翌日、早速コッコちゃんを届けに行く。それにディさんが付き合ってくれる。うちだとコッコちゃんは大人しくしているけど、もしも、教会や『うまいルルンデ』で飼えそうもなかったら、うちに連れて帰ってくるんだって。

「誰か、テイムできそうな人がいれば良いんだけどね」

 なるほど~、そうだった。うちではレオ兄と俺がテイムしているらしい。たまたま、そうなった。

 まさか、掌を前に出すことがそうなるなんて思わなかった。だって全然知らなかったし、かっちょいいと思っただけだったのに。

「ロロ、レオ兄のそばを離れるんじゃないぞ」

「にこにい、らいじょぶなのら」

「ニコ、大丈夫だよ。ちゃんと見ているから」

「おう。じゃあ、いってくる!」

「おばあちゃん、いってきます!」

「あらあら、またお弁当を忘れているわよ」

「あ、ありがとう!」

 ニコ兄が何度も振り返りながら、畑に出掛けて行った。

 俺はニコ兄が、見えなくなるまで手をフリフリしていた。

「ニコは本当に心配性になっちゃったね」

「うん、しかたないのら」

「そうだね。もう少ししたら落ち着くだろう」

「れおにい、しょお?」

「うん、多分ね」

 多分かぁ~。それに、ニコ兄だけじゃないんだよなぁ。もっと手強いのがいるのだよ。

 さっきから俺にピトッとくっついて、俺のお腹をぷにぷにと触っている奴をジトッと俺は見る。

「なによ、ロロ」

「りあねえ、くっちゅかないれ」

「そんな冷たいこと言わないでよ」

 あれからリア姉が、やたらとくっついてくる。それも、お腹を触ったり、ほっぺにスリスリしながらだ。これは心配性と言うのか? 今迄遠慮していたのが、しなくなっただけではないのか? タガが外れたのではないか?

「みんなロロが大好きなんだよ」

「でぃしゃん、ボクもみんながしゅきら」

「ロロー!」

 ああ、ほら。ディさんと話しているのに、抱き着いてきた。しかもまた俺のお腹をプニプニしている。やめれ。

「れも、じゅっとくっちゅいてるのはらめ」

「ロロォ~」

「りあねえ、らめ」

「分かったわよぅ」

「アハハハ」

 ほら、ディさんも笑ってるぞ。シャキッとしようぜ。普通にしていたら、リア姉はどちらかというとクールビューティーなのだから。本当はちょっぴり脳筋気味なのを上手く隠せている。

「じゃあ、マリー。僕達も行ってくるよ」

「はいはい、お気をつけて。ピカ、ロロ坊ちゃまをお願いね」

「わふん」

 ああ、マリーも少し心配性になっている。マリーの目の前で、攫われたのだから仕方ない。

 リア姉とレオ兄に、手を繫いでもらって街まで歩く。トコトコと歩いて行く。俺達の前には、ディさん。後ろにはピカだ。完璧な布陣だよ。そして前を歩くディさんは、コッコちゃんが7羽繫がれた縄を持っている。7羽だよ。それはもうとっても賑やかだ。

 ずっと『コッコッコ』『クックック』と何かを話している。キョロキョロしながらだ。「どこに行くんだろうね~」とでも話しているのかな? でも、横に逸れたりせずちゃんと並んで付いてくる。お利口さんだ。街中に入ると、知らない人達が声を掛けてくる。

「チビ、無事で良かったな!」

「助かって良かったわ!」

「なんだ!? でっかい鳥だな!」

 と、声を掛けてくれる。やっぱ、コッコちゃんに驚いているよね。

「みんなしってるのら」

「そりゃそうだよ、街中で攫われたんだから沢山の人が見ていたんだ」

「しょっか」

「それに、ピカは目立つからね」

「ぴか?」

「そうだよ、こんなに大きなワンちゃんは見たことがないだろう?」

「ん~、ぴかしかしらない」

 それどころか、他のワンちゃんをあまり見た覚えがない。

「そうね、あんまり見ないわよね」

「ね~」

「わふ」

「え、しょうなの?」

「わふん」

 え、それは知らなかったぞ。

「ねえ、ロロ。ピカは何て言ってるの?」

「ぴかがいるから、わんちゃんはでてこないんらって」

 と、俺は通訳する。

「あぁ、ピカは神獣だからだろう。神獣は別格だからね、みんな恐れ多いんだよ」

「でぃしゃん、しょうなの?」

「うん、多分ね。獣や魔物ってそういうのが分かるんだよ。僕も分かるけどね」

 と、人差し指を綺麗なお顔の横で立てながら、長い睫毛の目でまたまたバチコーンとウインクをした。うッ……綺麗で眩しくて目がやられてしまう。

 ディさんは『神獣』と言う。泣き虫女神は『神使』と言う。呼び方は違うけど、神の使いやけんぞくだということに変わりはないらしい。俺は、よく知らないけど。『うまいルルンデ』に到着すると、目元の小さなホクロがちょっぴり色っぺー奥さんがいた。

 やっぱり今日も、胸のところに『うまいルルンデ』と店名の入ったエプロンをしている。

 それ、かっちょよくないぞぅ。どうしてそのデザインにしたのだろう?

「あら、いらっしゃい。無事で良かったわ、心配したのよ~」

「こんちは~」

 と、小さな手をフリフリする。

「メアリーさん、フォリコッコを連れて来たの」

「本当に捕まえてくれたの!?

「ええ、4羽置いていくわ」

「まあ、4羽も!? 嬉しいわ! 沢山卵料理を出せるわね」

「奥さん、毎日大きな卵を産むから楽しみですね」

 エルザだ。もうお仕事をしている。エルザはまだ18歳だから、朝から夕方までだ。暗くなるまでに帰ってくる。暗くなると、道中危ないから。

 夕方からは、また違う人がお仕事に来る。ご主人のいる厨房にも、もう一人料理人がいる。

「ププーのみもあるのら。ぴか、らして」

「わふん」

 ピカが、ププーの実をゴロンゴロンと幾つか出した。

「まあ! これがププーの実なのね! 甘い匂いがするわ」

「うまうまなのら」

「ロロ、有難う。元気そうで安心したわ」

 奥さんに優しく抱きしめられ、背中をポンポンとされた。なんだか、ふんわりと良い匂いがする。

 いつもお世話になっているし、心配も掛けてしまった。それより、メインはコッコちゃんだ。

「本当、楽しみだわ。ねえ、あんた!」

「おう! レオが来てんのか!? ロロはいんのか!?

 奥の厨房から、大きな声が聞こえてくる。

「一緒に来ているわよ!」

「おう!」

 返事をしたかと思ったら、すぐに厨房からご主人が出てきた。

「ロロ! 心配したぞ!」

「あい、ありがと」

 俺が攫われた時に、ご主人にはお世話になったらしい。ペコリと頭を下げておこう。有難うね。

「アハハハ、元気そうで良かった!」

「あい、げんきなのら」

 ワシワシと頭を撫でられる。ギルマスとは違うけど、大きな手だ。

「本当に、ロロが無事で良かった」

 なんだか、ウルウルした目で見られちゃったぞ。とっても肉体派な見た目なのに、涙もろいオスカーさんだ。

「オスカーさん、フォリコッコはどうしましょうか?」

「おう、リア。裏に回ってくれるか?」

「分かったわ。ディさん、裏ですって!」

「ディさんも来ているのか?」

 そうなのだよ。何故、ディさんが来ているのかも説明した。

 建物の外に出て、すぐ横に入り裏へ回る。『うまいルルンデ』の裏は、少し広くなっていて物置きや厩舎があった。お馬さんが2頭いた。それでも、コッコちゃんを飼えそうな広さは充分にある。その裏庭で、コッコちゃんのテイムを試そう。

「なるほど、テイムか。俺はできねーと思うぞ」

「魔力量が少ないからかな?」

「なんだ? ディさん、分かるのか?」

「うん、分かるよ。オスカーさんより、メアリーさんの方が魔力量は多いね。でも……オスカーさんは魔力操作で魔力量をカバーしているんだ」

 そんなことも分かるのか。さすが、なんとか眼だ。

「ロロ、精霊眼だよ」

「しょうらった」

「ぷふふ」

 レオ兄に笑われてしまったぞ。だって覚えてなかったのだ。

「まずは、オスカーさんで試してみよう」

 なるほど、なるほど。あの魔法の言葉を試すのだね。

「何すればいいんだ?」

「掌をフォリコッコに向けて……」

「おう、向けて……」

「目を見て言うんだ」

「おう、目を見てか……」

「『お座り』ってね」

「なんだ?」

「だから『お座り』だよ」

「ディさん、マジかよ……」

 大マジだ。俺はディさんのすぐ側で、ふむふむと頷く。

 さあ、張り切って言ってみよう。

「よし、目を見て……お座り」

「コケッ?」

「ありゃりゃ」

 コッコちゃんが、何かしら? と、首をヒョコッと傾けている。お座りしないパターンもあるらしい。リア姉と一緒だ。コッコちゃん4羽が何か言いましたか? て、キョトンとしている。

「おや、駄目だったね。あれ? オスカーさん?」

 オスカーさんが、何故かしゃがみ込み両手で頭を抱えている。プルプルと震えているぞ。どうした? そんなにショックだったのか?

「いや、マジで……超恥ずかしいぞ。真剣に言ったのによぉ」

 あぁ、そっちなのか。マッチョなオスカーさんが、超真剣に『お座り』と言うのはとても良かったよ。何が良かったのか分からないけど。

「ふふふふ」

 あ、奥さんが笑いを堪えきれてないぞ。肩が揺れている。

「じゃあ、メアリーさん。やってみようか」

「え? ディさん、あ、あたし?」

「そうだよ。オスカーさんが駄目だったんだから」

「えぇ~……」

 とっても微妙な顔をしている。メアリーさんが、戸惑っているから俺が良いことを教えてあげよう。

「でぃしゃんも、やったのら」

「マジか?」

「もちろんだよ。捕まえる時に僕もやったんだ」

 どうして、そこで目を伏せるのかな? 分からないなぁ。俺の世紀の大発見なのだぞぅ。

 コッコちゃんが、お座りするなんて知っている人はいないと思う。

「ロロ、大人は色々あるんだよ」

「れおにい、しょお?」

「そうね。座らなかったら、ちょっぴり恥ずかしいかもね」

 リア姉まで言うのだからそうなのか?

「わふん」

「え?」

 ピカさん、君は大人なのだね。

「ロロ、ピカは何て言ったの?」

「おとなは、ちょっとはじゅかしいって」

「ふふふ」

「あれ? ロロ、ピカに触れてないのに、何を言ってるのか分かるのか?」

 おやおや? そういえば、そうだ。今も、ピカに触れなくても分かったぞ。普通に会話していた。

「ありゃ……わかるのら」

「ロロ! いつから? どうして? テイムはしてないよね? ピカをテイムできるはずないんだ」

 ディさん、一度に幾つも聞かないで欲しい。

「えっちょぉ……おきてから?」

「ロロ、ちょっと見てもいいかなぁ?」

 ズズイと近寄ってくるディさんの目が怖い。

 ディさんのエメラルドのように綺麗な瞳が、ピカーンとゴールドに光り精霊眼で俺を見た。

「うん、やっぱりテイムはしてない。なのに、どうして? いや、それよりロロ。ロロはテイマーのスキルが生えてるよ。これは、コッコちゃんをテイムしたからだよね?」

 ディさんが、グイグイ来る。そんなことを言われても……

「しららい」

「ええー! 何でだよぉー!」

 だって、知らないものは知らない。そんな脱線はあったのだが、無事にメアリーさんがコッコちゃん達をテイムできたのだ。1羽ずつ順にだよ。俺みたいに何羽も同時になんて、普通はできないとディさんが言っていた。

 メアリーさんが『お座り』と言う度に、ヒョイッとお座りするコッコちゃんを見て、オスカーさんは大爆笑だ。やっている本人のメアリーさんまで、涙を浮かべなから笑っている。

「ワッハッハッハ! マジで座ったぜ!」

「やだぁ! 本当なの!?

 なんて、盛り上がっていた。いや、お腹を抱えて笑っていたのだ。でも見ていると、コッコちゃんはオスカーさんの方に寄って行っている。テイムできなかったのにどうしてなのかな?

「コッコッコッ」

「クックックッ」

 ほら、やっぱりだ。4羽がオスカーさんの足元に行くぞ。

 俺はディさんの側に行き、クイクイッと服の裾を引っ張る。

「でぃしゃん、こっこちゃんろうして?」

「ん? 何がかな?」

「こっこちゃん、おしゅかーしゃんのほうにいくのら」

 短いプックリとした指でコッコちゃんを指す。ほら、コッコちゃんがオスカーさんの足元に群がっている。

「おや、本当だね。オスカーさんの方が気に入ったのかな? テイムできなかったのにね」

「ね~」

「もしかして、雌寄りなのかな?」

「でぃしゃん、たまごをうむから、みんなメスなのら」

「ああ、ロロは知らないんだね。魔鳥には雌も雄もないんだ。両性なんだよ」

「ひょぉッ!?

 なんですとッ!? 両性具有らしい。これには驚いた。

 だから捕獲したコッコちゃんは、みんな卵を産むのか。

「そうだよ。フォリコッコはみんな卵を産むんだ。それだけ繁殖力が強いんだけど、なにしろ弱いからね。すぐに食べられてしまうんだ。卵だって狙われるからね」

「ありゃりゃ、かわいしょう」

「そうだね。もしかしたら、コッコちゃんは飼われる方が幸せかもしれないね。狙われないし、餌はもらえるし」

 ああ、だからなのか。どのコッコちゃんも打算的なことを話していた。

 もしかしたら、餌がもらえるかもと言っていた。コッコちゃんもきっと平和に暮らしたいのだ。

「おいおい、可愛いじゃねーか」

 オスカーさんが、懐いてきたコッコちゃんを撫でている。簡単に触らせて、本当に警戒心がない。

「お野菜のクズだけど、食べるかしら?」

 と、メアリーさんがお野菜を持ってきた瞬間に、コッコちゃんは「コケッ!」と反応し即行で移動した。見事な手のひら返しだ。

「コッコッコッ」

「コケッ」

 すぐにお野菜に食いついた。朝ごはん食べたところなのに、食いしん坊だなぁ。

「なんだよ、食い気かよー」

 オスカーさんは料理をしているから、もしかして良い匂いがしたのかな?

 とにかく、テイムできて良かった。もう馴染んでいるみたいだしね。

「後で、ギルマスに言っておくよ。テイムしているって証明の、チョーカーを着けるんだ」

「しょう、ぴかみたいなの」

「わふ」

 ピカが首を伸ばして、着けているチョーカーを自慢気に見せた。

「キュルン」

 鳴きながらチロが、俺のポシェットから尻尾を出した。ボクも着けているよ。と、言っている。起きていたのだね、いつも寝ているのに。

「え……?」

「あら……?」

「キュルン」

 今度はお顔を出してしまった。俺のポシェットから、チョロッとお顔を出している。出てきたら駄目なのに。もう、お顔を出してしまったものは仕方がないな。

「ちろ。へびしゃん」

 俺は、堂々とチロを紹介した。両手でポシェットを持って前にズズイと出してだ。

「アハハハ!」

「ロロ、駄目だよ。チロは蛇で、怖がる人もいるからって秘密だっただろう?」

 ディさんがめちゃ笑っているけど、俺はレオ兄に叱られちゃった。

「らって、ちろもちゅけてるって、みしぇたのら」

「ロロちゃん、この子はチロって言うの?」

 メアリーさんが聞いてきた。

「しょうなのら。おともらち」

「まあ、チロ。よろしくね」

「キュルン」

 なかなか柔軟性のある奥さんだ。蛇さんなのに、怖くないらしい。チロは可愛いからね。

「おいおい、蛇じゃねーか」

「まら、あかちゃんら。いちゅもねてるのら」

「そうかよ……て、まあいいか。チロ、よろしくな」

「キュルン」

 チロは可愛いのだ。ナデナデしてあげようではないか。短い指でチロを撫でると、チロは目を細めて頭を擦り付けてくる。

「キュル」

「アハハハ、めちゃ懐いているじゃねーか」

「らから、おともらちなのら」

「そうか、そうか! 友達か!」

 オスカーさんが、俺の頭をガシガシと撫でる。

「今日はありがとな!」

「リアとレオもね、有難う。ディさんも態々有難うございました」

「たまご、うまうまなのら」

「おう! また、みんなで食べに来な」

「そうね、待ってるわ」

 良かった良かった。コッコちゃんを、無事にテイムできたね。ププーの実も渡せたし。

「ディさん、メアリーさんはギルドに登録しているんですか?」

「あれ? レオは知らないのか?」

 ん? 何だろう? あ、そう言えば……冒険者ギルドに登録していないと、テイムしていることも登録できないじゃないか。

「オスカーさんとメアリーさんはね、元冒険者なんだよ。二人共、Cランクなんだ」

「「えぇーッ!?」」

 ありゃりゃ。Cランクなら、リア姉やレオ兄より強いじゃないか。

 道理で、オスカーさんのあの筋肉だよ。あのムッキムキの筋肉は、ただの料理人じゃないと思ったけどCランクなら納得だ。

「ぜんっぜん、知らなかったわ」

「今は活動していないのですか?」

「何言ってんだよ。『うまいルルンデ』で出るお肉は二人が狩っているんだ。なのに、もう現役は引退したとか言ってるよ。アハハハ」

「「えぇーッ!?」」

 またまた驚いた。自給自足じゃん。いや、違うか。元手ゼロじゃん。それが、『うまいルルンデ』のお値段に反映されているのかな? ボリュームがあって、お手頃なお値段だと評判だ。冒険者ご用達のお店なのだ。

「お肉はね。でも、お野菜は市場で買っているからさぁ。ニコのお野菜の方が美味しいんだよね~」

 うん、お野菜のことは聞いていない。お野菜大好きディさんにとっては、大事なことなのだろう。

 さ、次だ。教会に行こう。


「びおじい、こんちは~」

 俺は元気よく、教会に入って行った。手をフリフリしながらね。

「ロロか! ロロ! 大丈夫か!?

 やっぱ、ビオ爺も知っていた。

「げんきなのら」

「そうか! 話を聞いた時はびっくりしたぞ。無事で良かった」

「ありがと」

「ビオ爺、フォリコッコを連れて来たんだ」

「おお! あの魔鳥か!?

「そうそう。外から回る方がいいよね?」

「ああ、すまんがそうしてくれるか?」

 グルッと教会を回り込んで、裏庭に出るとハンナが子供達と遊んでいた。

「はんなー、こんちは~!」

「ロロ! もう大丈夫なの!?

「あー! ロロだー!」

 ワラワラと子供達もやって来た。

「げッ! なんだこのデッカイ鳥は!?

「こっこちゃんらよ」

 ディさんが持っている縄に繫がれた、コッコちゃんを見てみんな驚いている。大きいものね。

 コッコちゃんはマイペースだ。相変わらず『コッコッコ』と鳴いている。いや、喋っているのかな? ここは何なのだ? とか言ってそうだ。

「ロロちゃん、もう大丈夫なの?」

 ハンナも心配してくれている。

「もうげんきなのら」

「良かったわ。驚いたのよ」

「うちからの帰りだったんだろう? だから余計に驚いたんだ」

 ビオ爺の言う通りだ。あの時は教会の帰りだった。手芸品店に寄ったけどね。あの時買った刺繡糸はどうなったのだろう? マリーが持っているのかな? ディさんご依頼の刺繡もしなきゃだ。

「みんなロロのこと知ってるぞ」

「うんうん」

 子供達まで言っている。そうなのか? 俺ってちょびっと有名人?

「みんな心配してたんだ」

「ありがと」

 いつも遊んでくれるニルスだ。俺の頭をそっと撫でてくる。良いお兄ちゃんだ。猫耳を触ってみたい。時々ピョコピョコと動くのが、とっても可愛らしい。

「今日も遊べるか?」

「きょうは、こっこちゃんら」

「コッコちゃんって言うのか?」

「しょう、たまごが、うまうまなのら」

「あー! 前に持って来てくれた卵か!?

「しょうしょう」

「あれは超美味いッ!」

 ふふふ、そうだろうそうだろう。コッコちゃんの卵は、まろやかなのに濃厚だからね。他の卵の追随を許さない美味しさだ。

「でっかいプリンだ!」

 そうなのだ。あのでっかいプリンはコッコちゃんの卵で作った。美味しかっただろう? 忘れられない美味さだろう。

「激うまッ!」

 アハハハ、子供は正直だよな。

「うぅ~ん。ビオ爺もハンナも、魔力量はそんなに多くないんだよね」

 ディさんが悩んでいるぞ。魔力がないとテイムはできない。『うまいルルンデ』でも、結局魔力量の多いメアリーさんがテイムできた。どうするのだろう?

「とにかく、二人共挑戦してみよう」

「ディ、何するんだ?」

 ビオ爺が意味が理解できずに聞いている。これから、コッコちゃんをテイムしてもらうのだよ。

 コッコちゃんはお利口さんだから、きっと大丈夫だ。ディさんが、テイムするのだと説明した。

「でないと、魔鳥だからさ」

「ああ、なるほど。ギルドに登録しないといけないのか?」

「そうなんだ。でも、ビオ爺はギルドに登録しているの?」

「俺もハンナもしているぞ」

「俺も! 俺もしてるぞ!」

 驚いたのだ。ニルスが冒険者ギルドに登録していた。ニコ兄と同じ位だと思っていたのに。

「俺、10歳になったんだよ。だからつい最近登録したんだ」

 ほう、10歳か。ニコ兄は9歳だ。1歳違うだけだった。孤児院の子が、しかも10歳で冒険者として登録をして何をするのだろう? まさか魔獣を狩ったりはできないだろう?

「街の掃除をしたり、薬草を採取するクエストを受けるんだ。そしたら孤児院のおやつが増えるんだよ」

「ひょぉ~!」

 おやつなのか!? おやつのために冒険者登録なのか?

 冒険者ギルドに登録しているからと言って、みんなが魔獣を討伐したりダンジョンに挑む訳ではないのだそうだ。身分証明代わりに登録する人もいるらしい。

 役所で身分証明を発行してもらうと手数料を支払わないといけない。でも、ギルドなら無料だ。

 時々、お掃除や薬草採取等の簡単なクエストをこなしていると、登録を抹消される訳でもないしお小遣いにもなる。だから結構、冒険者ギルドで登録をしている人はいるらしい。

 俺はそんなこと、全然知らなかった。リア姉やレオ兄みたいに、戦えないと駄目だと思っていた。

「なんでも選択肢の多い方が良いだろう? だから読み書きや簡単な計算も教えているんだ。いつかはこの孤児院を出て行かないといけない。自分で稼げるようにならないとな」

 だからビオ爺とハンナとで、読み書きと簡単な計算を教えているらしい。

 そうか。出て行かないといけないのだな。それは少し寂しいのだ。世の中、世知辛いね。

 コッコちゃんのテイムに、まずはビオ爺が挑戦だ。ディさんが、またテイムの仕方を説明した。

「え……前にロロから聞いたけど、あれ本当に言うのか?」

「ビオ爺、本当なんだよ」

 また『お座り』を疑っている。どうしてだ? 力尽くでテイムするよりはずっといいと思わないか? コッコちゃんは弱いから、力尽くでもなんとかなりそうだけど。

「僕も言ったんだ」

「僕も」

 ディさんとレオ兄だ。俺が発見者なのだぞぅ。ふむ、ちょっぴり胸を張ってみよう。

「アハハハ、そうだね。ロロが最初に発見したんだ」

「ロロか!?

「しょうなのら。おててをらしていうのら」

「そうか。よし、やるぞ」

 おお、ビオ爺はやる気だ。コッコちゃんに掌を向けて、さあ張り切って言ってみよう。

「お座り!」

「ククッ」

「あ! 本当に座ったぞ!」

 ふふん。な、言った通りだろう。ビオ爺があと2羽も挑戦した。

「でも、ビオ爺。1羽しか座らないね」

「おう、どうすんだ?」

「ハンナ、やってみようか?」

「えぇー、私ですかー?」

 どうしてちゆうちよするのかな? だから本当に戦うよりマシだろう?

「分かりました! やってみます!」

 そして、ハンナがチャレンジしたのだ。でも……。

「コッコッコ」

「あ、あら?」

 コッコちゃんは知らん顔をして歩いている。ああ、残念。駄目だったね。

「俺! 俺もやるぞ!」

 ここで登場、ニルスだ。

「ニルスは……おや、意外に魔力量があるね。ビオ爺とハンナより多いよ」

 おう、そうなのか? ディさんが精霊眼で見ている。

 ならニルスは、勉強したら魔法も使えるようになるかも知れないね。

「俺、クリーンならできるぞ」

「ひょぉーッ!」

 俺はまだできないのに。と、いうか忘れていたぞぅ。いつもマメに、レオ兄がしてくれるから不便はなかったのだ。家に帰ったら挑戦してみよう。

「手を出すんだな」

「しょうしょう、しょして『おしゅわり』ら」

「おう、お座り!」

「ククッ」

「あ! 座ったぞ!」

「アハハハ、ニルスよくやった!」

 何故かビオ爺が爆笑している。そんなに可笑おかしいか? ビオ爺だって『お座り』と言ったのに。

「ハンナ、落ち込むんじゃないよ」

「だって、ビオ爺。私はできなかったのにぃ」

 ああ、そっちなのか。大人は恥ずかしいって方じゃなかったのだ。まだ10歳のニルスができたのに……て、方だった。でも、無事にテイムできて良かったじゃないか。残りの2羽がニルスの言うことを聞いてお座りした。おやおや? コッコちゃんがニルスに寄って行っているぞ。

「でぃしゃん。こっこちゃん、にるしゅがしゅき?」

「え? おや、本当だね。コッコちゃんは男の人が好きなのかな?」

 そういえば、レオ兄にディさんも男の人だ。そんな好みがあるのか?

 何はともあれ『うまいルルンデ』や、教会で無事にコッコちゃんをテイムできて良かった。

 帰りにみんなで冒険者ギルドに寄ったのだ。うちのコッコちゃん達を登録するためだ。

「おう、ロロ! 無事で良かったな!」

 ここでも言われた。ギルマスだ。ギルマスも衛兵に連絡したり、色々お世話になったらしい。

 色んな人のお世話になって、心配も掛けてしまった。

 俺達は、家を追い出されて行くところがなかった。そしてマリーの故郷だったこの街にやって来た。この街に来たばかりの頃は、知り合いなんて一人もいなかった。それが、たった1年でこんなに頼りになる人達がいてくれる。心配してくれる。とってもとっても有難いことなのだ。

「ぎるましゅ、ありがと」

「おう、良かったよ。今日はあれか、フォリコッコか?」

「ギルマス、そうなんだ。うちのフォリコッコ、7羽分を登録したいんだ」

「7羽もか!? よくそんなにテイムしたな!」

「れおにいと、でぃしゃんとボク」

「なんだと、ディもか?」

「そうなんだよ。でも、大丈夫だよ。レオとロロがいるから」

「いやいや、ロロはまだギルドに登録できないじゃないか」

「ああ、そうだったね。じゃあ、レオでお願い」

「7羽ともか?」

 そうなのだよ。レオ兄ったら凄いことになっている。だって、ピカとチロもレオ兄で登録しているのだから、超凄腕テイマーだ。かっちょいい。

「ロロが登録できるようになったら、ピカとチロは変更しようね」

「え、しょう?」

「そうだよ。だって、本当はロロなんだから」

 といっても、俺もテイムしていない。

「まあ、ピカとチロは仕方ないよ」

「じゃあ、レオ。ギルドカードを出してくれ」

「はい、ギルマス」

「ねえ、その間にピカと解体場に行ってくるわ」

「ちょっと待て、リア。解体場ってことはまた魔獣を持ってんのか?」

「ええ、沢山あるわよ」

「おいおい、本当にお前達姉弟はよぉ」

 本当はピカがやっつけた魔獣だ。お魚も買い取ってもらわなきゃ。

 ビオ爺とニルス、『うまいルルンデ』の奥さんのことも、ちゃんとディさんが頼んでいた。

「リア、レオ。お前達、そろそろランクアップするか?」

「ギルマス、簡単に言うけどCランクに上がる時は、ランクアップ試験を受けないといけないんだろう?」

 ランクアップ試験なんてあるのか。EランクからDランクに上がる時もあったのかな? 俺は知らないけど。

「実技試験がある。でも、二人なら大丈夫だろう?」

「そうかなぁ~?」

「レオ、何言ってんの? レオとリアなら大丈夫だよ」

 お、ディさんのお墨付きだ。

「じゃあ、試験の申し込みもしとくか?」

「姉上、どうする?」

「そんなのチャレンジするに決まってるじゃない」

 ああ、リア姉はやる気だよ。目がキラランとしたぞ。

「だってフィーネ達より上にいけるじゃない」

 そこか? そこなのか? 仲が良いと思っていたのだけど、そこは張り合うらしい。

「ああ、フィーネ達もDランクだったか」

「そうなのよ、この前の長期休暇にランクアップしたの。学生に負けてらんないわ」

 いやいや、リア姉達の方が年下だよ。1歳だけだけど。

「でも私達は学生じゃないもの。フィーネ達は長期休暇の間だけなのよ。なのに、同じランクなんて悔しいじゃない」

「姉上、別に気にしなくていいと思うよ」

「レオ、気にしなさいよ!」

 あらら、対抗心を燃やしているぞ。リア姉は、負けず嫌いだからね。

「じゃあ、次の試験を受ける手続きしとくか?」

「もちろんよ!」

「よし、分かった!」

 この日は、コッコちゃんを7羽無事に登録して、リア姉とレオ兄のランクアップ試験の申し込みをした。ピカが持っていた、倒した魔獣や魔魚も買い取ってもらった。良い臨時収入になったみたいだ。魔魚さんがとても良いお値段だったらしい。

 これで、リア姉の剣帯も買い替えられるね。レオ兄の弓だって購入できるかも知れない。

 そして、ランクアップの試験だ。ディさんは、リア姉達なら大丈夫だと言う。合格したらCランクだ。益々かっちょいいのだ。


 その日からリア姉は、レオ兄に無理矢理相手をさせて特訓を始めた。家の前で、二人で鍛錬し始めた。俺がまだ眠っているような、早朝から走り込みをしたりもしている。本格的だ。

 今日も二人で、木でできた剣で打ち合いをしている。

 それを見ている、俺とコッコちゃん。それにピカとチロだ。仲良く並んで見ている。

 あれ? 余りにも自然だったから気付くのが遅れたのだけど、コッコちゃんはどうして俺の周りにいるのだ? 柵から出てきているぞ、いいのか? どうやって出たのだろう?

「クックックッ」

「コッコッコッ」

「わふ」

「キュルン」

 賑やかだ。何を話しているのやら。コッコちゃん、勝手に柵から出たら駄目だよ。

「わふ」

「うん、しょうらよね」

「キュル」

「しょうおもう?」

 ピカとチロが、二人は強いから楽勝だと言っている。俺も、そう思うよ。

「ハァッ!」

「うわ、姉上! 待ってよ!」

 リア姉が、容赦なくレオ兄に切り掛かる。木剣なんだけど、当たったら痛そうだ。

 リア姉に合わせて、剣で対戦しているからレオ兄は不利だ。レオ兄は槍の方が得意だから。

「うわぁ……」

「コッコッコッ」

 なんだろう。コッコちゃんが、自然に会話に入ってくる。凄い切り込みだと言っている。コッコちゃんに分かるのか?

「クックックッコケッ」

「へぇ~、しょうなんら」

 冒険者に追いかけられて、切り付けられたことがあるんだって。その時の冒険者より、リア姉の方がずっと速いらしい。

「んんん……?」

 ここで俺はまた気が付いてしまった。

「ぴか、ボクはろうして、こっこちゃんのいうことが、わかるのら?」

「わふ」

「え……」

 何故かコッコちゃんが、何を話しているのか分かっちゃった。ピカが言うには、テイマーのスキルが生えたからだとか。そうなのか? そんなものなのか?

「ロロー! 来ちゃったー!」

 キラキラした髪を靡かせて、手を振りながら爽やかにディさんの登場だ。

 最近、よく来るよね。いいんだけど。きっとお目当ては、ニコ兄のお野菜だ。

「でぃしゃん、こんちは~」

 いつものように、お手々をフリフリする。

「何? ピカとチロやコッコちゃんまで並んで何してんの?」

「りあねえとれおにいの、とっくんをみてるのら」

「ああ、頑張ってるねー」

 その時、ディさんに気を取られてしまったのか、レオ兄の手首へリア姉の木剣がまともに入ってしまった。思わずレオ兄が声を上げ木剣を落とした。

「うわッ!」

「やだ、レオ! どこ見てんのよ!」

 ああ、あれは痛いぞぅ。バシコーンッて音がしたのだ。

「どれどれ、見せてごらん?」

「ディさん、いつ来たの?」

「さっき来たんだ。それでレオは気がれちゃったんだろうね」

「いや、ディさん。僕が余所よそしちゃったから」

 俺も一緒に、レオ兄の手首を覗き込む。真っ赤になっているのだ。

「ぴょぉ~! いたいいたいら! た、たいへんら!」

「アハハハ。ロロ、平気だよ」

「らめ! まっかになってるのら! いたいのいたいのとんれけ~!」

 俺は思わずそう言いながら、レオ兄の手首をナデナデした。そしたら、あら不思議。

 俺が撫でると、レオ兄の手首がペカーッと光ったのだ。

「えッ!?

「え、ロロ!?

「おや?」

「ひょぇッ!?

 すると、レオ兄の赤くなっていた手首が綺麗に治っていた。何も無かったかのように。

「コケックックックッ」

「わふッ」

「キュルン」

 うちは、人間以外の会話も交じるらしい。みんなお喋りだ。しかも、人間より情報通だったりする。どうしてだ?

「え、しょうなの?」

「わふん」

「コッコ」

「キュルン」

「えぇー、しらなかったのら」

 リア姉やレオ兄、ディさんがポカンとしているぞ。どうした?

 ディさんが、目をキラキラさせながら俺の両肩を摑んで迫ってくる。

「ち、ちょっと待って。ロロ、幾つか聞きたいことがあるんだけど!」

「なぁに? でぃしゃん」

 デジャブなのだ。つい最近同じように、ディさんに迫られたことがあったぞ。

「レオの手首、治っちゃったよ!?

「ねー、よかったね~」

「いやいやいや」

「ロロ、どうして?」

「いたいのいたいのとんれけーって」

「アハハハ! ロロらしいや!」

「ディさん、これって……」

「立派な回復魔法だね。普通は『ヒール』って詠唱するんだけど、ロロは違うらしいよ。アハハハ」

 ディさんがウケている。可笑しくないのだぞぅ。前世だとポピュラーな言葉だ。ちびっ子でもみんな知っている。

「それに、ロロ。コッコちゃんが話していることが分かるのかい?」

「しょうなのら。びっくりしたのら」

「そうかぁ、びっくりしちゃったのかぁ。アハハハ!」

「ロロ、ピカとチロだけじゃなくて、コッコちゃんも分かるのか?」

「れおにい、しょうなのら~」

 ふむふむ。そうなのだよ。いつの間にかね。だってうちのコッコちゃん達は、自然に会話に入ってくるからね。

「どうしてかな?」

「ボクは、ていまーらから」

 ふふんと、ちょっぴり胸を張っちゃおう。お腹じゃないよ、胸だよ。

「いやいやいや。アハハハ!」

 ディさんがずっと笑っている。とっても楽しそうに見えちゃうのだけど。

「ロロ、僕もコッコちゃんをテイムしているけど言葉は分からないよ」

「え……」

「そうだね、僕も分からないよ」

「えぇ……?」

 だって、分かるのだもの仕方がない。

「さっきは何て言ってたんだい?」

「ボクは、かいふくまほーが、ちゅかえるようになったって」

「へぇ……ピカとコッコちゃんが?」

「しょう。ちろもら。やっとちゅかえたね~って」

「やっと?」

「しょう。やっと」

 またまた、三人がポカンとしている。

「ちょっとピカ、詳しく教えて!」

 そう言って、ディさんがピカに額をくっつけた。そんなので、分かるのか? 分かるらしい。ディさんは『念話』というスキルを持っている。エルフならみんな使えるそうだ。本当、エルフって凄い。その念話で、ピカに聞いた。

 俺は元々、回復魔法が使えるらしい。攫われて怪我した時も、自分で回復できたはずだった。でも、まだちびっ子だからか、それとも魔法操作が未熟だからか使えなかった。それがやっと使えるようになったらしい。それって、もしかして女神の世界で癒してもらったからかなぁ? あの、超美味しい桃を食べたからかなぁ?

「わふわふ」

「しょっか」

 ピカが、それが切っ掛けになったかもね。と、言っている。そうだよね。だって、今まで女神に呼ばれても使えなかった。

「ちょっと、ロロ。見せて!」

 おっと、今度は俺だ。ディさんが、じぃぃ……と俺を見る。これは精霊眼で見ているよね。だって、ディさんのエメラルドグリーンの瞳がゴールドに光ったもの。

「本当だ。回復魔法全般使えるようになっているよ。前は適性があっても、まだ使えそうになかったのに。どうして? 何があったのかな、ロロ」

「えぇっとぉ……」

 まさか女神に癒してもらって、とっても美味しい桃を食べたからなんて言えない。

「けがしたからぁ……?」

 ピョコンと首を傾げる。

「アハハハ! 悪いことじゃないし、まあいいか」

「え、ディさん。そんな感じでもいいんですか?」

「いいよ、いいよ~! 君達兄弟はとんでもないねー!」

 でも、笑っているディさんが、嬉しそうなのは気の所為せいなのかな?

「自分を守る力を持つのは良いことだ。君達はその力を悪いことには使わないだろう。ロロはまだちびっ子だけど、回復魔法を使えたり付与できたりする。少し訓練したら土属性魔法だって使えるようになる。選択肢が増えるのは良いことだよ」

 ああ、そうか。心配してくれているのだ。あんなことがあったからだ。俺はまだちびっ子だけど、もし抵抗できる力があったら。単純な腕力では大人に敵わないけど、魔法なら抵抗できるかも知れない。そしたら、みんなに心配掛けずに済むかも知れない。なら、俺が選ぶ答えは一つだ。

「もっと、ポカポカぐるぐるがんばるのら」

「ロロは良い子だね~」

 そしてディさんは、いつものように自分でお野菜を収穫して、特盛サラダを作ってバクバクモリモリ食べて帰った。やっぱり、ニコ兄のお野菜目当てだったのだ。



「リシアディヴィーヌ、もっとちゃんと話しておいてあげないと駄目じゃない」

「だって姉様、いつも時間がなくってぇ」

「あなたが余計なことをしているからでしょう?」

 女神の世界で、リシアディヴィーヌとその姉女神であるプリアディヴェーナが、ロロ達を見て話していた。リシアディヴィーヌの花が咲き乱れる世界に、もっと花を咲かせながら現れた姉女神。

 不思議なことに空中にも花が咲いている。豪華な大輪ではなく、小さいけれど可憐な可愛らしい花をポンポンと自分の周りに咲かせながらの登場だ。プラチナブルーの長い髪に、いろの瞳が少し猫目気味で強い意志を感じさせる。姉女神はとっても女神らしい女神だ。

「でもやっと使えるようになったわね」

「はいです! ロロは全部の回復魔法が使えるはずなのです!」

「ロロには幸せになってほしいわ。そのために力も必要なのよ」

「はい!」

「だからちゃんと見守ってあげないと」

「もちろんなのです!」

「だからあなたがね……はぁ~、もういいわ」

 少し呆れ気味でため息を吐きながらそう言った。

「大丈夫なのです。ロロはまだまだこれからなのです」

「大丈夫じゃないでしょう? どうしてボアがあんな風になっていたの? あんなにイレギュラーなことはないわよ。しかも魔獣が多くなり過ぎているわ。ちゃんと調査して管理しているの?」

「そうでした! それがあったのです! どうしましょう! あれは危険なのですッ!」

「これ、落ち着きなさい!」

「だって姉様! 危険なのです! デンジャーなのですぅッ!」

 パニクッて髪を振り乱しながら、あたふたしているリシアディヴィーヌの後頭部をパシリッと張り倒したプリアディヴェーナ。

「あたッ! 姉様、痛いですぅ!」

「落ち着きなさいと言ったでしょう! 落ち着いてちゃんと調査するのよ」

「ええー、そんなことをしていると、暫くロロに会えなくなっちゃいますぅ!」

「何言ってるの! ロロだけじゃなく、あの国が危険なのかも知れないのよ! さっさと調査しなさい!」

「は、は、はひぃ!」

 リシアディヴィーヌは相変わらずカミカミだが、ロロはマイペースにひようひようと毎日を過ごしている。