おっと、ホッとしたら大事なことを思い出したぞぅ。

「しょうら、でぃしゃん。くーちゃんのとうろくら」

「そうだね。レオに会って良かった」

「ロロ、クーちゃん?」

「しょうなのら。かめしゃんのおなまえら」

「名付けしたのか?」

「しょう、ぺかーって」

「アハハハ、光ったのか」

「しょうなのら」

 プチゴーレム達のお名前も、披露しておいた。

「やだ、ロロ。数じゃない」

「らってりあねえ、むりむりなのら」

「そうよね、5体もいるんだもの」

「しょうしょう」

「アハハハ!」

 レオ兄が思い切り笑っている。ウケちゃった。お名前でウケるってどうなのだ? さっきは血を流していたから、どうしようと思って焦ったけどもう全然元気だ。

 リア姉やレオ兄と一緒に冒険者ギルドまで行った。ギルドの前や中は、いつも通りに戻っていた。いつも通りでも、この辺りは街の中心なので人通りが多い。ギルドの中も、丁度戻ってきた冒険者達で賑わっていた。

「おう! ディ!」

「ギルマス、戻ったよ」

「レオ達も一緒か」

「ギルマス、マンドラゴラ抜いてきたんだ」

「魔獣も狩って来たから解体と買取をしてほしいわ」

「おうよ!」

 ギルマスも一緒に、ギルドの1階の奥にある解体場へ入って行く。ここでいつもピカが、持って帰ってきた魔獣を出している。沢山あるのだろうなぁ。

「よし、ピカ。いいぞ、出してくれ」

 ギルマスにそう言われ、わふんと返事をしたピカがドドンと魔獣を出した。それも、小山になっている。ふむふむ、ボアさんが多いみたいだ。やっぱ群れがいたのかな?

 リア姉が話していたホーンディアは、立派な角があるあれかな? 矢が首に刺さって突き抜けている。俺はびっくりした。これは、レオ兄の腕前が凄い証拠だ。

「おいおいおい。お前達、適度ってもんを知らねーのかよ」

「え? こんなもんでしょう?」

「リア、お前何言ってんだ? 常識ってもんを知らねーのか?」

「だって、そんなに必死で頑張った訳じゃないもの」

「そうなのか?」

「ギルマス、それだけ魔獣が増えているってことだよ」

「レオ、そりゃマズイな」

「討伐依頼を増やす方がいいと思うよ」

「1日でこの数か?」

「今日は出発が遅かったから……」

「ああ、そうだったな。半日と思っておく方がいいか?」

「そうだね」

 なるほど、なるほど。俺も会話に入っているかのように、そばで腕を組み考えている振りをしてみる。むむむむ。ちょびっと難しそうなお顔もしてみるのだ。ギュッと眉に力を入れて、寄せてみたりする。

「ふふふふ」

「でぃしゃん、わらったららめ」

「だって、ロロったら可愛いから」

「かわいいじゃないのら」

「そうなの?」

「しょうら、かっちょいいら」

「アハハハ!」

 ディさんに爆笑されてしまったぞ。どうしてだ? ちょっぴり難しいお顔をして、カッコいいポーズだと思わないか? いや、シブイと言っても過言ではないぞ。

「ロロはまだちびっ子だから、可愛いよね?」

「そうだよね」

「そうそう」

 いいけど。ちびっ子だから仕方ない。だって、手や足も短いしプクプクだ。この幼児体形め。

「ロロは可愛いからいいのよー」

 と、リア姉が抱きついてくる。だから、何度も言うけども。

「りあねえ、やめれ」

 その手だよ。俺のお腹をフニフニ触るのは止めてほしいと何度も言っている。確かに触り心地は良いのだろうけど。ポヨンとしたまあるいお腹がニクイね。

「ロロったら、冷たいわ」

「りあねえ、あのおっきいちゅのがあるのが、ほーんでぃあ?」

「そうよ、立派な角があるでしょう? その内側にも角があるの」

「ほんとら」

 いわゆる鹿さんの角のような立派で大きな角がある。その内側に、そこまで大きくはないが、それでも角がある。確か、強い魔獣ほど角が大きいと聞いた覚えがある。

 なら、ホーンディアは強い部類に入るのだろう。

「それにしても、ボアが多いな。角もあるじゃねーか」

「ギルマス、多分だけど繁殖期を無事に生き残ったんじゃないかな? 赤ちゃんボアもチラホラいたんだ」

「あー、増えちまったか」

 ふむふむ。意味が分からないのだけど、頷いておこう。

「ロロ、分かるの?」

「じぇんじぇん、わからないのら」

「ふふふ。難しい顔して頷いていたじゃない」

「らって、でぃしゃん。むじゅかしいのら」

 ボアはボアでも、リア姉達が狩ってきたのは小さな角がある魔獣さんだった。魔獣さんは獣のボアのように、年に一度繁殖期があるのではないのだそうだ。数年に一度らしい。それはまるで、強くなった魔獣が増えすぎないように、数調整でもしているかのようだ。

 その時のボアは、脂が乗っていて美味しいので需要が高い。繁殖するために、沢山食べて体力をつけるのだそうだ。雄は雌や生まれた子供達を守るために。雌は出産と子育てに備えて沢山食べる。だから、みんなその時期にボア狩をするらしい。

 角のない獣さんのボアは秋が美味しい。冬に備えるのだ。木の実を沢山食べて肉も美味しくなる。

「繁殖期の周期が定まらないからなぁ」

「魔獣だから仕方ないよ」

「しかし、このままにはできん。レオの家の近くにも出て来たのだろう?」

「あのボアは獣だったよ。ピカがやっつけたけどね」

「ふむ、どっちにしろ畑を荒らされると困るじゃねーか。畑だけならまだしも、人に被害が出たらいかんぞ」

 そうそう。そうなのだよ。ドルフ爺が怒っていたもの。

「どるふじい」

「ん? ロロ、ドルフ爺さんがどうした?」

「おこっていたのら。なたをもってたのら」

「アハハハ! それはボアを解体するためだろう。食う気満々じゃねーか」

 ああ、そうだった。先頭切って、血抜きをしていた。でも、ドルフ爺なら色々博識だから、その繁殖期のことだって知っていそうじゃないか?

「どるふじいは、しらない?」

「ロロ、何をかな?」

「れおにい、はんしょくきなのら。どるふじいなら、しっていしょうなのら」

「本当だ、帰ったら聞いてみよう」

 うんうん、それがいいのだ。

「とにかく、今はボアが増えてんだな? 討伐依頼を増やそう」

「最近は、皆あんまり森で討伐しないみたいよね。ダンジョンの方が手っ取り早く稼げるから」

「そうなんだよ。それも、困ったもんだ」

 ふむふむ。ダンジョンの方が稼げるのだな。それはあれか? 魔石が出るからなのか? それに、魔石は荷物にならない。お手軽って訳なのかな?

 でも俺は、お肉を持って帰って来てくれる方が良いなぁ。

「僕達はピカがいるから平気だけど」

 やっぱあれだ、ディさんが持っているマジックバッグ。あれが欲しい。

「ロロ、また難しいお顔になってるよ?」

「でぃしゃんは、いいのもってるのら」

「僕? 何かな、ロロ」

「でぃしゃんの、まじっくばっぐなのら」

「ああ、そうだね。沢山入るから」

「しょうなのら」

 でも、この国ではお高いらしい。ディさんは、長老さんに貰ったと言うのに。解せない。どうしてこんなに差があるのだろう? やはり、エルフ族の国は豊かなのだろう。

「回収屋を雇うか」

「うん、いいね」

 なにかな? 回収屋? 初めて聞く。

「冒険者が狩った魔獣や獣を、回収して回ってくれる人達がいるのよ」

「へえ~」

「いやもう面倒だから、オスカー達に依頼するか?」

 なんですと!? どうしてここで、オスカーさんの名前が出てくるのかな? 確かに強いとは聞いていたけど、もう引退したのだろう? 『うまいルルンデ』だってあるし。

「あいつらなら、マジックバッグを持ってる。肉は店で出すからいいんじゃねーか?」

「それが一番確実かも知れないね」

 え……オスカーさんはお高いマジックバッグを持っているのか? もしかして、お金持ちなのか? 『うまいルルンデ』の店主は、世を忍ぶ仮の姿なのか? ひだり団扇うちわなのか?

「アハハハ。ロロ、何考えているんだよ?」

「でぃしゃん、おしゅかーしゃんは、おかねもち?」

「どうして?」

「らって、おたかいまじっくばっぐを、もってるのら」

「お店を始める時に頑張って買ったらしいよ。店の定休日に、夫婦で沢山狩ってマジックバッグに入れておくんだって」

「ほぇぇー」

 冷蔵庫代わりということなのか。それにしても、便利じゃないか。うちも、ピカが同じことをしてくれている。ピカに持っていてもらうと、いつでも新鮮だ。

「リア、レオ。お前達も討伐してくれよ。ピカがいるんだからよ」

「分かったわ」

「そうだね、畑まで来られると危険だし」

 そうなのだ。畑に来られると……いやいや、畑には心強い守備隊がいるではないか。

「ぱとろーるしてるから、らいじょぶなのら」

「なんだって?」

「ギルマス、ちょっと待って。リアとレオが討伐した魔獣のボアを見て欲しいんだ」

 ディさんがマジックバッグから、さっき倒したボアを出す。魔獣だからなのかな? 普通とは違うと俺でも分かる体毛をしていた。

「おい、ディ。なんだよこれ。ボアなのか?」

「そうなんだ。大きいからきっと群れのボスだったんだろう。角が生えたばかりだと思うんだ。血が流れた痕がまだあるからね。それよりもこの体毛だよ」

「おう、そうだな。だけどなんだよ、これは。俺はこんな体毛のボアを見たことないぞ」

「僕だってないよ」

 え、エルフのディさんが見たことがないって?

「かたくて、ちゅよかったのら」

「なんだ? ロロも見たのか?」

 そうそう。俺はディさんに抱っこしてもらって高みの見物だったのだ。でもレオ兄の身体をボアの牙が掠っただけで驚いたのなんのって。思わず泣いちゃったくらいなのだもの。

「これはギルドの本部に問い合わせてみる」

「うん、その方が良いよ。しかも森に入ってすぐの場所だったんだ」

 そのボアの牙が掠っただけで、魔力を枯渇状態にして呪いにも掛かってしまうとディさんが説明した。

「なんだと? 魔力の枯渇に呪いだと!?

「だからオスカーさん達に任せる方が良いよ。もし同じような個体がまだいるのだとしたら、普通の冒険者だと怪我だけじゃすまないかも知れない」

「おう。この個体は預かっても良いか?」

 ギルマスがディさんの話を聞いて、とっても深刻なお顔をしている。だから俺も、隣に並んで真似っ子をしてみた。むむむむ、と難しそうなお顔をしてみるのだ。

「アハハハ! ロロったら可愛い」

 ディさんは笑い上戸だ。笑っているけども、俺達の肝心な用事を忘れていないか?

「でぃしゃん、くーちゃん」

 と、やっと思い出した。肝心なクーちゃんの登録を忘れていた。

「ああ、そうだった。ギルマス、またレオで登録して欲しいんだけど」

「おいおい、今度はなんだよ」

「ロロ、クーちゃんだね」

「れおにい、しょうなのら。ボクは、とうろくれきないのら」

「なんだなんだ? 名付けしてんのか?」

「うん、くーちゃん。こーんなおっきいかめしゃん」

 俺は短い両手を目一杯広げて表現した。本当に大きいのだと。

「そんなにデカイのか!?

「霊獣なんだけどね。いや、ロロが名付けたら聖獣に進化したんだ」

「ディ……なんだと?」

 ディさんの一言で、ギルマスのほっぺがヒクヒクと引きった。あれれ? どうしてなのかな?

 またまたやって来た、ギルドの2階。ギルマスの部屋だ。今日もギルドの綺麗なお姉さんが、ジュースを出してくれた。ちょうどお喉が渇いていた。今日は沢山歩いたから。

 ピカとチロもお水を貰って美味しそうに飲んでいる。お喉が渇いていたのだね。

「わふ」

「キュル」

「おちゅかれらね」

「わふわふ」

「うん、しょうらね。たのしみら」

 沢山狩ってきたから、夕ご飯はお肉だね。なんて言っている。森の中をいっぱい走ったらしい。ピカがいてくれてとっても助かるのだよ。ピカさん、ありがとう。ナデナデしよう。

「わふん」

 帰ったらブラッシングして欲しいのだって。クリーンしてから、しっかりブラッシングしてあげようではないか。ピカは大きいから、大変なのだけど。いつもニコ兄と二人がかりだ。

 今日ギルドで解体してもらっている分のお肉は、ピカが収納して持って帰る。俺達の大事な食料だ。それを待っている間に、クーちゃんの登録をしてもらう。それと、忘れてはいけない。ホーンディアの革だ。レオ兄が嬉しそうだから、弓の材量もゲットしてきたのだろう。

「レオ、ギルドカードを出してくれ」

「はい」

 ギルマスがレオ兄のギルドカードを、何かの機械のような物に置く。きっと、魔道具だ。そこに置くと、今のレオ兄のスキルを見ることができる。ピカを登録する時にも同じことをした。

「おいおい、レオ」

 ギルマスもマリーと同じなのかな? 言葉を繰り返すのが癖なのだろうか? よく、おいおいと言っている。それとも、あの年代の人達の中で流行っていたりして。そんな訳はない。

「何? ギルマス」

「お前、鑑定眼が使えんのかよ!?

「え? そういえば、マンドラゴラが分かったな。あれが鑑定眼なのかな?」

「おいおいおいおい!」

「だから、前に僕が言ったじゃない。レオは鑑定眼が使えるようになるよって」

「そりゃそうだけどよぉ。まさか、こんなに早く使えるようになるなんて思わねーじゃねーか!」

 そうなのか? レオ兄は凄いのだ! 俺なんかより、余程チートだ。ふむふむと、頷きながら出して貰ったりんごジュースを飲む。お喉が渇いていたから、とっても美味しくてゴクゴクと飲む。

「ふゅぅ~」

「ロロ、何落ち着いてんだ?」

 え? ギルマス、何で俺なのだ?

「らって、たくしゃんあるいたから」

「そうだね、今日はよく歩いた。ロロ、頑張ったねー。チロと回復もしてくれたしね」

 そうだった。マンドラゴラに、魔力を吸い取られた人達を回復させた。俺、今日は頑張った。

 いつもなら、お昼寝から起きてお庭でのんびり日向ぼっこしているくらいなのに。

「え? ロロも回復したのか?」

「ロロ、回復って何なの?」

「れおにい、ちちんぷいぷいなのら」

「アハハハ!」

 またディさんが爆笑している。自分の太股を叩きながら笑っている。そんなに、可笑しいかな? 超メジャーな言葉なのだよ。笑いながら、ディさんが説明をしてくれた。ディさんが状態異常を回復させて、俺は魔力の枯渇を回復させたのだと。忘れてはいけない。チロも、頑張ってくれた。

「お前達兄弟はとんでもねーな」

 ギルマスが呆れている。俺は、いいことだと思うよ。ギルマスは驚きながらも、手はちゃんとクーちゃんの登録を進めている。これは、できる大人だ。

「その上、聖獣ってなんだよ」

「ロロ、クーちゃんは霊獣じゃなかったの?」

「りあねえ、しんかしたのら」

「ロロが名付けたからかな?」

「しょうなのら」

 ん? どうして、みんな黙っているのかな? 進化は良いことじゃない? 退化しちゃうよりいいと思うもの。

「もう、俺は驚かねーぞ」

 あ、スルーされちゃった。決して驚いて欲しい訳ではないけど。あれは俺も不可抗力だったし。

「で、レオ。どうする?」

「ギルマス、どうするって何を?」

「その聖獣の亀だよ。亀専用の物ってないんだ。チロみたいに尻尾につけるか、ピカみたいに首輪にするかだ」

「そうだなぁ……ロロ、どうする?」

「くーちゃん、おくびをこうらに、ひっこめちゃうのら」

「そうなの?」

「うん、しっぽも」

 亀のクーちゃんは、擬態をする。その時に頭や尻尾だけじゃなく、手足も甲羅の中に入れてしまう。そうして、岩に擬態をするのだ。

「そっか、どうしよう?」

「首輪でいいんじゃない? もうそうそう擬態することもないだろうし」

「でぃしゃん、しょう?」

「そうだよ。だってロロ達のお家にいるんだから、魔獣に狙われることもないだろう?」

「しょっか」

「じゃあ、ギルマス。首輪でいいよ」

「おう」

 ギルマスがレオ兄のギルドカードと書類、そして細長いプレートを魔道具らしき物の上に置いて何か操作した。すると板からふんわりと光が出て、それが収まるといつの間にか細長いプレートが首輪に付いていた。ピカやチロの時と一緒だ。

「これをその亀につけるんだ。ピカとチロの時と同じように、大きさは自動で調節されるからな」

 ふゅぅ~、これで一安心だ。亀のクーちゃんも、俺達の従魔だと証明になる。クーちゃんは、大きいから目立つ。だからまたピカの時みたいに、誰かに狙われたりしないかと心配だった。

 ディさんが、俺の頭を優しく撫でて言ったのだ。

「ロロ、大丈夫だ。もう、あんなことはないよ」

「でぃしゃん、しょう?」

「ああ、そうだ。クーちゃんは目立つから余計だよ。なにより、重いだろう? そう簡単には攫ったりできないよ」

 なら、安心だ。クーちゃんは、『擬態』と『硬化』しかできない。自分で攻撃することができない。俺も攻撃魔法は使えない。使ったことがない。何か特訓する方が良いかなぁ。良い師匠がいるし。

「でぃしゃん、ボクとっくんしゅる」

「え? 特訓?」

「しょうなのら。ボクはこうげきれきないのら」

「ロロがそんなことをする必要ないわ。私が守るわ!」

「姉上、ロロの気持ちだよ。ロロだってみんなを守りたいんだ」

「それは分かっているわ。でも、ロロが攻撃するなんて!」

「まあまあ、リア。ロロが自衛の力を持つことも大切だ」

「そうだけどぉ……」

「りあねえ、らいじょぶなのら。でぃしゃん、おしえてくれる?」

「うん、いいよ。ディさんが直々に教えてあげよう」

「ありがと」

 よしよし、いいぞ。俺もスキルアップする時がやって来た。やる気なのだ。

「もう、ロロったら」

「りあねえ、ボクもまもるのら」

「亀のクーちゃんをでしょう?」

「くーちゃんらけじゃないのら。りあねえや、れおにいもら」

「ロロー!」

 また抱きついてきた。ちゃっかり手は、俺のお腹をフニフニしている。はいはい、分かったのだ。

 それからディさんも一緒に家に帰った。夕ご飯はディさんも一緒だ。最近は毎日一緒で嬉しい。

 そうだ、このルルンデの街に来たばかりの頃は、俺は家から出るのが怖かったことを思い出した。

 1年前のことだ。突然知らない街にやって来て、両親がいなくて寂しかったのもあるけど、なにもかもが怖かった。だから、俺の行動範囲は家の中だけだった。

 そんな俺を、根気よく庭に連れ出したのはマリーだ。それから少しずつ、マリーと一緒に歩いた。そうして行動範囲を広げて行った。

 そんな時に声を掛けてくれたのが、ドルフ爺とセルマ婆さんだ。ドルフ爺は俺を抱っこして、畑に連れ出してくれた。セルマ婆さんは一緒に日向ぼっこをした。

 そのおかげで、少しずつだけど俺は外に出られるようになった。マリーと教会にも行った。そんな矢先に起こったあの事件だった。また、外に出られなくなるんじゃないかと、きっとみんなは思ったはずだ。俺は知らなかったけど、ディさんが傷を治してくれていても服が破れていたりしたらしい。その上、俺は意識がない。それは心配を掛けたのだろう。

 大丈夫だったのは、女神が精神も癒してくれたお陰だ。でないと、きっと恐怖心が残っていただろうと思う。それからだ。ディさんが来てくれるようになった。最初は心配してくれていたのだろう。でも、今はもうディさんも仲間だ。家族じゃないけど、大事なお友達だ。俺はそれがとっても嬉しい。だから、ちょっとスキップを披露してみよう。

「えへへ~、ごはんはなにかなぁ~」

「ロロ、きっとアレだよ」

 そう、レオ兄が言ったアレだ。

 帰ったら家の前で、ご近所のみんなが集まっていた。外に集まって大きな鍋で煮ている。

「おう! 帰ったか!」

「ロロ! ドルフ爺のボア鍋だぞ! マンドラゴラ入りだ!」

 ニコ兄とユーリアが手伝っている。手に大きなお玉を持っている。朝倒したボアだ。それにやっぱり食べちゃうマンドラゴラ。もうボア鍋に入っている。良い匂いがして美味しそうだ。

 ──キュルルル~

「アハハハ、ロロのお腹が鳴っているよ」

「でぃしゃん、おなかがしゅいたのら」

「はいはい、みなさん食べましょう!」

 マリーが仕切っている。『お茶をどうぞ~』の上級バージョンだ。誰もそれには抗えない。俺は特に抵抗なんてできない。

「ロロ、こっち来いよ!」

「にこにい!」

 呼ばれたニコ兄の隣に、トコトコと走って行く。コッコちゃん達も、何が始まるのかと興味津々でみんな集まっている。亀のクーちゃんも、流石にこの騒ぎだと起きている。

「さあさあ、みんなでいただきましょう!」

「いただき!」

「いたらきましゅ」

「沢山食べろよ! いっぱいあるからな!」

 ドルフ爺だ。今日はドルフ爺の奥さんの、セルマ婆さんも一緒だ。それに、ドルフ爺の息子夫婦と孫もいる。

「ここに来てない家にも、ボアの肉をお裾分けしたんだ。近所全部に配ったんだぞ」

「大きなボアだったからね」

「れおにい、おおきいの?」

「うん、あのボアは獣にしては大きいよ」

「ひょぉ~」

 よく、雛とプチゴーレムで足止めしていたものだ。あんなに小さいのに。

 みんなはボア鍋をつついているのに、ディさんはシャクシャクといつものように特盛サラダを食べている。サラダは外せないらしい。

「でぃしゃん、おいしいのら。たべないの?」

「食べるよー。先にサラダを食べるんだ」

 ほう。まあ、いいや。ボア肉から出汁が出て、マンドラゴラが良い感じに煮込まれている。魔物とは思えない美味しさだ。コッコちゃんファミリーが、お野菜を沢山貰って食べている。亀のクーちゃんもだ。ピカとチロはボア鍋のお肉を貰って食べている。チロは、少し大きくなってないか?

「ちろ、おっきくなった?」

「ロロ、そうか?」

「うん。かいふくまほうも、しゅっごく、ちゅかえるようになった。きょうはちろも、だいかちゅやくらったのら」

「アハハハ、そうだねー」

「いつも寝てるのにな」

 ニコ兄、今それを言っては駄目だ。確かにいつも寝ているけど。

「あ、そうだ。ニコ、ロロ。明後日あさつてギルドのランクアップの試験なんだ。それが終わったらお墓参りに行くよ。やっと馬車を借りられそうなんだ」

「みんなで行くのかしら? ロロちゃんはまだちびっ子なのに、大丈夫かしら?」

 セルマ婆さんが心配してくれている。ちょっぴりおっとりとしたお婆さん。ドルフ爺さんは賑やかでせっかちなのに。日向ぼっこ友達だから、俺の話の中に出てきたことはある。でも、ご本人の登場は初めてだ。俺を孫のように可愛がってくれる、とっても優しいお婆さんだ。

 今もニコ兄と一緒に、俺の世話を焼いてくれている。俺が食べやすいようにお肉を小さく切ってくれたり、俺のほっぺを拭いてくれたり。コッコちゃんも懐いている。一緒に日向ぼっこしているから。

「らいじょぶら。ボクもいきたいのら」

「そうよね、ご両親のお墓参りですもの。でも、ロロちゃんがいないと寂しいわねぇ」

「ちょっとの、あいららけら」

「そうね、待っているわ。ちゃんと無事に帰って来てね」

「うん」

 この、おっとりとした雰囲気が安心する。何度も言うようだけど、ドルフ爺さんは賑やかでせっかちだから。

わしがコッコちゃんの世話をしとくぞ」

「うん、ドルフ爺頼んだよ。クーちゃんも頼むよ」

「おう! ニコ、任せとけ!」

 と、そこに物言いがついた。大人しくお野菜を食べていると思っていたのに、聞いていたのだね。俺達の前に整列している。こんな時は、とっても行動が早い。

「ピヨッ!」

「ピヨピヨ!」

「ククッ!」

 そう、フォーちゃん、リーちゃん、コーちゃんだ。自分達も行くピヨね! どこに行くピヨか!? 付いて行くピヨよ! と、訴えている。既に親コッコちゃんは諦めモードになっている。あの子達にはお手上げだと、諦めて遠い目をしている。むしろ、よろしく頼むといったスタンスだ。

「ロロ、どうする?」

「えー、おるしゅばんれきない?」

「ピヨヨ!」

「ピヨ!」

「クック!」

 どうしてピヨか!? 守るピヨね! 役に立つピヨよ! なんて口々にアピールしている。ああ、もう仕方がない。

「おりこうにれきる?」

「ピヨヨッ!」

 いつもお利口ピヨね! だって。自信満々に言っちゃってる。でも、親コッコちゃんは心配しているよ? 君達を統率できるような、雛まで産み出そうとしているのだよ。

「まあ、いいんじゃない? プチゴーレムもいるんだし」

「え……?」

 ディさんが今、大変なことを言った。俺は、プチゴーレム達を連れて行くつもりはないぞ?

「ロロ、あの子達はロロの魔力が必要なんだよ?」

「あ、わしゅれてたのら」

「わふん」

 魔力はあげてほしいと、ピカにも言われちゃった。待てよ……なら、結構な大所帯になっちゃわないか? だってマリー一家も一緒だ。息子さん夫婦のお墓参りも兼ねている。それに、雛3羽とプチゴーレム5体も一緒なのか?

「完璧じゃない、ロロ」

「えー」

「アハハハ!」

 どう考えても多い。多すぎる。亀さんのクーちゃんは、何も言わないけどいいのかな?

「あたしはぁ、お留守番しているわよーぅ」

「しょうなの?」

「そうなのよーぅ」

 進化して聖獣になったらしいけど、相変わらずのんびりとしたクーちゃんだ。でも、良かった。クーちゃんは大きいし重い。移動するのも遅いし、沢山食べる。それは、連れて行くのも大変だ。

「大所帯だねー。ディさんはコッコちゃん達とお利口に待っているよ」

 いやいや、ディさん。大人なのだから、お利口とかではない。

「ちょうど孤児院の、コッコちゃん達のことがあるんだよ」

 みんなで増やしていた雛のことだ。まだ全然増えていない。だって数日しか経っていないから。

 でも、今後どんどん増やす予定だ。そして、卵を売る。それを孤児院の資金にする。街にいるストリートチルドレンの、働く場所と住む場所を提供できる。お勉強もだ。

 その予定で計画は進んでいるらしくて、孤児院の裏にコッコちゃん達の小屋を造るのだそうだ。

「ちょうど、空いたんだ。住んでいた人が引っ越して、空き家になったからリフォームするんだ」

 どんどん、大きなことになっている。まずは、ルルンデの名物にするのだ。

 ルルンデに来れば、コッコちゃんの卵が食べられるぞ。みたいな感じだ。

 ストリートチルドレンを保護できたら、次は街の子供達だ。教育をしたい。家計の足しになるようにもしたい。子供達を育てるということは、街の未来を切り開くことにもなる。子供達に教育を施す。その子供達の子供は当然、教育を受けるようになる。そうして、生活の基盤を底上げするのが目的だ。それはきっと、ルルンデの街を豊かにするはずだ。

 大変なことなのだけど、それをディさんはやろうとしている。

「だからコッコちゃん、僕が卵を温めるのは帰って来てからでもいいかな?」

「コケッ!?

「ククク」

 レオ兄がそう言うと、仕方ない。と、渋々納得している。親コッコちゃんは最近大人しい。いや、違った。フォーちゃん、リーちゃん、コーちゃんが目立ち過ぎてとにかく元気だ。まだ雛なのに走り回っている。プチゴーレム達と一緒に畑を爆走していたりする。あの細くて短い足で、よくあれだけ走れると感心してしまう。

「げんきらね」

「コッコッコ」

「あらら」

 もう、自分達の手には負えないと遠い目をしている。でも、元気が一番なのだよ。

「コッコ」

「しょうらね」

 元気で育っているのはとても嬉しい。と言っている。親心だね。

「ディさん、ランクアップの試験って何するの?」

「リアは剣だよね?」

「はい」

「剣ならギルマスが相手をするんじゃないかな?」

「え……?」

 なんですと? ギルマスが相手をするですと?

「だから、ギルマスだよ。ギルマスと対戦するんだ」

「ええッ!? そんなの敵う訳ないじゃない!」

「アハハハ。そうだよねー」

「ディさん、笑い事じゃないですー!」

「アハハハ!」

 ディさんは楽しそうに笑っている。なのに、リア姉は見るからに肩を落としている。

「ダメだわ、私、落ちたわ」

 そんなことはない。頑張って欲しいのだ。だって、そのギルマスが大丈夫だと言っていたのだぞ。

「リア、別に勝たないといけない訳じゃないよ。ギルマスが相手をして技量を見極めるんだ」

「え、じゃあ槍は誰なんですか?」

「槍だと、オスカーさんじゃない?」

「え? オスカーさんは引退したって」

「そう言っているだけだよー」

「そんなー!」

 オスカーさんは『うまいルルンデ』のご主人だ。とっても強いらしい。ガチムチだし、イカツイし。ふむふむ、これは二人とも頑張らないといけないな。

「オスカーさんはCランクだよ。レオ達とそう変わらないさ」

「そんなことないです。毎日活動している僕達がやっとCランクに上がるための試験なんですよ。オスカーさんは毎日活動していないのに、Cランクを維持しているんだ。そんなの敵わないよ」

「弓なら僕なんだけどね」

「えぇー、ディさんは余計に駄目な気がするんだけど」

 おやおや、レオ兄まで弱気じゃないか。これはいかん。俺が一言言ってあげよう。両手を腰にあて、ちょっぴり偉そうに言ってみよう。

「りあねえ、れおにい、きもちれまけたららめ」

 オマケに、短いプクプクとした人差し指を立てて、フリフリしてあげようではないか。

「らめ。がんばるのら」

「アハハハ! ロロの言う通りだよ」

「らってしょうなのら」

「そうだね、ロロはお利口さんだ」

 ディさんに頭を撫でられた。優しい手だ。ディさんと数日会えないのは、ちょっぴり寂しい。

 今日はとても長い1日だった。朝早くから、ボア騒ぎだ。午後からはギルドに行く途中でマンドラゴラを見つけた。どっちも、もうみんなのお腹の中だ。

 ディさんやチロと一緒に回復もした。森では大きな魔獣のボアが出て、レオ兄が怪我をしてびっくりした。クーちゃんを無事登録して、ギルマスにもらった首輪はクーちゃんが着けている。とってもお似合いだ。ああ、そうだ。クーちゃんが進化して聖獣になった。

 レオ兄も鑑定眼が使えるようになっていた。凄いことなのだ。

 俺は……とっても……心がポカポカする1日だったなぁ……ふぁ~……。

「ああ、ロロがもう眠りそうだ」

「今日は頑張ってくれたからね」

「ロロ、家に入ろう。もう眠いだろう?」

「ん……れおにい。ポカポカなのら……」

「アハハハ、何のことだか分からないや。ほら、抱っこするよ」

「うん……ふぁぁ~……」

「ロロ、また明日ねー」

 ディさんだ。明日も来てくれるのか。嬉しいなぁ……。

「おやしゅみー」

 俺は、レオ兄に抱っこされてベッドへ。今日は良い夢を見られそうだ。