「またまた登場なのですーッ!」

 バババーンと登場、女神なのだ。お名前覚えているかな? この世界の主神である女神の、リシアディヴィーヌだ。ああ、せっかく良い夢を見られそうだと思ったのに。駄女神の登場なのか。

 いつ呼ばれても、色とりどりの花がまるでじゆうたんのように咲いている。俺が癒してもらった小川も、心地好い水音を立てて流れている。あの美味しかった桃みたいな実も、たわわに実っている。

 今日は眠っても、忙しい日なのだ。

 女神は懲りずに両手を広げて抱きついてきたから、いつも通り避けておいた。

「あぶぶぶぶぅ──ッ!!

 案の定、また顔面からスライディングして行った。もう何回も同じことをしている。いい加減に学ぼう。ああ、キラキラした長い髪に、花弁がついてしまっている。せっかく綺麗に咲いているのだから、折らないようにしようよ。

「リシアディヴィーヌ、あなた少しは落ち着きなさい」

 どこからか声がしたかと思ったら、目の前に淡いブルーの光が集まり人型になった。ポンポンポポンとお花が宙に沢山咲いたかと思ったらもう一人の女神様が立っていた。

 リシアディヴィーヌの姉女神、プリアディヴェーナだ。

 姉女神に叱られたのに、すぐにシュタッと立ち上がり何も無かったかのように澄まし顔で話し掛けてきた。

「今日はお疲れ様でしたねー!」

 今回は復活が早い。何もなかった風を装っているけど、やっぱお鼻の頭が赤くなって擦りむけている。懲りないなぁ。

「うん、まあね」

「相変わらず塩対応なのですぅ。でも、そこがまたギャンかわッ!」

 両手をほっぺに当ててクネクネしている。可愛くはないぞぅ。俺にそんな趣味はない。

「ほら、リシアディヴィーヌ。言っておくことがあるでしょう?」

「そうなのです! なんとなんと! クーちゃんが聖獣になったから、スキルが一つ増えたのです!」

「え、しょうなの?」

「はいッ! シールドを張れるようになったのですぅッ!」

 パチパチパチー、と自分で拍手をしている。自分一人で……虚しくはないのか? 姉女神が、リシアディヴィーヌを見る目が呆れているように見えるのだけど。

「もう、ロロったら照れ屋さんなんだからぁ」

 いや、違うぞ。俺も呆れているのだ。若干引いてもいる。相変わらずだなぁーとも思う。

 シールドってあれか? 見えない壁的なやつかな?

 クーちゃんは本当に守りに特化している。『擬態』に『硬化』今度は『シールド』だ。

「クーちゃんのシールド。役に立ちますよぅ!」

「しょうなの?」

「はいッ! 必ずです! ああぁ、聞かないで下さいぃー! 今は言えませんーッ!」

 はいはい、そうなのか。無理には聞かないのだ。どうせ、後で分かるだろう。姉女神がクスクスと笑っている。可笑しいよね。俺もそう思う。

「ああーッ! 今日はロロがお疲れの所為で時間が短いのですーッ!」

「ありがとね」

「ギャン可愛!! ああー! ピカちゃんが収納している物を……」

 ブチッと時間切れなのだ。最後の方は何を言っているのか分からなかった。女神が何か言っている側で、姉女神のプリアディヴェーナが微笑みながら手を振ってくれていた。

 余計なことを言っているから、時間がなくなるのだと俺は思うぞ。

 そして、俺は若干疲れて目が覚めた。女神に呼び出された時はいつもだ。

 きっとあの性格に、俺の心が疲れちゃう。でもいつも見守っていてくれて有難う。

「ギャン可愛ッ!」

 と言いながら、悶えている女神の姿が見えた気がしたのだ。



 ロロが帰ると、リシアディヴィーヌはいそいそと小川の側へと移動する。手を翳すと水面が揺らぎだしそこにロロが映し出された。そこを覗き込むリシアディヴィーヌ。

 両手を地面について覗き込むものだから、長い髪が地面についている。

「これ、リシアディヴィーヌ。あなた髪が濡れるわよ」

「姉様もですぅ」

 そういう姉女神も、同じような体勢で水面を覗き込んでいる。そこには眼が覚めて、朝食のオムレツを頰張っているロロが映し出されていた。

「ふふふ、ロロには驚かされるわね。霊獣を進化させちゃうし、ハイコッコにプチゴーレムでしょう。加護を盛りすぎじゃないの?」

「そんなことはないのです! 元々のロロの才が飛び抜けているのです!」

 二人で突き出したお尻をぶつけ合っている。

「そうね、ロロの兄もあの年で鑑定眼なんて異例だわ。それよりリシアディヴィーヌ」

「はいぃ~」

 少し真剣な顔をした姉女神に、リシアディヴィーヌは溜息をついている。

「それで、調査はどうなっているの?」

「それがぁ……」

 いつもの女神とは違う真剣な顔をしている。

「まだ確実ではないのですがぁ」

「何なの? 勿体付けるわね」

「だってぇ……なんだか私の眼をくぐっていると言うかぁ、暗躍していると言うかぁ」

 リシアディヴィーヌは調査した結果を不安に思っている。暗躍という言葉を使った女神。よからぬ存在が、リシアディヴィーヌの眼の届かないところで悪だくみをしていることは確かなようだ。

「お墓参りに行くと言ってましたぁ」

「あら、そうだったわね」

「何もなければ良いのですがぁ……」

「しっかり見守りなさいよ」

 そう言って小さな花を咲かせながら姉女神は消えていった。

「ふぅ~、ロロは可愛い大事な子なのです」

 この世界の主神である女神の加護を持つロロとその兄弟。そしてエルフのディディエ・サルトゥルスル。彼らにこの先何が待ち受けているのか。女神でさえもまだはっきりとは摑めていない。

 水面には、ピカに乗ってハイコッコとプチゴーレムを引き連れ、畑の中の小道を颯爽と行くロロが映し出されている。

「ロロには笑顔が一番お似合いなのです。あの笑顔を守るのです!」

 女神の心配などどこ吹く風。キラキラと輝く瞳には、明るい未来が見えているように女神には思えた。