みんなで家に戻ると、家の前にマリーとディさんがいた。
今日はディさん早いのだね。早朝出勤だ。
「ロロ坊ちゃま、ニコ坊ちゃま、無事ですか!?」
「マリー、平気だよ!」
ニコ兄が手を振っている。するとディさんが、眼球が飛び出てしまうくらいに目を見開き、びっくり顔をしたかと思ったら、ビュンッと飛ぶように走って来た。シュンッと小さな風が起こっていなかったか?
「ロロ!」
ニコ兄と手を繫いで、トコトコと歩いていた俺の両肩をガシィッと捕まえられた。これって前にもあったぞ。
「ロロ! どうなってんの!?」
「ちゅよいのら」
「いやいや、そうじゃなくて!」
「アハハハ! ロロ、ディさんは雛と土人形のことを言ってんだよ」
だってそうだろう? この子達がボアを足止めしていた。ピカが止めを刺したけど、そうじゃなくても倒していたかも知れない。
「とっても、ちゅよいのら」
また俺が、そう言いながら小さな土人形を指さす。
それを見たディさんは、今度は、あんぐりと口を開けて驚いている。
ディさんのあんな顔は初めて見た。ぷぷぷ、イケメンでもあんなに驚いた顔をするのだね。
「ロロ! 今度は何したの!?」
「えぇー」
何もしていないのだ。俺はただ、ご機嫌で土人形を作っただけだ。コネコネペッタンペッタンして……おやおや? もしかして、俺が無意識で魔力を込めていたのか? そういうことなのか?
「わふ」
ピカがそうだと言った。気付いていたのなら、言ってくれれば良いのに。ピカさんよぅ。
「わふわふ」
「え、しょんなことないのら」
「わふん」
でも、役に立ったから良かったね~。なんて吞気な答えが返ってきた。ピカさんはいつもそんな感じだ。最近は心配性だけど、俺のすることは大抵のんびりと見ている。そんな感じだったね。
「ロロ、ピカは何て?」
「ボクがまりょくをながしながら、ちゅちにんぎょうをちゅくったって。やくにたってよかったね~って」
「アハハハハ! そうなの!? そりゃ良かった!」
また、ディさんが大爆笑している。本当に、笑い上戸だ。俺とニコ兄は朝ごはんの続きを食べた。冷めちゃったけど美味しかった。電子レンジで、チンとかできないから不便だ。ディさんも一緒に特盛サラダを食べていた。
やっと朝食も終わり、ディさんの検証の時間だ。ディさんの前に、横一列に整列している小さな土人形。我ながら、なかなか良くできている。
そして、ついでにオレンジ色した雛達3羽も堂々と胸を張って並んでいる。可愛いぞぅ。
「ふむふむ」
「ロロ、なんだ?」
「にこにい、なかなかかわいいのら」
「なんだよ、自分で作っておいて。これ、ピカだよな?」
「ぴかのころもなのら。かわいいのら」
「分かったって。アハハハ。じゃあ、俺は畑に行くよ。ユーリア、行こう」
「ああ、待ってユーリア。お弁当」
「おばあちゃん、有難う」
「いってらっしゃい」
「マリー、行ってくる!」
「行ってきます!」
今日も元気に出掛けて行った。俺はニコ兄とユーリアを、手をフリフリしながら見送る。
リア姉とレオ兄はまだ戻って来ない。何してるのかなぁ? まだ、ドルフ爺とボアのところにいるのかな? その間もディさんは、土人形を1体ずつ手に取って見ている。横から見たり、下から見たり、ずっと精霊眼で見ている。そして、土人形の頭を撫でて褒めてくれている。
「君達が倒してくれたんだね。有難う」
と、声を掛けながらだ。土人形はみんな短い尻尾を振っている。舌を出してヘッヘッヘッと息をしている。ディさんに褒めてもらって嬉しいみたいだ。まるで、本物のワンちゃんだ。俺はお口の中まで作っていないのに、どうなっているのだろう? 見てみたい。
「ぴかのころもらよ」
「わふッ!?」
ピカさん、どうしてそこで驚くのかな? だってピカを模しているのだから、立派なピカの子供じゃないか。嫌なのかな?
「じゃあ、ぴかのこぶんなのら」
「わふん」
それなら納得できるんだって。土人形達のボスはピカに決定だ。
「で、ロロ。君はいつの間にゴーレムなんて、作れるようになったのかな?」
お、ちょっぴりディさんの笑顔が怖いぞぅ。
俺がディさんに迫られていると、すぐそこでコッコちゃん達が騒いでいた。どうした?
「コケッ」
「コッコッコッ」
「クックッ」
見てみると、大人のコッコちゃん達の前に例のオレンジ色した雛3羽が並んでいる。さっきは自慢気に胸を張っていたのに、今度は小さな体をより小さくしている。
あらら、叱られているらしい。それは仕方がない。コッコちゃん達は、心配しているのだよ。
危ないのにあんなことをして。まだ小さいのだから。と、お説教だ。
「ロロ、どうしたのかな?」
「おれんじいろのひな」
「うん、その子達は……もしかしてお説教されているのかな?」
「しょうなのら。ぼあに、きっくしてたから」
へへんと少し自慢気に言ってみた。
「ハァ~、もうどうなってるの? ロロ、全部話してくれる?」
俺は最初から話した。ピカが最初に異変に気付いた。それからみんなで見に行った。そしたら、もうボアの上にオレンジの雛達が乗ってキックしていた。土人形達も走りながらキックしていたと。最終的にはピカが魔法で倒したのだと話をした。
「ピカは強いね」
「うん、しゅっごくちゅよいのら」
「わふん」
ロロを守るためだよと言ってくれている。ありがと。首筋を撫でてあげよう。ワシワシと。
「雛の次はゴーレムかぁ」
ん? ゴーレム? さっきもそう言っていた。俺の土人形のことかな? ピカを撫でる手を思わず止めて聞いた。
「でぃしゃん、ごーれむ?」
「そうだよ。あれは立派なゴーレムだ。ロロの魔力で動いているんだ。小さいから、プチゴーレムかな? アハハハ」
ピカもそう言っていた。俺の魔力なのか。魔力なんて込めたつもりはないのに。もしかして、俺はまだディさんがよく話している『魔力操作』が全然できていないのかな?
だから、コッコちゃんの雛もオレンジ色で強くて、土人形も動いてしまうのだろうか?
むむむ、と腕を組んで考え込む。お目々が寄ってしまうのだ。
「わふッ?」
ピカまで隣で首をコテンと傾けている。
ピカさん、尻尾をワフワフと動かすのはやめてほしい。首筋に当たってくすぐったい。
「ロロ、何考えているの?」
「でぃしゃん、らってボクはポカポカぐるぐるしてるのら。れも、らめなの?」
「そんなことないよ。ロロはゴーレムを作る時や、卵を温める時に何を考えていたか覚えているかな? 温めながら何を思っていた?」
「げんきに、うまれてくるんらよって」
「そうだね、とっても元気な雛が生まれてきたよね」
え……?
「で、ゴーレムの時は?」
「ちっちゃいぴからよって」
「うん、ちっちゃくて立派なピカの子分だね」
えぇ……!?
な、なんと……そういうことなのか? ちょっと違うぞ。斜め上を行き過ぎだ。
「アハハハ。なんて楽しいんだろう」
いやいや、楽しくはない。でも、まあ……悪いことではない……よね?
ディさんが、プチゴーレム達とオレンジ色した雛達を見て、微笑みながら言った。
「うん、いいことだ」
そうだ、良いことだ。ピカの子分で畑をパトロールしてくれている。安心じゃないか。土人形もとい、プチゴーレム。フォーちゃん、リーちゃん、コーちゃんも頼りになる。元気で良いのだ。
「ロロ、それだけじゃないだろう?」
え? 俺は本当に、もう何もしていないよ。分からないなぁと、コテンと小首を傾けた。
「オレンジ色の雛達だよ。ハイコッコちゃんて何なの?」
「あ……」
そうだった。女神が話していた。進化したのだった。
「もしかして進化させちゃったのかな?」
「うん、しょうみたいなのら」
「アハハハ! 凄いや!」
ディさん、大ウケだ。お腹を抱えて爆笑している。何故に?
「コッコちゃんは弱いから進化なんてできなかったんだよ。なのに凄いよ! これは新発見だね! ギルマスに報告しなきゃ」
そんなになのか? あんまり大事にはしたくないなぁ。
「ロロ、またオレンジ色の雛を孵してよ」
「えぇー」
「だって、進化したのが3羽だけなんて寂しいじゃない。生き残って増えてほしくない?」
「んー、しょうかも」
「なら、もっと数を増やしてよ」
「んー、かんがえとくのら」
「え? 乗り気じゃないの? どうして?」
だってなぁ。偶然生まれたオレンジ色の雛達だ。だから、温める時にどれくらい魔力を与えたのか、そんなことを全然覚えていないから。
「ロロ、何を考えていたのかもう一度思い出してみて」
「えっとぉ……げんきに、うまれてくるんらよって」
「そう。それでいいんだよ」
そうなのか? そんなことでいいならやるよ。
ハイコッコちゃんが、この世界にたった3羽だけなのも確かに寂しい。
「あれ? ディさん来ていたんですか?」
リア姉とレオ兄が戻って来た。ボアの解体が終わったらしい。
「おはよう、朝から楽しいものを見せてもらったよ」
「アハハハ、ロロですね」
「才能が溢れ出しているね。ロロは元々土属性魔法に適性があったんだ。それに、ハンカチやリボンのことといい、ロロは付与魔法に秀でているのかも」
「ふふふ、ロロはそんなこと思っていないと思うわ」
「リア、君はもっと魔力操作を練習しなよ」
あらあら、また言われちゃった。だから、一緒に練習しようと言っていたのに。
「分かってますぅ~」
そんな、口を尖らせても可愛くはない。ツンデレさんじゃあるまいし。
「ロロ……」
「りあねえ、なにもおもってないのら」
「そう?」
ふゅ~、危なかった。顔に出ちゃっていた。
「二人は今からどうするの?」
「ギルドに行きますよ。報告しないと」
「そうだね、頼めるかな?」
「はい」
「ねえ、レオ。今日は報告してから森に行かない?」
「姉上、ホーンディアだろう?」
「そうよ。今日こそは仕留めてやるわ!」
何かな? ほーん……ん?
「ロロ、ホーンディアって言ってね。左右に2本ずつ角がある鹿の魔獣なんだ」
「ひょぉー!」
「お肉も美味しいわよ」
「おにくッ!」
「アハハハ。リアは何故そのホーンディアを狙っているんだい?」
「はい、剣帯を作ってもらうんです」
「ああ、前に言っていたね。魔魚を売ったお金で足らなかったの?」
「いえ、充分なんですけど。姉上の拘りなんですよ」
「別にいいじゃないぃ」
リア姉がその鹿の魔獣に拘っている理由だ。今使っている剣帯は父さまから貰った物だ。それと同じ革で作りたいと拘っているのだ。
ホーンディアの革は、水に強く、伸縮性、通気性に優れた特性を持ち劣化しにくい。その上、滑らかで軽いという一級品だ。
「同じ物で作ってもらおうと思ったら、革がないって言われちゃって」
「ああ、だから狩るのか」
「はい」
「僕の弓も作ってもらうんです」
レオ兄が、いつも背中に背負って持って行っている弓を持ち出してディさんに見せた。
「へぇ~、この弓も良い物だね」
「この弓も父に貰ったんです。だから僕も同じ材質でと思って」
「この材質はもしかして……」
「はい、ララマニの木です」
「それは良い物だ」
近くにある森の奥、暗い場所に生えていると言われる木だ。暗い場所で育つからなかなか育たない。その所為で年輪が詰まった良材となるのだそうだ。その年輪の幅が狭く、
弓の材に最適なものとしてよく知られている。
「最近、冒険者になってから買った物を使っていたのですが、どうも手にしっくりこなくて。だから僕も同じ材質の弓が欲しいんです」
「そうだね、弓は使い慣れたものが一番だ。この弓だと、少し小さくなってしまったのかな?」
「そうなんです。威力も足らなくて」
「レオが大きくなったんだ。10代はすぐに大きくなるからね」
リア姉やレオ兄は、少しでも父さまに貰った物と同じようにと思っている。
リア姉とレオ兄には、俺にはない思い出があるのだ。笑ったり泣いたり怒ったり。そんな普通の思い出がある。俺はそれが羨ましいと思った。
「ロロがいつも持っているポシェットもそうだよ」
俺がお出かけの時に、いつも肩から掛けている小さなポシェットのことだ。ちびっ子の俺が肩からかけて丁度いい大きさだ。特別な物でも何でもない。最近は、チロがいないなぁと思ったら、ポシェットの中に入っていたりしてチロの寝床になりつつある。お気に入りらしい。
このポシェットは母さまが俺のために作ってくれた物だ。そこに母さまが用意してくれていた、トマトとピカのアップリケを俺が縫い付けた。俺にも母さまの思い出の品があるのだ。
俺は、玄関に置いてあったポシェットを手に取った。
「ロロ、どうした?」
「れおにい、うれしいのら」
「ふふふ、ロロはいつも母様に抱っこされていたわ。そしたら父様が、私もロロを抱っこしたいとか言い出して」
「アハハハ、そうだった。ロロの取り合いが始まるんだ」
「ボクの?」
「そうよ、ロロ。父様も母様もロロが大好きだったのよ」
「しょっか……しょっか」
「良い話だ」
ふふふ、なんだか嬉しい。心がポカポカしてくる。俺はまだ赤ちゃんだったから、覚えていない。俺の知らない両親だ。
赤ちゃんはただお世話をしてもらうだけだと生きていけない、成長できないみたいな話を前世の何かで読んだことがある。両手で抱き上げられたり話しかけられたり、愛情を与えないと駄目なのだと。俺が今こうして生きているのは、両親や兄姉達から愛情を掛けて貰ったからに違いないのだ。
