ピカを狙っていた領主様の娘と夫人の陰謀から、無事に助け出され日常に戻っていた。
その後、どうなったのかは全然聞かされていない。
でも、いいか。と、思うことにした。ちゃんと、みんなのいる家に帰って来ることができたのだから。
それから
「れもなぁ~」
俺はニコ兄と、お手々を繫いでトコトコと歩いている。
今日もいいお天気だ。そよ風がとっても心地いい。
「ロロ、どうした? どっか痛いのか? 疲れたか?」
ニコ兄が心配そうに俺を気遣ってくれる。もう身体は全然大丈夫なのだ。それよりも……
「にこにい、ちがうのら。まらププーのみが、なっているかしんぱいなのら」
「そうだな、コッコちゃんはププーの実を食べに出て来るんだもんな」
「しょうなのら」
「ロロ、大丈夫だよ。少し上流に行った場所ならまだ
「でぃしゃん、しょうなの?」
「そうなんだよ。話を聞いたオスカーさんが、欲しいって言ってるんだ。ププーの実を食べたことがないんだって。コッコちゃんの卵も欲しいそうなんだ」
誰? オスカーさんって誰なのだ?
「ロロ、知らないのか?」
「うん、にこにいはしってるの?」
「『うまいルルンデ』のご主人だよ」
「あぁ~」
あのマッチョの人だ。そんなお名前だったのだな。
え? ちょっと待って。『うまいルルンデ』でも、コッコちゃんを飼うのかな?
「らしいよ。美味しい卵料理を出すんだって」
「へぇ~」
俺が目覚めた時、ニコ兄がコッコちゃんの卵をお礼に持って行った。きっとその時に気に入ったのだろう。だって、あの濃厚でとっても美味しい卵にはやみつきになってしまう。
なんて、吞気な話をしているけど。もう、俺は元気だ。元通りなのだ。女神のお陰で、目覚めたらどこも痛くなかったし、もちろん後遺症なんてなかった。もしかしたら、怖い気持ちが残ってトラウマになってるかなぁ? なんて、思ったりしたのだけどそれもなかった。起きられるようになってから、いつも通りピカに乗って表をウロウロしていた。
心も癒すって、女神が言っていたからそのお陰かも知れない。
「わふ」
「ぴか、らいじょぶら」
「キュルン」
「ちろも、らいじょぶらよ」
あれから、ピカとチロが少し心配性になった。今も辛くないかと聞いてきた。
無理もない。ピカとチロは、俺がどんな状態なのか、最初から最後まで見ていたのだから。
レオ兄達が見る前に、ディさんが回復魔法を使ってくれて良かった。ちょっと酷い状態だったと思うから、それをみんなには見せたくないもの。
森に入る前に、ピカに乗せてもらう。相変わらず森に入ったら
でも、ピカの魔法で瞬殺だ。
「ピカは強いねー。僕の出番がないじゃない」
「でぃしゃんも、ちゅよい?」
「ロロ、当たり前じゃないか。だって、ディさんはこの街で一人だけのSSランクなんだぞ」
ディさんがSSランクだと言うのに、
「え……でぃしゃんらけ?」
「そうだ。知らなかったのか?」
「しらなかったのら」
まさかこの街で、ディさんだけだとは思わなかった。いつも幸せそうなお顔をして、特盛サラダを食べているのに。
「でぃしゃん、しゅごいね~」
「アハハハ。ロロ、有難う」
もうすぐ川だ。水の音が聞こえてきた。でも、その前には大きな岩がある。それを越えなきゃいけない。
「ロロ、ピカ、大丈夫?」
「れおにい、へいきなのら」
「わふん」
『こんな岩なんか、へっちゃらだよ』
と、ピカが言っている。身軽にヒョイヒョイと登っていく。それより驚いたのがディさんだ。
「ニコ、おんぶしてあげよう」
「えぇー」
「ほら、いいからいいから」
ニコ兄をおんぶしたディさんは、トンと軽くジャンプした。すると、フワリと高く浮いて岩の上に着地した。まるで、ディさんの背中に翼があるみたいだ。天使のような翼がさ。
「うぅぅぅわッ! スッゲーッ!」
「アハハハ。どうだい? ディさんは凄いだろう?」
「スゲー!」
ニコ兄の語彙力が、ちょっぴり悲しい。いいなぁ、俺もおんぶして欲しい。
「わふぅ」
「え、ぴか」
アハハハ、ピカが『僕が乗せているのに、僕じゃ駄目なの?』と、言ってきた。
そんなことはない。ちょっとだけ、いいなぁ~って思っただけなのだ。
「わふ」
ピカったら『安全第一』なんて言ってるよ。ちょっと過保護になっちゃってる。
「キュル」
あらら、チロもだ。『危ないことは駄目だよ』て、言われちゃった。
「あぶなくないのら」
「わふぅ」
「キュルン」
はいはい、分かったよ。大人しくしておくのだ。
岩を越えると、川はすぐそこだ。その川辺にはププーの木がある。前に来た時は沢山生っていたのに、ププーの実が全部落ちてしまっていた。落ちてしまった実は
「ありゃりゃ」
「もう、時期が遅いんだよ」
「ね~」
「まだ、上流に行くよ」
「れおにい、らいじょぶ?」
「ん? ププーの実かな?」
「しょう。ププーのみがないと、こっこちゃんこないのら」
「大丈夫だよ。ちゃんと確認してあるからね」
そうなのか。いつの間に? 川に沿って上流へと暫く歩いた。ププーの木もチラホラとあるけど、実が生っているのは少ない。どんどん、上流へ歩いて行く。上流へ行くと出て来る魔獣も大きくなってきた。それでも、ピカは瞬殺だ。
「ピカ、倒した魔獣も収納しておいてよ」
「わふん」
きっとギルドで売るのだ。お肉は美味しくないのかなぁ?
「美味しいお肉は、持って帰るから心配しなくていいよ」
やっぱレオ兄はよく分かっている。お肉は大事。超大事なのだ。
結構、上流まで来たと思う。俺は、ピカに乗っているから平気だけど。横を歩いているニコ兄が少し心配だ。だってニコ兄だって、まだちびっ子なのだから。
「にこにい、らいじょぶ?」
「平気だぞ。俺は毎日畑で動いているからな」
「おぉー、かっちょいい」
「アハハハ」
何故かディさんが笑っている。
「ロロのお兄さんも、お姉さんもみんなカッコいいよ」
「うん」
そうなのだ。リア姉、レオ兄、ニコ兄、みんなカッコいい。みんながいてくれるから、俺は毎日楽しく暮らしていられる。リア姉、レオ兄、ニコ兄の側が、一番安心なのだ。
川幅が少し狭くなるくらいに上流へやって来て、川辺が開けている場所に出た。そこには、ププーの木が数本だけ生えていた。
「あ、いっぱいあるのら!」
ププーの実が、まだたわわに生っていた。でも、どれももう完璧に色付いている。あと1日でも遅かったら、大半が熟れ過ぎて落ちていたのではないかというくらいだ。熟れたププーの実の甘い匂いが辺りに漂っている。
「ギリギリだったね~。今日来て良かったね」
ほら、ディさんもギリギリだと言っている。お昼前まで掛かって、この場所まで歩いて来たからかなり上流まで来ている。川の流れも急になっているみたいだ。そこをパシャッと何かが跳ねた。
ん? 何だ? お魚さんかな?
「レオ! 釣るわよ!」
リア姉が張り切っている。だから、今日も釣り竿を持って来ていたのか。
もしかして、また魔魚なのかな?
「リア、レオ、離れた場所から釣らないと危険だよ」
「はい、ディさん」
釣り竿を持っていた、リア姉とレオ兄が川から少し距離を取る。
「魔魚だからね、人影が見えると川の中から飛び掛かってくるんだ」
「ぴぇ……」
思わず、横にいたニコ兄の腕にしがみ付いた。食いつくとか、飛び掛かってくるとか物騒なのだ。
「ロロ、魔魚だって」
「にこにい……こわわ」
「離れて見ていような」
「うん」
ディさんは手に小刀を持って待機している。
「釣ったらすぐに締めないと危険だからね」
「まえとは、ちがうおしゃかな?」
「そうだよ。この辺りの上流にしかいないんだ。白身で淡白なんだけど、唐揚げにするととっても旨味があって美味しいんだよ」
「ひょぉ~、たべたいのら」
「ね、楽しみだね」
それに、この魔魚の卵の塩漬けにレモン汁やオリーブ油等を加えて、ペースト状にしたディップが高級品なのだそうだ。だからこの魔魚は、良いお値段でギルドが買い取ってくれる。貴族が通うような高級レストランに売るらしい。
早速、レオ兄が釣り上げた。体に白い
「え……」
「この魔魚は、こうしておかないと、臭みが出てしまうんだ」
「ぴょぉ~」
リア姉とレオ兄が、次から次へと釣り上げる。
「入れたらすぐに食い付くわ!」
「全然、警戒していないんだね」
そりゃそうだ。こんな場所まで普通の人達は来られないだろう。だって魔獣がガンガン出てくる。
ほら、今だってピカが瞬殺で倒している。
「わふぅ」
「え、しょう?」
「わふん」
「ありゃりゃ」
魔獣も、残ったププーの実を食べに来るらしい。ん? あれは何だ? ププーの木に寄りかかるように生えている、小さな木の幹にまぁるい白いものがあった。直径15センチくらいかな? 大きめのシイタケみたいで、それよりもフワフワ感がある。平たいのではなく、厚みがあるのだ。
「にこにい、あれなぁに?」
「なんだ?」
「あの白いまぁるいの」
俺は、ププーの木の下を指差す。短い人差し指でごめんね。
「え……あれって……ディさん!」
「ニコ、どうした?」
「あれだよ、あれ! 図鑑で見たことあるぞ! あの白いマッシュ!」
ニコ兄も一緒に指を差す。
「ニ、ニコ! あんなのよく見つけたね!」
「違うんだ、ロロが見つけたんだ!」
「凄いよ! 僕でもあまり見たことがないよ!」
ん? 何なのだ? 珍しいものなのか? てか、美味しいのか?
ディさんはその白いマッシュを横目で見ながら、手は魔魚をぶっ刺している。ブスッとね。
「ロロ、残念ながら食べるものじゃないんだ。あらゆる状態異常を完全に回復させるポーションの材料なんだ。普通は手に入らないんだよ!」
なんだ、食べ物じゃないのか。ちょっぴり残念だ。
まだまだディさんは、魔魚をぶっ刺す。ブスッ、ブスッとね。
「何言ってんだよ! あれは本当に見つからないんだ。ダンジョンの深層にしかないと言われているんだ! どうしてこんな場所に生えているんだ?」
ほぅ。それは珍しい。ディさんも何かを考えているみたいだけど、それでもディさんの手はまだ止められない。ずっと魔魚をぶっ刺している。俺はそっちの方が気になるのだ。
「ディさん、あれ育てられないか?」
「あれは無理だね。薬草と違ってキノコの一種だから、湿度や土が違うと育たないんだ。そもそも、土から生えていないだろう?」
へぇ~。でも、キノコなら合う木を持って帰ったらいいのではないのかな?
ふむふむと顎に手をやる。ちびっ子なのに、熟年感があるぞ。
「ロロ、何考えてんだ?」
「にこにい、まっしゅがはえてるあのきを、しゅこしもってかえっても、むりなのかな?」
「なるほど、木か……」
ディさんが、魔魚に小刀をブッ刺しながら考えている。リア姉とレオ兄が、次々に釣っちゃうから。
「ちょっとペースが速いよ。こっちは僕だけなんだよー」
なんて言いながら、お魚さんの頭をぶっ刺している。あぁ、無情なのだ。
「ロロ、木を持って帰ってどうすんだ?」
「え……わかんない」
「なんだよぉー、肝心のとこが分かんないのかよぉ」
だって俺は、椎茸を栽培している場面をテレビのニュースで見ただけだ。そんな詳しい知識は全然ない。
「ニコ、あの木を少し切って持って帰ろう。ダメ元だ。レオ、リア、もうお魚はいいだろう!?」
「そうですか?」
「でも、ギルドで高く売れるのよ! 新しい剣帯が欲しいの!」
あらあら、リア姉はお小遣い稼ぎになっている。まだ釣りたいらしい。
リア姉が使っている剣は、父から贈られたものだ。リア姉が学園へ入学する時に貰ったそうだ。
だから、リア姉はとっても大事にしている。どんなに疲れていても、毎日必ず剣の手入れをする。
「この剣が、私を守ってくれている気がするの」
と、本人も言っているくらいに大切な剣だ。剣帯も、父から貰った物だ。リア姉の瞳の色と同じダークブルーで、綺麗なお花模様の刺繡がしてある。絶対に一点モノだろう。
「切れてしまいそうなのよ。だから、仕方ないわ」
なるほど。それだけ、使っているということだ。剣帯かぁ。俺にはまだ作れそうもない。作れたらなぁ、革に凝った模様を彫るのになぁ。刺繡じゃなくて、革に模様を彫刻する。もちろん付与もしたい。もっと手が大きくなったら挑戦してみたい。
「何? ロロ」
「でぃしゃん、ちゅくれないかなぁっておもって」
「剣帯を作りたいの?」
「うん、りあねえの。きれーなもようをほるのら」
「ロロは物作りが好きなの?」
「ん~、わかんない」
だって、俺の基準はリア姉やレオ兄、ニコ兄に必要かそうでないかだ。必要なら、それにお守りを込めて作りたい。ポーションだってそうだ。リア姉とレオ兄が、もしも怪我をした時のためだ。
そろそろ、お腹が空いてきた。マリーのお弁当を食べたいぞぅ。
──キュルルル……
ほら、俺のお腹が鳴っちゃった。ペコペコなのだ。
「ロロ、お腹空いたな」
「うん、にこにい。しゅいたのら」
「そうだね、お弁当にしよう」
ディさんが、まだ魔魚を釣っているリア姉とレオ兄に声を掛けた。
「ロロのお腹が鳴ってるよー!」
「アハハハ! お弁当にしよう。姉上」
「分かったわ」
もう結構沢山釣った。ディさんが次から次へと、小刀で頭をブッ刺しピカが収納していく。
これは良い臨時収入になるぞ。
「僕も新しい弓が欲しいんだ」
おや、レオ兄も欲しい物があるらしい。レオ兄は、普段は主に槍を使う。その槍も、父から貰った物だ。レオ兄も、毎日丁寧に手入れをしている。今使っている弓は、この街に来て冒険者をするようになってから買った物だ。今まで使っていた弓は小さくなっちゃったとか言っていた。だからきっと、今使っている弓より良い物が欲しいのだろうね。レオ兄は弓も上手だから。
「レオは弓を使うんだ」
「はい、ディさん。僕は、槍と弓です」
「僕は弓には煩いよ」
何故なら、エルフだからだそうだ。エルフはみんな弓が得意なんだって。
「国の長老に作ってもらったんだ。宝物だよ」
そう言って見せてくれたのだ。ほうほう、使っている木自体がきっと良い物なのだ。何も知らない俺でも、良い物だと分かるぞ。しかも弓には、葉っぱの模様が彫ってあって、意匠を凝らした一級品だ。て、ディさん、今どこから出した? 手品なのか? ディさんは手品までお得意なのか?
「ああ、マジックバッグだよ。エルフはみんな持ってるよ。そうか、レオ達は持っていないんだね」
「だってディさん、マジックバッグはとっても高価ですよ」
「そうだったね。エルフは作れる人が結構いるから」
ほう、エルフって凄いのだ。ディさんが持っていたのは、腰のベルトに通してある小さなポーチだ。それがマジックバッグなのだという。いいなぁ。
俺達の国では高級品のマジックバッグが、エルフの国では普通にみんな持っている。
ある程度の歳になったら、弓と一緒に長老さんから貰うのだそうだ。
「エルフは長命種だけど、子供が少ないんだよ。だから、そんなことができるんだね」
しかも、話を聞いて驚いた。エルフは弓に矢を使わないという。
「エルフは魔法が得意だからね、魔法の矢を射るんだ」
「ひょぉー!」
びっくりだ。魔法の矢って、一体何なのだ? 是非とも、見てみたいぞ。
「ロロ、あそこに魔獣が出て来たね」
「うん」
俺達に気付いたのか、ププーの実を食べに来たのか。それほど大きくはない、猪と豚を足したような魔獣が、のっそりと現れた。魔獣の証拠に、額に小さな角が二つある。
「いい? 見ていて」
そう言って、ディさんは矢のない弓を構える。そこに瞬時に、光る矢が現れた。何も無いところにだ。これが、魔法で作った矢なのか!? 綺麗なエメラルドグリーンで、しかもキラキラと光っている。先端が尖っていて、ちゃんと矢の形をしている。
こんなことができるエルフって、存在自体が別物だと思い知らされてしまう。圧倒的な力の差だ。
ディさんは顔色一つ変えずに、それをヒュンッと射る。風圧で、キラキラとした髪が後ろに
まるで吸い込まれるかのように、矢が魔獣に命中した。しかも、額をピンポイントで狙っている。
「ぴょぉ~! でぃしゃん、しゅごいしゅごいッ!」
「アハハハ、そうだろう?」
思わずパチパチと拍手をしてしまった。俺だけだけど、拍手喝采なのだ。劇場なら、スタンディングオベーションだ。
ディさんが、長い
「僕のは、エルフの皆が使う風魔法の矢なんだ。でも、エルフの中でも最強と呼ばれている人は、マジックアローと言って魔力そのもので矢を作り出すんだ。凄いんだよ。僕なんか全然
「ひょぉー!」
びっくりしまくりだ。SSランクの、ディさんが敵わないなんて想像もできない。エルフって、俺達とは次元が違う。だって、転移だってできるのだもの。そのお陰で、俺は助かったのだ。
「僕は長距離の転移はできないよ。長老なんて国を
ふむふむ。ポカポカぐるぐるだな。よし、今日からまた寝る前に練習しよう。
ディさんの話に、よくエルフの長老さんが登場する。それだけ、尊敬しているのだと分かる。きっと、ディさんは長老さんと仲良しなのだろう。そんな表情でいつも話している。
さて、マリーのお弁当だ。その前に、またレオ兄が魔石を置く。そうだ、この魔石に付与するのもできるようになりたい。今日は野望が三つも増えた。
マジックバッグを作ってみたい。魔法の矢を作れるようになってみたい。リア姉の剣帯を作ってみたい。どんどん増えていく。どうしよう。もう覚えきれないくらいだ。
「ロロは戦う方じゃないんだね」
「え……むり」
「アハハハ、無理なの?」
「うん、こわわ」
「そうかぁ、まだちびっ子だからね」
もしかして、エルフはちびっ子でも強いのか? 俺みたいなちびっ子でもさ。
「とんでもなく強いよー。身体強化をするからね」
ああ、もう分からない言葉だらけなのだ。お腹が空いたから食べよう。
「ロロ、手を出して」
「あい」
「クリーン」
「れおにい、ありがと」
「さ、食べよう」
俺はまだクリーンでさえ、レオ兄にしてもらっている。先にクリーンをできるようにならなきゃ。
「いたらきましゅ」
「いただき」
マリーの作った、相変わらず大きなサンドイッチを両手で持ち、あぁ~んと食べる。今日はベーコンエッグサンドだ。勿論、卵はコッコちゃんの卵を使っている。卵1個が大きいから、目玉焼きじゃなくてスクランブルエッグだ。一緒に挟んであるトマトとレタスが新鮮で美味しい。
「うまうま」
「な、美味いな」
「マリーさんのサンドイッチは大きいんだね」
「しょうなのら」
「ふふふ、マリーはいつもね」
「昔っからだね」
そうなのか? マリーの大雑把なところは今に始まったことではないらしい。
俺は、その大きなサンドイッチを頰張りモグモグと一生懸命食べる。一口が小さいから、俺は食べるのが大変だ。普通はこれを半分に切らないか?
「ぴか、ちろ、うまうま?」
「わふん」
「キュルン」
美味しいらしい。ピカはマリーの大きなサンドイッチも、パクッとあっという間に食べてしまう。
チロは相変わらず、胸肉を茹でたものをブチッとワイルドに嚙みちぎって食べている。
「今日は楽しいな」
「うん、にこにい」
俺が
こうして、一緒に外に出る時には俺のそばを離れない。必ず手を繫いで横にいる。
心配掛けてしまったのだと痛感する。そのニコ兄が俺に言い聞かせる。
「このシールドの中だと安全だからな。出たら駄目だぞ」
「うん」
俺も知っているのに
それにしても、今日はまだコッコちゃんを見ないなぁ。コッコちゃん、捕まえたいのに。でも、ププーの実はまた採って帰ろう。その前に、
ピカに寄り掛かってお昼寝なのだ。
「アハハハ! ウケるよー!」
むむむ……スヤスヤと気持ちよくお昼寝をしていたのに、なんだか周りが騒がしくて目が覚めちゃったぞ。
「ふわぁ~……」
大きな
「アハハハ! 本当だ! お座りしてるよー!」
ディさんの声だ。見るとコッコちゃんがちょこんと座っている。
「何か問題でも?」
と、でも言いたそうな表情でキョトンとしている。
それを指差しながら、ディさんがお腹を抱えて笑っていた。
「にこにい」
「あ、ロロ。起きたか?」
「こっこちゃん」
ニコ兄がすぐ隣にいてくれた。手にはあの白いマッシュを持っている。ニコ兄は好きだね。きっと、どうやって育てようか考えているのだろう。俺はお座りしているコッコちゃんを指差した。
「レオ兄がやったんだ。やっぱ座るんだよ! アハハハ」
「本当、意味が分かんないわ! ウフフフ」
「アハハハ! ダメ、笑いすぎてお腹が痛い! アハハハ!」
みんな爆笑だ。特にディさんが大爆笑だ。目に涙を溜めて笑っている。大爆笑していても、笑顔がとってもキラキラしている。
「おしゅわりしゅるのら」
「な、不思議だな」
本当、不思議だ。きっとコッコちゃんは、俺達が話している言葉を理解しているのだろう。それだけお利口さんなのだ。
「あ、またこっこちゃんら」
「やっぱ、ププーの実を食べに来るんだな」
コッコッコッと鳴きながら、頭を前後に動かしてテケテケと歩いて来たコッコちゃん。
本当に、警戒心がないのだね。いくらププーの実が好きだといっても、そんなに無防備に人前に出てきたら捕まってしまうよ。捕まえちゃうけど。
「でぃしゃん、いうのら」
「え、僕?」
「しょうら。こっこちゃんに、おててをむけて『おしゅわり』ら」
「よし! 僕も捕まえるぞ」
ディさんが、ちゃんと構えてコッコちゃんを見つめるけど、コッコちゃんはププーの実に気を取られていてこっちを見てくれない。キュートなお尻を向けている。
よし、俺が直々に伝授してあげよう。
「でぃしゃん、まねしゅるのら。こっこっこって」
「え……そうなの?」
「しょうなのら」
「分かった。コッコッコッ」
すると、ヒョイとこっちを見たコッコちゃん。何事かとこちらに歩いてくる。頭をヒョコヒョコと前後に動かして『コッコッコッ』と鳴きながらだ。ディさんは、超真剣モードだ。
「でぃしゃん、めをみていうのら」
「よし、目を見るんだね。手を
ディさんがやるとかっちょいい。コッコちゃんの鳴き真似をしていても綺麗だし。何故に?
さあ、魔法の言葉を張り切って言ってみよう。
「お座り」
「ククッ」
「座った!」
「ねー、しぇいこうらねー」
コッコちゃんが大人しくお座りした。これで、ディさんもコッコちゃんマスターだ。
「あッ! また出て来たぞ!」
ニコ兄が指を差しながら大きな声で言った。でも……
「こっちからもだ!」
「ロロ、あっちにもいるわよ!」
「こっちもだ!」
ありゃりゃ、あっちもこっちも大変だ。全部で4羽も出てきた。コッコちゃんもププーの実を狙っているのだろう。もう残り少ないからだね。ふむふむ。
四方から、コッコッコと鳴きながら警戒もせずにやって来たコッコちゃん。
「ひょぉ~!」
「ロロ、どうしよう!?」
どうしようと言われても。3歳のちびっ子に指示を求めるのは
「ロロ、吞気にしてないで! どうすんだよ!」
「らからぁ~……」
俺にだって分からない。俺はまだ寝起きの、ちょっぴりボ~ッとした頭で考える。考えても分からないものは分からない。ええい、やけくそなのだ。
「ふゅ~……」
大きく息を吐いて、足を肩幅位に開いて立つ。うん、とっても幼児体形だ。お腹がポヨンポヨンしているぞ。今はお腹が一杯だからね。それにしても、ディさんとえらい違いだ。いや、そんな場合じゃない。
俺は、両手をコッコちゃん達に向けて大きな声で言った。
「おしゅわりぃッ!!」
