ある日、うちの隣に越して来た四兄弟とマリー達。末っ子のちびっ子が、いつもマリーのスカートの裾を握りながら後ろに隠れている。泣きそうな顔をして、じっと見つめている。

 何があったのか? 親がいない事は直ぐに分かった。子供達だけで暮らしているのか? 世話をしているマリーが親代わりなのだろう。

 それにしても、四兄弟はみんな何かが違う。上の二人は特にそうだ。言葉使いもそうだが、物腰や立ち振る舞いが違うんだ。きっとワシ等みたいな庶民じゃないのだろう。

 その二人が冒険者として毎日クエストを受けるようになった。ニコは一緒に畑で働くようになった。みんな良い子達だ。なのに、毎日隣から末っ子のロロの泣き声が聞こえてくる。

「うえぇーん! ああーん!」

 何がそんなに悲しいんだ? どうした? 気になって仕方がない。ロロの泣き声が聞こえた時は心配で、思わず家の前をうろついてしまう。

 だけどロロは外に出てこない。思い切ってマリーに聞いてみた。

「ロロ坊ちゃまはまだ小さいから……ご両親の事も覚えておられないのです。きっと心がご両親の温かさを求めておられるのでしょう」

 なんて切ない事を言うんだ。泣いてしまうだろう!

「ねえ、あんた。ロロちゃんが気になるわ。あんなに毎日泣いて……心配だわ」

 セルマもそう言う。ワシだって気になるんだ。だけど外に出てこないからどうしようもない。家に押しかけるのもな。

「お野菜を持って行こうかしら」

「おう、そうだな」

 そうだ、その手があった。ワシの作った野菜を持って行こう。早速、セルマと一緒に野菜を持って隣の家に行く。

「あらあら、まあまあ。ありがとうございます。お茶を淹れますね」

 マリーが招き入れてくれた。ロロはどうしているのかと見てみると、大きな犬(?)の後ろに隠れていた。ギュッと犬に抱きついている。この犬がロロを守っているのか? この犬は普通じゃない。犬なのか? いや、きっと違うだろう。しっかりとした意志を感じる眼をしている。しかも利口そうだ。ずっとワシと眼が合っているのは気の所為じゃないよな?

「ピカというのですよ。ロロ坊ちゃまのお友達です」

「ピカ、ワシはロロと仲良くしたいんだ。いいか?」

「私達はロロちゃんが心配なの」

「わふん」

 理解したのだろう。体を動かして、ロロを前に押し出してくれる。ワシとセルマはしゃがんでロロの目線に合わせる。

「ロロ、ワシはドルフだ。よろしくな」

「私はセルマよ。ロロちゃん、一緒に日向ぼっこしましょう」

 そう言ってセルマが出した両手を、ロロはじっと見ている。手を取る事に戸惑っている。大丈夫だ。みんなロロが可愛いんだ。気になって仕方がないんだ。

 泣いてないで、外に出てみると良い。きっと気も紛れる。世界が広がるぞ。

「え、えっちょぉ……」

「セルマよ。セルマ婆さんって呼ばれているわ」

「しぇるまばあしゃん?」

「そう、そうよ。ロロちゃん、よろしくね」

「ワシはドルフ爺だ」

「どるふじい?」

「そうだ、ロロ。畑に連れてってやろう」

 ロロは戸惑いながら、ぎこちなく微笑んだ。プックリとしたほっぺが可愛い。こんなに小さな子を残して逝くなんて、心残りだったろうに。そう思うと涙が出そうになってしまう。

 その日から少しずつ、ロロは外に出てくるようになった。セルマが誘って軒下で一緒に日向ぼっこをする。ワシが抱っこして畑の中を歩く。

 本当に少しずつ、少しずつだけど笑顔が見られるようになった。

「どるふじい、にこにいもいるの?」

「おう、ニコもみんなと一緒に働いているぞ」

「しゅごいのら」

「そうだろう? ロロの兄ちゃんと姉ちゃんは凄いんだ」

 その内、ロロが探してくれるようになった。

「どるふじい! ろこー!?

「おう! こっちだ!」

 畑の中なら、ピカに乗ってやってくるようになった。そんな事を繰り返している内に、昼間は泣く事が無くなった。

「まだ時々夜泣きをされるのですよ」

「そうなのか」

 ロロの心は両親を求めているのだろう。あんなに小さいのだから当然だ。ワシ等では両親の代わりはできないが、だけどワシもセルマもロロの事が大好きだぞ。

「どるふじい、にこにいのやくしょうれ、ぽーしょんをちゅくるのら」

「ポーションだと!? 凄いじゃないか!?

「ふふふん。れおにいに、おしえてもらったのら」

 ロロはとんでもない才能を持っていた。たった3歳でポーションを作るなんて、そんな事は聞いた事がない。他にはいないだろう。

 ロロは賢い。それだけ色んな事を考えている。ワシ等が気付かない事でも、ロロは気付くんだ。だからこそ、夜泣きしてしまうのだろう。感受性が強いんだ。だが、優しい良い子だ。このまま真っ直ぐに育って欲しい。

 ワシとセルマは、一緒にいる事しかできない。だけどな、ロロ。ここにもロロの味方がいるのだと覚えておいて欲しい。

 力になれないかも知れないが、ロロの事を心配している爺さんと婆さんがいるんだ。

「どぉるぅふぅじいー!」

「おう! ここだ!」

 今日もロロが弾けるような笑顔で、ピカに乗って畑の中をやってくる。

 毎日笑っていて欲しい。ワシ等は見守っているぞ。