が、頑張ります!」
わりと緊張しているのかも知れない。こちらのジョークに突っ込みを返すこともなく、ルナは大きく深呼吸をひとつ。それで心の準備を整えたらしく、彼女は迷いのない足取りでソファーへと向かい、母さんの膝枕を楽しんでいる父さんの前で深々と頭を下げた。
「は、はじめまして! 私はその──」
「ああ、君のことは知っているよ。君が
ルナの言葉を遮り、父さんは母さんの
「
一度言葉を切り、父さんは目つきをさらに鋭くして続ける。
「君は……忍君のなんなんだい?」
父さんからの静かな問い掛け。それにルナは、
「私は──忍さんの家族ですよ」
以前までは自分のことを、オレの奴隷だなんて口にしていたルナ。そんな彼女の変化を、父さんは知らない。しかしルナの
意外にもそこからは冗談もなかった。ただ穏やかにルナと言葉を交わし、紫煙をくゆらせ、しばしの談笑の後、父さんはおもむろに腰をあげ、オレに目を移して切り出す。
「こうして帰って来たわけだし忍君、せっかくだからボクと組手でもしないかい? そろそろジジイ相手の
「ジジイこと
おそらく組手はただのついでなんだろう。きっと父さんも、さっき口にしていた大切な話がしたいんだと思う。しかし父さんとの久々の組手だ。覚えず鼓動が速くなってくる。
父さんが家を離れている間に色んなことがあった。オレはもう昔のように父さんや爺ちゃんを目指してはいない。自分らしく退魔の道を歩みはじめている。多分オレ自身も成長しているはずだ。果たしてその成長がどの程度のものなのか、一度確かめておきたい。
父さんの誘いに大きく
● ● ●
鼻先を
父さんとの組手は完敗に終わり、庭の中央でしばらく寝転がったのち、痛む
「……まさか当てられるとは思わなかったよ」
「しばらく見ないうちに、
父さんが『悪魔』という単語を口にしても、特に驚きは感じなかったと思う。
少し前、
「宗悟さんから聞いたよ。父さんも爺ちゃんも、昔は退魔士だったそうじゃないか」
「まあ、そうなんだけどさ……ボクもこの前電話で聞いたよ。宗悟ちゃんは忍君に退魔の
「その口振りから察するに、やっぱり父さんは反対なのか?」
「……君がジジイの道場に戻ると言ったとき、ボクは反対なんかしなかっただろう? 今回もそれと同じだ。死ぬほど心配であることは確かだけど、忍君の気持ちを尊重するよ」
煙草を口に含み、紫煙を吐き出しながら、父さんは「ただ」と言葉を続ける。
「忍君に言わないといけないことが、ふたつだけある。こうして戻って来たのは、忍君にそれを伝えるためだ。まずひとつは……」
静かに言葉を止め、父さんは庭からうちのリビングに目を移し、わずかに口調を正す。
「ルナちゃん達の秘密を、
紫煙を吐き出すと同時にため息をつき、父さんは表情に苦笑を浮かべた。
「忍君も知っているとは思うけど、巴はバカみたいに優しい人だ。ルナちゃんにマキナちゃんにエルニ、あの
「……ルナたちのことも、
「宗悟ちゃんも親切だからね。全部話してくれたよ。ふたりが放置してもいいタイプの悪魔だとも聞いていたんだけど……それは本当だったみたいだ。実はほんのちょっとだけ疑っていたんだよ。
「ルナもマキナも、そんなことをするようには見えなかっただろう?」
「そうだね。マキナちゃんの乗り突っ込みは最高だし、それにルナちゃんの『
苦笑を笑顔に変えて、父さんは柔らかく言葉を紡ぐ。
「
「……心に留めておくよ。機会があったら母さんにも話してみる」
こちらが
「もうひとつだけ、忍君に話しておくことがある。ボクの失敗談だ。伝えるべきかどうか、ルナちゃんに会ってから決めようと思っていたんだけど、やっぱりあの言葉にやられちゃったみたいだね。これは話すしかないか……」
……父さんの話とルナとがどう関係あるのだろう? こちらが疑問に思う中、父さんは青空を見上げたまま煙草を
「ボクはね、昔から本音を口にするのが怖くて、いつも冗談ばかりを言って、そんなことをずっと続けていたら……
言いながら青空から視線を移し、父さんはじっとオレの目を見つめる。
「忍君、ボクと同じような失敗をしたらいけないよ?」
「……父さんがなにを言いたいのか、よくわからないんだが?」
「まあ要するに、女を待たせる男は格好悪いということだね」
思い当たる節があったせいか、なかなか耳に痛い言葉だった。こちらが押し黙る中、父さんは再びうちのリビングに視線を向け、そのまま柔らかく目を細める。
「これでも色々と知っているんだよ? 巴が送ってくれた写真を見たり、巴の話を聞いたりしているうちに……こう見えても父親だからかな? 気づいちゃったんだよ。巴だってわかっている。忍君が、
「……それでさっきルナの名前を出していたのか」
もう隠しても無駄だろう。こちらが小さくため息をつくと、父さんはそっとオレの肩に手を載せ、微笑を
「
やんわりとした父さんの言葉に、ひどく胸が熱くなった。
「そんなルナちゃんに抱えきれないほどの思い出をプレゼントするのが、忍君にとってなによりも大切なことなんじゃないのかな? このまま迷ってばかりいて、短い時間を無駄に過ごしていたら……ボクみたいに格好悪くなっちゃうよ?」
父さんは十分格好いいだろう──と、口走りそうになったがなんとか
「しかしまさか……父さんにまで背中を押されるとは思わなかったな」
「ん? ということは、ボク以外にもこんなクールな仕事をした人がいるのかい?」
「ああ、温かくて優しい人がな、またオレを支えてくれたんだよ」
意外そうに目を丸くする父さんに、オレは軽く胸を張って答えた。
「オレも昔とは違う。いまは頼れる人がいる。支えてくれる人がいる。そんな人たちが
胸の中で
「忍君、しばらくうちで休暇を取ったら、ボクはすぐに仕事に戻ろうと思う」
「……なんだ、また出張なのか?」
「色々とやることがあるんだ。またしばらくは帰れそうにないから、家のことはよろしく頼むよ。今度は
「母さんを出張先に? そんなことはじめてだな」
「……ボクも安心したんだよ」
表情を緩ませ、父さんは声音にぬくもりを乗せる。
「このうちにはルナちゃん達がいる。巴がいなくても問題はないはずだ。忍君を支えてくれる人は
「もちろんそれは構わないが……本気で母さんを連れて行くつもりなのか?」
「別に不安になることはないよ。さっき忍君と組手をしてわかったんだ。少し寂しいけど、君はボクの手を離れちゃったんだよ。もう一人前だ。今の忍君なら、ボク達がいなくても大丈夫だよ。逆にボクは巴がいないとダメだからね。これからは巴と一緒だけど……」
背を向けて歩みを進め、その途中で格好つけて振り返り、父さんは人差し指を立てる。
「今度ボクと
シリアスな空気を無視して冗談をぶっ飛ばしてくる父さん。本来ならオレも
なにを思ったのか、父さんは庭からリビングへとダッシュ。間髪を
「みんな! 大変だ! ボクと巴が留守の間に、親の目を盗んで
……
やはり父さんがうちにいる間は、告白なんてできないんじゃないだろうかと……。
● ● ●
少し
我が家のトラブルメーカーこと父さん。在宅中彼は様々な騒動を巻き起こし、いつも以上に我が家は
けれど、父さんと過ごす日々が楽しくなかったといえば、それはウソになるだろう。
冬休みの終盤。以前話した通り、父さんは母さんを連れて出張先へと旅立って行き、騒がしくしていた人が急にいなくなったせいか……夜になると、家の中が妙に静かに感じた。
ただ、不思議と心は落ち着いている。静かな夜の中、次第に