ここはテンブルーム王国、フォーゲル子爵領にある深い森。その奥に、小さなダンジョンがある。

 昼間でも陽の光が届かないような鬱蒼とした森の奥で、黒いもやのようなものが一頭のボアの体にスーッと入っていった。

 それまで角のないただの獣だったボアの額に、魔獣の証である角が2本肉を裂き血を流しながらメリメリと生える。そして目の色が赤黒い不気味な色に変わった。

 そのボアは、小さな群れを率いていたボスだった。

 魔獣となったボスが、ブギと一鳴きすると群れが一斉に動き出す。自分達よりも弱い獣を食い散らかしながら、森の外へと移動して行く。

 そんな中、慌てて身を隠すものがいた。大きな体に手足を仕舞い、岩に『擬態』し身を『硬化』させ息を潜める。身を隠さなくても、硬そうな甲羅は頑丈そうだ。

「食事中だったのにぃ、何なのよーぅ。ブギブギうるさいわよーぅ」

 擬態しつつも、そんな文句を言いながらボアの群れが通り過ぎるのを待つ。

 半日ほどそのまま我慢していただろうか。それはゆっくりと手足を出し、周りを窺う。

「ふぅー、もう嫌になっちゃうわよーぅ。森を出てみようかしらーぁ」

 と、無謀なことを考える。大きな体をのっそりと動かす。大きいのは良いのだが、背中の甲羅が重そうだ。しかも動きがとても遅い。森を出るのにも一苦労だろう。

「もっと美味しい草があるかも知れないわ。ここはもうブギブギ煩いのだものぉ」

 のっそりと体の向きを変え、森の外を目指す。

 本人は気付いていないが、その時チャンスとばかりに背中の甲羅に乗ってきたもの達がいた。

 美味しそうな葉っぱに、むっちりとしたくねらせた足。立派な白い大根に見えるが、そこにはおきなのようなお顔があった。森の最深部かダンジョンにしか生息しないと言われているもの達。そのムチムチの足で、苦労して甲羅に飛び乗る。

 それらを背中に乗せたまま、森を移動する。たった一つの森の異変。それが大きな騒動へと繫がっていく。まだまだその騒動の根源は森の中だ。