「そうそう、坊ちゃま」

 マリーがお道具箱を出してくれる。

「ユーリアが言ってたんですけど、最近獣が出るらしいのですよ」

「けもの?」

「はい、見た者はいないんですけどね、野菜が食べられているそうなんです。だから獣じゃないかって話だそうですよ」

「えー、たいへんら」

「それに危ないですからね。暫くは一人でお外に出ないようにして下さいね」

「わかったのら」

 獣かぁ。何の獣なのだろう? 獣も魔獣や魔魚も、今は産卵や子育ての時期なのかな? お野菜を食べちゃうということは、食べ物が足らないのか? 森には魔獣がいるから、魔獣より弱い獣達の居場所が無くなってしまったのかな? 何にしろ、気をつけよう。

 俺は小さな手の、短いプクプクとした指で一針一針丁寧に針を刺す。ディさんを、守ってくれるようにと思いを込めながら。んー……今の俺の手の動きは、まだ思い通りという訳ではない。それでも、図面で確認しながら根気よく少しずつ刺していく。今回は、大作だ。こんなに大きな刺繡を、今までしたことがない。

「ふゅぅ……」

「ロロ坊ちゃま、ゆっくりですよ。根をつめると疲れますよ」

「うん、らいじょぶら。こまかいから、しゅうちゅうしなきゃ」

「少しずつ刺していきましょう」

「うん」

 俺がソファーに座って刺繡をしていると、コッコちゃんは足元に集まってくる。

「コッコ?」

「クックック」

「ししゅうなのら」

「ククッ」

「コッコッコ」

「おしょとは、いかないのら。あぶないんらって」

「クック?」

「けものがでるから」

「コッコ」

「クックック」

「え、しょう?」

「ココッ」

 本当、誰と話してるんだって感じだよ。コッコちゃんが、普通に話しかけてくるからね。返事をする俺も俺だけど。コッコちゃん達も、もうお友達なのだ。何をしてるの? お外に行かないの? 良い天気だから気持ちいいよ~。なんて、話しかけてくる。獣が出るらしいから、危ないよ。と、言ったら、そういえば昨夜気配がしたな。と、話している。コッコちゃんは、弱っちいから獣の気配には敏感らしい。気付いていたけど、その時に鳴いて知らせたりはしなかったということは、獣は家がある方へは近付いて来ていないということなのかな?

「こっこちゃん、はたけのほう?」

「コッコ」

「ぴか、しょう?」

「わふん」

 ピカも、そうだと言っている。ん~、やっぱ出てきているみたいだ。畑のお野菜が目当てなのだろう。罠でも仕掛けるか? リア姉とレオ兄に頼んで狩ってもらうか?

「れも、よるなんら?」

「ククッ」

「しょっか」

 夜中に気配がしたらしい。そんな話をしながら、手は動かしている。チクチクとね。

 自然な蔓のカーブが難しい。大きく、うねらせているから。

「ん~、むじゅかしいのら」

「ああ、坊ちゃま。そういう時はですね……」

 マリーに少し教わる。なるほど~。

「しょっか。ここをこうしてぇ……ちょびっとかさねてぇ……」

「そうです、そうです。お上手ですよ」

「ふふん、ありがと」

 いい感じだ。糸の色を何種類も使っている。葉っぱより蔓の方が、先っぽより根本の方が濃い緑にしている。緑色で濃淡をつけたい。本格的なのだよ。

 でも、刺繡は午前中でおしまいだ。何故なら……

「ロロー! 来たよ~」

 ほら、またディさんがやって来た。今日は、一緒に教会へ行くのだ。教会で待っていてくれても良いのに、ディさんはお迎えに来てくれる。ディさんだって、心配性になっているからだ。

「でぃしゃん、こんちは~」

「あ、刺繡をしてくれてたの?」

 テーブルに出してあった、糸や布を見てディさんは覗き込んできた。

「しょうなのら。まら、みたららめ」

 俺は体でそれを隠す。まだ見せられない。

「えぇー!? どうして?」

「れきあがるまれ、ひみちゅ」

「そうかぁ~、秘密かぁ。アハハハ」

 笑いながら俺を抱き上げる。ディさんの見た目は、とってもスマートで細い。でも、俺を抱き上げる手は力強い。安心感がある。

「でぃしゃん、おひるたべた?」

「まだだよ」

「いっしょにたべるのら」

「うん、ありがとう~」

 そう言いながら、お外に出て行く。ディさんの向かう先は、もちろんニコ兄の野菜畑だ。

 抱っこから下ろしてもらって、ディさんと一緒に畑の中を歩く。

「立派だね。葉が艶々している」

「にこにいは、じょうじゅ?」

「うん、凄く上手に育てているよ。こんなに美味しいお野菜を、この国で食べられると思わなかったよ」

 ん? 『この国で』と言った。

「でぃしゃん、どこがうまうまなの?」

「お野菜のことかな? それはね、エルフの国だよ。お野菜もお魚やお肉も、凄く美味しいんだ。パンだってそうだ。だから、僕はこの国で初めて食事をした時に驚いたんだよ」

「へぇ~。うまうまじゃなかったの?」

「美味しかったよ。でもね、エルフの国はもっと美味しいんだ」

 それは凄い。是非とも食べてみたい。エルフの国かぁ。遠いのだろうなぁ。

 気付いたら、ディさんは手に沢山お野菜を持っていた。

「あらあら、ディさん。これに入れて下さい」

「マリー、有難う」

 マリーが大きな籠を持って来た。もうよく分かっている。

 大きな籠いっぱいに、お野菜を入れてキッチンへ持って行く。ディさんは袖をまくってやる気だ。

「葉っぱが大きくて艶々してるね~」

 なんて言いながら、鼻歌交じりにバシャバシャとお野菜を洗っている。

「お昼はサンドイッチにしましょうか?」

「まりー、たまごさんろがいい」

「はいはい。コッコちゃんの卵ですね」

「うん、ふわっふわにやいて」

「ふわっふわにですね。分かりましたよ」

 俺はテーブルの上をお片付けだ。庭先で日向ぼっこしていた、コッコちゃん達が中に入ってくる。

 ジューッと、卵を焼く音がして良い匂いがしてきた。

「コッコ」

「ククッ」

「しょうらよ。こっこちゃんのたまごら」

 何してるの? いい匂いがするね。と、話しかけてきた。

「コッコッコ」

「クック」

「らね、しょれはちょっとね」

 ふふふ。良い匂いだけど、自分達の卵は食べる気がしない。と言っている。そりゃそうだよね。自分達が産んだ卵だからね。

 お昼に、マリーが作った大きな卵サンドを食べた。ディさんは、自分で作った特盛サラダもムシャムシャ食べていた。それから教会へ向かった。マリーとディさんに手を繫いでもらう。俺達の後ろにはピカだ。いつもと違う感じで、ちょっぴり嬉しい。なので、俺の得意技スキップを披露しようではないか。

「えへへ」

「アハハハ。ロロ、ご機嫌だね」

「あらあら。ロロ坊ちゃま、つまずきますよ」

「わふッ」

「ぴか、らいじょぶら」

 はしゃいでいると、帰りに疲れちゃうよ? と、言われた。

 ピカまで心配性だ。チロはいつものように、俺のポーチの中でお昼寝だ。

 ずっと眠っているのに、家に置いて行くとねちゃう。チロも一緒に行きたいらしい。

「こっこちゃん、げんきかなぁ?」

「元気だよ。試しに卵を温めてもらってるんだ。孵化しているか、楽しみだ」

「へぇ~」

 もう、そんなことをしているのか。ほんの数日前に、話していたところなのに。

「次の日に、早速ビオ爺に相談したんだ」

「成功したら良いですね」

「ね、本当だよ。そしたら、いい特産品になるかも知れないしね。それに何と言っても、子供達が中心になってできることなんだ。こんないいことはないよ」

 なるほど、なるほど。この街の産業にできるのだね。それは良いことだ。ルルンデは、卵の美味しい街として有名になっちゃったりしてね。

 さすがに街中をコッコちゃんが歩いたりはしないだろう。いや、どうだろう? 不安だなぁ。

「そうそう、エルザが話してましたよ。『うまいルルンデ』で、コッコちゃんの卵料理が好評なんですって」

「そうなんだよ。毎日数量限定で提供しているんだけど、すぐになくなっちゃってさ」

 へえ~、なら『うまいルルンデ』のコッコちゃんは、元気に卵を産んでいるのだね。

 ディさんが『うまいルルンデ』のコッコちゃんの話をしてくれる。

「オスカーさんに懐いちゃってさ。勝手に柵から出て来て厨房に入ってくるんだって」

「うちと、いっしょら」

「そうだね~」

「ふふふ。コッコちゃんはお利口さんですからね」

 平和な話をしながら、街の中を歩いて行く。もう、教会が見えて来たのだ。

 卵はどうなっているのかなぁ?

「びおじい、こんちは~」

 と、手をふりふりしながら入って行く。

「ビオ爺、卵はどうかな?」

「変わりないなぁ。全然孵る気配がないんだ」

 そんなに早く孵らないだろう? 鶏さんの卵って、孵化するのに何日掛かるんだっけ? こんな時には、ググりたいよね~。無いけど。

「そうかぁ。1週間もあれば孵るはずなんだけどなぁ」

 はやッ! たった1週間で孵化するのか? たしか鶏さんはもっと掛かるはずだぞ。

「ロロ、コッコちゃんは魔鳥だからね」

「しょうらった」

 それでもだ。毎日最低2個卵を産んで、1週間で孵化していたら凄い数になるのじゃないか? 森の中がコッコちゃんだらけになっちゃう。あっちにもこっちにもコッコちゃん。そうなったらまた捕まえるぞ。

「卵の時点で狙われて食べられちゃうんだ。無事に孵っても、ひなのうちに食べられたりするし。コッコちゃんは、弱いからなぁ」

 おふっ、それは可哀想だ。沢山卵を産んでも、全部が無事に孵らない。その上、食べられちゃうなんてさ。きっと美味しいって、魔獣も知っているのだろう。

「卵を温めていても、危険が迫ると放棄して逃げちゃうから余計だよ」

 あらら。そんなに弱いのか。じゃあ、飼っている方が安全で良いのではないか?

「ビオ爺、僕が見てみるよ」

「おう、頼む」

 みんなで、教会の裏に出る。広場の片隅にある畑の近くに、コッコちゃんの柵が作ってある。なのにコッコちゃんは、そこにはいない。

 外に出て、木陰に集まってお昼寝していた。やっぱ、出ちゃうのだ。どこも一緒らしい。

「ハンナ、卵はどこかな?」

「あら、ディさん。ロロにマリーさんも、いらっしゃい」

「こんちは~」

 手をふりふりしている俺に、ひまわりのような笑顔で手を振り返してくれる。ハンナはいつも、太陽のような明るい笑顔だ。

「卵は今、子供達が見ていますよ」

「中かな?」

「はい、どうぞ」

 俺達が、孤児院の中へ入って行くと、コッコちゃんが後を付いてきた。

「コッコッコッ」

「クック」

 ここのコッコちゃんもお喋りだ。人見知りってしないのかな?

「うん、げんきらった?」

「ククッ」

「コケッ」

「しょっか、よかったのら」

 元気だよ。ここは安全だから良いね。と、話している。ね、やっぱ安全がいいよね。

 なら、森のコッコちゃんも保護しちゃうか? 捕まえられたらの話だけど。

「ロロ、それは駄目だ。森の生態系を壊したら駄目なんだ。分かるかな?」

「うん、わかるのら」

 そっか。コッコちゃんしか捕まえられないような、弱い獣や魔獣もいるのだろう。そんな獣や魔獣にとっては、コッコちゃんは大切な食料だ。

 それに、コッコちゃんが草を食べるから、森が保たれているということもあるのだろう。

「ロロは賢いね」

 ディさんが、頭を撫でてくれる。まるで、親目線だ。最近、ディさんは父性に目覚めたのかな?

 孤児院の中に入って、みんなが集まっているリビングのような部屋に行く。そこに子供達が集まっていた。

「あ、ディさん。ロロ、マリーさん」

「卵はどうかな?」

「ん~、駄目だと思う。冷たいんだ」

 いつも遊んでくれるニルスが言った。よく観察して考えている。いくら温めても冷たいままらしい。子供達は、布を何枚も重ねて30センチはあるだろう大きな卵を大事そうに温めていた。交代でずっと付いていたらしい。

「どれどれ、ちょっと見せてね」

 ディさんのエメラルドの瞳がキラランとゴールドに光った。もう覚えたぞ。精霊眼だ。

「ふふふん」

「ロロ、何自慢気に胸張ってんだよ」

「しぇいれいがんなのら」

 言ってやったぜ。堂々とさ。どう? ちゃんと覚えていただろう?

「ロロ、みんな知ってるぞ」

「ありゃりゃ」

 なんだよ、そうなのか。せっかく、教えてあげようと思ったのにぃ。

「ああ、本当だ。駄目だ、孵化しないね」

「ええー、ちゃんと交代で温めてたのになぁ。ディさん、何でだ?」

「ん~、どうしてだろう? ただ温めているだけじゃないのかも知れないね」

 流石のディさんでも、そこまでは分からないか? なら、俺が提案してあげよう。

「こっこちゃんが、あたためてるとこを、でぃしゃんにみてもらうのら」

「なるほど、そうしようか。いい考えだね」

 な、いい考えだろう? ふふふん。

 明日は、卵を2個だけ取らずに残しておく。温め始めた頃にディさんが、うちまで見に来るという計画だ。今日はコッコちゃんの卵は、ただ温めるだけでは孵らないと分かった。それだけでも、進歩だ。そして俺とマリーは家に帰った。ディさんとはギルドの前でさよならだ。

 コッコちゃんは、卵を産んですぐに温める訳ではない。朝イチに卵を産んだら、お腹が空くらしい。朝ご飯を食べてお水を飲む。それから、今日も平和でいいね~なんて言いながら一休みしてから『じゃあ、そろそろどっこいしょ』と、卵を温め始める。

 なので、いつもはそれまでに卵を貰っちゃう。しかも、一日中ずっと温めている訳ではない。自由に柵の外に出て、お昼寝していたりする。結構、アバウトだ。

 いつも思うけど、ディさんの『精霊眼』はいいなぁ。俺も欲しい。今度女神に聞いてみようかな?

 俺とディさんが綿密に立てた計画だ。コッコちゃんが実際に卵を温めているところを見ようと。なのに、次の日起きてみると……

「ピ……ピヨピヨ」

「ピイ」

「え……?」

 畑の緑が青空に映えて、生き生きとして見える爽やかな朝の空気の中、何故か淡い黄色のひよこさんが2羽。コッコちゃんの後を付いて、ピヨピヨと鳴きながらヨタヨタと歩いている。俺は驚いちゃった。思わず呆然としたのだ。

「まりー、なんれ?」

「朝起きたらもういたんですよ」

「えぇー?」

「多分、当番の誰かが卵を回収し忘れたんでしょうね」

「あー」

 そうなのか。一体誰なのだ? あんな大きい卵をよく見過ごしたのだ。

「きっと、お隣のドルフ爺さんですよ。ちゃんと見ていないんですよ。丁度この1週間はドルフ爺さんの当番でしたから。わらが被さっていたりすると見落とすんです。ドルフ爺さん、前にも1個取り忘れていたことがあったんです。その時はセルマお婆さんが気付いたのですけどね。今回は偶々見過ごしたのでしょう」

「しょうなんら」

 うちのご近所さんだ。うちを含めたご近所さんの何軒かが1週間交替で、コッコちゃんのお世話をして順に卵を回収している。その内の一人だ。

 マリーやビオ爺よりも年上のドルフ爺。いつもニット帽みたいな形の、布でできたワッチキャップをかぶっている。その下からクリンとした癖のある、白髪とグレーの交じった髪が見えている。噂では、頭のてつぺんに髪がないらしい。その奥さんが、セルマ婆さんだ。マロンブラウンに白髪の交じった髪を、シニヨンにまとめている。セルマ婆さんは、時々一緒にうちの前の軒下でウトウトとしている日向ぼっこ仲間だ。二人共、俺達を孫のように可愛がってくれる。

 その向こうは、ドルフ爺の長男夫婦の家だ。ドルフ爺と一緒にお野菜を育てている。次男夫婦は街の中心部で店を出している。その店で、畑で採れたお野菜を売ってもらっている。

 ニコ兄は、このドルフ爺の畑も手伝っている。ちょっと忘れっぽい爺さんなのだけど、意外に博識だ。平民でこの年なのに読み書き計算ができる。そして、ニコ兄の良いアドバイザーになっている。以前、森から持って帰ってきた白いマッシュ。あの名前も知らなかったマッシュに、ドルフ爺は一目見るなり食いついた。

「こ、こ、これはぁッ! リカバマッシュじゃねーかぁぁーッ! ぶゅひょッ」

 最後の『ぶゅひょッ』てのは、入れ歯が飛び出しそうになって慌てて出た声らしい。それくらい驚いていた。そうか、ドルフ爺は入れ歯なのか。硬いものが苦手なのは知っていたけど。とにかく元気な爺さんだ。

 白い大きなマッシュは、リカバマッシュというらしい。ニコ兄はドルフ爺と一緒に、そのリカバマッシュを栽培しようと試行錯誤している。

 まず、持って帰ってきたリカバマッシュが生えていた木だ。それを日陰で乾燥し始めた。

「マッシュってのは菌から生えてくるんだ。その菌が育つのにこの木が大事だ。どの木でも良いって訳じゃない。よく持って帰ってきた!」

 そう言って、テンションマックスだったらしい。ニコ兄が、頭をクッシャクシャに撫で回されたと話していた。それから何を思ったのか、ニコ兄と二人でドングリを拾ってきて粉々に潰し出した。その上に、マッシュを伏せて置いた。よくそんなことを思いついたものだ。多分だけど、ドングリの粉にマッシュの菌を移しているのじゃないかな?

 今は、そこまでだ。木の乾燥具合がまだ納得できないらしい。

 それよりも、コッコちゃんだ。雛が2羽、元気に歩き回っている。大きな白いコッコちゃんの足元を、ヨタヨタと歩く淡い黄色の雛。しかも、揃って俺を目指してくる。

 黄色い雛が2羽、テケテケと歩いて来る。可愛いったらありゃしない。

「ひょぉ~! かわいいのら~!」

「ピヨ?」

「ピヨ」

 俺が外に出ると、親鳥と一緒にヨタヨタと近寄って来る。雛と言っても大きな魔鳥さんの雛だ。ひよこよりもずっと大きい。だって卵自体が大きいのだから。20センチ程はあるのかな? 俺の両手よりも大きい。でも、フワッフワだ。淡い黄色の雛の毛、ようと言うのかな? 大人のコッコちゃんと全然違うのだ。

「かぁわいいね~」

 思わず雛の頭をナデナデしてしまう。

「ピヨ」

「ピピ」

 うん、まだ何と言っているのか全然分からないぞぅ。誰か通訳して欲しい。

「コッコッコ」

「しょうなの?」

「ココッ」

 まだ赤ちゃんだから、コッコちゃん達でも何を言っているのか分からないらしい。それにしても、どのコッコちゃんの雛なのかな?

「クククッ」

「えぇー」

「コッコ」

「ほうほう」

 コッコちゃんも、どの親の雛なのか分からないらしい。そんな感じなの? とってもアバウト過ぎないですか? でも、みんなで一緒に育てるんだって。それは良かった。

 そしてディさんがやって来て、コッコちゃんが実際に卵を温めているところを精霊眼で見た。

「信じられないや。そうだったんだ」

 ディさんが何かに驚いている。どうした? 教えて欲しいのだ。もうみんな仕事に出ていて、俺とマリーしかいない。そのマリーと二人並んで、ディさんが説明してくれるのを待っている。みんなで、コッコちゃんの柵を見つめてさ。ピカさんは、いつものように玄関の前で寝転んでいる。そのピカの上にチロが寝ている。いつもの定位置だ。

「でぃしゃん、しょれれ?」

「ああ、そうだね。説明しよう」

 ディさんが、精霊眼で見た結果を話してくれた。なんとコッコちゃんは、卵に魔力を与えながら温めていた。それも、ごく微量の魔力らしい。コッコちゃんは、魔鳥さんだから魔力は持っている。でも、本当に少ししかない。だから、魔法も使えずとっても弱っちい。それでも、持っているのだ。魔力を。その魔力を与えながら温めている。さすが、弱くても魔鳥さんだ。

 コッコちゃんの、真っ赤な鶏冠の前に小さな豆粒ほどの角がある。これは魔鳥さんだからだ。

 この角が大きい程、力が強く魔力も多いらしい。コッコちゃんの角は豆粒ほどだ。それだけ弱いということになる。それにしても、ディさんの話を聞いて俺は驚いた。

「ぴょぉーッ!?

「まあまあ! 驚きですね!」

「本当、びっくりしたよ。コッコちゃんの生態って分かっていないからね」

 マリーも驚いているけど、実際に精霊眼で見たディさんも驚いている。コッコちゃんの生態を研究しようにも、逃げ足が速くてなかなか捕まえられなかった。だから、詳しいことは殆ど解明されていないらしい。

「コッコ?」

「クックックッ」

「え? しょうなの?」

「ククッ」

「ロロ、コッコちゃんは何て言っているんだい?」

「こっこちゃんも、しらなかったって」

「そうなの?」

「しょうらしいのら」

 きっと無意識だったのだろう。ただ無心にコッコちゃんは卵を温めていただけだ。親心だね。

「ロロ、どうした?」

「こっこちゃんも、けなげなのら」

「ん? そうかい?」

 だって、大変だよ? ずっと温めるのは。

「ロロ、魔鳥だからね。普通の鳥さんとは少し違うんだ」

 なんだと? どう違うのか? 普通の鳥さんは卵の上に座り込みお腹に抱えて温める。何日も掛かるだろう。何日掛かるのか知らないけど。でも、コッコちゃんの場合は違う。すぐに抱卵しなくても大丈夫なのは同じらしいが、コッコちゃんの場合はずっと温めている訳ではない。

 朝昼晩と、定期的に温めるだけで孵化するらしい。それも、たった1週間でだ。

「だから今まで回収し忘れていても、次の人が回収すれば雛にはならなかったんだろうね。今回は偶々だろう」

 じゃあ、俺達が人工的に孵化させる時にも、魔力を少し流さないといけないのかな?

「実験してみようね」

 ディさんが人差し指を立てて、バチコーンとウインクをした。だから、超イケメンのディさんのウインクは目に悪い。チカチカするぞぅ。

「孤児院では、ニルスとハンナに温めてみてもらうよ。二人の魔力量が違うし、魔力操作の熟練度も違う。良い実験になるんじゃないかな。でね、ロロも実験してみてよ」

「ボク?」

「そう、1日に3度。朝昼晩に少しだけ魔力を流しながら温めてみて」

「ろうやってあたためるの?」

「そうだなぁ、孤児院と同じようにしようか?」

 孤児院では、いらなくなった布でくるんでいた。じゃあ、俺も同じようにしよう。実験するなら、同じやり方が良いだろう。

「興味深いよね。ロロが温めた卵が孵るのが楽しみだ」

 どういう意味なのかな? 俺、特別なことはしないぞぅ。と、思っていた時期もあったよね……。俺はまだ自分が、分かっていなかった。俺が卵を温め始めてから丁度1週間後。無事に雛が孵った。

「ピヨ!」

「ピヨヨ!」

「ピピッ!」

 そうなのだ。俺が魔力を流しながら温めていた卵が3個孵った。で、それを聞きつけたディさんがやって来た。満面の笑みで嬉しそうだ。

「ギルドでリアとレオに聞いたよ! やっぱロロなら、やってくれると思ったよー!」

 なんて言っている。何故なら、俺が温めていた卵から孵った雛が他の雛より一回り大きかった。しかも、色が淡い黄色ではなく、鮮やかな濃いオレンジ色をしている。それに、とっても元気だ。

 歩き方が違う。ヨタヨタではなく、テケテケテケと走って来る。と言うか、走り回っている。

 俺を見つけると、我先にとダッシュでやって来る。どうしてなのだ? どうしてこうなった?

「アハハハ。予想していたんだよ!」

「えぇ~、でぃしゃん」

「だって、ロロは魔力量が多いだろう。だからだよ」

 ディさんは確信犯だった。先に言って欲しい。ディさんが雛の様子を見るためとか言いながら、片手には野菜が沢山入った大きな籠を持っている。どっちがメインなのかな?

 雛じゃなくて、ニコ兄のお野菜目当てなのじゃないか? 露骨すぎる。最近ディさんは毎日来ている。もう、うちに住んじゃえばいいのに。て、位だ。ディさんなら大歓迎なのになぁ。

「増えたね~」

「しょうなのら。おやしゃいも、たくしゃんたべるのら」

「そうなんだ。ねえ、ロロ」

 なにかな、ディさん?

「ロロは忘れているかも知れないけど、コッコちゃんてお肉も美味しいんだよ」

 ディさんがそう言った途端に、コッコちゃん達は一斉にぴゃーッとピカの後ろに避難した。コッコちゃん達は言葉が理解できる。だから身の危険を感じたのだろう。

 のべっと寝そべっているピカに隠れているけど、目から上と尾羽が出ている。しかも、冠のような赤い鶏冠と尾羽がプルプルと震えている。明らかにディさんを警戒している。

「アハハハ! 隠れちゃった」

 ディさんも笑っているから、食べるつもりなんて全然ないみたいだ。

「でぃしゃん、むり。かわいしょうなのら」

「だよね~」

 そうだよ。これだけ懐いてくれると、情も移るってものだ。日向ぼっこ友達なのだし。

「でもね『うまいルルンデ』ではお客さんから要望があるらしくってさ。孵化させて、食べ頃になったら1羽食べてみようかって話も出ているんだ」

 それは、仕方ない。『うまいルルンデ』に任せよう。俺は飼ってるコッコちゃんを食べたりできない。て、だけだ。

「どこからか、貴族が聞きつけたらしくてさぁ。フォリコッコがいるなら、食べてみたいと言って来たんだって。コッコちゃんのお肉なんて珍しいからね」

「しかたないのら」

「え、そうなの?」

「らって『うまいルルンデ』に、ちゅれていったこっこちゃんは、もうおしゅかーしゃんたちのものなのら」

「へえ~、ロロなら反対すると思っていたよ」

 反対なんてしない。でも、何度も言うけど俺は食べられない。そんなの無理だ。だって、もうコッコちゃん達はお友達だ。それに雛から育てたら、もっと情が移ってしまうと思うのだ。

「アハハハ、そうだね。どっちにしろオスカーさん達が、孵化に成功したらの話だよ。今いるコッコちゃん達の卵は必要だからさ。看板料理になっているからね」

「うん。たまごも、うまうまらから」

「そうだよね~」

 ディさんと二人で軒下に座って話していた。ピカが寝そべっていて、背中でチロが寝ている。

「おや?」

 ディさんが何か気になったらしい。

「ロロ、あれは何かな?」

 ディさんが、指差した場所。そこには、ニコ兄とドルフ爺さんが実験している白いマッシュが見える。ドングリの粉の上に、並べて伏せてある白い大きなマッシュ。

「りかばまっしゅ」

「え? そう呼んでるの?」

「しょうなのら。にこにいと、どるふじいがじっけんしてるのら」

「ど、どるふじい?」

 そうなのだよ、ドルフ爺さんだ。俺達は、ドルフ爺と呼んでいる。

「あれ、本当はリカバリーマッシュって言うんだよ。状態異常から回復してくれるって意味で付けられたんだ。て、なんの実験なのかな?」

「りかばまっしゅを、しょだてるじっけんなのら」

「あれを育てるの?」

「しょうなのら。りかばまっしゅが、はえてたきがあるから、いけるかもっていってたのら」

「へぇ~、それは凄いお爺さんがいたものだね」

「しょうなのら。にこにいの、ししょうなのら」

「師匠?」

「しょうら。いろいろおしょわってるのら」

「それは凄い。ニコは良い子だからね」

「うん、しょうなのら」

 この辺りのじーちゃんやばーちゃんに、一番可愛がられているのはニコ兄だ。

 畑を手伝っていることもあるけど、ニコ兄は頑張り屋さんだし素直だから可愛がられている。

「あらあら、ディさん。来ていたのですか?」

「やあ、マリー」

「まあまあ、お茶でも入れましょうね」

 出た。マリーの必殺技だ。相変わらずだ。

「まりー、ボクはじゅーしゅがいい」

「はいはい。りんごジュースでいいですか?」

「うん」

 よっこいしょと腰を上げる。家の中に入って行くと、ピカだけでなくコッコちゃん達も付いて来る。親鳥7羽に、雛が5羽だ。大所帯になったものだ。

「コッコ」

「ピヨ」

「ピピ!」

「わふん」

 ああ、人間より多い。口々に話しかけてくる。

「まりー、ぴかとこっこちゃんも、ほしいって」

「はいはい、待って下さいね」

 賑やかだ。もう、足の置き場がないぞ。思い思いの場所で座り込むコッコちゃん達で、うっかりしたら雛を踏ん付けてしまいそうだ。

 ピカはいつも俺の側にいる。その周りにコッコちゃんだ。結局、俺の周りに集まっている。

「アハハハ! モコモコだね。でも、ここのコッコちゃんて臭いがないよね」

「ディさん、それはロロ坊ちゃまですよ。毎朝コッコちゃん達に、クリーンなさっているんです」

「ロロ、そうなの!?

「うん。ばっちいのはいやらから。いえのなかに、はいってくるし」

「アハハハ、そうか~!」

 最近、分かったことがある。ディさんは意外にも笑い上戸だ。よく、笑っている。釣られて俺達も笑ってしまう。良いことだ。家の中が明るくなる。

「孤児院と『うまいルルンデ』にも教えてあげよう」

 なんだ、みんな気付かなかったのか? 特に『うまいルルンデ』は食べ物を扱うのだから、余計に気を付けないといけない。清潔に保つことは大事、とっても大事なのだ。ただ『クリーン』と言うだけで何もかも綺麗になる。そんなの、超便利じゃないか。どんどん使っちゃおう。

「もしかしてロロは、コッコちゃんだけじゃなくて柵の中全体にもクリーンしているのかな?」

「しょうなのら」

「そっか~、そうかそうか~」

 何だろう? ディさんが嬉しそうな顔をしている。ニッコニコだ。

「ロロ、クリーンはとても汎用性が高い魔法だから、生活魔法とも呼ばれているんだ。ヒューマンでもある程度の年齢になったらみんな使えるようになる」

 ほうほう、そうなのか。そういえば、うちはみんな使える。

「だけどね、そんなに広範囲に使える人はあまりいないよ。だから、人前で広範囲には使わないようにね」

 そう言って、俺にまたバチコーンとウインクをする。長い睫毛で風が起こりそうだ。

「わ、わかったのら」

「うん、お利口だね」

 そうだったのか。知らなかった。俺は普通に柵いっぱいをクリーンしていた。だって、便利なのだから。それよりも、俺にはもう一つ考えていることがある。

 現在進行形の、小さな計画を発表しようではないか。

「こっこちゃんの、はねなのら」

「ロロ、羽根がどうしたの?」

「まいにちぬけるから、あちゅめてくりーんしゅるのら。はねでクッションちゅくるのら」

 俺の最近の日課になっている。コッコちゃんから、自然に抜け落ちる羽根を集めている。コッコちゃんの胸のところが一番フワッフワだ。でもタンポポの綿毛みたいにとっても軽いから、飛んでいってしまう。とっても勿体無い。だから、毎日ブラッシングして取っている。大きな羽は、じくが硬くて痛い。やっぱ柔らかい羽毛がいい。それを集めて、羽根のクッションを作るのだ。

 お墓参りに行く時、馬車に長く乗るからお尻が痛くなるってリア姉が話していた。お尻を守るために、クッションを沢山馬車に乗せる。それ迄に集まったらいいのになぁ、て考えた。

 コッコちゃんの羽根で作ったクッションで、リア姉のお尻を守るのだ計画だ。

「コッコちゃんの羽根でクッションか。ロロのその発想はどこからくるの? いいアイデアだね。売れるよ」

「え、しょう?」

「そうだよ。コッコちゃんの羽根で作ったクッションなんて売っていないからね」

 そりゃそうだろう。だって、今迄コッコちゃんを捕まえることができなかったのだから。

 ディさんと話をしていた俺達の目の前を、危なげな足取りでヨタヨタと横切った淡いピンク色した小さい雛……え? 雛? ピンク色してるぞ?

「ピピ」

「お……」

「え……?」

 思わずディさんと二人して、目が点になってしまった。

「ちょっ、ちょっと……ロロ。今度は何したの?」

「なんにもしてないのら!」

 いつも俺が、何かをしているみたいじゃないか。俺は知らないぞ。

 今回のピンクに関しては、本当に何も知らない。俺は3羽しか孵してないから分からないのだ。

「なんれぇ?」

「ロロ、色が違うよ?」

「でぃしゃん、みて、みて! しぇいりぇいがんれみて!」

 俺は思わず、ディさんの腕をバシバシと叩いて言った。だって気になるじゃないか。どうして1羽だけピンク色なの? って、思うだろう?

「アハハハ、分かった分かった」

 ディさんの、エメラルドの瞳がキラランとゴールドに光った。

「な、なんだって!? これはもしかして……まさか、チロか!? チロはどこに行った!?

 ディさんが大きな声で、呼ぶものだからピカの背中で眠っていたチロが、何事かな? え、ボク? と、頭を上げた。

「チロ! もしかして、チロが温めて孵したの!?

「キュルン」

 ま、マジかぁ。チロは、そうだよ~なんて吞気に返事をしている。

「このピンク色した雛は、回復魔法が使えるようになるみたいなんだ。回復と言えば、チロだからね。でもコッコちゃんの雛だから、魔力量は少ないんだ。多分軽い擦り傷を治せる程度だとは思うけど、大きくなってみないと分からないや」

「な、な、なんですとッ!?

「アハハハ! 本当にこの家は、どうなってんだよ~」

 いやいや、チロ。いつの間に温めていたのだ? ちょっとチロに聞いてみよう。

「キュル、キュルン」

「え、しょうなの?」

「キュルルン」

「えぇー、アハハハ」

「ねえねえ、ロロ。チロは何て言ってんの?」

「ちろは、たまごのうえれ、おひるねしてたんらって。ぽかぽかしてちょうろよかったって」

「アハハハ! お昼寝かぁ~!」

 チロは、何なのかな? と、キョトンとした顔をしている……ように見える。だって蛇さんだから、表情は変わらない。俺がそう思っているだけだ。

「なら、ロロが温めた雛ももう一度見てみよう。回復魔法が使えるようになるのかも知れない」

「しょう?」

「だって、ロロも回復魔法が使えるでしょう?」

 そうだった。レオ兄に、痛いの痛いのとんでけ~ってやったんだ。でも、その一度だけしか使っていない。また精霊眼で見ていたディさんが、濃いオレンジ色の雛を見て不思議そうに言った。

「あれれ? どういうことなの? ピカ、分かる?」

「わふッ」

 分かるって。頷いているよ。どうしたのかな? ディさんが雛を見たのに、ピカに尋ねている。

「ちょっと、教えてほしい」

 ディさんが、ピカと額をくっ付ける。そうしたら、ピカとお話しできるのだそうだ。

 テイムしていたら、念話で話せる。でもピカとチロは神獣だから、誰もテイムできないらしい。

「あー、ロロの魔力がそうなったんだ」

「わふん」

 何かな? 何なのかな? とっても気になるのだけど。ふゅ~、取り敢えずりんごジュースを飲んで、少し落ち着こう。足をちょっとプランプランさせながら。最近、情報過多だよね。次から次へと、コッコちゃんファミリーのことで何かしらあった。

 なのに、追い打ちを掛けるようにディさんが言ったのだ。

「ロロの魔力が多かったみたいだね。その魔力が、回復じゃなくて身体能力の方に影響したらしいよ。見るからに大きいし頑丈そうだもんね。動きも全然違う」

「へぇ~」

 俺かよ。そうなのか。やっぱ俺なのか。身体能力が高くなってるってことなのか。なら大きくなったら、コッコちゃんより強い魔鳥さんになるかもだ。

「むふふ」

「ロロ、なあに?」

「おおきくなるのが、たのしみなのら」

「アハハハ、そうだね~」

 そうだよ、まだ雛だから何もできないだろうけど。

「ピヨッ!」

「ピヨピヨッ!」

「ピヨヨッ!」

「しょうなんら、はやいんらね」

 ……って、え? 俺、今誰と話した? いやいや、コッコちゃんの雛はまだ言葉が分からないって言ってなかったっけ? え? マジ? 今確かに聞こえたぞ。コッコちゃんの雛の言葉だ。

 俺が温めて孵した、鮮やかな濃いオレンジ色の雛3羽が俺の足元に並んでいる。どうやらこの子達は、もう言葉が分かる。今、俺に話し掛けてきた。雛達が俺に訴えてきたのだ。

 数週間あれば大きくなるピヨよッ! すぐに役に立つピヨよッ! 任せるピヨねッ! なんて、言ってきたのだ。その言葉はどうかなぁ? まだ雛だから「ピヨ」て言ってるのかな?

「ピヨー!」

「ピヨピヨー!」

「ピヨヨー!」

 雛達が、お名前を付けて欲しいピヨと言ってきた。えぇー、俺は苦手なのだよ。ちゃんとテイムしてほしいピヨと、訴えてくる。しかも肉体派なのだろう? 先が不安で仕方がない。

「ぴか、どうしゅるのら?」

「わふッ」

 いいんじゃない? なんて、吞気に言っている。

「ちょっとちょっと。何て言ってるの? 僕にも教えてよ」

「でぃしゃん、あのね」

 と、俺はディさんに話した。この3羽の雛は、もうしっかり話しているということと、お名前を付けてちゃんとテイムして欲しいと言っていると。

「ああ、そっか。コッコちゃん達には名前を付けてないもんね」

「しょう。お名前がほしいピヨっていってるのら」

「アハハハ! 何その喋り方! そんな喋り方をしているの?」

 そうなのだ、雛達が本当にそう言っているのだから仕方がない。すると、知らん顔して眠っていた親コッコちゃん達がピクッと顔をあげて、みんな俺の足元にやって来た。

 大人のコッコちゃん達も俺に訴えてきた。

「コッコ」

「コケッ」

「クククッ」

「えぇッ!?

「なになに? もしかして、コッコちゃんみんなが名前を付けてって言ってるの?」

「しょうなのら。しょれはむりなのら」

 だってどのコッコちゃんなのか、全然見分けが付かない。みんな同じに見えるのだから。

「ククゥ」

「コケコ」

「ココッ」

 それは駄目だね。まさか見分けが付かないなんてね。本末転倒だよね。と、言われちゃった。もうこの際だから……

「ばんごうなら、らめ?」

「クク~」

「コケコ」

「クックック」

 あれれ? なんだか少し不味まずく感じるのは気の所為かな? ジト目で見られている気がする。

 そんなの名前とは言わない。番号なんて有り得ない。ぜんしつしようだ。と、言われちゃった。ほらまた難しいことを言っている子がいるぞ。四字熟語なんて、どうして知っているのだよ。

「らって、こっこちゃんは、みんなこっこちゃんなのら」

「コッコ~」

「クックック」

「コケッ」

 仕方ないね~。同じ仲間だから仕方ない。許容範囲だ。だって。みんなコッコちゃんだということで、納得してくれたらしい。コッコちゃんが、そう言ったその時だ。コッコちゃん達の体が、ペカーッと光った。そして羽をバタつかせながら、コケーッと一鳴きした。

「アハハハ!」

 それを見ていたディさん。何故かお腹を抱えて大爆笑だ。笑い上戸なのだ。って、いやいや、それどころじゃない。

「でぃしゃん、こっこちゃんがぺかーって」

「そうだね、これで本当にテイムしたことになるんだろうね。アハハハ!」

 ディさん、涙を溜めながら笑ってるよ。そんなに可笑しいことなのか? 俺は訳が分からないぞ。

 ディさんが、説明してくれた。森で、手を翳して『お座り』と言った。あの時には光らなかった。コッコちゃんが『お座り』で大人しくなったから捕まえられただけのことだったらしい。(仮)のテイムのようなものだ。それでも、能力に見合わないと駄目らしい。コッコちゃんが受け入れないと座らない。(仮)にもならないのだ。

 本当にテイムすると、さっきみたいにコッコちゃんの体が光るそうだ。なら、『うまいルルンデ』や教会でもテイム(仮)の状態なのか? だってコッコちゃんは、光っていなかったよね。それでも良いのかな?

「ギルドで登録しているし、コッコちゃんはお利口さんだから大丈夫だよ」

 大丈夫ならいいのだけど。それにしても、最近コッコちゃんフェスティバルだ。毎日毎日、何かとコッコちゃんに振り回されている。まあ、これだけの数がいて、その上雛まで生まれてしまったのだから仕方ない。なのに、俺の野望が叶えられていない。そう、コッコちゃんに乗ることだ。

 未だにピカが許してくれない。どれだけ心配性なのだ。

「ボクは、こっこちゃんにのりたいのら」

 思わず、腕組みをしてしかめっ面で訴えた。

「ロロは、ずっと言ってるね」

「しょうなのら」

「わふ」

「わかってるのら」

 ほら、ピカがすかさず「駄目だよ」と言ってくる。本当、大丈夫なのに。

「わふん」

「わかったのら」

 乗りたいなら僕が乗せる。だって。今はピカで納得しとくよ。心配掛けたくないから。

 さて、俺が孵化させた鮮やかな濃いオレンジ色の雛3羽だ。この子達にはお名前を付けなきゃと思っている。だって、俺が孵化させたのだから。

 でもなぁ……んー……フォリコッコだろう……んー。

「ふぉーちゃんと、りーちゃんと、こーちゃん」

 なんて、なんとなく口に出したら、3羽の雛がペカーッと光ってしまった。いやいや、待って。ちょっと待って。

「らめ! いまのなし!」

「わふ」

「えー、らってちょっと、いってみたらけなのら」

 もう名付けしちゃったね。と、ピカに言われてしまった。そんなぁ。あまりにも、適当すぎるだろう? だって、フォリコッコを一文字ずつ分けただけなのだよ。

「ピヨッ!」

「ピヨピヨッ!」

「ピヨヨッ!」

「しょうなの?」

 気に入ったピヨね! と、本人が言っているからもういいっか?

「アハハハ! ロロ、それはないだろう!?

「れも、でぃしゃん。もうちゅけちゃった」

「みたいだね。光っちゃったもんね」

「しょうなのら」

 当の3羽は、ピヨッピヨッと鳴きながら少し飛び跳ねている。おやおや、まだ雛なのによく動けるのだね。うん、そんなところが他の雛とは大違いだ。

 淡い黄色の普通の雛はもっと大人しい。親コッコちゃんに紛れて、俺の側でじっと見ている。

「かぁわいいね~」

 思わず、雛の頭をナデナデしてみた。小さくて可愛い。幼羽がフワッフワだ。俺の手に頭を擦り付けてくる。すると、オレンジ色した3羽の雛が反応した。

「ピヨッ!」

「ピヨピヨッ!」

「ピヨヨッ!」

 本当に元気だね。自分も自分も。ナデナデしてピヨ! と、飛びついてきた。ジャンプできるのだね、まだ雛なのに。

「ほんとうにいいの? ふぉーちゃんと、りーちゃんと、こーちゃんらよ?」

 まあ、本人……いや、本鳥が良いなら良いんだけど。我ながら、とっても安直だ。もっと捻りやこだわりが欲しい。思いつかなかったのが丸わかりじゃないか。

 近所のじーちゃんやばーちゃんに、考えてもらった方が良かったのではないか?

 付けちゃったものは仕方がない。取り敢えず、おリボンで区別しよう。大きくなって、違いが分かるようになるといいのだけど。

「まりー、おリボンちょうらい」

「はいはい。3色ですね」

「うん、しょうなのら」

 マリーが出してきたのは、赤、青、緑色のおリボン。

 フォーちゃんが赤色、リーちゃんが青色、コーちゃんが緑色のおリボンだ。うん、可愛いよ。とっても似合ってる。

 朝から、コッコちゃんパラダイスだったその日。ディさんと一緒にお昼を食べた。

 相変わらず、特盛サラダをモッシャモッシャと食べている。

「ああ、幸せ! ニコのお野菜はとっても美味しい!」

 良かったね。ディさんが来るようになってから、賑やかになった。楽しくてついつい足をプランプランとしてしまう。お行儀悪いよ、とレオ兄に叱られてしまいそうだ。

「マリー、午後から予定はあるのかな?」

「いえいえ、特にありませんよ」

「じゃあ、ロロがお昼寝から起きたら『うまいルルンデ』と教会に行こう」

「でぃしゃん、こっこちゃんをみるの?」

「そうだよ。雛が産まれているだろうからね」

「うん、たのしみなのら」

 そっか、孤児院の子供達は上手く孵化させられたのかな? 『うまいルルンデ』は本当に食べてしまうのかな? そんなことを考えながら、お昼ご飯を食べ終わると俺はお昼寝だ。

 最近はディさんがベッドに運んでくれる。時々、一緒に隣で眠っている。添い寝というやつだ。

 ある日お昼寝から起きたら、目の前にディさんの超綺麗なお顔があってビックリした。

 ふふふ、父さまもこんなことをしたのかな? なんて、ちょびっと思ったりした。