ピカを狙っていた領主様の娘と夫人の陰謀から、無事に助け出され日常に戻っていた。

 その後、どうなったのかは全然聞かされていない。

 でも、いいか。と、思うことにした。ちゃんと、みんなのいる家に帰って来ることができたのだから。


 それからしばらくして、俺はリア姉やレオ兄、ニコ兄と一緒にまた森へ向かっていた。ピカは俺のすぐ側を歩いていて、チロはいつも通りポシェットの中にいる。今度は宣言通り、ディさんも一緒だ。もちろん、コッコちゃんを捕まえるためだ。

「れもなぁ~」

 俺はニコ兄と、お手々を繫いでトコトコと歩いている。

 今日もいいお天気だ。そよ風がとっても心地いい。

「ロロ、どうした? どっか痛いのか? 疲れたか?」

 ニコ兄が心配そうに俺を気遣ってくれる。もう身体は全然大丈夫なのだ。それよりも……

「にこにい、ちがうのら。まらププーのみが、なっているかしんぱいなのら」

「そうだな、コッコちゃんはププーの実を食べに出て来るんだもんな」

「しょうなのら」

「ロロ、大丈夫だよ。少し上流に行った場所ならまだってるよ」

「でぃしゃん、しょうなの?」

「そうなんだよ。話を聞いたオスカーさんが、欲しいって言ってるんだ。ププーの実を食べたことがないんだって。コッコちゃんの卵も欲しいそうなんだ」

 誰? オスカーさんって誰なのだ?

「ロロ、知らないのか?」

「うん、にこにいはしってるの?」

「『うまいルルンデ』のご主人だよ」

「あぁ~」

 あのマッチョの人だ。そんなお名前だったのだな。

 え? ちょっと待って。『うまいルルンデ』でも、コッコちゃんを飼うのかな?

「らしいよ。美味しい卵料理を出すんだって」

「へぇ~」

 俺が目覚めた時、ニコ兄がコッコちゃんの卵をお礼に持って行った。きっとその時に気に入ったのだろう。だって、あの濃厚でとっても美味しい卵にはやみつきになってしまう。

 なんて、吞気な話をしているけど。もう、俺は元気だ。元通りなのだ。女神のお陰で、目覚めたらどこも痛くなかったし、もちろん後遺症なんてなかった。もしかしたら、怖い気持ちが残ってトラウマになってるかなぁ? なんて、思ったりしたのだけどそれもなかった。起きられるようになってから、いつも通りピカに乗って表をウロウロしていた。

 心も癒すって、女神が言っていたからそのお陰かも知れない。

「わふ」

「ぴか、らいじょぶら」

「キュルン」

「ちろも、らいじょぶらよ」

 あれから、ピカとチロが少し心配性になった。今も辛くないかと聞いてきた。

 無理もない。ピカとチロは、俺がどんな状態なのか、最初から最後まで見ていたのだから。

 レオ兄達が見る前に、ディさんが回復魔法を使ってくれて良かった。ちょっと酷い状態だったと思うから、それをみんなには見せたくないもの。

 森に入る前に、ピカに乗せてもらう。相変わらず森に入ったら何処どこからか魔獣が出てくる。

 でも、ピカの魔法で瞬殺だ。

「ピカは強いねー。僕の出番がないじゃない」

「でぃしゃんも、ちゅよい?」

「ロロ、当たり前じゃないか。だって、ディさんはこの街で一人だけのSSランクなんだぞ」

 ディさんがSSランクだと言うのに、何故なぜか説明してくれたニコ兄が自慢気だ。

「え……でぃしゃんらけ?」

「そうだ。知らなかったのか?」

「しらなかったのら」

 まさかこの街で、ディさんだけだとは思わなかった。いつも幸せそうなお顔をして、特盛サラダを食べているのに。

「でぃしゃん、しゅごいね~」

「アハハハ。ロロ、有難う」

 もうすぐ川だ。水の音が聞こえてきた。でも、その前には大きな岩がある。それを越えなきゃいけない。

「ロロ、ピカ、大丈夫?」

「れおにい、へいきなのら」

「わふん」

『こんな岩なんか、へっちゃらだよ』

 と、ピカが言っている。身軽にヒョイヒョイと登っていく。それより驚いたのがディさんだ。

「ニコ、おんぶしてあげよう」

「えぇー」

「ほら、いいからいいから」

 ニコ兄をおんぶしたディさんは、トンと軽くジャンプした。すると、フワリと高く浮いて岩の上に着地した。まるで、ディさんの背中に翼があるみたいだ。天使のような翼がさ。

「うぅぅぅわッ! スッゲーッ!」

「アハハハ。どうだい? ディさんは凄いだろう?」

「スゲー!」

 ニコ兄の語彙力が、ちょっぴり悲しい。いいなぁ、俺もおんぶして欲しい。

「わふぅ」

「え、ぴか」

 アハハハ、ピカが『僕が乗せているのに、僕じゃ駄目なの?』と、言ってきた。

 そんなことはない。ちょっとだけ、いいなぁ~って思っただけなのだ。

「わふ」

 ピカったら『安全第一』なんて言ってるよ。ちょっと過保護になっちゃってる。

「キュル」

 あらら、チロもだ。『危ないことは駄目だよ』て、言われちゃった。

「あぶなくないのら」

「わふぅ」

「キュルン」

 はいはい、分かったよ。大人しくしておくのだ。

 岩を越えると、川はすぐそこだ。その川辺にはププーの木がある。前に来た時は沢山生っていたのに、ププーの実が全部落ちてしまっていた。落ちてしまった実はえぐが強くなって、魔獣でも食べなくなってしまう。

「ありゃりゃ」

「もう、時期が遅いんだよ」

「ね~」

「まだ、上流に行くよ」

「れおにい、らいじょぶ?」

「ん? ププーの実かな?」

「しょう。ププーのみがないと、こっこちゃんこないのら」

「大丈夫だよ。ちゃんと確認してあるからね」

 そうなのか。いつの間に? 川に沿って上流へと暫く歩いた。ププーの木もチラホラとあるけど、実が生っているのは少ない。どんどん、上流へ歩いて行く。上流へ行くと出て来る魔獣も大きくなってきた。それでも、ピカは瞬殺だ。

「ピカ、倒した魔獣も収納しておいてよ」

「わふん」

 きっとギルドで売るのだ。お肉は美味しくないのかなぁ?

「美味しいお肉は、持って帰るから心配しなくていいよ」

 やっぱレオ兄はよく分かっている。お肉は大事。超大事なのだ。

 結構、上流まで来たと思う。俺は、ピカに乗っているから平気だけど。横を歩いているニコ兄が少し心配だ。だってニコ兄だって、まだちびっ子なのだから。

「にこにい、らいじょぶ?」

「平気だぞ。俺は毎日畑で動いているからな」

「おぉー、かっちょいい」

「アハハハ」

 何故かディさんが笑っている。

「ロロのお兄さんも、お姉さんもみんなカッコいいよ」

「うん」

 そうなのだ。リア姉、レオ兄、ニコ兄、みんなカッコいい。みんながいてくれるから、俺は毎日楽しく暮らしていられる。リア姉、レオ兄、ニコ兄の側が、一番安心なのだ。

 川幅が少し狭くなるくらいに上流へやって来て、川辺が開けている場所に出た。そこには、ププーの木が数本だけ生えていた。

「あ、いっぱいあるのら!」

 ププーの実が、まだたわわに生っていた。でも、どれももう完璧に色付いている。あと1日でも遅かったら、大半が熟れ過ぎて落ちていたのではないかというくらいだ。熟れたププーの実の甘い匂いが辺りに漂っている。

「ギリギリだったね~。今日来て良かったね」

 ほら、ディさんもギリギリだと言っている。お昼前まで掛かって、この場所まで歩いて来たからかなり上流まで来ている。川の流れも急になっているみたいだ。そこをパシャッと何かが跳ねた。

 ん? 何だ? お魚さんかな?

「レオ! 釣るわよ!」

 リア姉が張り切っている。だから、今日も釣り竿を持って来ていたのか。

 もしかして、また魔魚なのかな?

「リア、レオ、離れた場所から釣らないと危険だよ」

「はい、ディさん」

 釣り竿を持っていた、リア姉とレオ兄が川から少し距離を取る。

「魔魚だからね、人影が見えると川の中から飛び掛かってくるんだ」

「ぴぇ……」

 思わず、横にいたニコ兄の腕にしがみ付いた。食いつくとか、飛び掛かってくるとか物騒なのだ。

「ロロ、魔魚だって」

「にこにい……こわわ」

「離れて見ていような」

「うん」

 ディさんは手に小刀を持って待機している。

「釣ったらすぐに締めないと危険だからね」

「まえとは、ちがうおしゃかな?」

「そうだよ。この辺りの上流にしかいないんだ。白身で淡白なんだけど、唐揚げにするととっても旨味があって美味しいんだよ」

「ひょぉ~、たべたいのら」

「ね、楽しみだね」

 それに、この魔魚の卵の塩漬けにレモン汁やオリーブ油等を加えて、ペースト状にしたディップが高級品なのだそうだ。だからこの魔魚は、良いお値段でギルドが買い取ってくれる。貴族が通うような高級レストランに売るらしい。

 早速、レオ兄が釣り上げた。体に白いまだらがあって、背中とお腹が鮮やかな黄色だ。前に釣ったお魚より一回りほど小さい。30センチくらいかなぁ? お腹がぷっくりしているから、卵を持っているのだろう。すると、ディさんが小刀を魔魚の頭に思い切りよくぶっ刺した。

「え……」

「この魔魚は、こうしておかないと、臭みが出てしまうんだ」

「ぴょぉ~」

 リア姉とレオ兄が、次から次へと釣り上げる。

「入れたらすぐに食い付くわ!」

「全然、警戒していないんだね」

 そりゃそうだ。こんな場所まで普通の人達は来られないだろう。だって魔獣がガンガン出てくる。

 ほら、今だってピカが瞬殺で倒している。

「わふぅ」

「え、しょう?」

「わふん」

「ありゃりゃ」

 魔獣も、残ったププーの実を食べに来るらしい。ん? あれは何だ? ププーの木に寄りかかるように生えている、小さな木の幹にまぁるい白いものがあった。直径15センチくらいかな? 大きめのシイタケみたいで、それよりもフワフワ感がある。平たいのではなく、厚みがあるのだ。

「にこにい、あれなぁに?」

「なんだ?」

「あの白いまぁるいの」

 俺は、ププーの木の下を指差す。短い人差し指でごめんね。

「え……あれって……ディさん!」

「ニコ、どうした?」

「あれだよ、あれ! 図鑑で見たことあるぞ! あの白いマッシュ!」

 ニコ兄も一緒に指を差す。

「ニ、ニコ! あんなのよく見つけたね!」

「違うんだ、ロロが見つけたんだ!」

「凄いよ! 僕でもあまり見たことがないよ!」

 ん? 何なのだ? 珍しいものなのか? てか、美味しいのか?

 ディさんはその白いマッシュを横目で見ながら、手は魔魚をぶっ刺している。ブスッとね。

「ロロ、残念ながら食べるものじゃないんだ。あらゆる状態異常を完全に回復させるポーションの材料なんだ。普通は手に入らないんだよ!」

 なんだ、食べ物じゃないのか。ちょっぴり残念だ。

 まだまだディさんは、魔魚をぶっ刺す。ブスッ、ブスッとね。

「何言ってんだよ! あれは本当に見つからないんだ。ダンジョンの深層にしかないと言われているんだ! どうしてこんな場所に生えているんだ?」

 ほぅ。それは珍しい。ディさんも何かを考えているみたいだけど、それでもディさんの手はまだ止められない。ずっと魔魚をぶっ刺している。俺はそっちの方が気になるのだ。

「ディさん、あれ育てられないか?」

「あれは無理だね。薬草と違ってキノコの一種だから、湿度や土が違うと育たないんだ。そもそも、土から生えていないだろう?」

 へぇ~。でも、キノコなら合う木を持って帰ったらいいのではないのかな?

 ふむふむと顎に手をやる。ちびっ子なのに、熟年感があるぞ。

「ロロ、何考えてんだ?」

「にこにい、まっしゅがはえてるあのきを、しゅこしもってかえっても、むりなのかな?」

「なるほど、木か……」

 ディさんが、魔魚に小刀をブッ刺しながら考えている。リア姉とレオ兄が、次々に釣っちゃうから。

「ちょっとペースが速いよ。こっちは僕だけなんだよー」

 なんて言いながら、お魚さんの頭をぶっ刺している。あぁ、無情なのだ。

「ロロ、木を持って帰ってどうすんだ?」

「え……わかんない」

「なんだよぉー、肝心のとこが分かんないのかよぉ」

 だって俺は、椎茸を栽培している場面をテレビのニュースで見ただけだ。そんな詳しい知識は全然ない。

「ニコ、あの木を少し切って持って帰ろう。ダメ元だ。レオ、リア、もうお魚はいいだろう!?

「そうですか?」

「でも、ギルドで高く売れるのよ! 新しい剣帯が欲しいの!」

 あらあら、リア姉はお小遣い稼ぎになっている。まだ釣りたいらしい。

 リア姉が使っている剣は、父から贈られたものだ。リア姉が学園へ入学する時に貰ったそうだ。

 だから、リア姉はとっても大事にしている。どんなに疲れていても、毎日必ず剣の手入れをする。

「この剣が、私を守ってくれている気がするの」

 と、本人も言っているくらいに大切な剣だ。剣帯も、父から貰った物だ。リア姉の瞳の色と同じダークブルーで、綺麗なお花模様の刺繡がしてある。絶対に一点モノだろう。

「切れてしまいそうなのよ。だから、仕方ないわ」

 なるほど。それだけ、使っているということだ。剣帯かぁ。俺にはまだ作れそうもない。作れたらなぁ、革に凝った模様を彫るのになぁ。刺繡じゃなくて、革に模様を彫刻する。もちろん付与もしたい。もっと手が大きくなったら挑戦してみたい。

「何? ロロ」

「でぃしゃん、ちゅくれないかなぁっておもって」

「剣帯を作りたいの?」

「うん、りあねえの。きれーなもようをほるのら」

「ロロは物作りが好きなの?」

「ん~、わかんない」

 だって、俺の基準はリア姉やレオ兄、ニコ兄に必要かそうでないかだ。必要なら、それにお守りを込めて作りたい。ポーションだってそうだ。リア姉とレオ兄が、もしも怪我をした時のためだ。

 そろそろ、お腹が空いてきた。マリーのお弁当を食べたいぞぅ。

 ──キュルルル……

 ほら、俺のお腹が鳴っちゃった。ペコペコなのだ。

「ロロ、お腹空いたな」

「うん、にこにい。しゅいたのら」

「そうだね、お弁当にしよう」

 ディさんが、まだ魔魚を釣っているリア姉とレオ兄に声を掛けた。

「ロロのお腹が鳴ってるよー!」

「アハハハ! お弁当にしよう。姉上」

「分かったわ」

 もう結構沢山釣った。ディさんが次から次へと、小刀で頭をブッ刺しピカが収納していく。

 これは良い臨時収入になるぞ。

「僕も新しい弓が欲しいんだ」

 おや、レオ兄も欲しい物があるらしい。レオ兄は、普段は主に槍を使う。その槍も、父から貰った物だ。レオ兄も、毎日丁寧に手入れをしている。今使っている弓は、この街に来て冒険者をするようになってから買った物だ。今まで使っていた弓は小さくなっちゃったとか言っていた。だからきっと、今使っている弓より良い物が欲しいのだろうね。レオ兄は弓も上手だから。

「レオは弓を使うんだ」

「はい、ディさん。僕は、槍と弓です」

「僕は弓には煩いよ」

 何故なら、エルフだからだそうだ。エルフはみんな弓が得意なんだって。もちろん、ディさんも弓を持っている。

「国の長老に作ってもらったんだ。宝物だよ」

 そう言って見せてくれたのだ。ほうほう、使っている木自体がきっと良い物なのだ。何も知らない俺でも、良い物だと分かるぞ。しかも弓には、葉っぱの模様が彫ってあって、意匠を凝らした一級品だ。て、ディさん、今どこから出した? 手品なのか? ディさんは手品までお得意なのか?

「ああ、マジックバッグだよ。エルフはみんな持ってるよ。そうか、レオ達は持っていないんだね」

「だってディさん、マジックバッグはとっても高価ですよ」

「そうだったね。エルフは作れる人が結構いるから」

 ほう、エルフって凄いのだ。ディさんが持っていたのは、腰のベルトに通してある小さなポーチだ。それがマジックバッグなのだという。いいなぁ。

 俺達の国では高級品のマジックバッグが、エルフの国では普通にみんな持っている。

 ある程度の歳になったら、弓と一緒に長老さんから貰うのだそうだ。

「エルフは長命種だけど、子供が少ないんだよ。だから、そんなことができるんだね」

 しかも、話を聞いて驚いた。エルフは弓に矢を使わないという。

「エルフは魔法が得意だからね、魔法の矢を射るんだ」

「ひょぉー!」

 びっくりだ。魔法の矢って、一体何なのだ? 是非とも、見てみたいぞ。

「ロロ、あそこに魔獣が出て来たね」

「うん」

 俺達に気付いたのか、ププーの実を食べに来たのか。それほど大きくはない、猪と豚を足したような魔獣が、のっそりと現れた。魔獣の証拠に、額に小さな角が二つある。

「いい? 見ていて」

 そう言って、ディさんは矢のない弓を構える。そこに瞬時に、光る矢が現れた。何も無いところにだ。これが、魔法で作った矢なのか!? 綺麗なエメラルドグリーンで、しかもキラキラと光っている。先端が尖っていて、ちゃんと矢の形をしている。

 こんなことができるエルフって、存在自体が別物だと思い知らされてしまう。圧倒的な力の差だ。

 ディさんは顔色一つ変えずに、それをヒュンッと射る。風圧で、キラキラとした髪が後ろになびく。弓を射るしなやかな姿勢とあいって一枚の絵画のようだ。

 まるで吸い込まれるかのように、矢が魔獣に命中した。しかも、額をピンポイントで狙っている。

「ぴょぉ~! でぃしゃん、しゅごいしゅごいッ!」

「アハハハ、そうだろう?」

 思わずパチパチと拍手をしてしまった。俺だけだけど、拍手喝采なのだ。劇場なら、スタンディングオベーションだ。

 ディさんが、長いまつの目でバチコーンとウインクをした。カッケーな。俺もやりたい! 無理だけど。弓を持って構えることさえできない。ちびっ子用の弓はないのかな?

「僕のは、エルフの皆が使う風魔法の矢なんだ。でも、エルフの中でも最強と呼ばれている人は、マジックアローと言って魔力そのもので矢を作り出すんだ。凄いんだよ。僕なんか全然かなわないくらいに強いんだ」

「ひょぉー!」

 びっくりしまくりだ。SSランクの、ディさんが敵わないなんて想像もできない。エルフって、俺達とは次元が違う。だって、転移だってできるのだもの。そのお陰で、俺は助かったのだ。

「僕は長距離の転移はできないよ。長老なんて国をまたいで転移するからね。レオやロロは魔法が使える方だと思うよ。魔力操作の訓練を怠らないことだね」

 ふむふむ。ポカポカぐるぐるだな。よし、今日からまた寝る前に練習しよう。

 ディさんの話に、よくエルフの長老さんが登場する。それだけ、尊敬しているのだと分かる。きっと、ディさんは長老さんと仲良しなのだろう。そんな表情でいつも話している。

 さて、マリーのお弁当だ。その前に、またレオ兄が魔石を置く。そうだ、この魔石に付与するのもできるようになりたい。今日は野望が三つも増えた。

 マジックバッグを作ってみたい。魔法の矢を作れるようになってみたい。リア姉の剣帯を作ってみたい。どんどん増えていく。どうしよう。もう覚えきれないくらいだ。

「ロロは戦う方じゃないんだね」

「え……むり」

「アハハハ、無理なの?」

「うん、こわわ」

「そうかぁ、まだちびっ子だからね」

 もしかして、エルフはちびっ子でも強いのか? 俺みたいなちびっ子でもさ。

「とんでもなく強いよー。身体強化をするからね」

 ああ、もう分からない言葉だらけなのだ。お腹が空いたから食べよう。

「ロロ、手を出して」

「あい」

「クリーン」

「れおにい、ありがと」

「さ、食べよう」

 俺はまだクリーンでさえ、レオ兄にしてもらっている。先にクリーンをできるようにならなきゃ。

「いたらきましゅ」

「いただき」

 マリーの作った、相変わらず大きなサンドイッチを両手で持ち、あぁ~んと食べる。今日はベーコンエッグサンドだ。勿論、卵はコッコちゃんの卵を使っている。卵1個が大きいから、目玉焼きじゃなくてスクランブルエッグだ。一緒に挟んであるトマトとレタスが新鮮で美味しい。

「うまうま」

「な、美味いな」

「マリーさんのサンドイッチは大きいんだね」

「しょうなのら」

「ふふふ、マリーはいつもね」

「昔っからだね」

 そうなのか? マリーの大雑把なところは今に始まったことではないらしい。

 俺は、その大きなサンドイッチを頰張りモグモグと一生懸命食べる。一口が小さいから、俺は食べるのが大変だ。普通はこれを半分に切らないか?

「ぴか、ちろ、うまうま?」

「わふん」

「キュルン」

 美味しいらしい。ピカはマリーの大きなサンドイッチも、パクッとあっという間に食べてしまう。

 チロは相変わらず、胸肉を茹でたものをブチッとワイルドに嚙みちぎって食べている。

「今日は楽しいな」

「うん、にこにい」

 俺がさらわれた事件から、過保護になったのはピカとチロだけじゃない。みんなだ。特に、ニコ兄。リア姉じゃなく、意外にもニコ兄だった。

 こうして、一緒に外に出る時には俺のそばを離れない。必ず手を繫いで横にいる。

 心配掛けてしまったのだと痛感する。そのニコ兄が俺に言い聞かせる。

「このシールドの中だと安全だからな。出たら駄目だぞ」

「うん」

 俺も知っているのにわざわざ念を押す。心配性だ。

 それにしても、今日はまだコッコちゃんを見ないなぁ。コッコちゃん、捕まえたいのに。でも、ププーの実はまた採って帰ろう。その前に、まぶたが勝手に閉じてきて、我慢できない。

 ピカに寄り掛かってお昼寝なのだ。


「アハハハ! ウケるよー!」

 むむむ……スヤスヤと気持ちよくお昼寝をしていたのに、なんだか周りが騒がしくて目が覚めちゃったぞ。

「ふわぁ~……」

 大きな欠伸あくびをして、寝惚けまなこを擦りながら周りを見る。

「アハハハ! 本当だ! お座りしてるよー!」

 ディさんの声だ。見るとコッコちゃんがちょこんと座っている。

「何か問題でも?」

 と、でも言いたそうな表情でキョトンとしている。

 それを指差しながら、ディさんがお腹を抱えて笑っていた。

「にこにい」

「あ、ロロ。起きたか?」

「こっこちゃん」

 ニコ兄がすぐ隣にいてくれた。手にはあの白いマッシュを持っている。ニコ兄は好きだね。きっと、どうやって育てようか考えているのだろう。俺はお座りしているコッコちゃんを指差した。

「レオ兄がやったんだ。やっぱ座るんだよ! アハハハ」

「本当、意味が分かんないわ! ウフフフ」

「アハハハ! ダメ、笑いすぎてお腹が痛い! アハハハ!」

 みんな爆笑だ。特にディさんが大爆笑だ。目に涙を溜めて笑っている。大爆笑していても、笑顔がとってもキラキラしている。

「おしゅわりしゅるのら」

「な、不思議だな」

 本当、不思議だ。きっとコッコちゃんは、俺達が話している言葉を理解しているのだろう。それだけお利口さんなのだ。

「あ、またこっこちゃんら」

「やっぱ、ププーの実を食べに来るんだな」

 コッコッコッと鳴きながら、頭を前後に動かしてテケテケと歩いて来たコッコちゃん。

 本当に、警戒心がないのだね。いくらププーの実が好きだといっても、そんなに無防備に人前に出てきたら捕まってしまうよ。捕まえちゃうけど。

「でぃしゃん、いうのら」

「え、僕?」

「しょうら。こっこちゃんに、おててをむけて『おしゅわり』ら」

「よし! 僕も捕まえるぞ」

 ディさんが、ちゃんと構えてコッコちゃんを見つめるけど、コッコちゃんはププーの実に気を取られていてこっちを見てくれない。キュートなお尻を向けている。

 よし、俺が直々に伝授してあげよう。

「でぃしゃん、まねしゅるのら。こっこっこって」

「え……そうなの?」

「しょうなのら」

「分かった。コッコッコッ」

 すると、ヒョイとこっちを見たコッコちゃん。何事かとこちらに歩いてくる。頭をヒョコヒョコと前後に動かして『コッコッコッ』と鳴きながらだ。ディさんは、超真剣モードだ。

「でぃしゃん、めをみていうのら」

「よし、目を見るんだね。手をかざして……」

 ディさんがやるとかっちょいい。コッコちゃんの鳴き真似をしていても綺麗だし。何故に?

 さあ、魔法の言葉を張り切って言ってみよう。

「お座り」

「ククッ」

「座った!」

「ねー、しぇいこうらねー」

 コッコちゃんが大人しくお座りした。これで、ディさんもコッコちゃんマスターだ。

「あッ! また出て来たぞ!」

 ニコ兄が指を差しながら大きな声で言った。でも……

「こっちからもだ!」

「ロロ、あっちにもいるわよ!」

「こっちもだ!」

 ありゃりゃ、あっちもこっちも大変だ。全部で4羽も出てきた。コッコちゃんもププーの実を狙っているのだろう。もう残り少ないからだね。ふむふむ。

 四方から、コッコッコと鳴きながら警戒もせずにやって来たコッコちゃん。

「ひょぉ~!」

「ロロ、どうしよう!?

 どうしようと言われても。3歳のちびっ子に指示を求めるのはめよう。ディさんは一番年上なのだ。何百歳だっけ?

「ロロ、吞気にしてないで! どうすんだよ!」

「らからぁ~……」

 俺にだって分からない。俺はまだ寝起きの、ちょっぴりボ~ッとした頭で考える。考えても分からないものは分からない。ええい、やけくそなのだ。

「ふゅ~……」

 大きく息を吐いて、足を肩幅位に開いて立つ。うん、とっても幼児体形だ。お腹がポヨンポヨンしているぞ。今はお腹が一杯だからね。それにしても、ディさんとえらい違いだ。いや、そんな場合じゃない。

 俺は、両手をコッコちゃん達に向けて大きな声で言った。

「おしゅわりぃッ!!