「ピヨピヨッ!?

「ピピッ!?

 ええッ!? どうしてピヨか!? だってお野菜を勝手に食べようとしていたピヨよ!? キックするピヨね! と、口々に言っている。だって、涙を流しているじゃないか。やり過ぎだ。

 仕方ないピヨね~、なんて言いたそうな感じだ。ピヨピヨと鳴きながら、亀さんの上からピョンと跳び降りた。羽をパタパタと動かしているけど、飛ぶどころかふわりと浮きもしていない。

「え……どうしてこんな場所にいるんだ?」

 ディさんが近付いて見ている。亀さんは、3羽のオレンジ色の雛に攻撃されて涙を流している。大丈夫なのかな? まさかこんなに大きい亀さんが、小さな雛にやられたりしないだろう。

 それにしても、大きな亀さんだ。泣いてるなんて可哀想だから、つい言ってしまった。例の魔法の言葉を。

「いたいのいたいのとんれけ~」

「ロロ!」

 そう言いながら、亀さんの方に掌を向けた。亀さんがペカーッと光ってしまった。

 あ、やべ。忘れていた。俺って、回復魔法が使えるのだった。

「ロロ、回復させてどーすんだよ」

「らって、にこにい。ないてるのら。かわいしょうなのら」

「アハハハ! 大丈夫だよ。悪い亀さんじゃないからね。悪くはないんだけど……」

 ディさんが、亀さんの目の前にしゃがみ込んだ。

「ねえ、話せるんでしょう?」

「……」

「回復してもらったのに、だんまりなの?」

「た、た、助かったわよーぅ……」

「「え……」」

 俺とニコ兄は驚いた。マジで、言葉が出ないくらい驚いた。お目々が飛び出るかと思った。

 だって、喋る亀さんなんて聞いたことがないし、もちろん見たこともない。

「え……おじいしゃんのかめしゃん?」

「爺さんじゃないわよぉ。そこはぁ、どっちかと言うとぉ、あやふやと言うかぁー。こんな綺麗な爺さんがいる訳ないじゃないのよーぅ」

 いや、だから結局どっちなのだ?

「じゃあ、おばあしゃん?」

「そこは決めつけちゃダーメッ。長生きしてるけど、婆さん扱いするんじゃないわよーぅ。そういう生き物なのッ」

 え……何なのだ? お婆さんでいいんだよな? 分からんぞ。

「なーにぃ? 何なのぉ? 森人のエルフがどうしてここにいるのかしらぁ?」

「僕はこの国に住んでいるんだ。それより、君もどうして畑に出てきたんだよ」

「仕方ないじゃなぁい、とーってもお腹が空いたんだものぉ……新鮮なお野菜を探してここまで来たのよーぅ」

「森に食料がないってことかな?」

「そうじゃないのー、そうじゃないんだけどぉ……」

 亀さんは、喋るのも遅かった。待って待って、ディさん。どうしてその亀さんは喋れるのかを教えて欲しい。だってピカだって喋れないのに。

 ニコ兄もまだ、キョトンとして固まっている。喋り方からして、お婆さん亀でいいのだよな?

「でぃしゃん、でぃしゃん」

「ん? ロロ、どうしたのかな?」

「ろうしてこのかめしゃんは、はなしぇるのら?」

「ああ、そっか。そうだね」

 ディさんが教えてくれた。この亀さんは普通の亀さんではない。なんとなんと、霊獣というのだそうだ。

「霊獣とはね、何百年も生きて霊格が高くなった生き物のことを言うんだ。その間に人の言葉を覚えちゃったんじゃないかな? この亀さんは近くの森で何百年も生きていて、魔獣にもならなかったとっても珍しい亀さんだ」

 ほうほう……で?

「あれ? ロロは意味が分かってないのかな?」

「めちゃながいきした、かめしゃん」

「そうそう、そうだよ」

 大抵の場合、森にいる獣は長生きすると魔獣化してしまうらしい。何故なら、弱い魔獣を食べてしまったりするからなんだって。魔獣を食べたら、角が生えてきて魔獣化してしまうそうだ。

 コッコちゃんも弱い魔鳥さんだ。恰好の餌食だ。でも、この亀さんは魔獣を食べていない。魔獣を食べていないこと、悪さをしていないこと。その上長生きしたことで、100歳を過ぎた辺りから霊格が備わり霊獣になった。言葉を話せるようになるには、それからまた100年は掛かるらしい。

 だからこの亀さんは本当にご長寿なのだ。

 亀さんの霊獣だから、れいという。色々あるのだね。覚えられないぞ。

「とにかく、人がいる場所に出て来るような亀さんじゃないんだ。森で何かあったの?」

「わたしは平和主義なのよーぅ」

「うん、それで?」

「あら、何だったかしらぁ……」

 この亀さん、やっぱお婆さん亀なのだ。話すのがホント遅い。れったい。

「そうそう、思い出したわぁ。ブギブギ煩いのが増えたのよーぅ」

 ブギブギ? それは泣き声か何かかな?

「鬱陶しいったらありゃしないのッ。ゆっくり食事もしていられないのよーぅ」

 ああ、本当に焦れったい。俺も喋るのは辿々しいけども、亀さんよりはマシだと思った。

「ディさん、要するに野菜を食べに来たんだろう?」

 ほら、ニコ兄も焦れったくなっている。

「そうだね」

「じゃあ、駄目じゃんか。この前から、食い散らかしてたのはこの亀なのか?」

「それはどうだろう? ねえ、いつからここにいるんだい?」

「さっきやっと着いたばかりなのよーぅ。ほんっと、長い道のりだったわぁ。『まあ、とっても美味しそうなお野菜じゃない。さあ、食べましょう~』と思ったらぁ、そのちっこいのに蹴られてしまったのよーぅ」

 さっき着いたところ? さっきなのか?

「にこにい」

「ああ、この亀じゃないな」

「うん。やっぱけものなのら」

「そうだな」

 最近この辺りの畑を荒らしていたのは、この亀さんじゃないらしい。

 それに、良い亀さんなのだろう? だから、霊獣ってのになったのだということか?

「でぃしゃん、いいかめしゃん?」

「そうだね。害はないよ。霊獣って珍しいんだよ。ね、ピカ」

「わふん」

 なんだ、ピカも知っていたのか。あれれ? 霊獣の亀さん。ピカとチロは何だっけ?

「わふ」

「しょうらった」

 そうそう、ピカとチロは神使で神獣って呼ばれているんだ。どっちが偉いの?

「わふん」

「あ、しょう?」

「わふわふん」

 気の所為かな? ピカが少し偉そうだ。ピカが言うには、神獣、聖獣、霊獣の順らしい。神獣が一番偉いらしい。だって、女神様の使いだからね。と、ピカが言った。

 でもあの泣き虫女神だろう? 偉いのか? この世界の主神なのだから偉いのだろう。そうは思えないけど。それにピカさんは喋れないじゃないか。

「ロロ、神格はピカやチロの方が上だけど、長生きしているのは亀さんだ。だからだよ。ピカやチロももっと何百年も生きたら、喋れるようになるんじゃないかな」

 なるほど、チロはまだ赤ちゃんだ。ピカもまだ若いということだな。ふむふむ。

 とにかくその長生きの亀さんは、お腹が空いているらしい。

「かめしゃん、うちくる? おやしゃいあるよ」

「そうなの? そうなのぉ~? お邪魔しちゃおうかしら~」

「うん、おいれ」

「ロロ、いいのかよ」

「おなかがしゅいてるのは、かわいしょうなのら」

「アハハハ、ロロは本当に優しいねー。いいや、ほら行こう」

「助かるわぁ、ありがとう~」

 のっしのっしと歩き出した大きな亀さん。なかなか進まない。のっしのっし。のっしのっし。大きいからピカに乗せる訳にもいかない。雛達と同じ位の速さなのだ。いや、オレンジ色した雛の方が先を歩いている。お手々を少しパタパタとさせ、ピヨピヨと鳴きながら小さな足でトコトコと歩いている。元気だね。

「でぃしゃん、おしょいのら」

「亀さんだからねー」

「ロロ、ディさん。おれ作業に戻るよ」

「ああ、ニコ。またねー」

「にこにいー、がんばってー」

「おう! ロロ、ディさんのそばを離れたら駄目だぞ! ピカ、頼んだぞ!」

「わふん」

 あらあら、ここでも心配性が発揮されている。俺は幸せ者だ。みんなに心配してもらっている。

 のっしのっしと一生懸命歩いている亀さん。

「ほんっと、お腹が空いたわぁ。ペコペコよーぅ」

 だから、うちに着いたらあげるって。もう少しだから頑張って歩こう。そういう俺は、ピカに乗せてもらっているんだけど。のっしのっしと歩いて、やっとうちに着いた。

「しょこれまってて」

 俺は家の中に声を掛ける。

「まりー、たくしゃんおみじゅちょうらい」

「はいはい、どうしました? コッコちゃんですか?」

「ちがうのら、かめしゃんなのら。おっきいのら」

「えぇッ!?

 マリーが家の中から出て来た。

「あらあら、まあまあ!」

 ダブルが出た。いつもは『あらあら』か『まあまあ』どちらかなのに、両方出たぞ。これは余程驚いているのだ。

「大きな亀さんですねー!」

「おなかしゅいてんらって。おみじゅもあげてほしいのら」

「はいはい、分かりましたよ」

 すぐにマリーが、大きな容器にお水を入れて持って来てくれた。俺はピカから降りて、畑にお野菜を採りに行く。ほら、前にも言ったけど一番外側の食べない葉っぱとかだ。できるだけ、元気そうな葉っぱを選ぶ。人参とか、ラディッシュも食べるのかな? 葉っぱならいいか。と、俺の小さい両手はすぐにいっぱいになってしまう。

「ロロ、僕が持つよ」

「でぃしゃん、ありがと」

 沢山採って、亀さんの前にドサッと置いた。

「かめしゃん、たべて。たりるかな?」

「あらあらあらぁ、こんなに沢山いいのー? 美味しそうだわぁ。ほんとに食べていいのー? いただいちゃうわよーぅ」

 そう言いながら、マリーが用意してくれたお水をガブガブと飲んでいる。

「ああぁ~……生き返っちゃうぅーッ。若返っちゃったらどうしようかしらぁー」

 馬鹿なことを言っている。やっぱ、お喉も渇いてたのだね。俺はそばにしゃがんで亀さんを見る。

 そうだ、大きな亀さんに気を取られていたけど、オレンジ色した雛達だ。亀さんにキックをお見舞いしていた。

「ふぉーちゃん、りーちゃん、こーちゃん、ちゅよいんらね」

「あ、そうだよ。この雛達強いね」

「ね~」

「ピヨッ!」

「ピヨピヨッ!」

「ピピッ!」

 まだまだピヨ! 余裕ピヨね! 役に立ったピヨか? と、口々に話してくる。ピヨピヨと鳴きながら、パタパタとジャンプしている。そんなこと、他の雛はまだできない。だってヨチヨチ歩きなのだから。亀さんはお婆さんだし、お腹が空いていたから弱々だったのかな?

「わふ」

「え、しょうなの?」

「ロロ、この亀さんはそんなに強くないんだ」

 強くないのか? それでよく長生きできたものだ。あの魔獣がかつしている森でさ。

「だから、珍しいんだよ」

「へぇ~」

「わふわふん」

「え? 魔法?」

 ピカが教えてくれたのだ。この亀さん、魔法が使える。でも、その魔法というのが『擬態』と『硬化』なんだって。

 もしも強い魔獣に出会ってしまったら、手足を甲羅の中に入れて岩に擬態をして体を硬化させる。気配まで消して、それこそ本物の岩みたいになるのだそうだ。それで、魔獣をやり過ごす。

 打撃攻撃なんて、動くのが遅くてできない。手を動かしているうちに、ガブリとやられてしまう。魔法も攻撃魔法は使えない。それに、草食だ。ゆっくりと移動しながら、森に生えている草をモシャモシャと食べる。魔獣がいたら、擬態と硬化でやり過ごす。そうやって何百年も生き延びてきた。

「ひょぉー! しゅごいのら!」

「アハハハ、そうだろう? 本当に珍しいんだよ」

「わふ」

 ピカも、初めて見たと言っている。

「かめしゃん、たいへんらったねー」

 モシャモシャと夢中でお野菜を食べている。腹ペコ亀さんだ。

「ねえ、ロロ。この亀さんも飼ってあげたら?」

 ディさんが突然そんなことを言い出した。うちにはコッコちゃんファミリーがいるだろう。まだ増えるだろう。その上、大きな亀さんなのか? 大丈夫か? 飼うからには、可愛がってあげたいし。

「だって、森に帰すのは可哀想じゃない? もうお年だし」

「んんー」

 俺は腕を組んで考える。いいのか? 飼ってしまって、お世話ができるのか? 餌はどうだろう? うん、大丈夫だ。お野菜の葉っぱが沢山ある。

 亀さんのお家はどうするのだ? どんな環境が良いのだろう?

「でぃしゃん、かめしゃんはおみじゅのあるところに、しゅんでるの?」

「この亀さんは陸亀の一種なんだ。それにもうお年だからね。体が浸かる程のお水は必要ないよ。時々ロロの魔法で、水を掛けて甲羅を洗ってあげるといい。普段は飲み水だけで大丈夫だよ」

「しょっか」

 なら、大丈夫か? どうしよう? こんな時は、大雑把なマリーに相談だ。

「まりー」

「はいはい、どうしました?」

「かめしゃん、かってもいい?」

「はい、いいんじゃないですか?」

 お、迷わず答えた。これは、あんまり考えていないな。

「亀さんはちょこまか動かないでしょう?」

「もう、おばあしゃんなのら」

「あらあら、そうなんですか?」

 お野菜をペロリと全部食べちゃった亀さん。

「ふぅ~、とっても美味しかったわぁ~」

 喋ったのだ。喋れると知らなかったマリーは驚くかな?

「あらあらまあまあ! 話せるのですね!」

 手を叩いて面白がっている。目がキラキラしているぞ。何故に?

「長生きしている亀は、縁起が良いと言いますよ!」

 そうなのか? 亀は万年みたいな感じか?

「このかめしゃんは、れいじゅうなんらって」

「え? 何ですか?」

「マリー、霊獣なんだよ」

 マリーが首をキョトンと傾げた。理解できていないマリーに、ディさんが説明してくれた。今日二度目の説明だ。

「あらあらまあまあ! それは凄いですね!」

 マリーも、今日はダブルを大サービスだ。

 ピカとチロの方が、もっと凄いのだけどマリーは分かっていない。

「けろ、でぃしゃん。かめしゃんが、かえりたかったらしょのほうがいいのら」

「そうだね、聞いてみよう」

 そうそう。亀さんの希望を聞いてみよう。

「ねえ、かめしゃん。うちにいる? もりにかえるなら、おくっていくけろ」

「ええぇ、ほんとにぃ? いても良いのかしらぁ?」

「いいよー」

「じゃあ、お世話になるわよーぅ。安全だしぃ、とぉっても美味しいお野菜もあるしぃ、嬉しいわぁー」

 簡単に決まってしまった。どうやら亀さん、森に帰るのも一苦労らしい。道中何があるかも分からない。おまけに歩くのがとっても遅い。森から来る時も、何日も掛かったそうだ。

 人に突かれ蹴られ、馬車にかれそうになりながら、移動して来たらしい。

 そういえば、森に煩いのがいると話していた。棲み難くなったのかな?

「ほんっと、安全だしぃお野菜は美味しいしぃ、ありがたいわよーぅ」

 亀さんは、お水を飲んでお野菜も沢山食べた。うちにいることになって安心したのか、軒下にのっしのっしと移動してスピーッと眠ってしまった。森から、何日も掛けてやって来て疲れたのだろう。首や手足を、のべーッと伸ばして無防備に眠っている。これでよく今迄生き延びてきたよ。

「ありゃりゃ」

「アハハハ、お年だからね」

「コッコちゃん達が賑やかですけど、平気でしょうか?」

「うん、いいんじゃない?」

 ディさんも、アバウトだ。

 そこに俺のポシェットから、ヒョコッと顔を出したチロ。起きたらしい。

「キュル」

「え、え、ええぇー! なんなのよーぅッ!? 神使様じゃないのぉー!?

 眠っていると思っていたのに、亀さんが首をニョキッと上げた。

 今更だけど、ピカだって神使なのだよ?

「アハハ、弱いから気配には敏感なんだ」

 コッコちゃんと同じだ。いち早く気配を察知して、ダッシュで逃げる。亀さんなら擬態し硬化する。それが生死に関わる過酷な世界なのだ。

「かめしゃん、ちろなのら」

「あらまぁー」

「ちろ、かめしゃん」

「キュルン」

 大きいねー! だって。チロはまだまだ小さいから。なのにその大きな大きな亀さんが、小さな小さなチロに平伏している。と、言っても亀さんなので、平伏していても態度は変わりないのだけど。そこに、畑から帰って来たニコ兄とユーリア。

「うわ、大きい亀さん!」

 ユーリアが驚いていた。ユーリアは知らなかったからだね。ニコ兄が、自分が捕まえたかのように話している。

「畑にいたんだよ」

「野菜を食べていたのは、この亀さんなの?」

「違うんだ。この亀さんはさっき畑に来たばっかなんだって」

「じゃあ、やっぱり獣がいるのね」

 獣かぁ、きっと森から出て来るんだよな? 魔獣じゃなきゃいいけど。森に行った時に、出て来たけど魔獣は怖い。

「ロロ! ニコ! 今日もディさん特製のサラダだよー!」

 ディさんが、また大きな籠を持って野菜を収穫している。いつの間にか麦わら帽子まで被っている。そんな恰好で小躍りしている。せっかくのイケメンエルフなのに台無しだ。

「ディさん、本当に毎日いるよな」

「え? ニコ、駄目なの?」

「ううん、賑やかでいいよ!」

「うん。たのしいのら」

「ニコ! ロロ!」

 ディさんは大きな籠を持ったまま、抱き付こうとしてくる。それは無理だ。

「ディさん、その籠キッチンに持って行こうぜ」

「そうだねッ!」

 ディさんは、とってもご機嫌だ。毎日、ニコ兄の育てたお野菜でサラダを作る。俺達までサラダが大盛りになってきた。俺はそんなに沢山食べられない。

 庭先で、ニコ兄と一緒に亀さんを見ていると、リア姉とレオ兄が帰って来た。コッコちゃんファミリーも、コケッと鳴きながらお出迎えだ。そのうちコッコちゃんは、片手をヒョイと挙げそうな気もする。

「ニコ、ロロ、ただいまー! お肉あるわよー! マリー、すぐに焼けるわよ!」

「あらあら、早速焼きましょうね」

「え!? ニコ、ロロ、その亀はどうしたんだ?」

 レオ兄が軒下で、寝そべってる大きな亀さんに気が付いた。やっぱビックリするよね。俺が説明してあげよう。両手を広げて、ジャジャジャーン!

「おばあしゃんの、かめしゃんなのら」

「お婆さんなのかい?」

「しょうなのら」

 ふふん、完璧なのだ。

「ロロ、それだけかよ」

「え? にこにい、かんぺきら」

「俺が説明するよ」

 おや、そうなのか? 今の説明では不足なのか?

 ニコ兄が、森から来た亀さんで畑の野菜を食べようとしていたんだと話した。

「森からなの? 遠いじゃない」

「しょうなのら。しゅっごくたいへんらったって」

「そうなの?」

 話を聞きながら、リア姉がそこら辺に落ちていた小枝で亀さんの甲羅をツンツンと突いている。

 こらこら、そんなことをしては駄目だ。リア姉は子供みたいなことをする。3歳の俺でもしないのに。

「りあねえ、らめ」

「あら、ごめんなさい」

「それにしても大きいね」

「んん……なぁによーぅ。騒がしいじゃなぁーい」

 あ、起きた。きっとリア姉がツンツンしたからだぞ。

「え!? 喋ったわよ!?

「ロロ! また何で!?

 どうして俺なのだ? 何かあったら俺なのか? 仕方ないなぁ、教えてあげよう。

「れいじゅうなのら」

 ん? って顔をしているリア姉とレオ兄。『?』が頭の上にピョコンと出ていそうだ。

「霊獣っていってね、獣が長生きして霊格が高くなっているんだ」

 いつの間にか、ディさんがエプロンをつけている。しかも、フリフリのエプロンだ。今まではエプロンなんてしてなかったのに、バージョンアップしちゃっている。

 どうした、何故にそれをチョイスした? きっとマリーのエプロンなのだろう?

「ディさん、そんなのがいるんですか?」

「知らなかったよ」

 そうだろう、そうだろう。俺も知らなかった。

 ディさんの、エプロンはスルーする方針なのだね? 俺は空気が読める3歳児なのだ。

「ピカとチロは何だったかしら?」

 リア姉も俺と同じことを言ってる。大丈夫か? 3歳児と同じだぞ。

「ピカとチロは神獣だ。もっと格上だよ」

「へえー、ピカとチロって凄いのね」

 今更だ。ずっと前にギルドでディさんから聞いていたのに。リア姉って脳筋気味だよね。女子なのに。フィーネもそうだ。だから二人は気が合うのかな?

「ほら、ご飯だよ」

「はーい」

 ディさん、もう完璧に馴染んでいる。むふふ、嬉しいのだ。

「ロロ、どうした?」

「れおにい、でぃしゃんがいると、にぎやかれいいのら」

「そうだね」

 レオ兄と手を繫いで家に入る。レオ兄の手は大きくて温かい。でも、ディさんの手はもっと大きくて安心する。父さまはどんな手だったのだろう? ちょびっとだけ、そんなことを思った。

「さあさあ、食べましょう!」

「おー! お肉だ!」

「ロロの好きな兎よ。ニコも好きでしょう?」

「おー、好きだ!」

「うまうまらもん」

「なー!」

 今日はダンジョンに行っていたのではなかったっけ? お肉があるということは森で討伐していたのかな?

「いたらきましゅ」

「いただき」

「ディさん特製のサラダも食べてよ」

 そう言いながらディさんは、大きな器に盛った特盛サラダをモッシャモッシャと食べている。

 それだけじゃない。ディさんはお肉もしっかり食べる。気持ち良い位よく食べる。

 俺達の足元では、ピカとチロ、それにコッコちゃんもお野菜を貰って食べている。賑やかなのだ。

「ぐふふ」

「ロロ、どうしたの?」

「らって、れおにい。いっぱいなのら」

「コッコちゃん達かな?」

「しょうなのら。ぴからけらったのに、ちろがやってきてぇ、こっこちゃんふぁみりーら。きょうはかめしゃんもふえたのら」

「本当よね、増えたわね」

「みんな、おともらちなのら」

「アハハハ、お友達かぁ」

「ロロ、ほらソースが垂れてるぞ」

「あ、にこにいありがと」

「おう、拭いておこうな」

「うん」

 平和で幸せなのだ。



 次の日、いつも通り皆で揃って朝食の時にニコ兄が言った。

「畑がまた荒らされていたって、ドルフ爺が言ってたぞ」

「まあまあ、心配ですねぇ」

「そういえば、森の獣や魔獣の討伐依頼も多くなったのよ」

「関係あるのかもね」

 ほうほう。やっぱ、森の力関係が変わったのかも知れない。

 そう言えば、昨日亀さんが話していた。

「かめしゃんが、ぶぎぶぎうるしゃいっていってたのら」

「ぶぎぶぎ?」

「しょうなのら」

「ほら、ロロ。口の中に食べ物が無くなってから喋るんだぞ」

「ん、にこにい」

 朝早くにドルフ爺さん家の畑が、荒らされていたと騒ぎになっていた。俺はまだ夢の中だったのだけど。

「ブギブギって何だろう?」

「らからかめしゃんは、やってきたんらって」

「それが嫌だから森から来たってことかな?」

「しょうなのら」

「ロロ、これ美味いな」

「うん、めちゃうまうまら」

 マリーが、コッコちゃんの卵に昨日の残りの兎肉を刻んで入れてオムレツにしてくれた。それが、とってもジューシーで美味しいのだ。刻んだトマトとバジルのソースが爽やかで、どんどん食べてしまう。俺のフォークを持つ手が止まらない。

「アハハハ。ロロ、お口の周りが大変なことになってるよ」

「え、しょお?」

「レオ兄、さっきも拭いたんだ」

 そう言いながら、ニコ兄が拭いてくれる。

「けろ、またちゅくのら」

「でも拭いておこう。痒くなるのは嫌だろう?」

「うん。にこにい、ありがと」

 いつも通りの朝だ。俺がニコ兄にほっぺを拭かれるのも、いつも通りだ。

 今朝のコッコちゃん当番は、ドルフ爺だった。それで朝早くにコッコちゃんの世話をしようとして、畑の異変に気付いたらしい。

「ぴか、よるにきてた?」

「わふん」

 ピカも朝ごはんを食べている。チロやコッコちゃんファミリーもだ。亀さんは大きいからお外で食べている。それに体が大きいから、食べるお野菜の量も半端なく多い。そんなに家の中に入れたら後片付けが大変だ。亀さんはコッコちゃん達と一緒に、普通に入って来ようとしたらしいけどマリーが止めた。コッコちゃんの当番さんだった、ドルフ爺さんも大きな亀さんに驚いていたらしい。

 何故なら、亀さんもコッコちゃん達と一緒に柵の中で眠っていたから。

「おいおいおいおい! 今度は亀か!? 食えるのか!?

 なんて言っていたらしい。食べる訳ないのに。毎朝当番さんは、コッコちゃんの柵の中を掃除して、トイレにしている藁を交換する。そして、コッコちゃんの餌にするお野菜を、うちの前に置いてくれる。コッコちゃんファミリーは、俺達が朝ごはんを食べる時までおとなしく待っている。勝手に食べたりはしない。お利口さんだ。

「れおにい、けものがきてたって」

「ピカがそう言ってるのか?」

「うん」

「わふわふ」

「おうちのほうには、きてないって」

「そうか、でも心配だね。夜にだけ来るのかな?」

「わふ」

「しょうじゃないって」

 レオ兄が心配そうな顔をした。眉間に少し皺を寄せて、難しいお顔をしている。

「姉上、今日は近所を見回ってみる?」

「とにかく、一度ギルドには行きましょう。情報が出ているかも知れないし、ギルマスに相談する方がいいわ」

 リア姉が、とってもマトモなことを言った。ちょっと珍しくて、お目々をパチクリさせてしまった。

「ロロ、何よ?」

「なんれもないのら」

 おっと危ない、顔に出ていたかな?

 エルザが出掛けて行き、リア姉とレオ兄も食べ終えて出掛けようとしていた時だった。

「わふッ」

 ピカが何かに反応した。寝そべっていたのに、ムクリと顔を上げて耳がピクピクと動き、尻尾もピンと立っている。

「ぴか?」

「わふわふ」

「ふぇッ!?

 大変だ。リア姉とレオ兄に知らせなきゃ。

「りあねえ、れおにい、けものらって!」

「ピカがそう言ってるのかい?」

「うん!」

 リア姉とレオ兄が手に武器を持つ。

「ピカ、場所は分かる?」

「わふん!」

 ピカが立ち上がる。ピカに先導されて、リア姉とレオ兄が畑へ走って行く。

 俺はというと、まだ食べ終わってなかったのだけど、そんなの気になるじゃないか。

 だから俺用の椅子から、なんとか下りようともがいていた。けど、一人では降りられない。

「ロロ、駄目だぞ」

「らって、にこにい。きになるのら」

「そりゃそうだけどさ」

「とおくからみるのら!」

「そうだな、遠くからならいいか」

 そう言って、俺が下りるのを手伝ってくれた。

「まあまあ! 危ないですよ!」

「マリー、分かってる! 近寄らないよ!」

 そう答えながら、ニコ兄と一緒に家の外に出てリア姉とレオ兄を探した。

 畑の中の小道を、ピカを先頭にリア姉とレオ兄が走っているのが見えた。

「あの辺りは、ドルフ爺の畑だ。獣がまだ他にもいるかも知れないぞ」

「あらあら、危険ですね」

 マリーまで見に出て来ている。

「ほらぁ、ブギブギ鳴いてるわよーぅ」

 亀さんだ。俺には何も聞こえない。

「亀さんには分かるのか?」

「神使様は、なんてカッコいいのかしらぁ~」

 ピカのことだろう。んん~、見える場所まで行きたいぞ。近くで見たくてちょっぴりウズウズしていると、隣にいるニコ兄も同じような顔をしていた。

「にこにい」

「おう、見たいな」

「しょうなのら」

「よし! ロロ、俺の言うことは聞くんだぞ」

「わかったのら!」

 ニコ兄も見たくて仕方ないのだ。二人で手を繫いでピカが行った方へと向かう。ニコ兄に手を引かれながら、一生懸命走る。笑えるくらいに、遅いのだけど。ワッハッハ。

「あんまり近付いたら駄目ですよ! 危ないですよ!」

「まりー、らいじょぶら!」

「近寄らないよ!」

 マリーは家の前から見ている。騒ぎを聞きつけたのか、ドルフ爺も出て来た。

「ニコ! 出たか!?

「おう! ピカとリア姉、レオ兄が行った!」

「そうか!」

 何故かドルフ爺は手になたを持っている。まさか、戦うつもりじゃないだろうな。元気な爺さんだ。

 少し離れた場所に、レオ兄が見える。

「ロロ! ニコ!」

「あれ? レオ兄が呼んでるぞ」

「なんれらろ?」

「分かんねーけど、行ってみよう!」

「うん!」

 危なかったらレオ兄は絶対に呼ばない。だから、大丈夫なのだろう。ニコ兄に手を引かれて、レオ兄のそばまで行ってみて目が点になっちゃった。目の前で起こっていることを、脳が受け入れられないとはこのことだ。驚き過ぎて、最初は理解できなかった。

 ピカよりも一回りくらい大きなボアが、畑の中の小道をうめきながら走っていた。角はないから魔獣ではないのだろう。でもそれに驚いたのではない。その走っている大きなボアの、背中や頭の上に乗っている小さな三つのオレンジ色した物体X……じゃなくて、雛だ。

『ピヨーッ!』と鳴きながら、ボアの上でバコバコとジャンプしながら蹴りまくっている。

「ふぉーちゃん、りーちゃん、こーちゃんあぶないッ!」

「ロロ! あれ、雛だよな!?

「にこにい、しゅごいのら!」

「そんなこと言ってる場合かよ!」

 オレンジ色の雛達に放心状態だ。だがよく見るともう一種類、そのボアに飛び蹴りをお見舞いしているのがいた。キャンキャンと、鳴きながら走る土色した小さな物体が五つ。

 ボアの足元を疾走しながら、勢いよくジャンプして脇腹を蹴りつけている。

「ふぇぇ……ッ!?

「ロロ、あれって……」

「ロロ! あれってロロが作っていたのだろう!?

 俺が少し前にペッタンペッタンコネコネして作っていた、ピカの土人形達だった。驚いたなんてもんじゃない。動いているぞ。いや、動くどころか攻撃しているじゃないか。

「ひょぉーッ! れおにい、う、うごいているのら! はし、はしっているのら!」

「アハハハ! そうなんだよ! もう驚いたよ!」

 いやいや、驚いたのは俺だ。作って軒下に並べて乾燥させていた。いつの間にか無くなっていたから、忘れていたのだ。

 その5頭のピカの土人形と3羽の雛達に、あっちこっちから蹴りを入れられ、ボアはもうフラフラになっている。亀さんが話していたように、確かに『ブギブギ』と鳴いているが声に元気がない。

「僕達が来た時には、もうああなっていたんだ」