リア姉が俺を、ひょいと抱き上げた。

「ロロは父様と母様の大事な末っ子なのよ。私達の可愛い弟よ」

「りあねえ……」

 良い話をしているみたいだけど、手はしっかり俺のお腹をモミモミしている。

 俺の頭の天辺をスーハーと嗅いでいるだろう。バレているぞ。

「りあねえ、やめれ」

「もう、ロロったら冷たいんだからぁ」

 これが無かったら良い姉なのに。

「ロロは、まだ赤ちゃんの時の匂いが残っているから、姉上はそれが恋しいんだよ」

「ボクは、もうあかちゃんじゃないのら」

「そうだね、大きくなった」

「本当よ」

「それでもロロは可愛いよー!」

 今度はディさんが抱きついてきた。止めてくれ。

「あらあら、中でお茶をどうぞ」

 出た。マリーの得意技だ。「お茶をどうぞ」の一言で、その場を仕切ってしまう。みんなマリーの言う通りにしてしまう。

「まりー、ボクはじゅーしゅがいいのら」

「はいはい、りんごジュースでいいですか?」

「うん」

「わふッ」

「キュル」

「あらあら、ピカとチロもですね」

 もうマリーは、雰囲気で分かるようになっている。これは、あれだね。話せないけど、ペットが訴えていることは分かるのと同じだ。

「コケコ」

「ククッ」

「え、れおにいなの?」

 コッコちゃんが、レオ兄の足元にやってきて訴えている。

「ロロ、コッコちゃんは僕に何を言っているの?」

「れおにい、こっこちゃんが、れおにいにたまごを、あたためてほしいって」

「僕に?」

 みんなでお茶をしてまったりとしていた時だ。コッコちゃんの代表2羽がやってきて俺にそう言った。多分、いつもよく話してくる子達だ。レオ兄に卵を温めて孵して欲しいと訴えている。

「ろうして、れおにいなのら?」

「コッコッコ」

「クククッ」

 コッコちゃんが言うには、オレンジ色した雛達を統率するリーダーが欲しいらしい。そのために、是非ともレオ兄に孵して欲しいのだと。

 目的は分かった。気持ちはよく分かる。だけど、それは何故レオ兄なのだ?

「ボクじゃらめなの?」

「コッコォ」

「クックゥ」

 あらら、酷いぞ。俺が温めると、またやんちゃなオレンジ色の雛が生まれるというのだ。確かにそうだろうけども。嫌なのか? 駄目なのか? オレンジ色の雛達だって可愛いではないか。

「コケ」

「クク」

「あー、らってむいしきなのら」

「コッコ」

「クック」

「わかったのら」

 オレンジ色の雛だって可愛い。それは当然らしい。でも、なにしろ身体能力が親鳥よりも高い。

 今日だって、いつの間にかボアの上に乗って蹴りを入れていた。

 だから、これからが不安なのだそうだ。また勝手に暴走しないかと心配している。レオ兄の魔力なら、きっとみんなを統率できる雛が生まれてくるはずだという。何故ならレオ兄も魔力が多いし何より性格がそうだから。ならオレンジ色した雛達は、俺の性格が反映されているとでも言うのか? そんなことはないだろう。俺は決して肉体派ではないし、イケイケでもない。

 でも、コッコちゃんなりに色々と考えているのだね。親心とでも言うのだろうか。

「コッコちゃん、僕は昼間は家にはいないんだ。姉上と一緒に冒険者として活動しているからね。だから温めるのは無理だよ」

「コケッ!?

「クック!?

 コッコちゃん達は、なんだって!? 知らなかった! と、驚いている。道理で毎日昼間はいないはずだと。そりゃ知らないだろう。だってコッコちゃんなのだから。

「コケッコッコ」

「クックック」

「えー、しょう?」

「コッコ」

「クク」

「ロロ、コッコちゃんは何て言っているの?」

 俺はレオ兄に説明した。卵はそんなに簡単に割れたりはしない。だから布を巻いてバッグにでも入れて、持って行ってくれたら大丈夫だと。そこまでしても、レオ兄に温めて欲しいのか?

 俺はちょびっとショックなのだよ。俺が一番コッコちゃんと一緒にいるのに。

 卵が、いくらそう簡単には割れないと言っても、レオ兄は冒険者だ。ずっと卵を入れたバッグを持っているというのも無理があるのではないか? コッコちゃんの卵は大きいし、邪魔だろう?

「本当に割れないのかな?」

「クック」

「らいじょぶらって」

「んー、でもなぁ……じゃあこうしよう。朝と夜は僕が温める。昼間だけロロが温める。それじゃ駄目かな?」

 え? そんなに簡単に決めてもいいのか? レオ兄、俺が参加しちゃってもいいのか?

「それでも良いなら温めるよ」

「コッコ」

「クック」

「れおにい、しょれれいいって」

「そう? ならそうしよう」

 なんだか納得できないなぁ。俺が温めると、確かにオレンジ色の超元気な雛達が生まれちゃうけど。コッコちゃん、仕方がないって感じじゃないか?

「クク」

「コケ」

「ほんと?」

「コッコ」

「クック」

「じゃあいいのら」

 コッコちゃんは、進化させてくれたのだから感謝していると言ってくれた。それに身体能力も必要だと。ふふふん、ならいいや。俺は、元気過ぎる雛達が生まれて、迷惑を掛けているのかと思っちゃったのだ。

「ロロ、コッコちゃんは何て言ってるんだい?」

「でぃしゃん、こっこちゃんを、しんかしゃしぇてくれたから、かんしゃしてるって」

「そうだよね。今迄ずっと進化できなかったんだから」

 そうそう、とっても弱いから。

「コケコ」

「クク」

「わかってるのら」

 コッコちゃん達は、進化する前に食べられちゃうから仕方ないと言っている。それはそれで、可哀想だ。森の生存競争は過酷なのだね。

 今度は、レオ兄と俺が温めるのだよ。統率力もあって元気な雛が孵りそうだ。最強じゃないか?

 リア姉とレオ兄は、ギルドに行くといって出掛けて行った。午後から、なんとかディアを狩りたいからと、今日はピカも付いて行った。

「でぃしゃん、なんとかでぃあ」

「ホーンディアだね」

「しょう、しょれ。ちゅよいの?」

「魔獣だからね。立派な角が左右に2本ずつあるんだ。コッコちゃんみたいに弱くはないよ」

「しょっか」

「遠距離でも、雷の魔法を使ってくるんだ。だから強いよ。それに走るのが速いんだ」

 魔法を使うし、逃げ足も速いのか。コッコちゃんも逃げ足だけは速かった。

「崖みたいに足場が悪かったとしても、ヒョイヒョイ走って逃げるんだ」

「あー、ちゅかまえられる?」

「レオの弓次第じゃないかな?」

 今日こそは仕留めるとかリア姉が言っていたけど、レオ兄の弓頼りなのか。なるほど、なるほど。

「レオが話していた木があるだろう? あれも良い枝を狙って伐採してくるんじゃないかな? 高く売れるからね」

「ひょぉ~」

「ピカを連れて行ったから、ホーンディアが駄目でも何か狩ってくるだろうね」

 そうだ、ピカは収納してくれる。きっと、沢山狩ってくるつもりなのだろう。良い稼ぎになる。

 俺達は、暫くお肉を食べられる。一石二鳥だ。

「ぐふふ」

「ロロ、何だい?」

「ろんなおにくなのか、たのしみなのら」

「アハハハ。ロロは食い気なんだね」

 だって俺はまだ剣帯も必要ないし、弓だって使えない。まだちびっ子だから。俺はまだみんなに守られている。本当は俺だって、みんなを守りたい。でも、力がない。焦れったいし悔しいのだ。

「今のロロにできることをすれば良いんだよ」

 今の俺にかぁ……よし。頑張って刺繡するぞ。リア姉とレオ兄の、おリボンをバージョンアップさせるのだ計画だ。

「僕のも忘れないでね」

「ちゃんと、しゅこしじゅつやってるのら」

「そうなの?」

「しょうなのら。できるまれ、ないしょなのら」

「楽しみだな~」

 ディさんに頼まれたのは俺の大作だ。緑だけでこんなに何色も使ったのは初めてだ。

 いつもディさんが来るまで、チクチクと刺繡をしている。まだマリーに教わることもあるから。

「マリーさん、今日の午後はロロがお昼寝から起きたら、一緒にギルドへ行ってくるよ」

「あらあら、そうなんですか?」

「でぃしゃん、ぎるどにいくの?」

「そうだよ。亀さんを登録しないとね」

 ああ、そっか。大きな亀さん。ほとんど一日中眠っている。昼間は家の軒下で、夜は柵の中でコッコちゃんに埋もれてスピーッと熟睡している。亀さんの寝息で近くの草が揺れている。どんだけ熟睡しているのか。これでよく森で生きてこられたよ。

「きっと、安全だから安心しているんだよ」

「しょう?」

「うん。もうお年だしね」

 霊獣だという亀さん。一体何年生きているのだろう? あの甲羅、とても綺麗だ。見方によってはゴールドにも見える。なんだか、少し神々しいぞ。なのに、あの寝息だ。

「ねえ、ロロ。亀さんにお名前はつけてあげないの?」

「えぇー、かめしゃんにぃ?」

「そうだよ。付けてあげたら?」

 そんなことをして、またペカーッて光っちゃったらどうするの?

 ディさんが、ニッコニコしている。これは確信犯だな。面白がっているだろう?

「でぃしゃん、ぺかーって、ひかったらろうしゅんの?」

「ん? いいじゃないか!」

 いいのかよッ! 分かりやすく確信犯だ。

「ん~……かめしゃん……かめしゃん……」

 とにかく、何かないかと考えてみる。プクプクの指を顎の下に持っていき、ちょっぴり博士のような感じをかもし出してみよう。そう言えば……霊亀と聞いて思い浮かぶのが玄武だ。でも、それはちょっとお婆さんの亀さんには似合わないかな? 他にないかな? 神話に出てくる亀さんがいたぞ。確か……

「くーるま……らっけ? くーちゃん」

 俺がそう言うと、亀さんがペカーッと光っちゃった。それだけじゃない。なんだか色も少し変わったように見える。金色が濃くなった。当の亀さんは、全く気付かずにスピーッと眠っている。

「ほらぁ、でぃしゃん」

「アハハハ、光っちゃったね。でも、ちょっと待ってよ。色が変わったような? もしかして……」

 ディさんはまた亀さんをじっと見ている。なんだか、ちょびっと居心地が悪い。俺、もしかしてまたやっちゃったのか? でも、名前を付けてと言ったのはディさんだし。

「フゥ~、ロロ……亀さんは霊獣だったんだ」

 ん……? だった? 過去形?

「さっき光っただけじゃなくて、甲羅の色も変わっただろう? それでね、精霊眼で見てみたら聖獣に進化したみたいだ」

「せ……?」

「聖獣。ピカとチロは神獣。その次が聖獣だね」

「しょのちゅぎは?」

「亀さんがそうだった、霊獣だよ。ロロが名前をつけたことで進化したんだ」

「おぉ……」

 ほお~、そんなことがあるのだね。それはまた、凄いのだ。

「いやいや、ロロ! 僕は何百年と生きて来たけど、こんなことは初めてだよ!」

 え……やっぱディさんって何百歳なのか。本当は超お爺さんなのか?

「いやいやいや、ロロ。そこじゃない!」

「かめしゃん、ちょっぴりえらくなった」

「んん~、簡単に言えばそうかな」

「しゅごいねー」

「アハハハ! もう、さすがロロだよ!」

 ディさんに、高い高いをされてクルクルと回られてしまった。ちょっぴり、驚いちゃった。高い高いなんて、もうされる歳じゃない。その上クルクル回られると、思わず『とおッ』とパンチしちゃいそうになっちゃった。いかんいかん。それは俺じゃない。

 でも、神獣のピカやチロはテイムできないのだろう? 霊獣の亀さんはできちゃうのか? その上、進化しちゃったのか? それって、どうなのだ?

 もしもーし、駄女神さーん。見ているかな? こんなことで、良いのか?

「格の違いだよ。ロロなら、もしかしたらできるかもって思ったんだ。だってロロは山盛りの加護を持っているからね」

 そうかよ、山盛りなのか。こうなったら、いくらでも来いだ。慣れっこになっちゃった。

「で? お名前は何だって?」

「くーちゃん」

「クーちゃんかぁ。可愛いねー」

 俺の名付けのセンスってどうなの? 自分でも思うよ。だって、フォリコッコだから、フォーちゃん、リーちゃん、コーちゃん。亀さんは、クーちゃん。

 クーちゃんはね、なんとか神話に出てくるクールマて亀さんから貰った。これでも一応、ちゃんと考えたのだ。だって、いくらなんでも亀さんだからと『かーちゃん』は可哀想だろう。

 そうなると、当然黙っていないのが土人形……いや、プチゴーレム達だ。いつの間にか、俺の前で横一列に並んで尻尾をブンブンと振りながらおすわりしている。とっても期待の眼差しで見られている気がする。目がキラキラしているぞぅ。

「ほら、ロロ。待ってるよ」

「えぇー、でぃしゃん。らっていちゅちゅもらよ」

「そうだねー」

 無理。凝った名前なんて絶対に無理だ。だから悪いけどさ。

「いっちー、にっちー、さっちー、よっちー、ごっちー」

 プチゴーレム達が、次々とペカーッと光った。うむ、満足なのだ。ふふふん。

「アハハハ! 数じゃない!?

「もうむりなのら」

「可愛いからいいよー!」

 プチゴーレム達は、嬉しそうに尻尾をブンブンと振っている。そして満足したらしくて、畑へ走って行った。またパトロールしてくれるのだろう。うちの子達は、みんなお利口さんだ。

 亀さんはまだ寝ている。寝ている間に、お名前が決まっちゃったよ。しかも進化しちゃった。いいのかな? そこへ遠慮気味に顔を出したのが、小さなピンク色の雛だ。コッコちゃん達の柵から、お顔だけ遠慮気味に出してこっちを見ている。

「ピピ」

 羨ましそうだ。なんだか、ちょっぴりびんだ。この子は大人しいし、将来的に回復魔法を覚えるのだろう? 一羽だけピンク色だ。なのに、存在感が薄い。だって、フォーちゃん達3羽の存在感が強すぎるから。

「あー、ロロ。あの雛にも付けてあげたら?」

 そうなるよな。そりゃそうだ。でも、この子は簡単に思いついた。

「ちろがあたためたから、ちーちゃん」

 俺がそう言うと、ピンク色した雛がペカーッと光った。よしよし、いい子だぞぅ。

「ピヨ」

「アハハハ、チーちゃんかぁ。うん、可愛いね」

 もういないよな? もう俺は無理だぞ。

 それから、ディさんとマリーと一緒にお昼ごはんを食べてお昼寝をした。今日は早朝出勤だったからか、ディさんも一緒にお昼寝だ。ディさんは一緒にお昼寝する時、いつも自分の腕の中に囲うようにふんわりと、でもぴったりと俺の体を抱き寄せてくれる。その時に、ディさんの鼓動が聞こえる。規則的で力強い鼓動が。

 それがとても心地よくて安心する。まるで父さまみたいだ……と、思ってしまう。



「ロロは凄いのですですーッ!」

 ですですって何だよ、大声でそんなことを言いながら、また走って抱きつこうとしてくる女神。ああ、俺はまた呼ばれたらしい。せっかく気持ち良く眠っていたのに。