「なかを、おしょうじしゅるのら」

「よし」

 ニコ兄と一緒に柵の中を掃く。ばっちくなった藁を全部外に出した。その藁をニコ兄が見て何か考えている。

「これ、畑に良いかもな」

「しょうなの?」

「ああ。こういうのをもっと、フニャフニャにするんだ」

 発酵させるということなのかな? それが堆肥になるのか? 俺は知らないけど。

「捨てずに取っておこう。畑の隅に置いておくよ。明日、ドルフ爺に聞いてみる」

 ドルフ爺ね。ニコ兄の師匠だ。なんでもよく知っている。普通の農家の爺さんの知識じゃないぞ。あの爺さん、昔は何をしていたのだろう?

 それにしても、柵の中をお水で流したいぞ。うむ、俺はチャレンジャーなのだ。よし、やるぞ。

「しゃわしゃわ~」

 試しに魔力を集めて、両手を出してそう言ってみた。すると、あらあら不思議。

 俺の手からシャワーみたいに水が出た。なんでもやってみるものだ。

「おぉー!」

「ロロ! なんだよ、それ!?

「しゃわしゃわ~なのら」

 ニコ兄が、あんぐりとお口を開けて見ている。いいのだ。大成功だ。俺は柵の隅から隅まで、しゃわしゃわ~ッと水で洗い流した。便利だね。また箒で掃いて、溜まった水を出しておく。

「ふゅ~。よし、こっこしゃん。きれいになったのら」

「クククッ」

「えぇ……」

 びしょびしょじゃん。なんて文句を言われてしまった。んん~、そうだな。乾かせばいいのだな?

「どらい」

 俺が一言そう言うと、ぶわーッと風が吹いた。次の瞬間には、びしょ濡れだった地面が綺麗に乾いた。

「ロロ! なんだよ、なんだよー!」

「れおにいが、かみをかわかしゅときに、してくれるやちゅら」

「いやいや、規模が違うだろう!?

「しょう?」

「そうだよ! ロロ、いつの間にそんなに魔法を使えるようになったんだ!?

「え? いまなのら?」

「えぇーッ!」

 まあ、細かいことはいいじゃないか。それより、新しい藁を敷いてあげよう。でないと、今夜眠るところがない。

「にこにい、わらをいれるのら」

「お、おう」

 そうだよ。サクサクと動こう。ニコ兄が帰って来てくれて良かった。俺一人だと、こんなのできなかった。汚れた藁を外に出すのも、新しい藁を入れるのにも手間取っていたよ。助かったのだ。

「よし、これれいい?」

「コッコ」

「クック」

 ありがとー。って言ってくれた。良かったね。

「わふん」

「うん、きもちいいのら」

 綺麗になったね。と、ピカが言った。よしよし、ワシワシと撫でてあげよう。

「わふ」

「ふふふ、きもちいい?」

「わふん」

 可愛いのだ。ピカの毛は手触り最高だ。そこにマリーが声を掛けてくれた。

「坊ちゃま、手伝いますか?」

「まりー、もうおわったのら」

「あらあら、綺麗になりましたね」

「うん。にこにいが、てちゅらってくれたのら」

「マリー、ロロが魔法を使ったんだ」

「クリーンですか?」

「あ、しょうら。わしゅれてた。くりーん」

 仕上げのクリーンを忘れていたよ。これをしておかないと、臭ってくるからね。

「違うんだ。水をだしたり乾かしたり」

「まあまあ、そうなんですか? ロロ坊ちゃま、できたんですね」

「ね~」

 ほら、マリーは平然としている。

「マリー、違う。あんなの、俺できないぞ」

「あらあら。だって、ディさんが言ってましたよ。ニコ坊ちゃまは、もっと魔法操作を練習しなきゃダメだって」

「そうだけど! そうじゃないんだ!」

「はいはい、手を洗ってくださいね。中に入りましょう」

「はーい」

「レオ兄が帰ってきたら報告しよう」

 ニコ兄がまだ拘っているけど、そんな大したことはしていないぞ? ディさんも、魔法の練習をしたらニコ兄だってできると話していただろう? だからニコ兄も練習が大事だ。

「にこにい、はたけに、おみじゅをあげるのにいいのら」

「本当だな。見てて思ったよ」

 ほら、そう思うだろう?

「俺も練習しよう」

「うん。ポカポカぐるぐるなのら」

 せっかく柵の中を綺麗にしたのに、コッコちゃんは家の中に入って来る。当然のようにゾロゾロと。

 はいはい、中に入りましょうね。みたいな感じだ。だから、雛達もピヨピヨと付いて来る。

「あれ? 変わった色のがいるじゃん」

「しょうなのら。ボクとちろが、あたためたのら」

「え? チロ?」

 そうなのだよ。卵の上でお昼寝していたのだって。

「アハハハ! チロがお昼寝してたのかー!」

「可愛いピンクだわ」

 ユーリアがピンクの雛を両手に乗せている。あ、そうだ。オレンジの雛にお名前があるのを言っておこう。俺はテイマーだからね。名付けをしたのだ。

「にこにい、おれんじのこ」

「おう、3羽いるな。てか、他の雛よりデカイな」

「おりぼん、あかがふぉーちゃん、あおがりーちゃん、みろりがこーちゃんなのら」

「名前つけたのか?」

「しょう、ボクはていまーらから」

 また胸を張っちゃおう。ふふん。

「アハハハ! テイマーかよ」

「しょうなのら。こっこちゃんていまーなのら」

「アハハハ!」

 ふふふ、いいだろう? ちょっぴり自慢なのだ。もうすぐ、リア姉とレオ兄も帰ってくるだろうから、自慢しちゃおう。

 リア姉とレオ兄が帰って来て、オレンジ色したコッコちゃんの雛達を見て俺に聞いてきた。

「ロロ! どうなってんの!? 色が違う!」

「大きいじゃない!」

「ふふふん、ボクはていまーらから」

「違う違う!」

 おや? 何が違うのかな? レオ兄なんて、俺の両肩をガシッと摑んで聞いてきた。

「ぴんくがちろ。おれんじがボク」

 雛のお名前も紹介しておいた。

「ロロ、名前をつけたのか?」

「うん、ひながぺかーって、ひかったのら」

「え? そうなの? じゃあ、それで本当にテイムしていることになるのかな?」

「しょうしょう。でぃしゃんが『おしゅわり』は、かりらっていってた」

「そうなのか。じゃあ、親のコッコちゃんのお名前はどうしたんだ?」

「こっこちゃん」

「え?」

「こっこちゃんなのら」

「それで光ったのかい?」

「うん。みんなぺかーッて」

「アハハハ!」

 だって、無理なのだもの。コッコちゃんの見分けが付かないのに、お名前を付けても仕方ない。

「そうだね、見分けが付かないね」

「ロロ、凄いじゃない。本当にテイマーだわ」

「らからボクは、こっこちゃんていまーなのら」

「ふふふ」

「アハハハ」

 エヘヘ、みんな笑顔でいいね。って、ニコ兄がまだ何か話したそうだぞ。目で俺に訴えている。

「レオ兄、ロロは水を魔法で出したんだ。それにドライも」

「水を? ロロ、どうやって?」

「しゃわしゃわ~ッて」

「な、意味分かんないだろう? でもな、雨みたいな水が出たんだ。それで、コッコちゃんの柵の中を綺麗にしたんだよ」

「ああ、それで乾かすのにドライなのか?」

「そうだよ。あんなに広いのにさ」

「らって、いちゅもれおにいが、かわかしてくれる」

「髪を乾かす時のこと?」

「しょうなのら。まねしたのら」

 その後、食事をしながらレオ兄に色々聞かれた。でも、元々レオ兄は予想していたみたいだ。ニコ兄ほど、驚かなかった。いつも、レオ兄と一緒にポカポカぐるぐるって練習しているからなのかな?

 この程度で驚いていては駄目だ。俺にはもっと野望があるのだよ。魔石に付与したい。回復魔法だって使ったのは一度きりだ。こうして少しずつ、魔法を使う練習をするのだ。

 何より、コッコちゃんに乗ってみたい! 目指せ、コッコちゃんライダーだ。

 何故なら、俺はチャレンジャーなのだから。ふっふっふ。

「ロロはもうおネムだね」

 俺はフォークを片手に持ちながら、コクリコクリとしていた。眠気には逆らえない。

 ちびっ子ってさ、電池が切れたみたいに突然眠ってしまうだろう?

「本当、ロロには驚かされるわ」

「ベッドに寝かせてくるよ」

 俺はウトウトしながら、レオ兄に抱っこされてベッドまで連れて行ってくれるのを感じていた。

 その夜だ。フカフカのお布団で気持ちよく眠っていたのに。

「お久しぶりぶりなのですーッ!」

 ジャジャーンと登場したのは、あの泣き虫女神だ。『ぶりぶり』って何だよ。ほんと、久しぶりだね。走りながら、抱き着いてきたからヒョイッと避けた。

 お決まりのように、女神は顔からスライディングしていった。このシーンは前にも見たぞ。懲りてないなぁ。

「ぶぶぶぶぶーッ!!

 少しは勉強しようよ。俺、いつも避けているだろう? 前にこの女神の世界に来た時は……そうだ、俺が怪我した時だった。あの時はお世話になったから、一応お礼を言っておこう。

「このまえは、ありがと」

「ひゃんッ!」

 立ち上がるなり、顔を両手で覆い仰け反っている。そういうところなのだよ。落ち着こうよ。普通に話をしよう。見掛けは、とんでもなく美人さんでスタイルも抜群なのに、性格が残念すぎる。女神というイメージが崩壊してしまう。

 お顔からスライディングしたものだから、額とお鼻の頭が赤くなっている。練習を兼ねて回復魔法を掛けてあげようか? 鼻血が出なくて良かったね。

 立ち直ったらしくて、女神がニコニコとしながら話しかけてきた。立ち直りが早い。

「最近は楽しそうで良かったのです!」

「うん。たのしいのら」

「コッコちゃんですね」

「しょうしょう」

「あのコッコちゃんのオレンジ色した雛ですが」

 ん? 俺が孵化させた子達だな。なんだかとても嫌な予感がしてきたぞ。

「あの子達、コッコちゃんから進化してますよ」

「へ? しんか?」

「そうなのですッ! 今迄無かったことなのです! 何故なら、コッコちゃんはとっても弱いからですッ!」

 そうだね、コッコちゃんは弱っちいよね。力もないし、飛べない。卵の頃から狙われて、食べられてしまうというのだから可哀想だ。

「それがぁッ! ロロの魔力で進化したのでッす!」

「お、おう」

「名付けてぇ! ハイコッコちゃんなのですぅッ!」

 大袈裟に両手を広げて、天を仰いで言っているけど。

 え……ダサくない? マンマじゃない? それでいいの?

「とっても可愛いネーミングなのですッ!」

 可愛いかぁ? マンマだと思うぞ。女神がそれで良いなら、俺に文句はないけど。この世界の主神が、決めたことなのだから。

「あのエルフが見たら、きっと分かるのです!」

 そうだろうね。ディさんの精霊眼だ。なんでもお見通しの精霊眼。あ、そうだ。思い出した。

「ボクも、しぇいれいがんほしいのら」

「それは無理なのですぅ。種族的に精霊眼は無理ですぅ」

 なんだよ。詰めが甘いな。

「でもぉッ! ロロのお兄さんが『鑑定眼』をもうすぐ使えるようになるのですッ!」

 それはディさんが言ってたよ、ずっと前にね。今更だよ。俺は? 俺はないの?

「ロロはまだまだちびっ子なのでぇ……」

 指を弄んでモジモジし出した。目も合わせようとしない。何処を見ているのだ? 何だ? 後ろめたいことでもあるのか?

「まだちびっ子の時から、そうポンポンと高度な魔法を使うのは良くないのですぅ。ヒューマンという種族はそんなに魔法に秀でていないのです。その中でも、ロロは特別に魔力量が多いのです。もう少し大きくなるまで我慢なのです」

「わかったのら」

 女神が愛おしむような表情で俺を見る。どうした? 急に女神らしくなったぞ。

「ロロにお礼を言いたかったのです。いつも食べられてしまって、何千年も進化できなかったコッコちゃんを進化させてくれました。有難うなのです。コッコちゃんにも大きな可能性が出てきました! もしかしたら、もしかするのですッ!」

 なんだ、もしかしたらどうなるのだ? そこをはっきりさせようよ。

「まだまだどうなるのか分かりません。もしかしたらロロ達の役に立つかもです。何より、進化なんて諦めていたのです。だから有難うなのです!」

 なんだ、今日はそんなことで呼んだのか? 態々さ。

「いいよー」