今日もディさんは来ている。片手に大きな籠を持って畑にいる。ディさん用の麦わら帽子まで用意してある。余程、ニコ兄の野菜が好きなのだろうね。畑の中でクルッと回ったり小躍りしている。
俺はその後ろをトコトコと付いて行く。そのまた後ろはコッコちゃんファミリーだ。雛も一緒に付いてくる。ゾロゾロと。先頭を行くディさんが、ランララ~ン♪とか歌っていて、後ろのコッコちゃんがコケッコと鳴いてにぎやかだ。
マリーが家の前で、ニコニコしながら見ている。平和だ。お天気も良くて、暑くも寒くもない。時々、ソヨソヨ~ッとそよ風が頰を撫でていく。
ピヨピヨと鳴いているよ。幸せの青い鳥さんではなく、黄色いコッコちゃんの雛達が。
「コッコッコ」
「ああ、いってたね」
「クック」
「うん、わかったのら」
「ロロ、コッコちゃんは何て言ってるの?」
「にこにいが、てちゅらっているはたけを、みにいきたいのらって」
「ニコの!? 僕も行きたい!」
だよね~。ディさんはニコ兄のお野菜の大ファンだから。いや、信者とでもいうのか。推しか? 推し活しちゃうか?
「まりー、にこにいを、みにいってくるのら」
「はいはい。お昼までには帰ってきてくださいね。ディさんとピカの側を離れたら駄目ですよ」
「わかったのら」
ほら、マリーもまだ心配性だ。これは、もしかしてずっと続くのかな? 取り敢えず、俺はピカに伏せをしてもらって背中に乗る。畑の中の小道は歩き難いから。と、雛達が一緒に乗りたそうに、ピヨピヨと訴えてきた。小さな羽をパタパタさせている。
可愛いなぁ~。ほら、おいで。乗せてあげよう。淡い黄色した普通の雛2羽とピンク色した雛だ。コッコちゃんファミリーみんなで行くらしい。
濃いオレンジ色のコッコちゃんは、親コッコちゃんと一緒に張り切って歩いている。同じ雛でも、歩く速さも体力も違う。俺が卵を温めて孵した雛は、ディさんが言った通り身体能力が飛び抜けている。
ディさんやコッコちゃんと一緒に、列になって畑の中を行く。ディさんが引率の先生みたいになっている。
「この辺りの畑もニコが手伝っているのかな?」
「しょうなのら。じぇ~んぶなのら」
「凄いや……」
「でぃしゃん?」
ずっと、ディさんの目がゴールドに光っている。と、いうことは精霊眼でずっと見ているのだ。
お野菜好きのディさんにとっては、大切なことなのかな?
「この辺りの畑はキラキラしている。大切に育てられているんだね」
「にこにいが、がんばっているのら」
ふふふ、ニコ兄を褒められると嬉しい。一面が緑色だ。濃い緑や、淡い緑。それが続く畑の中をコッコちゃんを連れてゾロゾロと歩く。人が所々に見える。時々手を振ってくれるから、俺も手を振り返す。その中に、ニコ兄とユーリアの姿を見つけた。
「あ、いたのら。にこにいー!」
俺は大きな声で呼びながら、手をブンブンと振る。
それにユーリアが先に気付いて、ニコ兄に知らせてくれた。
「おー! ロロー!」
ニコ兄が俺を呼びながら、走って来る。麦わら帽子を被っていて、首から汗を拭くための布を掛けている。いい感じで陽に焼けていて、健康的だ。
「ディさんも! どうしたんだ!?」
「こっこちゃんがみたいって」
「え? コッコちゃんなのか?」
「うん、しょう」
「僕も見たかったんだ」
そう言いながら、ディさんはお野菜を吟味している。
どっちのお野菜が良いかな~? とか思っているのだろう。
「やっぱ、ニコの畑のお野菜が一番だね」
「本当か? それは嬉しいぞ」
「ニコはきっと、無意識に魔力を使っているんだ。ニコの畑のお野菜には、ごく微量の魔力が含まれているから立派で美味しいんだ」
「え!?」
な、なんですとッ!? 魔力が含まれているですと!? お野菜に、魔力とは驚きだ。
「俺、なんもしてねーぞ?」
「だから、無意識にやっているんだよ。ほら、前に僕が言っただろう? まるで『緑の手』とでも言うのかな? てさ」
そう言えば、言っていたような、なかったような?
「むむむ」
ちょっと腕組みして、ギュッと眉間に
「ロロ、どうした?」
「らって、にこにいは、ポカポカぐるぐるしてないのら」
「あー! ロロ! それを言ったら駄目だぞ!」
だって、本当のことだ。隠しても無駄なのだ。
「そうだろうね~」
ディさんがそう言いながら、ニコ兄を横目で見る。ディさんには、お見通しだ。
「魔力操作ができていないから、無意識でごく微量の魔力を流しているんだ。気持ちだよ。大切に育てよう。美味しくなって欲しい。て、思いだね」
ほうほう。なるほど。ならみんな、意識して魔力を流したら良いのではないかな? そしたら、どこのお野菜も美味しくなるだろう? 両手をお口に持っていって、クスッと笑う。
「むふッ」
「ロロ、良いこと思いついたとか思ってんでしょう? 残念ながらそれが難しいんだよ」
「むじゅかしいの?」
「そうなんだよ」
ディさんが言うには、お野菜や食べ物は本当にごく僅かな魔力だと美味しく立派に育つ。でも、少し加減を間違えてしまうと悪い影響が出るらしい。
「ヒューマンが使う魔法は、魔素が関係しているんだ」
あれ? また引っ掛かったぞ。
「でぃしゃんが、ちゅかうまほーはちがうの?」
「そうなんだよ。エルフが使う魔法は精霊魔法と言われているんだ」
エルフ族は太古の昔から、精霊を敬い守り続けているのだそうだ。今は見ることができないらしいのだけど。エルフ族が使う魔法は、自身が持つ魔力と精霊の力を借りて発動するから、精霊魔法と呼ばれているのだって。ヒューマン族が使う魔法は、大気中に漂っている魔素と呼ばれる不思議成分と、自分の魔力とで発動する。精霊魔法に比べると威力は劣るらしい。
「だからね、魔力にも魔素が混じってしまうみたいなんだ。それが多くなると植物には良くないんだよ。蘞味が出たり、酷くなると枯れてしまったりするんだ」
「へぇ~」
「知らなかったぞ」
「うん、魔法学を教わらないと、知らないだろうね」
ほうほう、ディさんは物知りだ。
「それより、ロロ。ディさんと一緒だからいいけど、一人で畑まで出てきたら駄目だぞ」
おやおや? 魔力操作の練習をしていないことを、突っ込まれないようにごまかそうとしてないか?
「うん、まりーにいわれたのら」
「おや? ニコ、どうしてなのかな?」
「獣が出るんだよ」
「しょうなのら。ぴかもこっこちゃんも、きぢゅいてるのら」
「獣か……」
ディさんがぐるりと辺りを見渡した。瞳もゴールドに光っている。
「なるほど、確かに出て来ているみたいだけど……」
「ディさん、分かるのか?」
「ディさんは、大抵のことはお見通しなのだよ」
と、言ってまたバチコーンとウインクをした。だから、やめれ。いい加減に目がやられてしまう。
ディさんは、自分がイケメンなのを自覚していないのかな? もしかして、エルフ族の中では普通なのか?
「まだ、人の家には近寄っていないみたいだけど……放っておけないね」
「でぃしゃん?」
「ギルドに言っておこう。冒険者に討伐してもらうと良いよ。人が被害に遭わない内に対処しておこう」
「おう! じーちゃん達が喜ぶよ!」
でも、冒険者に依頼するということは、お金が掛かるのではないのか? そこはどうするのかな?
「ロロ、どうした?」
「にこにい、ぼうけんしゃにいらいしゅると、おかねがかかるのら」
「あ、そうか」
「ロロはお利口だね。今回は大丈夫だよ」
ディさんが言うには、この場合は領主様が依頼人になって負担してくれるらしい。街の防衛費のようなものだ。今はまだ畑を少し荒らす程度で済んでいる。でも、これで旨味を覚えてどんどんエスカレートしてしまう可能性がある。放っておけばそうなるのだろう。
相手は獣なのだから遠慮は勿論、倫理観なんてない。だから、早めに対処するのだそうだ。どんな獣を何頭討伐したかで、冒険者への報酬が変わるそうだ。
その時だ。ピカが何かを見つけたのだ。
「わふッ」
「え? ぴか、ろこに?」
「わふん」
「でぃしゃん、ぴかがなにかいるといってるのら」
「え? 何だろう? ピカ、そこに行こう」
「わふん」
ピカが慌てている訳ではない。なら、危険はないのだろう。すると昨夜の内に、倒されたのだろうか? って、誰に? 一体、何がいるのだろう? 畑のお野菜が倒されているのが見える。ピカが畑の中の小道を行き、防御壁のある方向、森に近い方へと進んで行く。畑の中を十字に小道が通っていて、その端っこに着いた。そこにいたのは獣ではなかった。
「ひょぉーッ! おっきな、かめしゃん!」
体長は優に1メートルは超えている、大きな亀さんがいた。角度によっては、ゴールドにも見える褐色で半円形のドーム型した大きな甲羅。そこから出ている太くて短い手足にお顔。甲羅の大きさだけで1メートルはありそうなのだ。
その大きな体の割にはつぶらな瞳。その瞳から、ポロポロと涙を流している。何故なら大きな亀さんの上には、オレンジ色した雛が乗って足でペシペシと踏ん付けている。亀さんの尻尾を踏ん付けていたり、お顔にキックをしている雛までいる。こらこら、亀さんが可哀想ではないか。雛達はいつの間に、こんな場所まで移動していたのだ? 俺達の後ろを付いて来ていたはずなのに。
「ふぉーちゃん、りーちゃん、こーちゃん、やめれ!」
「ピヨッ!?」
